【VRMMO】天才少女は裏ゲームモードを征く~『Pit Coffin』-Game Mode:Underground Struggle-~   作:環状線EX

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『Great Pierce』

 

 トリプルワンに限ることではないが、『Battle zon(バトルゾー)e()』の多くのバトル形式は言うなればバトルロイヤルに該当するだろう。

 自分以外はすべて敵。

 一対一で試合を組んでくれるなんて話はない。

 

 そも、『AHRM(アールム)』にリミッターを掛ける『Duel(デュエル)』機能だってゲームシステムではないのだ。

 あくまで実在の『AHRM(アールム)』の機能を再現したことによる副次的な機能。

 ゲームシステムではなく、『AHRM(アールム)』自体に不殺を強要する機能に他ならない。

 

 ちなみに現実で主に使われるのは、二機から五機程度に同意のもと発動させる機能であるが、バトルロイヤルという特性上ここではそう言った機体間での同意と言うものを取らずに自主的に『Duel(デュエル)』機能によって不殺を守ることになっている。

 機体同士の同意がない分、一人がルールを破れば相手は抵抗できずに撃破されてしまう危険性も伴っていた。

 それだけに、ルールを違反した者に対しては『自警団』により処刑が執行されることになっていた。

 

 とは言え、ルールさえ守っていれば勝負に負けてもゲームオーバーになることはない。

 一線を越えようとしなければ気にするほどの事でもない。

 

「にしても、案外遭遇しないな」

 

 トリプルワンに入場してすぐではあるが、それなりの規模を誇るここでならすぐに遭遇してもおかしくないと思っていたのだが。

 前面モニターにマップを映しつつそれも仕方がないかとも考える。

 

 マップを見ればトリプルワンに入場することができる入り口は四つある。

 東西南北と設置されているのだが、何も戦闘エリアへの入り口が一つというわけでもないのだ。

 トリプルワンを囲うようにして広がる壁。それは二重になっており一つ目の壁を超えるのには四つの一口のどれかから入る必要があるが、二つ目の壁を抜ける道は無数にある。

 恐らく入場そうそう狙い撃ちされないように、入り口を分散させる狙いがあるのだろう。

 実際私も外周を少し回るようにして適当な入り口から第二壁を通過している。

 そう言ったことを皆がしているのなら遭遇しないのもさして珍しい話でもないのかもしれない。

 

 加えて、トリプルワン内にはいくつかの『基地』が存在している。

 すでにそこに到達して、拠点に定めているようなものも少なくないだろうから自然、そこが密集地帯になるだろう。

 

 だが、全く遭遇しない。

 なんてことはないようで……

 

 移動中の地面。

 凹凸がありながらもかろうじて背面的な足元で砂煙が立った。

 銃撃。

 

 元をたどり、顔を向けた。

 

「───ッ!」

 

 脚部の車輪で動体の向きを変える。

 足を組み替えるように最低限の動きでターンすれば、すぐに敵機はこちらから距離を取るように動いていた。

 だが。

 

「初手で当てられなければ、どうとでもなる!」

 

 こちらはパイロットが振り回されるほどのパワーを持つセフワンだ。

 逃げたところで追いつくのは容易い。

 車輪で加速し、更に人特有の脚で蹴ると言う行為によって一歩を詰める。

 

 すでに懐だ。

 

 短剣は武器を手に取って振り上げる獲物の腕を弾き飛ばす。

 そしてそのまま開いた胴に短剣をぶつける。

 普段ならこのまま機体の撃破になると言うところで、システムにより制止がかかる。

 同時に、相手側の『AHRM(アールム)』の完全停止を確認する。

 

「ん……」

 

『RANK UP!』

 

「上がったか」

 

 突如としてモニター端に現れた文字列をなぞる。

 『アングラ』におけるもっとも普遍的で一般的な強さの指標。

 このゲームの上位陣を語るときにも、ランキングによる番付が常だ。

 

 

 

 

 ◆

 

 『W-111』──通称トリプルワン。

 

