【VRMMO】天才少女は裏ゲームモードを征く~『Pit Coffin』-Game Mode:Underground Struggle-~ 作:環状線EX
「大丈夫?ナー」
「んー」
脱力故にだらりと下げた腕に身体の中を流れる血が落ちていくのを感じながら、天井を仰ぐ視界は何も映さずに耳だけで聞き取った声に反応する。
言葉には到底及ぶことのないうめき声のようなそれは今の私に出来る最大限の返答だった。
再現された痛みとは言えドクドクと熱い血の流れる感覚はそう簡単に忘れられない。
それを考えれば、戦闘後近くの基地まで移動しログアウトまで持って行けたのは大したものだったと我ながら思った。
『アングラ』に存在する『基地』はセーフエリアとなっており、安全にログアウトするのならそこまでの移動が必要だ。
通常エリア内でもログアウト自体は可能だが、他の襲撃からは無防備になると言ったリスクが存在する。
そんなことをログイン前にムジムラから言い含められていた私は何とかトレーラーに機体を乗せて基地へと入った。
相手のセフワンが乗っていたトレーラーは戦闘開始すぐに爆破したので、元々私のセフツーが乗っていたトレーラーを使った。
なんだかんだ言って、セフワンが安価なだけあって爆発した方のトレーラーも安価なものだったようで、こちらだけでも良い物が使えてよかった。
「……結構堪えるな」
暫くしてコックピットから出た私は初めにここに来たときに座らされたソファにドカッと身を落ち着けた。
そしてアウターのポケットからセロハンの透明な袋を取り出した。
小さな袋で口の部分がワイヤータイで閉じられている。
ねじって口を開けて中身を取り出した。
市販品と比べれば歪な形のクッキーだ。
「ドラッグか?」
不意に聞こえた声はムジムラのもので会って少しとは言ってもこの場には彼しか男がいないので顔を見なくても察することは簡単だった。
それにこの声で散々『アングラ』の説明をされたのだから覚えない方が無理がある。
ただ、そこまでしてもらったと言ってもこちらはクタクタだ。振り向いてはやらない。
そのまま私は返答した。
「私はやんないよ」
「一度だけやったことはあるけど」と続けてそれを頬張った。
「合わなかったのか?」
「そんな気になる?……まあ、いいけど。どちらかと言えば逆だよ。ギテツ院に来たばかりの時に興味本位でやって、少ししたらなんとなくまた欲しくなったから、ああ、これはやばいなと思って、それっきり」
「そうか」
ここで銃を手に入れて、トラブルが起きても最悪どうにかなるだろうと高をくくって少し見て回った時の話だ。
色々回っていた中で誘われた。
最初は無料だと言って渡されたそれを興味本位で使った。
今に思えば中学時代、仲間内で流行ったシンナーの時には嵌らなかったからドラッグもそこまでじゃないんだろうとどこかで思っていたのだ。
中学の時はなんだか意識が遠くなるような感覚を感じたりはしたが何が良いのかは分からなかった。
それに私が誘われてやったのは三回程度で、丁度その時期に上の学年ではガスパン遊びが流行っていたようで、引火事故によって一人死んだと言う話を聞いて自粛ムードが起きて、それ以来の事だった。
「あと、これはJKの手作りクッキー。今日学校で渡されたんだよ」
家庭科での調理実習とかって話は聞かないから個人的に作ったんだろうが、何故私にくれたのかは謎だ。
もしかしたら渡して回っていたのかもしれない。
いや、もしかしたら私のファンとかで…………いや、ないな。
そんなことを思っていると向こうからソヨカの声が聞こえた。
「NAちゃん。何か飲む?」
コップを持ってこちらを見る彼女の好意に甘えることにして、珈琲をもらった。
ホット珈琲とクッキーは合うな。
◆
仮想の死。
仮想の痛み。
死んでも現実で死ぬわけでもない。
だが、それでも昨日の戦闘は鮮烈で強く脳に焼き付いていた。
一夜経ってもふと思い出して操縦桿を握っていた手のひらを見てしまう。
「はぁ」
ため息をついて、ポケットからクッキーを取り出す。
昨日の残りがまだあったのを思い出したのだ。
市販品と比べれば歪な形だが、それでも手作りと思えば何倍も嬉しい。
そんなことを思い口に含んで居れば、横から声が飛んできた。
「どうしたの?今日はずっとため息吐いてるけど」
「ん、そんなにしてた?」
「うん」
学校へ登校中、横を歩くヒヨリからの指摘に首を傾げる。
ため息は先ほどの一回だと勝手に思っていたが、気付いていないだけで彼女が指摘するくらいにはしていたようだ。
他人のため息程気になるものはないだろうし、気をつけよう。
それに、昨日は少しプレイした程度。
本格的に『アングラ』をプレイするのは今日からだ。
そのことを考えていた方がよっぽど建設的だ。
前回の目的は機体の確保と基地へたどり着くこと。
それは『アングラ』での最低限の土台となる部分の事であった。
そして、今回のプレイからは本来の目的であった『
その第一歩が、ゲーム内ランキングを上げることのようだ。
『
上位プレイヤーたちは、『
そのため、例え『
上位陣と認められたものだけでそれを囲い、その中で争奪戦を行うのだ。
