【VRMMO】天才少女は裏ゲームモードを征く~『Pit Coffin』-Game Mode:Underground Struggle-~ 作:環状線EX
トリプルワンにて一機の『
スラスターの炎を尾のように引いて線を描く。
白いボディに金色の目はいっそ神秘的に見えた。
ただ、その戦いっぷりは豪快で……
「ッ!」
獲物に大剣の切っ先を押し付ける。
大剣の部類の中ではそう大きな方ではないだろう。
しかし、積み重なる慣性と質量は甚大なダメージを与えるに至る。
攻撃を受けた機体の装甲はひしゃげて、『
つまり、たったの一撃で戦闘不能へと陥った。
そしてそんな機体に搭乗する私は軽く息を吐いた。
身体にかかる負荷は以前のセフワンほどない。
しかし、その一方で推進力は大幅に増している。
まさにグレードアップと言ったところだろう。
「凄い。凄いね!NAちゃんがもっと強くなった!」
そして青髪の少女、シーミンも同じ感想を抱いたのか『基地』に戻り機体から降りた私に対してそう声をかけた。
素直に称賛してくれているが、どうにも獲物を見るような目に見えて仕方ないのは普段の彼女の言動のせいか。
そんな思考をしているとまた別の声が奥から掛けられた。
「『
「うん。凄いの一言だよ。サンシュクラ」
見るからにメカニックと言った風貌のつなぎを来た女性、サンシュクラにそう返す。
彼女はシーミンのいわば専属メカニックで彼女の紹介で私の機体の諸々の世話を見てもらっていた。
修復補給はゲームの仕様上自分でもできるが、機体を組み立てるとなればこういった人物が必要であった。
シーミンとは長い付き合いなのか仲が良い印象がある。
「ただ、大剣はまだ慣れないかな」
「一言じゃないじゃん。まあ、いいけど。でも、どうする?シーミンが自分と同じような感じで調整していいって言ったからそっちに合わせたけど、NAのスタイルに合わないなら変更するけど」
サンシュクラはあまり知識のない私の代わりにシーミンの意見を取り込んで機体を組んでくれた。
無論私にも意見は求められたが、シーミンと方向性がそう変わらないと言うことでベテランとも称せる彼女の言葉を私も重視していた。
故に、今回の大剣の実装に至ったのだが。
「いや、このままでいいよ。慣れれば便利そうだし」
機体の性能が上がったことによって武器の重さはそこまで不利にはつながらない。
それにシーミンが加速し爪で敵機を攻撃するように、大剣を使えば似たような攻撃の再現が出来る。
短剣では二撃入れるところを大剣では一撃で沈められる。
とは言え、短剣がなくなったわけではないのだ。別に戦闘中に臨機応変に変えればいいだろう。
「じゃあ。じゃあ!細かい調整を抜きにすればこの『
「うん。……ん?なにその素っ頓狂な名前」
シーミンの言葉に反射的に頷いて、そのネーミングに引っ掛かる。
「いいでしょ!わんつーって」
「やだ」
「え~!?」
なんかダサい。
シーミンの意見は存分に取り入れると言ってもこれはない。
「じゃあ、『
「そうしよう」
「え~」
これ以上変な名前にならないようにそう結論を出す。
セフワン機体をベースにしているもののテセウスの船ばりにそう入れ替えが起こった機体を見て思った。
◆
「やれぇ!」
「殺せぇ!」
野次か投げかけられる中、自分の息遣いが酷く大きく聞こえる。
俯く視界には自分の白い揺れる前髪と両手で握った一本のナイフ。
教室の汚いフローリングと対照的に白い上履き。
視界を上げれば黒板と教卓を背にした赤毛の少女が鏡合わせのようにナイフを向けていた。
中学校のエンブレムの入った彼女の制服の胸はわずかに上下している。
そして私は──
「──っ!?」
ブツリと視界が途切れるようにして意識が覚醒する。
ぼやけた視界に目を凝らせば、段々と白い天井が見えて来た。
自宅の天井だ。
そう認識するのに数秒かかって自身が大量の汗を掻いていることに気付いた。
「さいあく」
力なくそう呟いて少しでも服の中に冷たい空気を入れようと張り付いたシャツの布を指でつまんで離した。
ただ、熱が引いても服が濡れていて気持ちが悪いので仕方なく風呂へとよたよたと足を進めた。
そんな朝を迎えいつものように迎えに来たヒヨリと共に学校に向かったのだが。
「も、もしかして、スズシロさんもルル・フユハさん好きなの?」
教室に着き、今日のブルーな朝の気持ちを我が神、ルル・フユハの笑顔で癒しているときの事だった。
携帯端末に映る女神から顔を上げれば、クラスメイトの女子がいた。
まあ、隠しているわけでもなし偶々見えたのだろう。
どうやら彼女は見る目がありそうだ。
そう思って「知ってるの?」とでも言って見ようと思ったとき、またも声が掛けられた。
しかも、一人ではない。
「あ!私も、好きだよルル・フユハ」
「奇遇だね。スズシロさん」
「元軍人さんだよね。たしか、いや~趣味が同じだなんて」
続けざまに視界に生えて来る女子たち。
そしてその女子たちに共通点を見つけた時、私は思わず目を細めた。
彼女たちは一人残らず、私に手作りクッキーを作った生徒であった。
