【VRMMO】天才少女は裏ゲームモードを征く~『Pit Coffin』-Game Mode:Underground Struggle-~   作:環状線EX

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アルテミス

 

 シーミンの提案で出場することになった「大会」。

 そんな大会の手続きを行った際に遭遇した少女リアは私に挑発的な言葉を放った。

 それに一瞬呆けてしまい、何かを言う前にリアはその長身を私の視界から消した。

 ドアの向こうに消えた背中はきっとフレッドを追ったのだろう。

 

「すごい。凄いね!バチバチだ!」

 

 そして、リアが消えていったドアを眺める私を他所にシーミンは盛り上がる。

 その様子に面食らっていると不意に彼女は顔つきを変える。

 

「でも。でもさ、NAちゃん」

 

 今度こそ私の目を見た彼女は名前を呼ぶ。

 その深い青い瞳に目が引きつけられる。

 

「あのリアって子には気をつけた方が良いかもね」

 

 普段の跳ねるような喋る声と対照的な優しく静かな声を聞いた。

 

「さっきの男の人の名前。フレッドは今の総合ランキング八位。しかも、彼は弟子を取るようなたちじゃない。だから、フレッドが目をかけているならあのリアって子はよっぽどの実力を持っていると考えて良いよ」

 

 フレッドと言う男の実力がそれほどまでであることに驚き、そしてリアという少女の力量がわずかに見て取れる。

 才能の原石であろうと今既に実力が伴っていようと脅威であることには変わりない。

 なら。

 

「シーミン。少し手伝ってほしいことがある」

「お~。特訓だね!まだ、十日あるから強くなっちゃお!」

 

 私が一言言っただけで察した彼女はぐいとサムズアップした。

 

 

 

 

 ◆

 

 大会大会と言っていたが、後から出場登録をした履歴を見ればその正式名称が分かった。

 その名は「アルテミス」。

 ギリシア神話の神の名を冠するその大会は『アングラ』内の個人開催する大会の中ではそこそこの知名度はあるようだ。

 

 その注目度には、賞品の豪華さが関係しているようで一口に「設計図」と言ってもレア度と言うものが存在していてイベントでも滅多に手に入らないものが用意されているためだと言う。

 もちろん毎回毎回質の高い商品と言うわけでもないのだろう。

 だが、最低ランクのものでもある程度の需要が存在するものを用意し、時にはランクの高いアイテムを出すことによって緩急をつけある程度の話題性も出しているのだろう。

 

 そして今回は。

 

「ランキング八位のフレッドの弟子が出場することにより、更に人が集まり運営側も賞品のランクを引き上げ、か」

 

 セフワンのコックピット内で液晶画面に写ったその情報を口に出した。

 『アングラ』内の話題をまとめた記事を眺める。

 リアルのものではなくこの世界で流通しているいわば新聞。

 まあ、どちらかと言えばネットニュースの方がニュアンス的には近いかもしれない。

 

「それにリア自身のランキングは999位」

 

 モニターの隅に申し訳程度に表示される私の現在のランキング1563位の文字を見ればその差は驚異的ものだろう。

 そして、恐らく彼女の実力はそのランキングに完全に表されているとは思えない。

 彼女が個人の大会で表にだただけで大騒ぎだ。

 それを考えれば彼女は存在を周知されるほどまだ戦闘を『アングラ』内で重ねていない。

 

 実力は未知数だ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

「今回の大会参加者は60人か。こりゃすげぇ」

 

 雑多な声がひしめき合う中、一人の男が呟いた。

 低音は他の声にかき消されるかに思えた時、一人の声がそれを拾った。

 

「そう。そうだよね!やっぱ、リアちゃんの効果で色んな人が来てるみたい!」

 

 フードを深くかぶり、素性を隠す少女は男の隣に腰を掛けた。

 ここは酒場、二つの人影がカウンターに並んだ。

 

「おまえ、そりゃわざとか?」

「?」

「姿隠してんのにバカでかい声出していいのかって聞いたんだ」

 

 思わず男は誰かに聞かれていないかとあたりを見渡せば幸い誰もこちらを見ていなかった。

 そんな男の様子を他所にフードの少女──シーミンは尚もとぼけたように首を傾げていた。

 フードの隙間から特徴的な髪と瞳が覗いた。

 深い青は彼女を目立たせる。故のこの格好なのだろう。

 

「まあ、いい。それよりお前、アルテミスに興味あんのか?」

 

 男が見ていたのは酒場に併設されたアルテミスの様子を映し出したモニター。

 シーミンも同じように顔を上げているのを見て呟いた。

 

「ちょっとね」

「そうか。お前が自分がでないアルテミスに興味を示すとは……。リアってのよっぽどなんだな」

 

 納得したように男は頷くも、シーミンはなんだか変な顔をした。

 

「違う!ってこともないんだけど。ちょっと違うよ、レクス」

 

