音と共にある人生   作:Taku-One

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第8話_あがたまつり

 

 あがた祭り。

 

 宇治周辺では比較的大規模なお祭りが、来週の6/5に開催されるらしい。

 ちょっと興味が湧いたので友人の岡部と吉野を誘ったところ、それぞれ部活の仲間と行くという。

 必要ないときにはうざ絡みしてくるくせに、必要なときには使えない友人達には思うところがあるが、仕方ない。

 

 少し調べたところ、あがた祭りは「暗夜の奇祭」と呼ばれているそうで、深夜にメインの神輿が担がれるそうだ。

 少し気が惹かれるが高校生の身で見に行くと補導まったなしなので、素直に諦めることにした。

 

 吹奏楽部もまだ入部してから間もないこともあり、ぱっと誘える友人はまだいない。

 仕方ないからひとりで軽く屋台巡りくらいするかなー、とか考えているときに、加部先輩に声をかけられた。

 

 「大槻くん、予定入ってないなら、今日のあがた祭り一緒に回らない?」

 

 「え、それ、二人でってことですか?」

 

 「えっ、いや違う違う。優子と、あと多分みぞれも一緒。みぞれは知ってる? オーボエの2年なんだけど」

 

 「知ってますよ、話したことはないですけど。物静かな感じの先輩ですよね。吉川先輩と仲の良い」

 

 「そうそう、で、どう?」

 

 「お誘いは嬉しいんですけど、その中だと僕めちゃめちゃ浮きませんか? というかなんで誘ってくれたんですか?」

 

 「それはほら、この間の顎関節症のことで私のこと助けてくれたでしょ。それに、正しいフォームの練習にも付き合ってもらってるし。お礼に祭りでの食べ物は全部奢るよ! 早めに貸し借りなしってことにしたいしね。まぁこの程度で借りがなくなるとは到底思えないけど」

 

 「あぁ、いや、そのことはそもそも貸しなんて思ってないんで気にしないでいいですよ。気を遣われながらの祭りも誰得って感じなんで、皆さんで行って楽しんできてください」

 

 「いやまぁ大槻くんはそう言うと思ってたけどねぇ。こっちにとっては無視できないっていうか、ここらで消費しておかないと、多分うちの両親が菓子折り持って大槻くんの家に突撃して土下座行脚することになるよ。いまうちの両親マジで感謝感激状態だから」

 

 「マジですか」

 

 「うんマジマジ」

 

 流石に加部先輩とそのご家族、そして僕とうちの家族が揃ったお礼面談の場に居たいとは思えない。

 ましてや先輩の両親に土下座などされたらマッハで逃げ出す自信がある。

 

 「だから、あがた祭りで素直に奢られるくらいがちょうどいいと思うよ。どう? あ、もちろん一緒に行く優子とみぞれも賛成してくれてるから安心して」

 

 ……

 

 「じゃあ、今回はお世話になります。女子の、それも先輩とのお祭りなんて(今世で)生まれて初めてなので嬉しいですしね」

 

 「へぇ、そうなんだ。大槻くんモテそうなのに。でも優子もみぞれもかわいいから仕方ないけど、攻略するには結構難易度高そうだよー」

 

 「え? じゃあ加部先輩は難易度低いんですか?」

 

 「えっ……もー、大槻くん案外そういうキャラなの? 気軽にそういう事言うと吹奏楽部だと大変なことになるよー」

 

 確かに、女子の比率が極めて高い吹奏楽部で、そっちの方面で評判を落とした男子の未来は果てしなく暗いものになるだろう。

 

 「あ、ごめんなさい。今の発言は全部なかったことにしてください」

 

 「……それはそれでムカつくけどね」

 

 ということで、ひとりでぶらつく予定だったあがた祭りは、いつの間にか先輩女子部員の綺麗所三人と一緒に周る一大イベントに変わっていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 あがた祭りの日は、吹奏楽部の練習後の18時半にとあるファーストフード店に集まることにした。この店は僕が通っている音楽教室にも近く、個人的にもよく利用する店だ。

