冒頭部分はやや駆け足でまとめています
mission23 ~調印式~
数日後。トリニティではクーデターの後始末に追われており、人手不足のためシスターフッドのサクラコやバージルも、書類整理と事件の確認を手伝っていた。
その合間に、サクラコが語る事件の推理を、バージルは黙って聞いていた
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百合園セイア襲撃事件について
被害状況:
百合園セイアは致命傷には至らず、現在は保護下にある。
治療および警護は救護騎士団が継続している。
発端と展開:
事件当夜、学内で爆破および侵入が発生し、現場は混乱した。
当初は状況が錯綜していたが、調査の結果、襲撃はアリウス分校側勢力による介入である可能性が高いと特定された。
証言および現場記録の整理により、当時の現場では誤認や偶発的な事象も重なっていたことが判明している。
調査経路:
補習授業部からの報告と学内教員による事後検証を基に、会議形式で事実関係の整理とクロスチェックが行われた。
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次に、アズサのトリニティ入学について。
状況:
補習授業部での行動および証言を踏まえ、
白洲アズサのトリニティへの正式な入学手続きが進められた。
書類上の整備も完了しており、手続き上は受け入れが確定している。
留意事項:
出自がアリウスであること、また過去の行動経緯から外部勢力による追跡や報復の可能性が残る。
そのため学内では保護措置および一定の監視体制が継続される予定となっている。
付記:
本人は補習授業部での時間を重要視しており、一連の行動は本人自身の判断によるものと報告されている。
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――以上が、今回の事件の整理である。
しかし、まだ解決していない問題が残っている。
白洲アズサに百合園セイアの暗殺を命じた人物。
それは、アリウススクワッドのリーダー――
「錠前サオリ」である。
彼女がスクワッドを指揮し、今回の襲撃を実行したと見られている。
トリニティ内部の問題は、一応の収束を見た。
だが、アリウス分校との問題は依然として残っている。
トリニティを憎むアリウスが、再び行動を起こす可能性は十分にある。
・・・・・
・・・
・
~連邦生徒会室~
現在、バージルはリンに呼ばれ、連邦生徒会に来ていた
リン「お越しいただきありがとうございます、バージル先生」
バージル「・・・・それで。俺を呼んだ理由は何だ?」
リン「近々、エデン条約の調印式が予定されています」
バージル「・・・・そうだな。シャーレには関係のない話だ」
リン「ですが、その件で先生宛てに依頼が届いています」
バージル「・・・・依頼、か?」
リン「トリニティとゲヘナ、双方の代表からです」
リン「先生に調印式へ参列し、中立の立会人としてその場にいてほしいと」
バージル「・・・・初耳だ。そもそも、こちらには届いていない」
リン「ええ。エデン条約は機密性の高い案件ですから」
リン「手紙やメールで直接シャーレへ送られることはなく、連邦生徒会を通して伝えられる形になります」
バージル「・・・・そうか、強制か」
リン「あまり、嫌そうな顔をしないでください」
リン「先生にとっても、悪い話ではないと思いますよ」
リン「ゲヘナとトリニティの間でトラブルが起きた際には、シャーレへ仲裁の要請が届くことも少なくありませんから」
リン「エデン条約が結ばれれば、そうした問題も減っていくはずです」
リン「・・・・まあ、理屈の上では、ですが」
バージル「・・・・分かった。受けよう」
リン「それと、もう一つだけ」
バージル「・・・・まだ何かあるのか」
リン「ゲヘナの生徒会――万魔殿が、先生と重要な話をしたいとのことです」