 彼女の表情の招待はわずかにずれた解釈違いに対するものだったらしい。

 名前を呼ばれたレクスは、ではなんだろうと考えて次の言葉を待った。

 

「あのね。あのね!実はねぇ!私の知り合いの子が出るんだよ!」

「知り合いの子?」

「うん。うん!私は弟子を名乗ってっもいいよ!って言ったんだけど。なんだか断られちゃって。……あっでも色々と教えてあげてるんだよ!」

 

 わかりにくい説明に目を回しそうになるもレクスは何とか受け止める。

 そして恐らく色々と目をかけているものの子弟ではないと言う事だろうか。

 と言うか。

 

「どうせ、師匠と呼んでもいいよとか言ったんだろう」

 

 図星だろうとわかりやすい表情を浮かべると予想してのレクスの言葉。

 しかし、予想外にも彼女は表情を変えなかった。

 いや、正確にはフードの奥の瞳が何かの反射で一瞬光って見えた。

 怪しげな光がともる。

 

「言ってないよ」

 

 何か含みのある言い方は何を意図しているのか。

 

「弟子を名乗らせるのと、師匠と呼ばせるのは違うのか?」

 

 つい口をついた言葉にシーミンは目をしばたたかせた。

 レクスとしてもさして気になったわけでもなかったが、反射的に出た声に彼女は口を開く。

 

「うーん。うーっとね!強くなるなら私の弟子を名乗った方が融通が利きやすいんじゃないかってくらいの話なんだけど……。でも、それはともかくあの子が私を仰ぐのは違うかなって」

 

 続けられる言葉はやはり要領を得ない。

 とは言え、前半が意味するところはそのNAと言うプレイヤーの力では及ばない局面においての物事の円滑にはつながるのだろう。

 そんな自己完結を行っていたところにシーミンは何でもないように言う。

 

「あの子は必ず昇ってくるからね」

「お前、それって──」

 

 レクスが何か言おうとした時、モニターの中では派手な演出を挟んでアルテミスの開催が宣言されて酒場全体が沸き上がり声はかき消された。

 彼の意識を隠すようにシーミンは小さく告げる。

 

「始まったね」

「……ああ。つっても開始して暫くは潜伏する機体がほとんどだろうが……」

 

 話を逸らされたような気分になってレクスは表情を歪める。

 話を戻すことはしなくとも何か言おうと思い口を開いたところでまたも意識は別へと移される。

 それだけのものが彼の見る先にはあった。

 

「何だありゃ」

 

 一つの機体が弾丸のような軌道で前方二機を討ち果たした光景に驚愕の表情を浮かべた。

 

「あれが面倒見の悪いフレッドが態々目をかけるほどのプレイヤー、リアだよ」

 

 その驚異的な実力はシーミンの言葉に裏打ちをされて実態を増した。

 同時にレクスはその目でリアの動きを捉えていた。

 性能はそこそこに高いが決してトップランカーのものと比べれば比類することないその機体で敵機を撃破する手さばきは異様だった。

 様に無駄のない動きで彼女の機体、バレットは舞うように二機を撃破した。

 本来開始すぐに身を隠すことが当たり前な状況で、すぐに一機目を探り出し長剣で胴に入れ、それにつられて動いた二機目に身体を翻すとともに首をはねた。

 

「一機目はともかくに二機目の存在は勘だったろうが」

 

 レクスは呟く。

 一機目は恐らく戦闘開始よりも前にリアは見つけていたのだろう。

 だからこそ、始まってすぐに突撃を掛けられた。

 しかし、二機目は彼女から観測は不可能。

 それがいるだろうと考えたのは恐らく勘。

 そしてその勘を的中させて寸分たがわずに撃破をしていた。

 

「レクスもできるでしょ」

 

 何気なくシーミンは言う。

 それに対してレクスは怪訝な表情を浮かべた。

 

「できねえよ。大体できたとして、リアって少女が出来るのはおかしな話だろうが」

 

 表への露出度を考えれば『アングラ』をプレイして間もないであろう少女と、そこそこの歴がある自分を比べられたらたまったものではない。

 レクスにも多少のプライドがある。

 

「それよりも彼女、大丈夫なのか?」

「ん?」

「ただでさえ狙われてんだ。余計な消耗は持続的な戦闘をしづらくなるだろ」

 

 先の戦闘もそうだが、彼女は今も積極的に移動している。

 機体の損傷は考えないにしたって、エネルギーは無限じゃない。

 途中で他の機体を撃破すればその残骸から応急処置的な補給も出来ないことはないが。

 

「だからこそ、なんじゃない?」

 

 シーミンが答えレクスは疑問を浮かべる。

 しかし、映像を見ていればその意味がわかった。

 

「奴、いっぺんに誘い出してやる気か」

 

 レクスは目立つように高所に移動したリアの機体を見てそう呟いた。

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