 もう屋台も始まっている時間だが、祭りに繰り出す前に一緒に行くメンバーで軽く親睦を深めたい、というのが加部先輩の考えだった。

 女子と遊びに行くなど前世以来のことで、正直少し緊張する。

 普通に外に遊びに出るときの服で来てしまったが、もっと良い服を買っておけばよかったか。

 まぁ今日いきなり誘われたわけで、時既に遅しなんだけど。

 

 「あ、来た、大槻くん、こっちこっちー」

 

 店に入るとすぐに加部先輩に声をかけられた。

 5分前には着いたのだが、既に先輩は全員揃っている。

 それになんだか偉い盛り上がって話してたな、鎧塚先輩以外。

 

 「すみません、お待たせしました」

 

 「別に時間前に来てるんだから、気にしなくていいって。大槻くんって微妙に堅いところあるよねー」

 

 「そうですかね。吉川先輩も鎧塚先輩も今日はよろしくです。祭りの日なのに不純物が混じってすみません」

 

 「別に全然いいわよ、友惠助けてくれた恩人だし、私も少しお礼したい気分なくらい」

 

 「うん、気にしなくていい……」

 

 「ほらぁ、そういうところが堅いんだって。こっちから誘ったんだからさー、すみませんはないでしょ!」

 

 まぁ言われてみればそうだが、未だに女子の先輩3人の中に自分が混ざるという違和感がすごいのだ。

 普段制服に身を包んでいる先輩たちの私服も、それぞれ個性があって可愛らしい。

 賑やかにおしゃべりしているということもあるが、明らかに周囲の視線を集めいている。

 

 まぁそれでも今日は折角お祭りの日だ。

 僕の罪悪感で雰囲気を悪くしても意味ないので、別の話を振ることにした。

 

 「ところで僕が来る前に、なんかめちゃめちゃ盛り上がってたみたいですけど、何話してたんですか?」

 

 聞くと、何故か加部先輩と吉川先輩が目配せをする。

 「どうする?」「話す?」「やめといたほうが良くない?」みたいな感じだ。

 いや、完全に僕の妄想だけど。ところがこの場には、空気を読まないことにかけては吹奏楽部随一の才媛がいた。

 

 「大槻くんの話、してた」

 

 「えっ、僕の話ですか?」

 

 良い話であってほしい。悪口であれだけ盛り上がられてたら軽く引きこもりそうなんだが。

 

 「みぞれはもう、空気読めないんだから……まあいいか」

 

 「聞かれて困るわけでもないしねー。大槻くんのスペック高すぎ問題について議論してました!」

 

 は?

 

 「は?」

 

 「だってだって、まずトランペットめちゃめちゃ上手いじゃん。素人の私でもわかるくらいレベルが違ったし」

 

 「確かに、パート入ってきたときのあの演奏はすごかったわね、紗菜先輩とか泣いてたし」

 

 鎧塚先輩は、ふーん、そうなんだ。という顔をしている。

 僕の入部がごく最近なこともあり、まだ一度も全体合奏に参加したことがないので、僕はトランペットパートくらいにしか自分の演奏を披露していない。

 

 「それにそれに、入学式で新入生代表挨拶してたでしょ? それって進学クラス含めて入試成績一位だったってことじゃん」

 

 「うちの学校それなりに人数いるし、一番取るのは流石にすごいわよね」

 

 「……それはすごい」

 

 ぱち、ぱち、ぱち、とみぞれ先輩が拍手する。なお表情は一切変わっていない。

 その後の実力テストでも中間テストでも一番だったわけだが、別に言う必要はないだろう。

 既に褒め殺しかってほどなのに、ここでさらに自慢を重ねる意味が全く無い。

 

 「運動はそうでもないみたいだけどね」

 

 「でも、秋子に聞いたけど、シャトルランだけはクラスで2番めとかだっだらしいわよ」

 

 いやなんで先輩がスポーツテストの結果まで知ってるんだよ。

 秋子っていうのは同じトランペットパートの1年生の吉沢さんのことだと思うけど、クラスも違うしまだまともに喋ったこともないぞ。

 女子の情報網はどうなっているのか。

 

