原題「高校デビューに失敗した小宮山さんはそれでもギャルを続ける(+αで陰キャの僕)」です。
放課後になってまたもや来ました21世紀公園。
開園時間とあって僕と小宮山さんはけやき通りに掛かるアーチ橋、その下の目立たないベンチで顔を突き合わせて神妙な顔を並べていた。
一先ず、現状を整理しよう。
小宮山さんは友達を沢山作るために、クラス内カーストを向上させてしようとしている。
その踏み台として、まずは魚井くんを小宮山さん陣営にしようとして失敗。秘策とやらも恐らく不発だったのだろう。逆に何故か僕の方が魚井くんに気に入られてしまった始末だ。
クラス内でカーストを上げるのはもう難しいんじゃないかな。
赤里さんが女子側リーダーで付け入る隙はない。男子側に関してはリーダーはサッカー部の相場くんだけど5月くらいから女子側の事情には不干渉を貫いている。魚井くんは唯一、クラス内じゃ第三者的なポジションにいたけどもネゴシエーションの結果はご覧の通り。
こうなると方法については一から考え直すべきだと思うな。例えば部活に入るとか。部活勧誘シーズンは当の昔に過ぎ去り現在7月とはいえ、僕たちはまだ高校1年生。やりようは色々とあるだろうさ。
───って。
あれ、なんで僕はまだ小宮山さんを手伝う気満々でいるんだろう。
そろそろフィードアウトしてもいいんじゃないだろうか。結構やったよね僕。話したことも無かった魚井くんに勇気を奮って話しかけて、小宮山さんの元まで案内したんだ。最低限義理は果たしただろう。何に対する義理かは分からないけども。
こうやって逃げるべく本格的に頭を悩ませようとすると、決まって小宮山さんは愚痴り始める。
「思うんだけどさ、リア充ってホント意味分かんないよね。人間関係なんて嘘で継ぎ接いで、問題があってもまるで無いかのように、臭いものに蓋をして何とか潤滑に回ってるっていうのに。私だけなんでここまで責められるんだろう」
「それは明確じゃないかな。陰険な───」
「なに?」
「───何でもないです、はい」
ギロリと睨まれて僕は言葉を引っ込める。そこで威嚇してくる辺り自覚あるよね?
「ともかく私、移動中考えました。一旦クラスで頑張るのはちょっと諦めようかなって思う」
「そうだね。それが良いと思う」
「でしょ。で、次善策としてプランBに入ろうと思うんだ」
「プランB?」
「つまるところ───部活動に入る。どう、この天才的な閃き?」
ドヤ顔で発表しているところ申し訳ないけど割と順当な流れだと思う。
部活動ね……。
家庭科部に入ろうとして同中の藤野さんという人がいたから部活入るのは止めたって言ってたけど。
「で、どこに入る気なの?」
「ちっちっち。私には考えがあるんだ嶋守くん」
「無かったら馬鹿だもんね」
「嶋守くん?」
おっと、口が滑った。
「それで具体的には何部にロックオンしてるのさ?」
「……取りあえず30人以上の部員が要る部活動であることは必須条件。だから必然的に中小零細部活は論外」
「へぇ」
横目でジロリと見られたけど、話をレールの上に戻せば渋々と小宮山さんは口を開く。
「そして体育会系も除外して、すると残るのは4つ。なんだと思う嶋守くん?」
文化系だとそうだね……。
「吹奏楽部は多い印象があるね。後は何だろう、演劇部とか美術部あたりかな」
「吹奏楽部と美術部は正解。演劇部は23人だね」
「そうなんだ。残り2つは?」
「家庭科部とカルタ部」
なるほど、だから家庭科部をターゲットにしていたのか。
……ん? カルタ部そんな多い?