バージル「・・・・強制か?」
リン「はい。・・・・強制です」
・・・・・
・・・
・
~万魔殿・講事堂~
バージル「・・・・」
マコト「よくぞ来た、歓迎しよう! シャーレの先生よ!」
バージル「・・・・」
マコト「キキキキッ! そんなに緊張することはない!」
マコト「まぁ、このマコト様を前にすればそうなるのも無理はないがな! キキキッ!」
イロハ「マコト先輩、別に先生は緊張なんてしてませんよ」
マコト「なんだと!? このマコト様を前にしているにも関わらず、平常心を保っているのか!?」
バージル「・・・・そんなことより、話はなんだ?」
マコト「待て待て! まずはお互い、少し話でもして仲を深めようじゃないか!」
バージル「・・・・」
マコト「それでだ、シャーレの先生よ」
マコト「情報部から聞いた話では、未知の力を使うそうじゃないか」
マコト「どうだ? このマコト様の前で、一度披露してくれないか?」
バージル「・・・・俺の力は、見世物ではない」
マコト「・・・・キキッ、なるほど。そういうことか」
バージル「?」
マコト「いや、いい。仕方ないことだな」
マコト「このマコト様を前にして、気圧されているのだろう?」
マコト「力を見せる余裕もない、というわけだ」
バージル「・・・・は?」
マコト「キキッ、すまないな、シャーレの先生」
マコト「少し気を遣わせてしまったようだ」
マコトの挑発に、バージルの胸に僅かな苛立ちが芽生えた
だが当のマコトはそれに気づくこともなく、なおも無自覚に言葉を重ねていた
さすがにまずいと思ったのか、イロハが止めに入ろうとする
しかし――意外にも、バージルは冷静だった
バージル「・・・・分かった。一部だけなら見せてやる」
マコト「おぉ、本当か!?」
マコト「キキッ! このマコト様が、先生の力を直に見てやろう!」
バージルの横に、幻影剣が現れる
マコト「・・・・」
先ほどまでとは打って変わって、マコトはその幻影剣をじっと観察し始めた
マコト「これに触れてみてもいいか?」
バージル「好きにしろ」
マコトは何度か幻影剣に触れ、その感触を確かめるように指先でなぞる。
やがて、隣にいるイロハへ視線を向けた。
マコト「これを見てどう思う? イロハ」
イロハ「えぇぇ? なんで私に聞くんですか?」
マコト「・・・・なるほどな。キキッ」
マコト「もういいぞ、先生」
マコトの言葉と共に、バージルは幻影剣を消した。
イロハ「それで、何か分かったんですか?」
マコト「あぁ、分かったことはあるぞ」
その言葉に、バージルはわずかに反応を示した。
イロハ「えっ、本当ですか?」
マコト「それは――」
マコト「“分からない”ということだ!」
イロハ「・・・・なんですか、それ・・・・分かってないじゃないですか」
マコト「あぁ」
マコト「先生という存在自体が不明なんだ。その素性も、力も、我々にはまったく明かされていない」
マコト「だから分からない」
マコト「キキッ。そして今のところ、自分のことを話すつもりはないのだろう? 先生よ」
バージル「そのつもりだ」
マコト「まぁいいさ。良い余興になった」
マコト「――では、ここからが本題だ」
バージル「なんだ?」
マコト「『先生』と『万魔殿』」
マコト「この二つの力が合わされば、ゲヘナ風紀委員ごとき、簡単に壊せる」
マコト「いや、それどころか――このキヴォトスすら手中に収めることができる」
マコト「どうだ? 先生よ。協力する気は――」
バージル「くだらん」
マコト「な、なんだと!? このマコト様の提案を拒むというのか!」
イロハ「そりゃそうですよ。そもそも、来てくれただけありがたいと思ってください」
マコト「? なぜ私が感謝しなければならないのだ?」
イロハ「そもそも先生は、形式的な理由で万魔殿に来ただけなんです」
イロハ「それに・・・・先生とは、今日初めて会ったばかりですよ?」
マコト「・・・・そうか」
マコト「まぁいい。この話はまだ先送りだ」
マコト「帰るぞ、イロハ」
