悪魔と青春の記録   作:黒凪カズキ

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書きたかった展開です


mission26 ~閻魔刀~★

バージル「俺を根絶やす……貴様がか?」

 

バージル「くだらん妄言だ。キヴォトス外などという得体の知れん力と、閻魔刀の魔力……

それで俺に届くと思っているのか」

 

ベアトリーチェ「ふふ……それだけではありませんよ」

 

ベアトリーチェ「ゲマトリアは“悪魔への対抗手段”も備えています。

でなければ――わざわざ貴方に挑もうなどとは、思いません」

 

バージル「……対抗手段だと?」

 

ベアトリーチェ「ええ。()()ですよ」

 

バージル「……神秘?」

 

ベアトリーチェ「主に生徒が有する力……

前に一度は受けているはずです。ユスティナ聖徒会や、錠前サオリから」

 

バージル「……あの時か。で、それがなんだ?」

 

ベアトリーチェ「ふふ、ご存知なかったのですね」

 

ベアトリーチェ「魔──いえ、()()()()を浄化する力。理屈の上では、どれほど強大な悪魔であろうと……例外ではありません」

 

ベアトリーチェ「本来であれば、錠前サオリに持たせた銃で貴方は死んでいた筋書きでしたが──」

 

ベアトリーチェ「……もっとも──半人半魔であるが故に耐えられたのでしょう」

 

バージル「……よくもまあ、そこまで饒舌に語るものだ」

 

ベアトリーチェ「えぇ、貴方を討つ手は、すでに揃っていますので」

 

バージル「……黒服の事といい、随分と俺を知っているようだな」

 

ベアトリーチェ「……ええ。ですが、テメンニグルに入って以降は追跡を断念しましたが──まさか、こうして直接お会いすることになるとは……思いませんでしたよ」

 

バージル「……ならば一つ、聞くが」

 

バージル「俺が()()()()()と同じだと、本気で思っているのか?」

 

ベアトリーチェ「……違うのですか?」

 

バージル「──自分の目で確かめろ」

 

バージルはミラージュエッジを顕現させ、その切っ先をベアトリーチェへと向けた。

 

ベアトリーチェ「……良いでしょう、私の敵対者よ。貴方を倒すために、どれほどの時間と準備を費やしてきたか――その身で味わいなさい」

 

ベアトリーチェ「いかなる手段を用いようとも……貴方を膝つかせてみせます」

 

その宣言と共に、ベアトリーチェの肉体が膨れ上がる。

骨格は軋み、僅かに残っていた人の面影すら失われ、やがて異形の怪物へと変貌した。

 

バージル「……」

 

ベアトリーチェ「これが私……高位の存在へと至った姿です!」

 

ベアトリーチェ「――さあ、集いなさい。バシリカの兵達よ」

 

バージル「……こいつらは」

 

重い足音と共に、無数のバシリカ兵が周囲を取り囲む。

だが彼らは一切動かず、武器を構えたまま、命令を待つように静止していた。

 

ベアトリーチェ「くくく……元はマエストロの作品ですがパスは一度接続さえすれば、次からは私が統制できるので」

 

バージル「……どうでもいい話だ」

 

言い終えた刹那、バージルの姿が消える。

次にその姿を捉えた時には、すでにベアトリーチェの眼前。

 

迷いなく振り下ろされたミラージュエッジ――。

しかし、その刃は突如として展開された障壁に受け止められた。

 

バージル「……これは?」

 

空中で体勢を崩したバージルへ、ベアトリーチェは静かに手をかざす。

瞬時に魔法陣が展開され、白い光線が放たれた。

 

被弾する、その直前――。

 

バージルの姿が掻き消える。

次の瞬間には、すでに地上へ降り立ち、ベアトリーチェとの距離を取っていた。

 

ベアトリーチェ「……どうでしょう、魔剣の魔力を基点とした結界……そして魔術」

 

ベアトリーチェ「貴方がどう足掻こうと、突破は叶わないですよ」

 

バージル「……どうだかな」

 

だが、バージルは返事すらしない。

感情の一切を捨てたような表情のまま、ただ同じ一点へ剣を振るい続ける。

 

一撃。

二撃。

三撃。

その剣筋に、一切の狂いはなかった。

 

ベアトリーチェ「ふふ……無駄ですよ、いかに斬りつけようと、この結界は揺らぎすらしません」

 

ベアトリーチェが手をかざし、魔法陣が展開される。

それを視認すると同時に、バージルは一歩、後方へと滑るように距離を取っていた。

 

次いで、火球が顕現し――放たれる。

バージルはミラージュエッジを深く構え――迫る火球を、正面から弾き返す。

 

火球は軌道を反転させ、そのままベアトリーチェへと逆流する。

だが、それは結界に阻まれた。

 

ベアトリーチェは、不敵に笑う。

――その防壁の硬さを突破する存在はいないと確信しているかのように。

 

だが。

その笑みが、不意に止まった。

 

ベアトリーチェ「……っ」

ベアトリーチェ「な……」

ベアトリーチェ「結界に……傷が……?」

 