「カルタ部って30人以上も部員いるの?」
「冊子にはそう書いてあったけど。38人だったかな……ともかく大所帯で意外性あるよね。まあ8割以上が幽霊部員らしいけど」
「あはは……」
僕もその幽霊部員の一人である。部活所属必須のこの高校において気が向いたときに自由参加可のカルタ部ほど有り難い部活動もそう多くはない。いつもお世話になっております。
「あれ、小宮山さんは結局何部に入ってるんだっけ?」
「私はファッション研究部」
「え、なにそれ」
「その名の通りファッションを研究する部活。リア充の役作りに良いかと思って入った。週一でしか活動しないのも都合が良かったし」
「因みに人数は?」
「8人。4月はまだ高校デビューが結構うまく行ってたから部活人数なんて大して気にしてなかったのが運の尽きだったね」
「へー……」
良く分からない部活に入ってるなー小宮山さん。
秋高ってこういう良く分かんない部活結構あったりするんだよね。ファッション研究部なんてまだマシな方で、運動部ならカバディー部、文化部ならば恋愛ラブコメ部とか。特に後者。余りにも謎部活が過ぎるので明日には潰されるだろうとかSNS上では専ら噂だったりする。
活動内容不明な部活動に思いを馳せていれば、小宮山さんが「あー」と間延びした声を上げる。
「でもウチの高校、兼部出来ないから一旦抜ける気でいるけど」
「あ、そっか。じゃあ吹奏楽部か美術部か家庭科部に転部するんだ」
消去法でその三つね。少なくとも吹奏楽部は難しいだろうなぁ。部活自体が大変なイメージがあるし、上下関係も厳しいと聞く。小宮山さんが友達を作る目的で今から入って馴染めるような部じゃない気がする。
カルタ部はそもそもアクティブ部員が少ないから自動的に除くことができて、残る選択肢は美術部か家庭科部。小宮山さんの事情を鑑みれば前者が合っている気もする。
小宮山さんは前髪を弄りながら唇を一度縛り上げて、それから開く。
「美術部になるかなぁ。同中いないし」
「……同中に拘る必要、もうないんじゃない? もうバレてるじゃん、腐女子ってことは」
「分かってないね。同中のクラスメイトはね……性格が悪い奴が多いの」
うんうんと過去を顧みるみたく頷きながら言う小宮山さん。
そう宣う小宮山さん自身も正直あまり良くない方だと思うだけど、それは言わないが華ってやつだなあ。
「あれ、じゃあ僕は? 小宮山さんの方からバッティングセンターで声掛けてきたよね?」
ふと思い出したのは昨日のことである。
小宮山さんはバッティングセンターで僕の肩を叩いた。同中クラスメイト性格悪い理論からすれば僕だって例外じゃなかろうに。
小宮山さんは唇に指を当てて、少しだけ悩む素振りをする控え目な笑顔を浮かべた。
「嶋守くんはマリオで例えるなら背景にいるキノピオだからね」
「それどういう意味?」
「超絶無害ってことだよ」
「いてもいなくてもいないって意味では?」
「違う違う。敵にも味方にもならない永世中立人間じゃん嶋守くん。中学でも虐められてた男子に普通に話しかけてたよね。虐めないにしても、普通は無視するじゃん。自分にターゲット向いたら溜まらないわけだし」
「そんなことあったね」
「そうそう」
中2の頃に一緒にクラスだった野球部の山内くんか。
野球部と聞くと陽キャに思えるけど彼は見た目から性格まで結構な陰キャで、クラスメイトで同じく野球部のクラスメイトから良くパシられていた。言うまでもないけど僕は傍観者だった。一緒になって虐めることも避けることもなく、あくまで僕にとってはただのクラスメイトの一人でしかなかった。閑話休題。
懐かしい話題を出してきたかと思えば小宮山さんは顎に手を当てる。
「いや……無害どころか益虫かも。さっき魚井くんと話して色々言われた時、嶋守くんが言い返してくれて嬉しかったし。言い忘れてたけどありがとね」
「ど、どういたしまして?」
小宮山さんのウインクに相変わらず違和感を覚えつつ、僕は返事に躓きながら微妙な気持ちを抱いた。
何でだろう。あまり嬉しくない。人生でも2度もない異性、それも見目のいい同級生からのお礼だと言うのに。感謝と裏腹に依然と虫扱いされてるからだろうか。