イロハ「はい? もういいんですか?」
そう言うと、万魔殿の二人は部屋を出ていった
バージル「・・・・何だったんだ」
バージルは今日の出来事を振り払うように、そのまま部屋を後にした。
??「・・・・見送るわ、先生」
声のした方へ視線を向けると、そこには空崎ヒナが立っていた。
バージル「空崎か。別に必要ない」
ヒナ「そう。だったら、少し話さない?」
バージル「まぁ、暇つぶしにはなるな。聞いてやる」
ヒナ「・・・・」
バージル「・・・・」
ヒナ「・・・・先生は、“恩義”を無事に返せたの?」
バージル「返せはした」
バージル「だが、そのせいで別の問題に関わることになったがな」
ヒナ「・・・・そう」
ヒナ「先生に、聞きたいことがある」
ヒナ「少しだけ、いい?」
バージル「なんだ?」
ヒナ「少しは、生徒を信用してもいいと思う」
バージル「十分しているが──」
ヒナ「ううん、してない」
ヒナ「推測だけど・・・・先生はこれまで、自分の素性や、自分の周囲で起きていることを滅多に話そうとしない」
ヒナ「そうよね?」
バージル「そうだな」
ヒナ「そういうところよ」
ヒナ「自分のことを打ち明けていない」
ヒナ「それは、生徒を信用していないと言えないかしら?」
バージル「・・・・ここキヴォトスで起きたことについては、相談を受けることもある」
バージル「だが、俺の素性をお前たち生徒に話したところで、戯言か冗談だと思われて終わりだろう」
ヒナ「・・・・そんなことはないんじゃないかしら」
ヒナ「仮に、先生に助けられた生徒たちなら・・・・きっと信じると思う」
ヒナ「・・・・まあ、その内容がどんなものかは、私には分からないけど」
ヒナ「最後に、先生に言いたいことがあるの」
バージル「なんだ?」
ヒナ「まだこれは誰にも打ち明けていないけど、私、風紀委員長を引退しようと考えてる」
バージル「・・・・そうか」
ヒナ「・・・・それだけ?」
ヒナ「まあ、先生ならそう言うと思った」
バージル「・・・・あぁ、空崎が決めたことだ」
ヒナ「・・・・そんな大げさなことじゃないけど、ただ少し疲れたから、休みたいってだけ」
バージル「・・・・だろうな。少し顔色が悪い」
ヒナ「それは、先生もでしょう?」
バージル「・・・・」
バージル「・・・・ここまででいい」
ヒナ「わかった。それじゃあ、また調印式で」
──エデン条約調印式、当日
~古聖堂内部~
調印式が始まるまで、まだ時間がある。
バージルは聖堂内を、当てもなく歩いていた。
ヒナタ「あ、こ、こんにちは、先生」
バージル「・・・・? たしかシスターフッドの・・・・若葉ヒナタだったか」
ヒナタ「は、はい、覚えていただきありがとうございます」
ヒナタ「えっと、勝手な想像ですみませんが・・・・先生は聖堂内を、特に目的もなく歩いていらっしゃるようでしたので」
バージル「・・・・まぁな」
ヒナタ「で、でしたら、嫌でなければここの古聖堂をご案内いたしましょうか?」
バージル「・・・・暇つぶし程度にはよさそうだな」
ヒナタ「はい。それでは、こちらへ」
~古聖堂内部・回廊~
バージル「・・・・割と入り組んでいるな」
ヒナタ「はい。この『通行の古聖堂』は長い間、廃墟として放置されていましたが・・・・今回ここで調印式が行われることになり、大々的な修理が行われたそうです」
ヒナタ「それでも全体が修理されたわけではなく、調印が行われる場所だけのようです。下の方は廃墟のままで・・・・」
ヒナタ「噂ですが、この古聖堂の地下には大規模なカタコンベが存在するそうです」
ヒナタ「数十キロにも及ぶ地下空間・・・・『第一回公会議』の記述でも、終わりが見えないほどだったと言われていて・・・・あ、こちらは塞がれていますね。まだ修理中で危ないからでしょうか?」
バージル「随分と歴史がある場所だな」
ヒナタ「はい。何せ、第一回公会議が開かれた場所ですから」