先ほどまでバージルの斬撃を受け続け、追い打ちとなった火球によって、結界には目に見える亀裂が走り始めていた。

バージルは「やっと気づいたか」とでも言いたげに、冷ややかな視線を向ける。

 

バージル「ここまで俺を打破するために試行錯誤してきたことは認めよう。」

バージル「だが──」

 

バージル「今の俺を、あの時の俺と同じにするな。」

 

その言葉と同時に、バージルは亀裂へとミラージュエッジを突き立てた。

 

ミシッ――。

結界全体に、軋むような音が走る。

亀裂は瞬く間に広がり、防壁全体へと伝播していく。

 

そして――

ベアトリーチェを包んでいた結界は、耐えきれず砕け散った。

 

ベアトリーチェ「っ!?」

 

崩れた結界を突き抜けるように、バージルは跳躍した。

 

一撃を振り下ろされる――誰もがそう思った。

 

だが。

 

バージルはミラージュエッジを背へ納めると、

ベアトリーチェの頭部を踏み台に、その奥へと跳び抜けた。

 

空中のまま祭壇へと到達すると同時に、幾重もの斬撃が奔る。

祭壇は一瞬で切り刻まれ、崩壊した。

 

崩れ落ちるアツコを片腕で抱き留め、その拘束を断ち切る。

 

一度地へと足をつけるが、まだ止まらない。

勢いを止めず、バージルは閻魔刀の回収へと向かった。

だが、ベアトリーチェは黙っておらず、バージルへ向けて無数の魔法陣を展開する。

 

次の瞬間――白い閃光が弾幕のように降り注いだ。

アツコを抱えたままでは踏み込めず、バージルは一度後退し、距離を取ることを余儀なくされる。

 

ベアトリーチェ「まさか……結界を破られるだなんて」

 

ベアトリーチェ「もう一度――再展開を……」

 

バージルは何も答えない。

ただ、冷ややかな視線をベアトリーチェへ向け続けていた。

 

ベアトリーチェ「何を黙っているのです?」

 

バージル「――後ろを見れば分かる」

 

ベアトリーチェ「……?」

 

振り返った、その先には――

閻魔刀の魔力を収集する装置を包囲するように、十本の幻影剣が静止していた。

 

バージル「気づくのが、遅かったな」

 

円を描くように展開された十本の幻影剣が、一斉に装置へと突き刺さる。

装置から激しい電撃が迸り、制御を失ったように暴走を始める。

黒煙を噴き上げながら暴走し――

 

次の瞬間。

轟音と共に、装置は爆散した。

 

爆風に弾かれ、閻魔刀が宙へと放り出される。

 

だが――バージルは追わない。

 

その場から一歩も動かず、宙を舞う閻魔刀を見据えていた。

 

宙を舞う閻魔刀は、やがて軌道を変えた。

まるで主の呼び声に応えるように、その切っ先をバージルへ向ける。

 

ベアトリーチェ「させるものですか……!」

 

咄嗟に手をかざし、魔法陣を展開しようとする。

――だが。

 

その腕に、幻影剣が突き刺さる。

数本。正確に。強制的に術式は中断された。

 

閻魔刀が一定の距離に入ると、バージルは片腕を上げた。

閻魔刀は、それに応えるようにその手元へと帰還した。

 

ベアトリーチェ「っち……まぁ、いいでしょう、色彩。そして魔力の一部は私の糧になりました」

 

ベアトリーチェ「そして、あなたはどうでしょう、秤アツコ。足手まといが一人いる状態で――どうやって守り切りますか?」

 

すると、待機命令を出していたバシリカ兵が一斉に動き出す。

 

バージルは答えない。

ただ静かに閻魔刀を納め、その場に立ち続けていた。

 

バシリカ兵がバージルに向けて多くの弾幕を放つが、バージルは動かず、

納刀した閻魔刀を手にしたまま、冷静に飛んでくる弾を捌き、一発たりとも自らにも、アツコにも掠めさせなかった。

 

それどころか、弾幕の合間を縫うように放たれた数多の幻影剣がバシリカ兵を次々と貫き、反撃する間もなく散っていった。

 

兵たちが何一つ成果を挙げられぬまま散っていく光景に、ベアトリーチェは思わず表情を歪めた。

 

一方のバージルは、秤アツコを抱えたまま壁際まで移動すると、そっと彼女を降ろし、戦闘の余波が届かない場所へと退避させた。

 

それだけでは、この戦いそのものの余波から完全に守り切れるとは限らない。

バージルは一瞬だけアツコへ視線を落とすと、閻魔刀を握る力が強くなる。

 

すると閻魔刀は応えるようにその形状を変えていく。刃は崩れ、赤い結晶のような構造体へと変質する。その結晶を中心に魔力が放射され、半透明の結界が自律的に展開されていく。

それはかつて人間性と悪魔としての本質が分離した際、ユリゼンが使用していた防壁核と酷似した性質を持つ。

 

そしてその結界は、秤アツコの周囲へと静かに収束し、彼女を包み込むように固定された。

外界からの干渉を遮断する、即席の絶対防護領域である。

 