この話題を続けたらもっと妙な気分になりそうだったので、コホンと僕は息をついた。
そろそろこの話も終わらせよう。我ながら良い案を思いついた。
「話を戻してさ。僕も一つ提案があるんだけど」
「なに?」
「部活に拘る理由はないんじゃないかな。別に小宮山さんのお母さんも一つの組織で友達30人作れと入ってないよね」
「それはそうだけど」
何が言いたいのかと小宮山さんは長い睫毛をパチパチとさせる。
「だから少しずつ確実に友達を作ればいいんじゃない?」
「……どういうこと?」
「例えば今入ってるファッション研究部は8人いるんだよね。じゃあ仮に全員と友達になれば残りは22人。次にカルタ部に入る。幽霊部員ばっかとはいえ5人ちょっと真面目な人が来てたはず。足して引いたら残り17人。40%だよね。これを繰り返せば友達30人は簡単に行けると思うよ」
「ちょっと待ってよ、ウチの高校兼部禁止だよ」
「兼部しなきゃいいじゃん」
より難しそうな顔になる小宮山さんに僕は自分なりの結論を説く。
「僕の思うポイントはだね小宮山さん、30人友達を作れという命題には時間という条件が無いところなんだ。人間関係っていうのは時間で遷ろう物だろ。昔友達だったけど進学を契機に疎遠になる経験なんて誰だって持ってる。つまり3年間の間で何度か転部をして、定期的に友達を紹介すればそうだね。1年当たりに10人という数字に落ちつくだろ?」
「でも年当たり10人って多くない?」
「じゃあ半年で5人でもいいさ。ウチの高校は強豪だったりメジャー部活じゃなければ転部に寛容だよ。付け加えるなら人の噂も75日っていうのもある。今は多少ホットなトピックかもしれないけど来年の4月にクラスも変わる。態々新しいクラスメイトが旬を過ぎたその話題を蒸し返すとも思えないし、クラスで友人を何人か作ることが可能なら30人はそう遠い話じゃない」
計算してみよう。今年はもう無理だろうし0人で、来年と再来年でクラス内に友達を5人作る。一方部活でも3年間で20人作る。1年で7人まで減った。これなら零細部活に入っても問題無い。
「だから今年は部活動に全力投球してみるのはどうだろう。きっと友達30人の近道だと思うよ」
「なるほど……嶋守くんって意外と頭いいんだ」
「意外ってなんだよ」
こっちは小宮山さんのクソほどどうでもいいBLグッズのために友達を30人作る現実的なプランを考案したというのになんて言い様だ。
小宮山さんはニッと笑った。決してインスタ映えするようなギャルの笑みではなかったものの、小さな桜色の唇に、青くサファイアを彷彿とさせる瞳が爛と煌めいて、僕は思わず目を張った。
「ごめん、冗談。ホントありがとね。ちょっとそれ試してみる」
「……うん。頑張って」
「ホントありがと! 絶対に私、BLグッズ死守するから見てて!」
心底小宮山さんのBLグッズには興味はないけども。
それでも嬉しそうな小宮山さんの微笑みを見ると唐突に鼓動がドクンと鳴った気がした。
こんな性悪腐女子に恋する訳でも無し、絶対に人体のバグか何かだろう。それに異性とマトモに話した経験もあまりないし、僕の心臓は勘違いが生まれやすい下地にある。
……いや、ま、話すこともこれっきりだろうし認めてやるか。
これが明確な誤作動だとしても、恋の予感を一瞬でも覚えたのは事実だ。だから僕の人生における唯一の輝かしい青春の一ページとしてこの想いでは額縁に入れて飾ってあげようじゃないか。
新緑の光に照らされた小宮山さんの姿は、今だけは本当の純白ギャルみたいに見えた。
とまあ、僕は小宮山さんと決別したつもりで帰路に就いたのだが。
帰って早々小宮山さんから連絡が来た。
【次からの会議は毎週土曜の朝10時に21世紀公園の橋の下だからヨロシクฅ^•ω•^ฅ】
土曜日という友達候補と過ごすにはピッタリな青春ゴールデンタイムになんで僕と会おうとするんだよ。
もっとこう、ちゃんと友達作りなよ小宮山さん……。
スキャンダル関係無く小宮山さんの友達作りへの道は長いと悟る僕であった。
一旦小宮山さん編の区切り。