ヒナタ「公会議で締結される戒律というのは、とても神聖なものです・・・・その神聖さといいますか、戒律の守護者たちの名残のような『何か』が、今もここに残っているような気がするんです」
バージル「守護者?」
ヒナタ「はい。それについては、どう説明すればいいのか・・・・」
ヒナタ「『約束』というのは、同時に破った場合の取り決めも設けられることが多いですよね? そうでなければ、誰も守らなくなってしまいますし・・・・」
ヒナタ「その『制約』の役割を担う人々のことを、戒律の守護者と呼んだんです。約束を破る者に対処する、トリニティの武力組織です」
ヒナタ「それが、『ユスティナ聖徒会』です」
バージル「トリニティの武力組織・・・・正義実現委員会のようなものか」
ヒナタ「大まかに言えばそんな感じです。歴史的には、私たち『シスターフッド』の前身でして――」
そのとき、ヒナタに着信が入る。
ヒナタ「あ、サクラコ様が到着されたみたいです。ナギサさんの到着も、そろそろだそうです」
ヒナタ「中途半端ですみませんが、この話はまた後ほどにしましょう。ここで失礼します」
バージル「あぁ」
バージル「さて、俺も行くとし――」
その時、轟音と共に、バージルの視界が白く弾けた。
・・・・・・
バージル「・・・・は?」
その出来事は一瞬のことで、理解が追いつかないまま──
気付けば、周囲一帯は炎に包まれ、建物は瓦礫と化していた
そして、おかしなことに。これだけの被害だというのに、自分は無傷だ。何も変化が起きていない。
バージル「どういうことだ」
アロナ「先生!」
バージル「アロナ?」
シッテムの箱から、アロナの声が響く。
アロナ「無事でよかったです」
バージル「・・・・俺が無傷なのは、アロナが――?」
バージル「いや、それより、今はどういう状況だ?」
アロナ「古聖堂が爆破されて、私は何とか先生を守ろうと……」
バージル「いらん心配だ」
アロナ「そうですね・・・・ですが、少し、力を使いすぎて」
バージル「アロナ・・・・?」
シッテムの箱の電源が切れる。
バージル「・・・・力を使い切ったか」
自分の上に積もった瓦礫を押しのけ、身を起こし、
肩や衣服についた塵を払った、その時――
不意に、別方向から足音が近づき、即座に視線を向けた
そこに、いつの間にか立っていた――修道女のような姿をした“何か”だった。
だが、その姿は明らかにまともではない
バージル(・・・・いつからいた? それ以前に、気配を一切感じられなかった)
その異形は、バージルに向けて銃を発砲した。
しかし、弾丸は通用しない。躱し、懐へ潜り込むと、拳を突き出す。
放たれたジャブが腹部に叩き込まれ、異形は吹き飛んだ。
直撃を受け、地面に倒れたそれは、身体を散り散りにし、粒子となって消滅した。
バージル「なんだったんだ・・・・いや、それより」
放った拳に、焼けるような感覚が走る。
だが、外傷は――ない。
バージル「っち、わけがわからん」
手のひらを開け閉めし、異常がないか確かめた
その時、意識の外から発砲音が響いた。
バージルは反射的に回避しようとする。だが――判断がわずかに遅れた。
銃弾が、頬を掠める。
バージル「くそっ」
掠めた頬から、血がにじみ出た。
発砲のあった方向へ視線を向ける。
そこには、先ほどの存在と同一と思われる個体が、二体、三体――それ以上、立っていた。
バージル「・・・・こいつら、何かが違うな」
先ほどの銃弾を受けた瞬間から、バージルは違和感を覚えていた。
・・・・僅かに、身体のキレが落ちている。
そして今、確信する。
――こいつらの攻撃は、受けるべきではない。
存在たちはバージルに向け、一斉に銃を向けて発砲を開始する。
放たれた銃弾を躱し、一定の距離を保つ。
先ほど、一瞬だが触れたことで生じた異常
それを危険視し、近づくべきではないと判断した
バージルは幻影剣を展開し、迎撃に移った
どうやら、バージルの魔力で生み出された刃は、あの存在たちにも通用するらしく、幻影剣を受けた者たちは散り散りに消滅した
だが――