 「それになにより、これだけのスペックの高さをもっているのに、性格が素直、謙虚、優しい、そして顔もイケメンとくれば、吹奏楽部でなくても女子の噂話のヒットチャートトップ独走ってわけよ」

 

 「いや、流石に褒めすぎですよ。イケメンとかお世辞以外で言われたことないですし、謙虚だったらトランペット吹いてないです」

 

 「ほらもー、また謙虚発言。どうせいままで多くの女子の告白をふいにしてきたんでしょ?」

 

 「いやマジですって。そもそも僕は(今世では)女子に告白とかされたこととかないですし、先輩が持ち上げ過ぎなだけです」

 

 ……

 

 「え、マジで? マジで告白されたことないの?」

 

 「マジです。って何度も言わせないでください。周りにそういう話が出るたびに少し落ち込むんですから」

 

 「あっ、すみません」

 

 話は盛り上がったが、結局最初の「すみません」に逆戻りした。

 口に出した人物は僕から加部先輩に代わったが。

 

 先輩たちはあからさまに距離を取って内緒話を始めた。

 (え、ちょっと本気で告白されたことないみたいなんだけど、普通にイケメンだよね。コミュ力もありそうだし)

 (私はそんなに格好良いとは思わないけどね。まぁトランペットの腕と頭の良さは認めざるを得ないっていうか)

 (……高嶺の花)

 (そうなのかな。結構話しやすいし、そんなことないと思うけど)

 (でもちょっと落ち着いてるっていうか、枯れてるような雰囲気感じるから、中学までだとそういうことなかったのも不自然ではないんじゃない?)

 

 「あの、本人の居るところでこれ以上あからさまな内緒話をされると気まずくなってくるんですけど。いじめですか?」

 

 「あー、ごめんごめん、でもそのスペックの高さの秘密は聞きたいなー。トランペットとかなんでそんなに上手くなれたの?」

 

 内緒話をしていた気まずさを誤魔化すように、加部先輩は話題を変えてきた。

 

 「え、まぁ普通に練習ですかね。僕はトランペットに触るのが早かったので、キャリアの長さはあるかも知れませんね」

 

 「いつくらいから始めたの?小学生とか?」

 

 演奏に関しては吉川先輩も少し興味があるのか、目線をこちらに送って聞いてくる。

 

 「まともに練習とかはしてなかったですけど、楽器に触れたという意味では、3歳とかですかね」

 

 「3歳! それは早いね! 英才教育?」

 

 「いや英才教育とかではなく、普通にうちの家が音楽一家で楽器がそこらに転がってたってだけですよ。父が楽器を作ってるって話は初日にしましたよね」

 

 「うん、みぞれは知らないかもだけど、うちのパートに入ったときにしてたわね」

 

 ああそうか、オーボエの鎧塚先輩は聞いてなかったか。

 でもパートの差を感じさせないほど吉川先輩や鎧塚先輩は仲がいいように見える。

 他に何か共通項があるのかな?まぁいいか。

 

 「それで、実は母も音楽関係者なんですよ。プロのトランペット奏者で、家に居るときは付きまとってよく練習に付き合ってもらってました」

 

 言いながら、プロ奏者に小さい頃から練習つけてもらってるのって、普通に英才教育って言いそうだなって思った。

 僕がそういうと、何故か吉川先輩がはっとした後、信じられないといった表情を浮かべて立ち上がった。

 

 「大槻で、プロのトランペット奏者って、もしかして大槻のお母さんって、あの大槻静理さん、なの?」

 

 「おお、知って頂いてるんですね。はい、その通りです。母はその大槻静理です」

 

 「な……」

 

 「な?」

 

 「なーんでそんな重要なことを今まで話してなかったのよ! 私がトランペット始めた頃からの大ファンだと知ってて! いや知らないか。知らなくても! そんな重要情報は自己紹介のときに言うべきでしょ! ……なんでもするのでサインもらってきてください!」

 