だから、まずは上位プレーヤーとして名を連ねるために、ゲーム内ランキングを上げる必要があるのだ。
それが当分の目標としてムジムラが設定したものだった。
「にしても、何でこんなにクッキーをくれるんだ?」
学校に着いて早々、昨日とは違う女子生徒に渡された手作りクッキーを眺める。
確かに、クッキーは大好物だが機能に引き継いで今日もとは……
そう思っていた時、不意に私が呟いたタイミングでヒヨリが顔をそむけたのを視界の端でとらえた。
不思議に思って問い詰めればついに吐いた。
「いや~。ナナセの好きなモノ教えてって言われちゃって」
元凶はコイツだったようだ。
まあ、クッキーは嬉しいからいいけど。
◆
『アングラ』におけるゲームシステム的に言えば、戦闘の解禁された『
と言うより、『アングラ』のフィールドは『基地』と言ったセーフエリアなんかでなければ戦闘はそもそも禁止されていない。
そんなゲームシステムであるのにも関わらず『
通常のゲームであれば一度死んでもコンテニューは可能であるが、こと『アングラ』に置いてはそれはなく、死ねばもう一度この地を踏むことはできない。
故に、プレイヤーの死と言うものに敏感であり、上位陣はその確率を減らすことに注力した結果、生まれたのが非戦闘エリアと戦闘の解禁された『
そんな経緯もあって、非戦闘エリアで戦闘行為を行えばすぐさま通報されて上位プレイヤーで固められていると言う『自警団』に駆逐されると言う。
ただでさえ、こちらは機体にも慣れていない状況で、しかも実力者が徒党を組んで狙ってくるとなれば勝ち目はなくゲームオーバーだろう。
「なら、目指すのは一番近くの『
現在いるのは、初期リス地点の近くにある『基地』。
前回ログアウトしたままの場所だ。
一応機体の損傷を確認して修復をしてみるが、課金を出来るのはニューゲーム時だけのようで機体の変更は敵わない。
リスポーンと共に生成されたであろう機体の方も私が『基地』についた時点でなかったのは確認している。
そんなこの『基地』がある場所とその周辺も『
だが、ランキングを上げるための戦闘を行うとなれば、ここでは条件を満たすことは出来なかった。
『自警団』が強力な力を持っていると言っても、その数は限られている。
それ故に、非戦闘地帯を大量に作ることは難しい。
そのため、『
だからこそ、戦闘をしようと思い『
つまり、『
だから、戦うのならここではない戦闘を目的としたものたちが集まる場所へと移動することが必須だ。
「移動は主にトレーラーだけど、森を抜けるまでは面倒だな」
そんなことを呟いて、『基地』から機体を乗せたトレーラーを発進させた。
向かうはここから一番近い『
確か名前は『W-111』。
通称、トリプルワン。
中規模フィールドではあるが、ここら一帯では一番大きな『
とは言え、戦闘解禁区域と呼ばれる『
そこを管轄する団体があって、ルールがある。
管轄しているのは、『W-111自警団』であり、『
「結構発展してるな」
ゲーム内アイテムであろうテントを始め、プレハブ小屋のようなモノが立ち並ぶそこで呟いた。
開けた道をトレーラーでゆっくりと真ん中の開けた道を進む。
私以外にも似たように機体を乗せた車両が走っていた。
前方に見える大きな建物が恐らく『W-111自警団』の本拠地だろうとあたりをつけていれば、前を行っていた車両が手前で左折するのが見えて首を傾げた。
私は疑問に思いながら先ほど車が止まったあたりまで来たとき声を掛けられる。
「本部に行く前に、『基地』に行って機体を仕舞って来てくれ。左にまっすぐ進めばつく」
「わかった」
どこかの軍服のような服を着た男にそう言われて、先ほどの前方車両の行動の意味が分かった。
素直にその言葉に頷いて『基地』へと向かった。
「──『
『W-111自警団』の本部にて『
「特に『
男は念押しするように言う。
『アングラ』ではコンテニューはない。
機体が撃破されてもコックピットから脱出すれば極論助かるが、必ずしもそれが可能とは言えない。
むしろ、脱出が可能な状況はそう高くはないのだ。
だから、ある程度安心して戦闘を行うのなら『
『
ある程度の攻撃には制限がかかり、コックピット内にいるパイロットを保護する仕組みであり、それを『
「しかし、どいつもこいつも金金金」
『
100万もしたこのアイテムの価格を考えればそんなことも言いたくなる。
機体の購入は出来なくとも、リアルマネーを使える機能自体『アングラ』に存在するのだが、それを利用して『
無論金はムジムラだが。
いくら『
ここまでかかった金のことを考えるとはした金に思えるその額も、そう簡単にぽいと出せるものでもない。
ただ、それでも私には関係のない事だと割り切って操縦桿に手を伸ばした。
「ムジムラの話だと、一度ここを拠点に据えて機体の強化を図れって言ってたけど……」
彼の話を思い出せば、『
だが、今の実力でどこまで通じるか。ゲームオーバーがないと言うのなら……
「お預けはないよな」
そう言って、『
そして改めて操縦桿を握る。
「鮮烈なデビューでも飾ろうか」
初期リス以来、二回目の戦闘に気合いを入れた。