本気で書こうと思った短編小説です。駄作です。殆どが会話です。

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誤字、脱字等があれば指摘してください。


花を踏んだ

「花と言う存在を私は尊敬する」「あの小さな体で生き、小さな体で人々を魅了するのだから」

 

そう私に教えたのは、古くからの友人である若岸 彰さんだった。

若岸さんは世間一般的に写真家として営んでる。基本的には旅行会社の写真を撮る人として出向いたり、記念写真を撮る人として働いている人だ。その為か中々会う機会が無い友人の一人でもある。しかしながら今回の話の要はその若岸さんなのだ。

 

 

 

 

「それで若岸さん。話と言うのは?」

 

道で偶然出会った若岸さんに向かって私はそう言った。彼との出会いを私は懐かしみ、仕事の休憩として今は近くの喫茶店で共に体を休めている。辺りはレトロチックな雰囲気が漂う様でコーヒーの香りが鼻に程好い刺激を与えてきた。

 

コーヒーに少量のミルクを入れかき混ぜながら若岸さんは静かに口を開く。

 

「……恐ろしい体験をしたんですよ」

 

「恐ろしい体験?」

 

「はい。今も思い出すのが嫌で嫌で仕方がありません」

 

それなら言わなくても─と私は思うが若岸さんは会話を止めない。

 

「恐ろしいのですが…やはり貴方にだけは言っておきたいのです。友人として言いたいのですよ」

 

「そう…ですか……」

 

「はい」と軽く返事をしながら若岸さんはコーヒーを一口啜る。

 

 

 

 

「実は私、この間ある花を踏んでしまったんです」

 

「花を…ですか?」

 

唐突にそう言われても不思議でしかない。若岸さんは職業柄写真を撮る人だ。その腕前は一級品であり、稀にだけど若岸さんの写真集を見掛けることがある。美しい花の写真集だ。話を聞くと自分が育てた花の写真集だと言う。若岸さんは堂々に公言できると言っても良い程の花の愛好家だった。

 

「ええ、花です。普段花を愛でている人が言うと珍しい様にも聞こえますが、私だってそう言う事がありますよ。花を踏んでしまうこと位。日常の一つです。」

 

若岸さんはそう言うが、やはり思うことがある。

 

「でもやはり愛好家としては罪悪感が沸くのでは……」

 

「いえいえ、踏んだと言っても道端に生えている花です。鳥なのか風なのかは不明ですが、恐らく遠い場所からやって来て芽を出した花。もしくはそんな花の子孫です。そりゃあ踏んだ際に「あっ」と間抜けな声は出してしまいましたけど、罪悪感は貴方が思うより持ちませんよ。」

 

──私が育てた花。誰かが育てた花。罪悪感が沸くのはそう言う類の花だと言う。

 

「よく自然の花は美しいと言うじゃないですか。でも私の意見からすると自然に咲いた花と言うのは醜いです。酷い姿なんです。風や虫。その場の環境をダイレクトに受けているので、それはそれは醜い姿なんです」

 

「そう言う物ですか?」

 

「そう言う物です。使ってない物でも長く放置してしまえば埃が溜まり条件によっては虫とかも群がりますよね?……それと同じなんですよ花も。だからこそ」

 

自然と言うのは醜い。自然に咲く花が嫌いだと若岸さんは言ったのだ。

 

「ですが若岸さん。貴方の言ってる花は道端の花なんですよね?いくら自然が醜いと言っても…私が思う限りでは自然の素晴らしさを実感しますよ」

 

「ええ、確かに巨大な森などの木々達には圧倒されますよ。紅葉なんかも素晴らしいと思います。ですが、それは集まった花達です。なら貴方は紅葉が美しいとは思いますか?」

 

「そりゃあ…美しいとは思いますけど……」

 

私がそう答えると「斎藤さん」と私の名が呼ばれた。

 

「斎藤さん。貴方が美しいと思うのは花の集合体ですよ。私が言っているのは紅葉の“葉”のことです。一枚一枚を見てみて下さい。集合体では判らない花としての汚れが目立ちますから。それは必然的な汚れですけど…私はそれが嫌いなんです」

 

「しかしそれなら貴方は花が嫌いな風に聞こえますよ?花の愛好家ですよね?もう興味は無くなったんですか?」

 

質問を立て続けるかの様に私は言葉を浴びせる。まるで皮肉…と言うより挑発的と言うか信じられない様な態度で言った。

 

「いえいえ誤解しないでください。私は花が好きです。ですが好きな花と言うのは人の手によって育てられた花。つまりは人工的な花なんですよ」

 

「その…人工的な花なら美しいのでしょうか?」

 

「ええ美しいです。人が育てた花なんですから美しい…もとい人の好む形に為るのは当然ですよ。人が人の為に人の好む様に育ててるのですから」

 

そう言われると納得出来る。確かに人が育てるのだ。自然的にそうなるのだろう。

私はコーヒーを口にし黙り混む。すると若岸さんは恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

 