 アングラ内における『Battle zon(バトルゾー)e()』の規模では最大級のものには及ばず中規模が良いところだろう。

 そんなトリプルワンではあるが周辺エリアにおいては最大級。

 であれば、多くのものがこのエリアを拠点にしているのは必然であった。

 故に人はある程度固定化されており、『Battle zon(バトルゾー)e()』における実力者と言うのはおのずと周知されることとなる。

 

 だから例えば、身に覚えのないプレイヤーが多くの実力者たちを屠っていれば……

 

「おい、聞いたか?未改造のセフワンが暴れてるって話」

 

 おのずとそれは噂となって伝播した。

 知らぬプレイヤーが猛威を振るう。

 それは、多くの人々の注目の的になるのは必至だろう。

 しかし、何よりも目を惹くのはその使用されている機体がデフォルトの機体であると言う事だ。

 未改造と言うのはそれだけで一概に不利に働くとは言えない。

 実際に現実で採用されている機体だけあって、基本的にある種の完成形ではあるのだ。

 しかし、こと『Battle zon(バトルゾー)e()』での戦闘となれば話が違った。

 多くのことを想定して設計された機体と戦闘だけに特化させた機体ではどちらが有利に働くかは想像に難くないだろう。

 量産機であることを考えれば尚更に。

 

 それに、あくまでゲームだ。

 デフォルトの機体より改造を施した機体の方が強くなるのは明白であった。

 だからこそ。

 

「その話面白いね」

 

 強者に興味を示す実力者はその話題に食いついた。

 

「っ!?」

 

 噂話をしていた男たちは不意の声に驚くが声を発した当の本人はすでに背を向けて歩き出していた。

 特徴的な深い青の髪を揺らして背を見せる彼女を男は見る。

 

「奴。帰って来てたのか」

「確か、召集に応じてトリプルワンを離れてるって話だったが……」

 

 すでに小さくなっていた少女の影を見て男たちは言う。

 その言葉からは女に知名度があることが読み取れた。

 そして、次に続く言葉は更に女の造形を深めることになった。

 

「しかし、セフワン野郎も不運だな。トリプルワンの実力者、シーミンに目をつけられるとは」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 エネルギーを補填。

 細かな破損の修復。

 それらをするにはトリプルワン内の『基地』に行くことが必要である。

 しようと思えば、『基地』なしでも出来るが、安全に、尚且つコストを掛けずにと言う条件を付け加えるのならどうしても『基地』が必要となった。

 

 そのため、多くのプレイヤーが『基地』に腰を据える。

 それは持続的な『Battle zon(バトルゾー)e()』での戦闘をするための手段であるのと同時にログアウトも出来ることも考えれば当然であった。

 プレイヤー間で取り決めを作り管理していると言っても、トリプルワンは広い。

 この場所に常駐してランクを上げるのならば『W-111自警団』本部近くの『基地』を使うのでは時間のロスが大きすぎた。

 

 そんな諸々の事情も含めて私はとある『基地』を拠点にして、何度目かの機体のメンテナンスを終えてもう何戦しようとかと機体を出したところだった。

 

「…………」

 

 機体の影を見つけた。

 次の獲物はアレにしようか、なんて思っていた時近づくにつれてその機体の下に何かが積み上げられていることに気付いた。

 それは『AHRM(アールム)』だった。

 装甲を損傷し傷ついたそれらは無慈悲にも一つの機体の脚の下に山となって積み上げられていた。

 

 そして『AHRM(アールム)』の残骸の上に立つそれれはこちらを見た。

 首が動きこちらを視認する。

 

「───っ!?」

 

 スラスターを吹かしたのだろう。

 そう気づいたのは迫る機体が尾を引くように青い炎を伸ばしていたからだった。

 咄嗟だった。セフワンが相手の機体の識別名を取得するより早く接近したそれを受け流したのは奇跡と言えた。

 

 眼球に爪を突き立てられたかと思うほどに急激で。

 そこに短剣を充てるのがやっとだった。

 

「ぐぅ」

 

 奥歯を噛みしめて耐えるのは攻撃をはじく際に発生した衝撃。

 僅かに攻撃の軌道を逸らしてもセフワンが弾かれるほどに奴の攻撃は強力だった。

 遅れてモニターに現れるのは機体名『Great Pie(グレートピ)rce(アス)』。

 