それは、一人目の彼女も含めてだ。
「ヒヨリ」
そして、彼女を詰め寄るように見てしまった仕方のない話だ。
何せ彼女には前科がある。
私の好物がクッキーである事実を触れ回り、今話しかけて来た彼女たちが手作りしてきている。
その彼女たちが不自然にルル・フユハの話題を振ってくるのならば犯人は明白だ。
まあ、ルル・フユハの話が出来るならいいか。
ただ、心の底から好きでないのならダメだ。
しっかりレクチャーをしてやろう。
◆
「トゥエルブ……」
「そ、設計図を基にリアクター生成して、骨格からそう入れ替え」
学校が終わり、ギテツ院に来た私は『Cube』の事務室でクモイに説明した。
戦闘風景を制限付きで見ているのは知っているが、新しい機体に関しては知らないだろうと話した。
「どう?クリエイター的な目線だと」
「ナーみたい」
「へ?」
『
個人的には満足しているので自慢も兼ねて感想を尋ねてみたが、帰ってきたのはよくわからない返答だった。
「白くて金の目。ナーみたい」
私の姿を全体に写すようにこちらを見た。
まあ、確かに私の髪は白く瞳も金と表現できなくはないとは思うが。
何かもっと専門的な感想を期待していただけに肩透かしを食らったような気分だ。
「なるほど、機体の強化を図ったか。NAの戦闘スタイルに特化したワンオフ機に近い──」
「おまえじゃねぇ……」
「ブフッ」
ムジムラが知らぬ間に背後から感想を述べ私が声を挟むと奥でソヨカが噴き出した。
おっさんではなくクモイの意見を聞きたかったのだが。
そう思っているとクモイが眠そうな顔を上げて口を開く。
「そうだ。ナー」
「なに?」
「クッキーある?」
「そっちかよ」
何か感想でも思いついたのかと思ったが違ったようだ。
こちらに差し出してきた手にセロハンの小袋ごとクッキーを渡すとホクホク顔で受け取った。
私に渡すつもりで手作りしてくれたものだから本当は全部上げるのは良くないと心情的には思いつつも、同じ人物からもらうのはこれで六回目であるため少しは許してほしいと言う気持ちを浮かべた。
「はい。ここに置くわね」
「ありがと」
ソヨカがテーブルに淹れてくれた飲み物を置けばクッキーを含んだ口に流し込む。
ここに来て暫くこんなノリが多くなっていた。
◆
「さて次はどうするかだけど」
アングラにログインしてそんな言葉を呟く。
目下の目標である機体の強化は完了した。
大きな目標で言えばランキングを上げるのは変わっていないが、それには方法がいくつかある。
第一にはトリプルワンを始めとする『
第二に先のアルテミスのような大会に参加して高順位のランカーを倒してランキングを上げるか。
「前者は移動が必須だし、後者はアルテミスほどの環境は望み薄か」
トリプルワンのトップに居座るシーミンは強敵であるが、それ以外は有象無象と言わざるを得ない。
そして、アルテミスもランキング上位者の弟子であるリアが居たからそれに挑むために各地から強者が集まっていた。
どちらの選択肢もあまりパッとしない。
そんな印象だ。
そう思っていたのだが。
「『
シーミンがそんなことを言い出した。
「セントラル?」
「うん。うん!ここは例えば、『W-111』つまり、西の領域!他にも東西南北ってエリアが分かれてて、その中央に位置するのがセントラル!」
ビシッと指を指してシーミンはそう言う。
確かに事前にムジムラからの情報を私は得ていた。
アングラのマップは大雑把に言えば一つの大陸で構成されていて、東西南北に分かれている。
マップの関係でその中央に行けば行くほど実力者が多くいるようだ。
「セントラルにはいろいろあってね!私も定期的に呼び出されるんだけど『大陸連合』本部があるんだよ!」
大陸連合。
その言葉には特に引っかかった。
単語の意味が解らなかったわけではない。
それこそが最終目標に極めて近い位置に存在するものであるからだ。
「大陸連合」
「そう。そう!大陸連合!ランキング上位の人たちがたくさんいるとこ!」
彼女は丁寧に説明してくれる。
そしてランキング上位が集まる大陸連合がしていることと言えば、『
大きすぎる力故に、自らで管理し、それを選ばれた実力者の中だけで取り合う。
私の目的に最も近い組織だ。
「って、言うか定期的に呼ばれるって何かしたの?」
「なんで。なんでそんな目で見るの!?私悪い事してないよ!ちょっと、トリプルワン代表として行ってるだけ!」
破天荒なところが目立つからかジト目で見てしまった。
ただ、やらかした故の行動ではないらしい。
「それに。それにさ!前回の呼び出しの時は、丁度NAちゃんがセフワンで暴れてた時だよ!」
「ああ。だからか」
道理でシーミンがトリプルワンの自分の縄張りにいなかったわけだ。
「しかし、そうか。なら、セントラルに向かおうかな」
「うん。うん!それが良いよ!強くなって帰って来てね!」
「私は魚か」
「?」
放流でもされる気分になりながらそう返せばシーミンは首を傾げた。
兎にも角にも目標が決まった所で、準備に取り掛かろうと私は動き出した。