【VRMMO】天才少女は裏ゲームモードを征く~『Pit Coffin』-Game Mode:Underground Struggle-~   作:環状線EX

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誓い

 

「なんだ、ありゃ」

 

 現在『アングラ』における波乱の展開。

 今までのすべての「アルテミス」を見渡しても類を見ないほどの参加者が集まった今回の大会であるのにも関わらず総勢60の内、実に十二機が一人の少女の手によって地に伏した。

 驚異的な実力を見た。

 しかし、そこではないのだ。

 レクスが声を洩らした理由は。

 

「何者だ。あれは」

 

 その今大会絶対の覇者とも言えるリアに立ち向かう一つの機体を見ての事だった。

 そんなレクスの様子を察してか、隣に座るシーミンは口を開いた。

 

「そう。そうだよ!凄いよね。無改造のセフワンであんなに動けて!」

 

 今もモニターに映るのはリアの乗るバレットと『SAFETY(セーフティ)-1』──つまり、彼女の言うところのセフワンであった。

 改造され、強化の施されたバレットに対してただのセフワンで挑むとはよほどのことだ。それも未だ撃墜されていないのなら尚更。

 しかし、レクスはそうではないと首を振る。

 

「違う。そうじゃない。あのセフワンの動きだ。あれじゃまるで、昔のお前みたいじゃないか」

 

 余程『AHRM(アールム)』にさせるような動きではない。

 まさに野生を思わせるその動きは男の中に存在する少女、シーミンの動きを彷彿とさせた。

 

「あ!わかる。わかる!?そうなんだよね。あの子に教えてあげたんだよ!」

 

 何故か喜んだ表情をフード越しに彼女は見せる。

 しかし、レクスは賞賛の意味で言ったのではない。

 

「お前じゃないんだ。アイツ、死ぬぞ」

 

 死ぬはずのない仮想現実でありながら、レクスはそう断言した。

 

 

 

 

 

 ◆

 

「さて。さて!どうしようか!」

 

 大会への出場登録のあと、うるさく──もとい、元気に青髪の少女はそう言った。

 活発なただの少女にした見えない彼女が、実力者である事実は今もどこかで驚いている。

 だが、それは事実であり、そしてその事実にすがって私が彼女を頼った時に返ってきたのがその言葉だった。

 

 そして、そう返された私は首を傾げた。

 全くのシーミンだよりであった私からすれば具体的な方法など頭の中には存在しなかった。

 

「シーミンはどうやって強くなったの?」

「ん?んー。元々強かったからなぁ」

「ああ。そう」

 

 しかし、どうにか彼女から引き出そうと手を尽くしてもダメなようで、もはや才能と言う言葉で彼女の実力は済まされてしまうものであるのだろう。

 ただ、ではどうするかということを延々と考えていた私であったが、唸るだけで全くアイデアを出さないでいたシーミンが口を開いた。

 まるで名案を閃いたとでも言いたげな彼女は表情を明るく灯した。

 

「そう。そうだ!NAちゃん私の動きを真似してみてよ!」

 

 と言うのが、十日前の話である。

 そんな彼女の提案によって私は彼女の模倣を始めた。

 とは言え、戦闘スタイルを真似たと言う程度。完全なトレースではない。

 

 それに、グレートピアスありきの動きだろう彼女の現在の戦闘スタイルはそう真似できるものではない。

 しかしながら、彼女が今に至るまでには他の機体に乗っていて、その時の感覚を口頭で伝えられた。

 彼女の言葉は意外と理論的でありながらも、反対に要領を得ない側面も存在していたのだが、ここ最近長時間ムジムラのレクチャーを聞くことに慣れていたせいか、回りくどい言い回しや乏しい語彙にも予想をつけて理解することが出来た。

 

 そうしてある程度形になったのが今の戦い方だ。

 理性など一切ないかのようなこの戦い方。

 そもそもの私のスタイルと全くと言って別と言う話ではない。

 方向性としては全く同種のものである。

 

 しかしながら、理性が効かない。

 いや、本能すらも正常に働いてはいないのかもしれない。

 

「───」

 

 ツーと額から垂れた液体をぬぐえば腕には血が付く。

 『AHRM(アールム)』と言う巨大な金属の塊で相手の機体に飛びつくなんて行為を今の戦闘だけで数えきれないほどしている時点で、この程度は軽傷だろう。

 地面を蹴り、無理な跳躍をすれば私の身体は押しつぶされんばかりに圧力がかかる。

 機体も身体も同様に悲鳴を上げる。

 しかし、止まらない。

 止まらないことだけが、この勝負を決着の一歩手前で押しとめている。

 少しでも気を抜けば、私の機体はバレットに討たれるだろう。

 