「──面白い」

 

 やっと手ごたえのある敵が来た。

 口角がわずかに上がるのを感じながら、相手を見据えた。

 

 しかし、針のような爪を備えた機体は腕を伸ばしての攻撃は一度ではない。

 避ければ二度目が来て今度こそ機体の顔面をすれる。

 頬に一閃が入るような嫌な感覚に機体の姿勢を落として短剣を振るった。

 

「な」

 

 しかし、グレートピアスはよけるそぶりもなく突っ込んでくる。

 それにこちらも懐に入られまいと脚部の車輪を動かすしかない。

 軸足を残してターンの応用で攻撃を躱し──切れなかった。

 更に踏む込むようにグレートピアスをこちら追う。

 そして攻撃が叩き込まれて、咄嗟に挟み込んだ短剣は押し込まれて後方に跳ぶ。

 再度こちらが体勢を崩されるこちになる。

 だが。

 

「やられてばっかで」

 

 携帯していたもう一本の短剣を射出する。

 通常抜刀の際に振りを加速させることに用いられる機能をただ剣を飛ばすだけに使用する。

 刃がこちらを向いているどころか、大した威力はない。

 だが、一瞬の隙さえ得られれば十分。

 

 実際、グレートピアスは手で払うように避けただけだった。

 だが、拳銃を取り出す時間はあった。

 

「堕ちろ」

 

 引き金を引く。

 超至近距離だ。当たりませんじゃすまない。

 

 押し付けるように放たれたそれはグレートピアスの左目をえぐるように破裂した。

 一瞬、弾かれたようにグレートピアスの頭部が後方へ跳ぶがすぐに潜るように姿勢を前傾にした。

 だが、すでにこちらも短剣を回収している。

 

 両者の刃がぶつかる。

 爪と剣がぶつかり火花が飛ぶ。

 しかし、正面からグレートピアスとやりあうつもりはない。

 車輪とスラスターを駆使して相手の爪がこちらの短剣に力を乗せたのを感じながらやや横にずれるようにしてターンをする。

 セフワンの圧倒的なまでの推進力は私の身体を押しつぶさんと横Gをかける。

 狙うは奴の背面。

 こちらに体重をかけて尚且つスラスターを吹かす相手の機体は体勢を崩して倒れこむだろう。

 そう予想しての攻撃だった。

 だが。

 

「ふざけるな」

 

 こちらの軌道を追うように明らかに無理な動きを取るグレートピアスに声を洩らす。

 なら、とこちらは足に力を込めて停止しながらの応戦。

 彼方が全速力でこちらの背後を取りに来るのなら、迎え撃つ。

 脚部に無理な力が走り嫌な音がするが、関係ない。

 そのまま短剣をグレートピアスに向ける。

 

「───ッ!!」

 

 奴の爪と剣が交差した。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 心の底から『Duel(デュエル)』と言う機能に感謝した。

 それがなければゲームオーバーになっていたであろうから。

 

「いいね。最高だね!素晴らしいよ!」

 

 そんな声を聞いたのは、私が破損した機体から這い出た時だった。

 ある種の安全装置である『Duel(デュエル)』機能と言ったって、プレイヤーの命を保護する程度で機体が壊れないわけではない。

 それ相応のダメージは受けているし、何ならもう歩行ができない程度に陥っている。

 上体すら起こせないから、無様にコックピットから這い出るしかないのだ。

 唯一の救いは、出口が背面についていたことくらいだ。

 

「無改造のセフワンの有り余るパワーをある程度制御するなんて、なかなかできる事じゃない!いや、出来ない!」

 

 先ほどの戦闘を思い出してグレートピアスで無理な軌道をしておいてよく言うものだ。

 お世辞にしても笑えない。

 

「それより。それよりさ!どうして君は全く機体をカスタムしてないの?」

 

 散々一人でしゃべり倒してやっとこちらに質問を投げかけたところで静かになる。

 いや、キラキラと何を期待しているのか輝く瞳はうるさいが。

 