 

 

「ああ、すみません。話がずれてしまいましたね……では花を踏んだところまで話を戻しましょうか」

 

「あ、はい」

 

「では続けます。……私は花を踏みました。勿論ですけど踏んだことに気づいたのなら当然花は見てしまう訳です。踏んでしまったのは白い花。見たことの無いような花でした」

 

「珍しい花なんでしょうか?」

 

「詳しくはよく判りません。私はその時、丁度仕事の件で急いでいたので花に対して意識をあまり向けなかったんですよ。先程ですが罪悪感について言ってましたよね。実のところ少しは有ったのです。そう。少しだけですが。」

 

まるで言い訳をするかの様に『少しだけ』と強調しながら話している。その話し方に私は多少の違和感を感じた。

 

「少しだけです。踏んだ瞬間に罪悪感と思える様な感情が心の底から浮き上がって来たのです。しかしそれは一瞬の感情でした。こんな事を言ったら全国の花の愛好家から怒られるかもしれませんが所詮“花”を踏んだだけなんですよ。別に犬や猫や鳥や人を踏んだ訳ではありません。踏んでしまったのは“花”ですから。罪悪感と言うのは直ぐに消え失せてしまいましたね。寧ろ仕事への焦りの方が感情として勝ちましたよ」

 

「失礼」と言って若岸さんはコーヒーを口にする。目を移すと先程まで在った筈の湯気が見え無くなっている。説明するまでも無いが私のもだ。冷えたコーヒーをグイッと言った感じに飲み干すと、若岸さんは話を再開する。

 

「いくら花好きでも優先すべきなのは仕事ですから。当時の私が持っていた花への気持ちは、今飲み終えたこのコーヒーの様でしたよ。」

 

つまり冷めきっていたと。まるで皮肉じみた言葉だ。若岸ジョークだ。

 

「すいません。つまらない冗談で。……まぁ花を踏んだのを確認した私は一目散に仕事場まで走って行ったのです。」

 

「もしかして恐ろしい事とは仕事に間に合わなかった事ですか?」

 

「いやいや、違いますよ。確かに仕事場への遅刻は恐ろしいですよ。大切なお客様ですから、写真家なんて言う水商売にとっては恐ろしい事ですけど」

 

───もっと恐ろしい事ですから。

 

 

まるでトラウマを話すかの様に若岸さんは言う。

 

 

 

 

「……もっと恐ろしい事とは?」

 

「斎藤さん…私はね。普通に考えても道端に咲く花になんて興味は沸きません。先程から言っていますが醜い花なので嫌いなんですよ。」

 

「ええ、知っています」

 

「だからこそ恐ろしかった……私は仕事場まで走る間、ずっとずっとその白い花の事を考えてしまったのです……」

 

「それは…それこそ罪悪感では無いのでしょうか?」

 

「違います。あれは私がよく思う感情でした。つまり美しかったと思ってしまったのです。踏んでしまった……白い花を……」

 

今までよりトーンを下げて若岸さんは話している。肌には鳥肌が立っていた。

 

「美しいと…つい独占欲が生まれてきて。頭の中では花を踏んだ時の情景が延々と流れて来ます。グルグルとグルグルと……」

 

まさに花に魅了されたと言うべきなのか。話をしている若岸さんの目は何故だか虚ろの様に見えてしまう。

 

「踏まれた花です。私が踏んだ花です。それなのに…それなのに私を魅了し、まるで何処かへと誘うかの様に、花は記憶に焼き付いて離れませんでした……」

 

───それこそが恐ろしい。怖くて怖くて仕方がない。忘れたくなる様な、嫌な花。

 

 

 

 

「私は…あんな花を見たことが無い……」

 

 

 

 

震えながら、若岸さんはそう言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それでは失礼しますね」

 

 

そう言うと若岸さんはコーヒー代を置いて、一人喫茶店から立ち去って行く。仕事がまだ残っているらしい。

 

窓の外を見るともう夕暮れであり、そろそろ私も帰ろうと思う。目の前にある冷めたコーヒーを一気に飲み干すと、若岸さんから貰った代金を手にして会計を済ませる。

 

店の外では風が吹いており、少し肌寒く感じる。急ぎ足で大通りを抜け、人通りの少ない住宅街の脇道へと入った。すると

 

 

 

───道端に、白い花が咲いていた───

 

 

「……」

 

その光景を見て若岸さんの話を思い出す。人を魅了する恐ろしい花を思い浮かべ、立ち止まる。

 

 

 

 

「……いや、何を考えてるんだ私は」

 

……馬鹿らしい。実に馬鹿らしい考えだな。私には花を愛でる趣味も、花が好きだと言う事実も、持ち合わせてないのだから。気にすることなど無いのだ。そんな花に魅了される事など無いに決まっている。

 

寒さから逃げる様に足を速めてその道を通った。

 

 

 

 

 

 

 

 

───花は多分、踏んだであろう。

 

 

 

 

 

 

 


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