深夜3時、スマホの地図アプリに突如現れた謎のピン――「Unknown Point」。
興味本位でそれをタップした高瀬悠真(たかせ ゆうま)のGPSは狂い始め、彼の「現在地」と「現実」は、地図によって少しずつ書き換えられていく。

この異常は、幼馴染の芦屋朱音(あしや あかね)にも“感染”し、彼女は地図にない道へと導かれ、やがて人々の記憶からも完全に消失する。
消えた場所には「Unknown Point」が残り、悠真のスマホは現在地をその“空き地”に固定し続けた。

そしてついに、悠真自身の自宅にも新たなピンが出現する。地図上から家は消え、現実との断絶は決定的に。

最後に残されたスマホの履歴が告げるのは、彼が“地図にない場所”へと完全に引きずり込まれた運命だった。

日常のツールが現実を侵し、存在そのものを塗り潰していく――
現代に潜む“座標の呪い”を描いた、静かなる恐怖の物語。

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地図にない場所(アンノウン・ポイント)――君の家にもピンが刺さる

「おい、これ……なんだと思う?」

 

高瀬悠真(たかせ ゆうま)は、深夜三時、薄暗い自室のベッドの上でスマホの画面を指差した。そこには見慣れないピンが刺さっていた。名前は「Unknown Point」。英語表記で、住所欄は空白。座標だけが、不気味に点滅している。まるで、そこが世界のどこにも属さない場所だと主張しているかのようだった。

 

漠然とした不安を抱えながら眠れず、なんとなく地図アプリを開いたときだった。普段なら何も表示されないエリアに、そのピンは突如出現した。

 

最初はアプリのバグかと思った。馴染みのあるアプリがこんな挙動を見せるはずがない。だが、ピンをタップした瞬間、スマホが微かに震え、画面が切り替わる。

 

《案内を開始します》

 

耳元のイヤホンから女の声が流れた。柔らかく、穏やかで、けれどその背後には微かなノイズが混じっていた。金属を擦るような音、濡れた布を引き裂くような音、そして、何かが呼吸する気配。

 

「……え?」

 

ナビは勝手に起動し、経路案内が始まる。目的地までの距離は「3.6km」。徒歩で約45分。地図に示されたルートは住宅街を抜け、空き地の奥、そして人が立ち入れないはずの山林へと続いていた。

 

背筋を這い上がるような寒気。画面の向こうから、誰かの視線を感じる。悠真はすぐにアプリを閉じ、履歴からも削除しようとした。だが「Unknown Point」のピンは消えなかった。むしろ、ますます鮮明に表示されていた。

 

翌朝。教室で幼馴染の芦屋朱音(あしや あかね)が、悠真のスマホを覗き込み、目を細めた。

 

「……それ、出ちゃったんだ」

 

その言い方が、妙に引っかかった。

 

「知ってるのか?」

 

「うん。ネットのオカルト系でよく見る。“深夜三時に現れる座標”。タップしたら、GPSが狂い始めて、最後には……」

 

言葉を濁す朱音。普段は好奇心の塊みたいな性格のくせに、明らかに怯えている。

 

「GPSが狂うって?」

 

「現在地が……変わるの。いる場所とは違う場所に表示されて、でも、何日か経つと、本当にそこにいるようになっちゃう。自分でも気づかないうちに。そうやって、消えるんだって」

 

「誰が?」

 

「そのピンを、見た人」

 

悠真は思わずスマホを握りしめた。

 

「まさか、お前のにも出てるのか……?」

 

朱音は苦笑しながら、自分のスマホを差し出した。画面には、まったく同じ「Unknown Point」のピン。

 

「さっき、悠真のスマホ見たから。たぶん……感染ったんだと思う」

 

「……感染?」

 

「地図を“見せる”ことで、ピンは広がるの。誰かが見たら、そっちにも現れる。バグでも何でもない、“意志”のあるピン。……これは、座標の呪いだよ」

 

その夜。悠真のスマホには新たな**“道”**が表示されていた。

 

見覚えのない細い道。それは彼の自宅の裏手から始まっていた。地図では、点線で示されている。現実にはそんな道はなかったはず。だが、翌日確認してみると、その道は“存在して”いた。

 

草が生い茂り、舗装もされていない獣道のような小道。地面には、何かが這ったような跡があった。泥に擦れた手形のような痕跡、土にめり込んだ爪痕――人間のものとは思えない何か。

 

道の終わりには、深い森。その入り口で道は途切れている。だが、地図上では、道はなおも森の奥へ続いていた。その先に表示されたのは、朱音の家。

 

「GPSが……俺の現在地を、書き換えてるのか?」

 

翌朝、朱音は学校に来なかった。連絡もない。担任は「体調不良だろう」と言ったが、朱音のSNSは消えていた。履歴も、連絡先も、メッセージも、すべてが空白。クラスの誰に聞いても「そんな子いたっけ?」と首をかしげる。

 

そして――悠真自身の記憶にも、朱音の輪郭が滲みはじめていた。声も、顔も、曖昧になる。

 

放課後、朱音の家へ向かう。だが、そこにあったはずの家は、影も形もなかった。空き地。錆びたフェンス。「立入禁止」の札が風に揺れていた。

 

スマホの地図を開く。朱音の家の場所に「Unknown Point」が表示されていた。そして、自分の“現在地”もそこを指していた。自分はフェンスの外に立っているはずなのに、GPSは空き地の中心に彼を配置している。

 

数日後。地図に新たなピンが表示された。

 

今度は、自分の家。

 

スマホの通知履歴はすべて消去されていた。ただ一つの表示。

 

《“あなたの現在地”を再設定します》

 

自宅の位置が、地図から消えた。そこに表示されたのは、真っ白な空間。そして、ぽつりと浮かぶ「Unknown Point」の文字だけ。

 

「……俺の家が、消えた?」

 

その瞬間、スマホの画面がブラックアウトした。

 

悠真は顔を上げる。部屋の壁に映った自分の影が、こちらを見ていた。

 

それは確かに“自分”の形をしていた。けれど、動かなかった。

 

悠真が動くと、影も遅れて動く。数テンポ遅れた、ぎこちない模倣。そして、影は笑った。

 

口を開き、声が漏れた。

 

《目的地に到着しました》

 

その声は、GPSの案内音声だった。

 

悠真の意識がふっと途切れる。

 

数日後、高瀬悠真は学校に現れなかった。

 

教師もクラスメイトも、彼の名を口にしなかった。家族の記憶からも、彼の存在は消えていた。彼の家があった場所には、錆びたフェンスと「立入禁止」の札が立てられた空き地が広がっていた。

 

そして、彼のスマホだけが、未だにその履歴を残している。

 

《現在地:Unknown Point》

 




本作は、都市伝説ホラーの構成練習として執筆した短編になります。
「スマホ」「GPS」「存在の喪失」といった現代的なテーマを使いながら、
読者に違和感や恐怖がじわじわと広がるような展開構成を意識しました。

表現や構成など、まだまだ試行錯誤中ではありますが、
もし何か一つでも印象に残る部分がありましたら幸いです。

ご意見・ご感想などもお待ちしております!

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