バージル「さて、終わらせようか、ベアトリーチェ。貴様からも、色々聞きたいことがあるからな」

 

ベアトリーチェ「……切り札を出すしかないですね」

 

バージル「ん?」

 

ベアトリーチェ「来なさい、ユスティナの聖女バルバラ!!今すぐあの悪魔の根を止めなさい」

 

ベアトリーチェに呼び出され、バルバラと呼ばれた存在が現れる。

両手にガトリングを携え、その姿は今までのユスティナ聖徒会とは大きく異なっていた。

 

ベアトリーチェ「これを、今までのミメシスと同じだとは思わないことですよ、バージルよ」

 

バージル「……どう違うんだか」

 

その声には、もはや興味すら薄れていた。

バルバラは即座に反応し、膨大な弾幕を解き放つ。空間を埋め尽くす弾雨。

だが次の瞬間、バージルの姿は消えていた。

 

そして次に現れたときには、すでにバルバラの背後に立っていた。

振り抜かれるミラージュエッジ――その一閃により、バルバラの上半身と下半身は分断される。

 

ベアトリーチェ「は?……」

 

ベアトリーチェの目の前で、切り札であったバルバラは散り散りに消えていく。

バージルは、その消えゆく残滓を最後まで見届けるように、冷ややかな視線を外さなかった。

 

確実に“完全に機能停止したか”を確認するように。

一切の油断もなく、ただ静かにその崩壊の終わりを観察している。

 

ベアトリーチェ「……錠前サオリに持たせた銃弾と同等の神秘量が含まれているはずなのに──」

 

バージル「……なるほどな。神秘は悪魔に有効打を与えるだけで、特段、耐久性や軽減を誇るわけではないと」

 

バージル「だがな──易々と俺が当たると思っていたのか?手の内を明かしすぎたな、ベアトリーチェ」

 

ベアトリーチェ「……ありえない……」

 

その場に崩れ落ち、現実そのものを拒絶するように視線を揺らす。

それでもなお、完全な敗北という事実だけは、逃れようもなく突きつけられていた。

 

バージル「では、閻魔刀をどういった経緯で手に入れたか聞かせてもらおうか」

 

ベアトリーチェ「(ボソッ)」

 

バージル「は?」

 

ベアトリーチェ「攻撃が当たりさえ……当たりさえすれば、貴様のような悪魔ごときに負けるはずが──」

 

???「いいえ、マダム、貴方の負けです」

 

ベアトリーチェ「ゴルコンダ……!!」

 

目の前には、コートを纏い杖を持った、首から上が存在しない異形の存在が立っていた。

そして、その“頭部の代わり”のように――男が手にしている、後ろ姿の人物の顔が削り取られた写真。

 

声は、そこから発せられていた。

 

バージル「……誰だ?」

 

ゴルコンダ「ああ、落ち着いてください。私は『ゲマトリア』のゴルコンダ」

 

ゴルコンダ「私はあなたと戦いに来たわけではありません。マダムを連れ戻しに来たのです」

 

ゴルコンダ「それに、戦ったところで勝てるわけがありません。『ゲマトリア』が皆、マダムのように怪物になれるわけではありませんからね」

 

ゴルコンダ「マダム。これで明らかになりました。──バージル先生はあなたの敵対者ではありません。これはあなたの物語ではないのですから」

 

ベアトリーチェ「……!」

 

ゴルコンダ「あなたは主人公どころか……先生の敵対者ですらなく、ただの『舞台装置』なのですから」

 

ベアトリーチェ「……く……ぐぅっ!!」

 

ゴルコンダ「先生、いえバージルさん……あなたがこの物語に介入してしまうと、すべての概念や結果、本来あるべきだった世界が変わってしまいます。」

 

バージル「……何が言いたい?」

 

ゴルコンダ「ふむ……申し訳ありません。ご気分を害してしまったようですね」

 

ゴルコンダ「それでは、私はマダムを連れて帰ります」

 

バージル「待て、まだそいつから情報を聞いていない」

 

ゴルコンダ「……黒服やマエストロは、あなたを高く買っていました。悪魔の力も、まだ未知数なところが多くありますからね」

 

ゴルコンダ「神秘、色彩、魔――これらを、もっと深く把握しなければなりませんね」

 

ゴルコンダと謎の男がベアトリーチェに近づく

 

ゴルコンダ「それとマダム、これ以上好き勝手はされないように、こちらは回収させてもらいます」

 

すると頭部のない男が、ベアトリーチェの懐から何かの折れた刃を取り出し、回収した。

その刃が視界に入った瞬間、閻魔刀が“呼応”するように微かに震えた。

まるで同じ起源を持つ存在同士が、互いの距離を測るかのように。

 

ゴルコンダ「それでは、バージルさん。これにて失礼します。では、また」

 

バージル「……っ」

 

ゴルコンダとベアトリーチェは黒い霧を纏い始める。

逃げられる前にその霧へと手を伸ばすが、空を切る。どうやったのか、すでにその姿は消えていた。

 

バージル「……逃したか」

 

ひとまずバージルは、秤アツコをお姫様抱っこすると、アリウススクワッドのもとへ向かうのだった。

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