【VRMMO】天才少女は裏ゲームモードを征く~『Pit Coffin』-Game Mode:Underground Struggle-~   作:環状線EX

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『Munin』

 

「ゲームオーバー?」

 

 彼女の言葉に引っ掛かって私はオウム返しのように復唱した。

 

「あれ?知らなかった?『Duel(デュエル)』機能で助かっても、その後に機体が動かなきゃ『基地』に行くのだって大変だよ」

「確かにそうか」

 

 彼女が言うのは戦闘の決着のあとの話だった。

 戦闘時に『Duel(デュエル)』機能がある種のセーフティとしてプレイヤーの保護をしてくれるのは確かだ。

 ただ、戦闘が終わり安全圏へ移動する際に守ってくれるようなことはない。

 最悪生身での移動もあり得ると考えれば彼女がそう言うのも納得である。

 

「その辺は雇い主さんは教えてくれなかったの?」

「あー」

 

 言っていたな、なんて思い出す。

 と言うか、色々とムジムラが言っていたが勝手にこちらが必要でない、あるいは後回しで良いだろうと考えた故の結果が全く機体に手を付けずでのトリプルワン参戦だった。

 正直なところ彼は『Battle zon(バトルゾー)e()』に行く前に機体の強化を図れと言っていた。

 それを無視しての行動は彼の了承の上ではない。

 

「まあ、どちらにしても機体の強化のために一度トリプルワンを出るべきか」

 

 そんなことを呟く。

 そうすれば、シーミンが食いついた。

 

「なら。ならさ!私が手伝ってあげるよ!」

「え?いいの?」

「うん!なんたって雇われじゃない私は何しても良いからね」

 

 行動指針は自分で決めて良いのだと彼女は言うが、そうではない。

 

「シーミンにメリットある?……代わりに何か差し出せって言われても私はどうにもできないけど」

 

 仮にもトリプルワンの実力者。

 暇と言うわけでもないだろう。

 

「メリットはあるよ!NAちゃんが強くなること!未改造のセフワンであんなに動けるんだからもったいないじゃん!」

 

 そんなことを彼女は言う。

 漫画のキャラクターみたいなことを言うなとおぼろげに思う。

 

「それに。それにさ!NAちゃんが差し出せるものが一つだけあるよ!」

 

 ピンと人差し指を立てる彼女を改めて見る。

 

「それは強くなって私と戦うこと!」

「……まあ、『Duel(デュエル)』機能ありでってことなら」

 

 お安いものだと内心思う。

 それに、手伝ってくれる云々よりも『アングラ』における実力者とのコネと言うのはその言葉以上に重要なものだろう。

 

「じゃあ。じゃあ!決まりだね!」

 

 シーミンは青い髪を揺らしてそう言った。

 

 

 

 

 

 ◆

 

「ムニン、ね」

「そ、ムニン!」

 

 ふと呟いたその単語をシーミンは復唱した。

 そして私たちの視線の先には『AHRM(アールム)』とは様相の違う鉄の塊が徘徊していた。

 機械でありながら怪物を連想させる姿を有したそれは『Munin(ムニン)』と言うらしい。

 『アングラ』の世界におけるいわばファンタジーゲームのモンスターや魔物、つまるところエネミーとしての役割を担う存在であった。

 

 通常版の『Pit Coffin(ピット・コフィン)』においても登場していたために存在は知っていた。

 ランク戦ではその姿を見ることはないがストーリーモードでは幾度と倒すことがあった。

 そして、ドロップするアイテムを使って機体の強化をするのだ。

 それは『アングラ』でも変わらないらしい。

 使用は多少異なるようだが、認識としては問題ないだろう。

 

「ムニン……無人か?」

「ん?」

「いや、オガサワラアイランド的な」

「オガ……?よくわからないけど『Munin(ムニン)』はカラスの事だと思うよ」

 

 カラスと言われてもピンとこないが、後から調べたところによれば北欧神話に由来するものらしい。

 まあ、そんなことより……

 

「気付かれる前にやるか」

「そうだね!」

 

 シーミンは通信越しにそう言った。

 そして一気に加速する。

 こちらも同時に発進するも性能の差を感じる。

 セフワンのパワーは前進するたびにシートに背中を押し付けられるほどだ。

 しかし、それでもグレートピアスは前を行く。

 まあ、グレートピアスがアジリティ重視の機体であるのは百も承知であるのだが。

 

「にしても、こっちのことも」

 

 考えてくれと思いながら目標であるムニンへ突っ込む。

 手伝うと言いながら彼女はこちらを鑑みない動きをする。

 だが、彼女は私が着いてくるとわかっているのだろう。

 だからこそ、少しムカつく。

 

 グレートピアスの軌道は一直線だ。

 小回りが利かない代わりに一直線の動きは一級品だ。

 私との戦闘では無理やり軌道の修正をしてきたがそれは例外中の例外。

 彼女の腕による力業。

 

 故に彼女の通常攻撃は超加速による突進をしての爪での攻撃。

 突きのような抉り取るようなその攻撃が彼女のやり方だ。

 しかし、彼女はあくまで私を手伝うと言う。

 いきなりの超加速によってその言葉の信憑性は揺らいでいるが、それでもその言葉に従うのなら。

 

「そこ」

 

 僅か前方を行くグレートピアスがムニンの防御を突破したのを予想してがら空きになった胴へと武器をねじ込んだ。

 一撃とはいかない。

 グレートピアスが相手の腕をひしゃげさせて弾いた一方でこちらはわずかにしかダメージが与えられていない。

 流れるように二撃、三撃と攻撃を入れてやっと相手の動きを停止させた。

 

「これじゃ足りないか」

 