バージル「・・・・次から次へと」
倒しても、倒しても。
尽きることなく、現れ続ける。
バージル「キリがないな」
そのときだった。
奇声を上げながら、銃火器と格闘術で存在たちを蹴散らす生徒が現れる。
バージル「・・・・あいつは、剣先ツルギ」
ヒナタ「先生! お怪我は・・・・無さそうですね。よかったです」
ハスミ「ご無事で何よりです、先生」
ツルギ「・・・・」
バージル「・・・・お前たちは、だいぶ怪我を負っているな」
ハスミ「これくらい大したことはありません。ですが、先ほどの爆発で正義実現委員会のほとんどは戦闘不能になってしまいました」
ハスミ「それと先生、気をつけてください」
バージル「?」
ハスミの言葉とともに、奥からアリウス分校の生徒たちが列を成して歩いてくる。
その先頭には、その部隊を率いていると思われる生徒がいた。
バージル「なるほど、アリウス分校が引き起こしたことか」
ハスミ「はい。そして今、先生を『アリウス分校』と『ユスティナ聖徒会』から守り、脱出させます」
バージル「ユスティナ聖徒会?」
ヒナタ「『ユスティナ聖徒会』・・・・数百年前に消えたはずの、『戒律の守護者たち』です」
バージル(・・・・なるほど、あの存在たちか)
バージル「・・・・他に何か分かるか?」
ヒナタ「わ、分かりません。お役に立てず、すみません」
ハスミ「倒しても倒しても現れて、キリがありません」
バージル「俺も相手を――」
ツルギ「いや、ダメだ先生」
バージル「?」
ツルギ「ここは、私たちがどうにかする。だから先生は、ここから離脱してくれ」
バージル「・・・・その傷で、まだ戦うつもりか」
ハスミ「先生、今トリニティの首脳陣はほぼ壊滅状態です。シスターフッドもティーパーティーもいない今・・・・先生にまで何かあっては、収拾がつかなくなってしまいます!」
バージル「・・・・分かった。だが、気は抜くな」
バージルは、その戦場から離れた。
――視点は、アリウス分校の部隊へと移る。
ミサキ「・・・・あれが、シャーレの・・・・」
ミサキ『こちらチームⅡ、シャーレの先生らしき人物を補足』
サオリ『了解。チームⅢと合流後、そちらへ向かう』
ミサキ『正義実現委員会はどうする?』
サオリ『無視して構わない。シャーレの先生を優先しろ』
ミサキ『分かった』
・・・・・
・・・
・
バージルは、この戦場と化した地帯を突破していた。
道中、ユスティナ聖徒会から放たれた銃弾を幾度か掠めている。
そして――
その銃弾に触れるたび、身体能力が僅かに鈍るような感覚に陥っていた。
バージル(・・・・ただの銃弾ではないな)
倒しても、倒しても現れるユスティナ聖徒会。
その数と猛攻により、バージルでさえ突破に手間取っていた。
――その時。
バージルの視界外から、ユスティナ聖徒会に向けて銃弾の嵐が降り注ぐ。
??「先生! こっち!」
バージル「!? ・・・・空崎か」
ヒナ「先生、怪我は?」
バージル「問題ない」
バージル「・・・・それより、お前の方が重傷に見えるが」
ヒナ「私は平気。それより、先生があの怪物に苦戦してたけど・・・・無事でよかった」
ヒナ「先生、あれとまともに戦うべきじゃない。今は包囲網を抜けて、脱出しましょう」
バージル「あぁ・・・・今はな」
・・・・・・
ヒナ「先生? 大丈夫? なんだか、ずっと気を張っているみたいだけど・・・・」
バージル「・・・・気にするな。目の前に集中しろ」
ヒナ「・・・・分かったわ」
・・・・・
ヒナ「はぁっ、はぁっ……」
肩で息をするヒナ。その足取りは、誰の目にも明らかに重かった。
バージル「空崎、下がれ。限界だ」
ヒナ「平気・・・・今の私の目的は、先生を安全な場所まで――」
――その時。
進行方向。ユスティナ聖徒会の群れの中から、数名の生徒が前に出た。
ヒナ「・・・・あの服装」
バージル「アリウス分校か」
ミサキ「ゲヘナの風紀委員長・・・・よくあんな状態で動けるね」