 ミンチになる肉の気分を味わってるようだ。

 

 持続的な出力を出せないだけに、一瞬の減速と加速が交互に身体を蝕んだ。

 『AHRM(アールム)』に乗っているのに外傷が絶えない。バカな話だ。

 

「ただ──」

 

 この地獄の先に、それに見合った報酬がある。

 一瞬の隙だ。

 一瞬、先ほどよりもゼロコンマ早くバレットの背後を取った。

 そして短剣は奴目掛けて滑ってゆく。

 

 確実に奴の装甲を削る。

 だが、浅い。

 

 そして攻撃をしたが故に今度はこちらが隙をつかれる。

 振り回される直剣。しかし、それがこちらの胴を捉えんとした時少しだけ身体をずらした。

 半身を翻す。

 今度はこちらの番だと短剣を振るうも、奴の蹴りが飛んでくる。

 

「ぐ」

 

 威力の軽減は測るも仕方なくその身に受ける。

 直剣の攻撃であれば何としても避けたが、一発ゲームオーバでないのなら一つの隙くらいくれてやる。

 緊急回避するにしたって限度がある。

 どこまで私が耐えられるかだ。

 ゲーム内の体力で言えばある程度の補強はしている。

 しかし、この中で受ける衝撃は通常戦闘の非ではない。

 現実で同じことをしようとすればミンチになってすでに死んでいるだろう。

 

「──すぅ」

 

 思い出して息を吸う。

 こんな戦い方では息を吸うのもやっとだ。

 そして、こちらの息遣いでも読んだのかバレットが動くところでこちらも動く。

 

 潜るように奴へ向かう。

 まるで影のごときその動きで直剣を振り回す奴の攻撃に立ち向かう。

 速度故に突きを繰り出すバレットの攻撃を身体をずらして躱す。

 無論余裕の見切りとはいかずに装甲の端を火花が散らす。

 

 しかし接近すれば、こちらものだ。

 断然、短剣の方が取り回しが良い。

 そんな一瞬の思考も置き去りにするような速度でこちらも突きを放つ。

 

 短いと言っても超接近戦。振り回す余裕もない。

 ただ、躱され、そしてしくじったことを認識した。

 

「っ!?」

 

 突きを繰り出した剣はこちらが捕まえたために動かせず、しかし、こちらが突きで体重を移動させたのを察してその拘束を無理に振りほどいた。

 腕ごと押さえつけていたそれは難なく力負けして、その場から縦方向へ直剣を繰り出されただけで腕を持っていかれた。

 そのせいかバランスの制御が格段に難しくなる。

 

 ただ、こちらもただでは終わらない。

 短剣は二撃目で確実にとらえていた。

 それは奴の指を狙った攻撃。

 

 十分な握力を失ったバレットは剣を取り落す。

 

 

 

 

 ◆

 

 やられた。

 右手に外傷負い、剣を取り落す。

 眼前のセフワンは隙を見たりと片腕で短剣を振るう。

 

「そんなんじゃ!」

 

 やられないとリアはコックピットで声を洩らして、右手を握りこんで打ち込んだ。

 酷く野蛮。酷く原始的な攻撃を方法。

 だが、それは右手を犠牲に奴の短剣を潰せる。

 

 ただ、次の瞬間握りこんだ右腕は弾かれた。

 

「な!?」

 

 負傷してなお握りこんだバレットの右腕は指が解かれ手の甲は顔より後ろに下がっていた。

 それを成したのはセフワンの短剣。

 抜刀モーションをアシストするスラスター鞘のような見た目のそれは短剣を押し出すような造りになっている。

 それを用いて右手にあてられた。

 それが、破れかぶれの攻撃であるのか、狙ったことかは知らないがいずれにせよバレットは無防備になった。

 

 すでに、迫りくるのはセフワン、いやNAの短剣。

 身体を動かしてもわずかに間に合わない。

 そう思われたとき、奴の頭部を何かが掠めた。

 

 続いて後方で銃声がなった。

 

 その瞬間、セフワンの動きが狙撃によってわずかに後方へ弾かれたことで、リアは反射的に隙を見出す。

 弾かれるように足元に突き刺さった剣をセフワンの首へと向けていた。

 

 すでに頭部は宙を浮いていた。

 

 決着である。

 

 

 

 

 ◆

 

「優勝はやはり、リアか」

 

 アルテミスを通しで見たレクスはそう呟いた。

 全体を通しての印象は圧倒的な実力を持って他の追随を良しとしないと言ったものだ。

 危なげない場面などほぼなく……いや、強いて言うのなら。

 