 機体の性能にわずかに声を洩らした。

 

 

 

 

 ◆

 

「にしても埃くせぇとこだな」

 

 鉄の足場板を足の裏でコツコツと鳴らして歩く男は顔を顰めた。

 トンネル状の空間で天上だけが高いそこを見上げつつ視界を前に向けた。

 光源に乏しく薄暗いこの空間では鮮明にものが見えない。

 それだけに、視界以外の感覚を持って薄汚さと言うものを特に感じた。

 

「文句言うなよ。こっちは善意で貸してやろうっていうのによぉ」

 

 そう言うのは浮浪者のような小汚い見た目をした細身の男だった。

 恰幅の言い男と並ぶとその貧相に磨きがかかる。

 とは言え、細身の男と恰幅の良い男の間には上下関係は存在しないように見えた。

 強いて言うのであれば、細身の男の「貸してやろう」と言う言葉から若干立場の天秤が傾くかと言うところ。

 

「善意だと?散々金を欲張ったくせによく言う」

「適正価格ならもっと高ぇってんだよぉ」

 

 「わかってねぇなぁ」と細身の男はため息を履いた。

 

「それこそ善意だぁ。今時、『アングラ』がプレイできる軍用機を二台も用意するのは至難の業だろうが。金があればいいなんて話じゃあ──」

「これって、操縦桿とかも純正なんすか?」

 

 細身の男が「二台」と言いながら皮肉下に“もう一人”を視界に収めようとした時、恰幅の良い男の後ろにいたはずの人影が消えていた。

 それに違和感を覚えていた時、いつの間にか左斜め後方で声がした。

 細身の男は文句を垂れたもののために振り返って言葉を交わしていた。

 故に彼の後ろにあるのは男たちが向かう目的地であり……

 

「軍用『AHRM(アールム)』って本物初めて見ました」

 

 ゲームモード『Undergroun(アンダーグラウン)d Struggle(ド・ストラグル)』における唯一のエミュレーターを一人の少年がのぞき込んでいた。

 

「俺が良いっていう前に触んなよぉ」

 

 呆れたように細身の男は言って、恰幅の良い男は少年の首根っこを持ってコックピットから引きはがした。

 少年は頭をかいてなされるままだ。

 そんな彼に恰幅の良い男は言う。

 

「ウルシマッカ、テメェ少しは大人しくしてろ」

「ちょっと愛称であるマッカって呼んでくださいって言ってるでしょう!」

「うるせぇ」

 

 少年──ウルシマッカは首をすくめる。

 男からすれば、後ろでキョロキョロと落ち着きなくあたりを見渡していると思えばいつの間にか勝手によろよろと動き回る。

 そんな行動は今に限ることではなくこれだけは恰幅の良い男をもってしても頭を悩ませていた。

 

「アンタがそんな顔するとは、そいつ何なんだぁ?」

 

 細身の男は恰幅の良い男のことをよく知っているのかそんなことを言った。

 それに対して「ああ」と言葉を洩らして男は続けた。

 

「こいつはシン・ウルシマッカ。異様にゲームが上手いガキだよ。ついでに落ち着きがない、な」

「そんなことないですよ~」

 

 そんなことないわけがないと男が内心思いながらウルシマッカの襟を離した。

 「いてっ」と声を出して膝をつくウルシマッカはよろよろと立ち上がる。

 そんな彼を他所に恰幅の良い男は「それよりも」と言った。

 

「デール、調整は完璧なんだろうな」

「完璧も完ぺきよぉ」

 

 そう言って、細身の男──デールは胸を張って見せた。

 

「『アングラ』をするってんなら、必要ないだろうが肢体を含めたすべてがなぁ」

 

 デールがそう言えば、男の視線も自然と機体の全身を映した。

 それは意思さえあれば今からでも戦場に投入できる程度には仕上がっているように見えた。

 腕も足も頭も存在するそれは、ジャンク屋がつぎはぎで作ったVR機器へと成り下がった『AHRM(アールム)』とは違う。

 しかし、今はここまでを求めているわけではないのだ。

 男の口から漏れ出るのは疑念だ。いや、不安と言うべきか。

 

「まさか、動きだしたりしねぇよな。ほら、『Rewriting (リライト・オ)Object(ブジェクト)』とかで」

 

 冗談めかしたように彼は言う。

 しかし、その目には嬉々の類は存在しなかった。

 

「さあな。うちは、『AHRM(アールム)』を只のエミュレーターになんかさせる気はねぇんだよぉ」

「じゃあ……」

「少なくともそこらのダルマと違って動きはするさぁ」

 

 デールにはこだわりがあるのかそう言った。

 

「まあ、軍と違ってターゲットプラットフォームの更新は認可がなくてもできるがなぁ」

 

 出来たところでだろうと恰幅の良い男は思う。

 そんなことはデールも百も承知なのか言葉を続けた。

 

「つっても、『Clown』が作った『Rewriting (リライト・オ)Object(ブジェクト)』が既存のセキュリティホール修正したところで、そこにとらわれるかは疑問の残るところだがなぁ」

「文字通りありゃブラックボックスだ。考えるだけ無駄だろうな」

 

 『Rewriting (リライト・オ)Object(ブジェクト)』と言う存在はそれだけの代物だった。

 

「ちょっと、二人とも!何話しこんでいるんですか?先始めちゃいますよ!」

 

 話す二人にウルシマッカはまたも機体に乗り込んで声をかけて来た。

 デールと男は呆れるが、仕方がないと足を進めた。

 

「しかし、あのデヴィン大尉がガキの御守をするとはなぁ」

「言ってろ」

 

 デールの言葉を流した男──デヴィンはウルシマッカと同様に機体に乗り込んだ。

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