ヒヨリ「すごいですねぇ・・・・強いですねぇ」
アツコ「・・・・」
サオリ「気にするな。あれも、もう限界だ」
サオリ「そうなれば、残るのはシャーレの先生だけだ」
ユスティナ聖徒会の猛攻により、バージルは本来の動きを封じられていた。
ヒナもまた、血を流しながら戦い続け、疲労は限界に近づいていた。
その最中――ヒナが口を開いた。
ヒナ「先生、ここは私が引き付ける。先生なら逃げ切れる」
バージル「・・・・あの妙な存在から銃弾を受けてから、調子が狂っている」
ヒナ「え・・・・!? それって、大丈夫なの?」
バージル「・・・・今は問題ない」
サオリ「こんなところで話し合いか?」
サオリ「それより――シャーレの先生。アズサが世話になったと聞いている」
バージル「・・・・なるほど。お前たちがアリウススクワッドか」
サオリ「・・・・あぁ」
サオリ「私たちが、“アリウススクワッド”だ」
サオリ「そして――さようなら」
乾いた銃声が響く。
放たれた弾丸に対し、バージルはほぼ同時に幻影剣を射出する。
――衝突。
弾丸と刃は、空中で相殺された。
サオリ「・・・・それが例の力か。なるほど」
サオリ「だが先生よ、随分と疲弊しているようだな」
サオリ「覇気が薄い」
バージル「手荒だが、力づくで――」
ドサッ――
不意に響いた鈍い音に、バージルの言葉が途切れる。
横目で振り向くと、ヒナの身体が静かに崩れ落ちていた。
バージルは、無意識にヒナの方へ顔を向けていた。
――次の瞬間。
その身体は、考えるよりも先に動いていた。
ヒナへと駆け出した。
――隙が、生まれる。
サオリは、その隙を見逃さなかった。
懐から拳銃を抜き放ち、迷いなく引き金を引く。
発砲音。
それを聞き取ってなお、バージルは止まらない。
ただの弾丸ごときが、この身を貫くはずがない――
そう判断していた。
――だが。
銃弾は、バージルの腹部に命中した。
次の瞬間。
その強固な肉体を――あまりにも容易く、貫通した。
腹部に、風穴が穿たれる。
さすがに、銃弾が貫くのは予想外だ。
だが、穴の一つや二つ――大したことはない。
普通であれば──
肉体は再生しなかった
本来なら瞬時に塞がるはずの傷が――塞がらない。
風穴から血が止まらず流れ出す。
だが、バージルにとって致命ではない。
再生が追いつかない戦いなど、これまで幾度も経験している。
それだけなら良かったが──
後から急激に焼け付くような激痛が、全身を駆け巡った。
バージル「・・・・っ」
今まで感じたことのない痛みに襲われ、地面に片膝をつく
ヒナ「せ、先生……?」
頭が割れるように痛み。
身体が重く。
視界が揺れ。
耳鳴りが止まず。
吐き気が込み上げる。
バージル「・・・・何だ、この感覚は」
ミサキ「・・・・リーダーの拳銃で、倒れた」
ヒヨリ「す、すごく・・・・痛そうですね・・・・」
サオリ「マダムが、“対先生用に使え”と渡してきたものだが・・・・私の銃と何が違う?」
サオリ「・・・・いや、どうでもいいな」
サオリ「次は――頭だ」
サオリは距離を詰めない。
一定の間合いを保ったまま、銃口をゆっくりとバージルの頭部へ向けられる
――その時。
後方から、車両のエンジン音が響く。
セナ「先生!こっちです!」
呼びかけと同時に、車両が滑り込んできた。
バージルは即座に動いた。
ヒナを抱え上げる。
そのまま車両へと飛び込んだ。
バージル「・・・・すまん、助かった」
セナ「いえ、それより先生。傷口を見せてください。すぐに応急処置を行います」
バージル「いらん。俺より空崎を優先しろ」
セナ「ですが、このまま放っておいたら、出血で――」
バージル「・・・・自力で処置は済ませた。出血は抑えている」
セナ「・・・・わかりました」
セナはヒナの容態確認と処置を始める。
――その様子を横目に見た瞬間。
ふっと、意識が揺らぐ。
バージル(・・・・)
不意に、強い眠気が押し寄せる。
バージル(・・・・そういえば、ここ最近まともに眠っていなかったな)