「ふわぁ~。同じ体勢でいたから身体がこっちゃった」

 

 レクスの思考を遮るように少女が伸びをする。

 大会が終わった後には順位がモニターに表示される。

 撃墜数、生存時間。そう言った記録が一気に上位十名まで表示された。

 

 その中の頂点に位置するリアの戦績と二位の戦績はとてつもなく離れている。

 圧倒的としか表現が出来ない結果だ。

 そしてそこに「NA」の二文字は、見当たらなかった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

「ふぅ」

 

 機体から降りて息を吸う。

 痛覚まで再現できるだけあって、空気もまるで本物のようだ。

 いや、戦闘中に碌に息を出来なかったせいもあるか。

 

「あ、そう言えば」

 

 ふと思い出してポケットを弄る。

 現実であればここで登場するのはJKお手製のクッキーだったろうが、この世界のポケットに入っているのは手のひらサイズの紙の箱だった。

 それを開けて中から細長いそれを一本取りだす。

 体よくあったライターで火をつけて咥えた。

 

「すぅ……げほっ!げほっ!」

 

 なんだこれ。

 先端を灰色に変えていくそれを見て目を細める。

 アングラ内では比較的簡単に手に入るために吸ってみたがどうも煙草は合わないようだ。

 味が現実とは違うと言う事もないだろう。まあ、問題は味だけではないが。

 セフワンの残骸に煙草を擦り付けて火を消した。

 

 そうしていれば声をかけられる。

 

「NAちゃーん!おつかれ!」

 

 青色の髪を揺らす少女は見慣れないフードをどかして顔を見せる。

 それに対してヒラヒラと手を振った。

 リアルでないと言っても体が限界だ。

 ステータス値に補正が入ると言う意味でも煙草を吸ってみるも失敗して、以前身体は悲鳴を上げている。

 

「NAちゃん。意外と落ち込んでなさそうでよかった」

 

 緩慢な動きでシーミンを見ればそんなことを言う。

 確かに先のアルテミスの結果を思えばそうなのかもしれない。

 ただ、不思議と心が落ち込むようなこともなかった。

 

「まあね。むしろ燃えて来たって感じかな」

 

 アングラに来る前はシーミンのような強者には出会わなかったし、先ほど惨敗したリアのような者もいなかった。

 それ故に満足できない悶々とした日々を送っていた。

 だからだろうか。むしろ今は今度は勝つと言う気持ちが湧いていた。

 

「って、あれ。あれ!どうしているの?」

 

 シーミンが声を上げるもそれは私に掛けられたものではない。

 何事かと思って、セフワンから降りれば一人の少女がいた。

 

「リア」

 

 私は反射的に彼女の名前を呼んだ。

 

「受け取れ」

 

 何か用があるのだろうかと思考を巡らせる前に彼女は何かを投げた。

 

「っと」

 

 何とかそれを受け取れば、一つのUSBメモリーのような大きさの何かだった。

 端子が付いて居なくどちらが上下であるかの判断は難しそうだ。

 ただ、そこへリアの声が注釈に入った。

 

「設計図だ」

「?」

 

 無論その単語の意味は分かる。

 私が求めていた機体の強化を図るために必要な設計図。

 しかし、この物体の正体がわかっても何故これを私に渡したのか分からない。

 と言うかそもそも。

 

「これって優勝賞品じゃないの?」

「そうだ」

 

 私の問いかけにさも当たり前のようにリアは答えた。

 冗談なんて吐けなそうな小綺麗な面で肯定する。

 

「なら」

「今回の戦い。私の機体とお前の機体には圧倒的な性能差があった」

 

 リアは私の声を遮る。

 

「それなのに私は最後の第三者の狙撃に助けられて勝負を決めるに至った」

 

 彼女の独白は当然私も知るところだ。

 最後の瞬間、第三者の弾丸がセフワンの顔面を掠った。

 恐らく私ではなくリアに向けて撃たれたものが狙いを外れてこちらに当たったのだろう。

 

 だが、それがなくとも勝負は時間の問題だった。

 こちらはただ、延命を見苦しく続けていたにすぎない。

 だから、リアの実力は本物であると設計図は返すと言おうとして、彼女の目に秘められた力に圧倒された。

 開いた口が止まった時、彼女は言葉を続けていた。

 

「だから、次は万全の状態のお前に勝つ」

 

 少女はあの廃屋であった時とは決定的に違う何かを持って宣戦布告をして来た。

 西日が彼女を照らす中、私は思う。

 ならばと。ならば、こちらも迎え撃つべきであると。

 

「受けて立つ」

 

 次は全力で勝って見せると。

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