 吉川先輩のキャラが壊れかかっている。

 母は日本ではトップクラスに有名なトランペット奏者だ。

 故に熱狂的なファンもいくらか着いているのは知っていたが、こんな身近にいたのか。

 家での母はトランペットを吹いているとき以外はだらけたダメ人間の見本みたいな人なので、僕としてはどうしてもそういう目で見られないのだ。

 

 「いや、いきなり母親自慢とか普通に痛いと思ってしなかっただけですよ。今はまた海外の公演に行っちゃって家にいないので、帰ってきたときであればサインくらいはしてくれると思いますよ」

 

 「ありがとう大槻! 今まで香織先輩にデレデレする不届きな後輩だと思ってたけど、こんな良いやつだったのね! 香織先輩に絡むのは許さないけど、今後は仲良くしていきましょう!」

 

 薄々分かっていたけど中々クセの強い先輩のようだ。

 あと中世古先輩に話しかけられてデレデレしてしまうのは、僕だけではなく全男子生徒共通の特徴だと思うので、目こぼしをしてもらいたいものである。

 

 「あ、もうこんな時間、もったいないから祭りに行きながら話そう!」

 

 加部先輩の言葉で時計を見て、当初祭りに繰り出す予定時刻を過ぎていることに気がついた。

 祭りを目的に集まったのにファーストフード店で雑談して終わりました。なんてのは冗談にもならない。

 さっさと屋台の群れへと繰り出そう。

 

◇ ◇ ◇

 

 「え、夏祭りに来て焼きそば食べないとか、大槻頭おかしいんじゃないの?」

 

 「いや屋台の焼きそばってなんか水っぽいじゃないですか。だったらイカ焼きとかたこ焼きとか食べたいです」

 

 吉川先輩から唐突に言葉で殴られるのも慣れてきた気がする。

 ただ悪口を言ってくるのではなくて、味わいのある罵倒というか……僕も毒されてきているのかもしれない。

 もしかしたら京都人の性質なのかもしれないな、とも思い始めていた。口調や物腰は「はんなり」といった感じで柔らかいのだが、言っている内容そのものは遠慮なく核心を突く事が多かったり、単に悪口のような言葉の比率が多かったり。とにかく会話に独特のリズムやトゲが多くあり、適応には時間がかかりそうだった。

 

 「そういえば、吉川先輩と仲のいい、あの先輩は今回は来なかったんですね。まだ名前は覚えてないんですけど、ユーフォの」

 

 「もしかして夏紀のこと言ってる? 言っとくけど全然仲良くないから」

 

 「おぉ、優子と夏紀が実は仲良いの見破るなんて、新入部員にしては見る目あるね!」

 

 「……うん、仲良し」

 

 「あんたら何言ってのんよ、ホントに仲悪いから。あいつ私に近づくたびに嫌がらせしてくるし」

 

 とは言うが、入って間もない僕からすら、吉川先輩と夏紀?先輩が「喧嘩するほど仲が良い」という友人関係なのは一目瞭然だ。

 変わっているがああいったコミュニケーションもありなのだろう。

 

 「夏紀も誘ったんだけどねー、予備校行くって断られちゃってさ」

 

 「2年生から予備校ですか。あの先輩は真面目なんですね。見た目でヤンキーっぽいのかと思ってました」

 

 「あははー、夏紀は見た目と言葉遣いで誤解されやすいけど、ホントは優しい頼りになる良い子だよ。大槻くんとも仲良くなれると思う」

 

 加部先輩の表情はやさしい。中川先輩が良い人なのは間違いなさそうだ。

 そうなのか、人は見た目によらないな。

 とはいえ低音パートとトランペットパートは関わりが薄く、今後話す機会があるのかもわからないが。

 

 「あ、金魚すくいだ、やっていこうよ」

 

 「でも折角すくっても家に水槽あるんですか? 飼える環境ないと人も金魚もどっちも不幸になる気がするんですけど」

 

 「大槻はまたそういう……金魚飼える水槽なら私の家にあるから、すくったら私が責任持って飼うわよ」

 

 「さっすが優子! じゃあみんなで一回ずつやろうか」

 

 といって加部先輩がお金を払い、4人分のポイを購入する。

 