「本当は、色々と準備してからやろうと思ってたんですけど、どうせゲームオーバーがないなら腕試ししたいなって」

「なるほど。いいね!」

 

 グッジョブと親指を突き立ててこちらに見せて来る。

 どうもテンションが合わない。

 そんなことを思っていると、「でも」と彼女は続けた。

 

「『アングラ』でそんなプレイできるなんてもしかして私と同じ感じ?」

「同じって?」

「そりゃあ、雇われじゃないってこと!」

 

 その言葉に理解が追い付かずに首を傾げると鏡合わせのようにして青髪の彼女はこちらの動きのまねをした。

 

「あれ?もしかして私のこと知らない感じ?」

「いや、まあ、はい」

 

 有名人なんだろうか。

 いや、こんなに強いんだ顔は知れ渡っててもおかしくはないか。

 

「なるほどぉ、そういう事か!なんか反応薄いと思ったんだよね!」

 

 納得!とばかりに手をポンと叩いた彼女はそう言う。

 

「ふふんっ。じゃあ、自己紹介しちゃおうかな!私の名前はシーミン、凄腕美少女『AHRM(アールム)』使い!こう見えても、トリプルワンじゃ敵なしなんだよ!」

 

 「凄いだろう!」と胸を張って言われれば、「はい」としか返せない。

 実際すごいのだから。

 

「でもでも、知らないなら仕方ないね。てっきり知っているものだと思ってたんだよ!」

「どうして」

「そりゃあ、私のテリトリーで暴れまわってるんだから、狙って来てると思うでしょ!」

 

 テリトリーと言われれば確かに彼女がこの辺りを拠点としているのなら確かにそう思ってもしょうがないと思えた。

 よく考えてみれば、彼女は不在中であったがあまり多くのプレイヤーがこの辺りに居なかったのは彼女のテリトリーを侵すまいとしていたのかもしれない。

 最終的に他の機体がこの辺りに寄って来たのだって私が暴れ始めてから……つまり、突如現れて荒らしまわるセフワンを排除するためだろうし。

 

「それで、さっきの雇われってのは?」

「そうだったね。忘れてた!『アングラ』をプレイする多くのプレイヤーは大抵雇われなんだよ。お金持ちの人でも何でもいいけど、『アングラ』をプレイさせてもらう代わり、あるは、報酬を条件としてその人たちに頼まれてプレイをしているって人が大抵なんだよ」

 

 彼女の言葉で雇われと言う言葉の意味が分かった。

 『アングラ』をプレイする環境を揃えるのは相当な経済力が必要となる。

 富裕層なんて言葉では生ぬるい金額を投資することでやっとプレイが出来るのだ。

 そもそも金があれば環境を整えることが出来るとも言えないわけだし。

 

 そんな様々な関門を突破するのはそう簡単ではない。

 そして、そんな状況を整えられる人物と『アングラ』で通用する実力者が同一人物なんて話はないだろう。

 だから、環境を整え提供できる側が実力者を雇う。

 

 そして雇われるのが雇われと言うわけなのだろう。

 

 無論、ムジムラにプレイ環境を整えられて、プレイしている私も雇われと言う事になるだろう。

 

「それで……シーミンさんは雇われじゃないってこと?」

「そう。そうそう!あ、敬語とさん付けは入れないから!……で、そうだ!私は雇われじゃないんだよ!っていうのは皆知っているから、貴方も……えっと」

「NA」

「NAちゃんも、それを知ってるものだと思ったんだよ!」

 

 なるほど。話が見えて来た。

 

「それで。それで!NAちゃんはどうなの?雇われ?雇われじゃない?」

「私は雇われ」

「そうなんだ!でも、よく雇い主さんが許してくれたね!」

 

 短く答えた私に情報を咀嚼したシーミンがそう言った。

 その言葉に「なんで?」と言って見れば彼女はまたも口を開いた。

 

「だって、何の強化も対策もしていない弱い機体だと『Duel(デュエル)』を使ってもゲームオーバーになる可能性が高まるじゃん!」

 

 そう言い放ったのだった。

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