 まずはトップバッターとして吉川先輩が挑戦するが、金魚に触る前に水の抵抗でポイが破れてしまった。

 

 「ぐぬぬぅ……」

 

 ぐぬぬとかリアルで言う人初めてみた。

 負けず嫌いの吉川先輩としては一匹もすくえず終わるのは悔しすぎるのだろう。

 

 続けて鎧塚先輩と加部先輩も挑戦するが、惜しいところまで行くものの、一匹もすくうことが出来なかった。

 不穏な空気が立ち込める。意気込んで四人で挑戦して何の成果も得られないとなれば、ちょっとムードが悪くなりそうだ。

 

 「はい、じゃあ最後に大槻くんの分ね」

 

 ここは前世で取った杵柄を見せつけるところだろう。

 前世の中学生の頃、祭りが来るたびに狂ったように金魚すくいの屋台を荒らしていた記憶を思い出すのだ!

 

 「……ほいっ」

 

 「おお!」

 

 「…ほいっ」

 

 「おおおお!」

 

 「そろそろ厳しいかな……ほいっ!」

 

 「おおおおおおおお! 大槻くんすごい!」

 

 なんとか3匹をすくうことが出来たところでポイが破れてしまった。全盛期は10を超えたこともあるだけに、少し悔しいが表には出さない。

 

 「じゃあ、吉川先輩にプレゼントです。って言ってもうちでは飼えないので押し付ける感じになっちゃいますが」

 

 「いいのよ。うちの水槽が賑やかになるし、お母さんは魚の世話を焼くのが好きだから、お礼を言いたいくらい」

 

 「それなら良かったです。頑張った甲斐がありました」

 

 ……

 

 そろそろ時間も遅くなってきた。

 食べるものも食べたし、めぼしい遊びもそれなりに堪能した。

 女子の先輩3人に混ざるという高難易度ミッションも、思ったより心軽く楽しめたと思う。

 

 「じゃあ、ちょっとさみしいけど、ここらでお開きにしようかー」

 

 「そうね。さっき滝先生達も見かけたし、これ以上残ってると説教されそう」

 

 「……うん、楽しかった」

 

 「僕もホントに楽しかったです。加部先輩、皆さん、誘っていただいてありがとうございました」

 

 僕の言葉に加部先輩はなぜか不満の表情を浮かべる。

 

 「だから大槻くんは堅すぎるんだって。もっと気楽に行こーよ。ただでさえ練習厳しいのに楽しくやれなかったら潰れちゃうよ?」

 

 「いや、そうは言っても僕にとっては先輩ですからね。これからいっぱいお世話になるでしょうし」

 

 「そういうことじゃないんだよなー……じゃ、こうしよう! 私達のことは下の名前で呼ぶこと! これで少しは堅さも取れるでしょ!」

 

 加部先輩がまたとんでもないことを言い出した。

 出会ってまだ数日の先輩を名前呼びはハードルが高すぎる気がする。

 

 「優子もみぞれも、いいでしょ?」

 

 「いや、別にいいけど、私は名前で呼ばれる方が多いから慣れてるしね」

 

 「……私も別に構わない」

 

 加部先輩だけでなく、他二人の予想外に受け入れ体制だ。

 

 「じゃ、大槻くん、いや透理くん、私達のこと名前で呼んでみて」

 

 久しぶりに親や祖父母以外から「透理(とおり)」と呼ばれて心臓の音が跳ねた気がした。

 唐突に羞恥プレイを強要されたこの状況はどうしたものか。 

 でも三人の視線が集中する中、それに反する行動を取るには僕の精神力が足りなかった。

 

 「友惠先輩、優子先輩、みぞれ先輩……これでいいですか?」

 

 「おっけー! これからはずっとそう呼んでね。一気になかよしレベル上がった気がするね!」

 

 「私は別にいいけど、調子に乗って香織先輩を名前で呼び出したら、生まれてきたことを後悔させてやるから」

 

 「……仲良し」

 

 それから誰ともなく帰り道の駅へ向かい始めた。

 こうして色々あったあがた祭りも終りを迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

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