バージルは秤アツコを背負い、スクワッドの待つ場所へと帰路を辿っていた
アツコ「・・・・あれ?シャーレの先生?」
バージル「・・・・起きたか?」
アツコ「どうして?」
バージル「・・・・とりあえず降ろすぞ」
アツコ「・・・・うん」
アツコ「それで、質問の続きなんだけど、なんで先生が私を?」
バージル「スクワッドのあいつらと共に来た」
アツコ「助けに来てくれたの?」
バージル「勘違いするな、あくまでも利害が一致しただけだ」
バージルは答えながら、わずかに閻魔刀へ視線を落とし、その柄を握る手に力を込めた
アツコ「・・・・その刀?先生の物だったんだ?」
バージル「知っているのか?」
アツコ「マダムが持っていたところを見てたの・・・・でも刀身が抜けないとかで少し苛立ってた」
バージル(だろうな)
バージル「他に何か言ってたか?」
アツコ「いや・・・・特には」
バージル「・・・・そうか」
・・・・・
・・・
・
スクワッド・ミカ「・・・・」
スクワッド達は地面に座り黙って暗い表情で待っており、ミカがその重苦しい空気に気まずそうにしている中、最初にこちらへ気づいたのは分身のバージルだった。
だが、バージルがさっさと力を解き、分身はすぐに霧散する
アツコ「みんな・・・・」
サオリ「!・・・・アツコ!」
ミサキ「姫・・・・」
ヒヨリ「ひ、姫ちゃん!!大丈夫でしたか」
アツコ「うん・・・・ただいま」
するとサオリは真っ先にアツコに抱きついた
サオリ「良かった・・・・本当に、よかった・・・・」
アツコ「う、うん・・・・?」
サオリ「アツコ・・・・生きていてくれて、ありがとう・・・・本当に、ありがとう」
ヒヨリ「それで、もう本当に終わりなんですよね・・・・?」
サオリ「先生──ベアトリーチェは・・・・」
バージル「・・・・逃げられた」
サオリ「逃げられた・・・・?」
ヒヨリ「・・・・」
ミサキ「・・・・」
ミカ「・・・・で、でもさ。そのベアトリーチェって奴、先生がやっつけたんでしょ?なら、もう悪さしに来ないでしょ 」
バージル「・・・・さぁな、仮に何かをしてくるようなら今度こそ・・・・」
バージル「・・・・まぁ、今はどうでもいい 」
ミカ「あれ先生何処に行くの?」
バージル「・・・・帰る」
サオリ「ま、待ってくれ!」
バージル「・・・・なんだ?」
サオリ「これで、このまま何もなしというのは・・・・あまりに都合が良すぎるというか」
サオリ「だから、連邦生徒会でも、トリニティでも・・・・矯正局でも何でも構わない」
ミサキ「一体何を・・・・?」
ヒヨリ「り、リーダー・・・・?」
サオリ「・・・・私は、長い間負うべき責任を放棄して生きてきた・・・・」
サオリ「これでいい・・・・今がその時なんだ、だから・・・・」
バージル「・・・・別にベアトリーチェの招いた事全てをお前が背負う必要はないと思うがな」
サオリ「え?」
バージル「過去に縛られず自由に生きてみればどうだ」
サオリ「自由?いきなり自由に生きると言われても」
アツコ「・・・・なら、サオリ、やりたいことはある?」
サオリ「やりたいこと・・・・」
アツコ「アズサは学ぶのが楽しいって言ってた。友達と一緒にいることが幸せだって」
アツコ「サオリの好きなものは何?やりたいことは?趣味は?」
サオリ「・・・・そんな、そんなものは・・・・」
サオリ「わからない・・・・一度も、そんなもの考えた事がなかった」
サオリ「私が何が好きなのか、何がしたいのか・・・・私は、一つも分からない・・・・」
ヒヨリ「リ、リーダーは教えるのが上手です・・・・いろいろ・・・・教えてくれるときは、怖いですけど・・・・」
ミサキ「真面目ではあるよね。計画を立てるのも上手いし、指揮をするのも上手だし」
サオリ「・・・・」
ミカ「それなら、先生になるとか良いんじゃない?」
ヒヨリ「リーダーが先生に・・・・?」
ミサキ「まあ、あんまり想像はつかないけど」
アツコ「ううん、そんなことないよ。案外、似合うと思う・・・・バージル先生よりも 」
バージル「は?」
サオリ「・・・・先生か」
アツコ「すぐに答えなんて出なくていいと思う」
アツコ「これから探せばいいんだよ」
サオリ「・・・・そう、かもしれないな 」
バージル「・・・・あとは自分で見つけろ」
バージル「・・・・行くぞ、御園」
ミカ「え、あ・・・・うん」
サオリ「・・・・最後に、一つだけいいか先生」
バージル「・・・・まだ何かあるのか」
サオリ「これを・・・・」
サオリは一挺の拳銃を差し出し、バージルはそれに視線を落とした
それは、かつて自身の腹部を貫いた神秘の銃弾を放つ拳銃だった
バージル「・・・・?」
サオリ「私に、この拳銃を持つ理由はない」
サオリ「・・・・恩人を傷つけたものを、持ち続ける気にはなれなくて」
バージル「・・・・受け取っておこう」
自身を貫いた武器を受け取り、バージルはそのまま懐へ収めた
バージル「・・・・ではな」
バージルは踵を返すと、ミカも慌ててその後を追う
少しばかり歩いたあと、バージルは足を止める
ミカ「え、どうしたの?」
バージルは答えず、閻魔刀を引き抜き、空間へと十字の亀裂を刻むと、その亀裂は花弁のように静かに開き、異様な気配を漂わせながら一つのゲートを形成していく。
裂け目の向こうには、ミカにとって見慣れたトリニティの景色が広がっていた。
あまりにも現実離れした光景にミカは言葉を失うが、バージルはそれに気を留めることなく、淡々と前へ進む。
ミカ「え?そ、それは?」
バージル「・・・・行くぞ」
そう言って、そのまま迷いなく踏み込んだ。
——そのまま、ミカをトリニティへ送り届けた。
——数日後。
~シャーレ・執務室~
アロナ『先生、何でシッテムの電源を切ったんですか!』
バージル「・・・・何か問題があったか?」
アロナ『大ありです!アロナちゃんの力で先生をお守りできるんですよ!?』
アロナ『なのに先生は電源を切って!』
バージル「・・・・いらん」
アロナ『い、り、ま、す!もし先生に何かが起きたら手遅れなんですよ!』
バージル「・・・・逆に言うが力を使い切り一時的に使用困難になれば、誰が地域案内をするんだ?」
アロナ『アロナちゃんは案内人ではなくて、先生の補佐兼、秘書なんですよ!』
バージル「ベアトリーチェの居場所を知れたのもお前の力があってのものだ、重要な場面で使えないのは困る」
アロナ『そ、そうですか?』
アロナは少しだけ、嬉しそうに頬を緩める。
——実にわかりやすい
バージル「・・・・」
(単純だな)
・・・・
アロナ『それと先生、トリニティの生徒会ティーパーティーの百合園セイアさんから話がしたいとメールが届きました』
バージル「・・・・百合園セイア、面と向かって話したことは無かったか」
アロナ『・・・・?一体どんなお話をされるのでしょうか?』
バージル「さぁな」
そう言うと、バージルは机に立てかけていた閻魔刀を手に取り、空間を十字に引き裂く。
開かれたポータルへ踏み込み、そのままトリニティへ向かった。
~トリニティ・テラス~
ナギサ「半月ほどですが、お久しぶりですね先生」
ミカ「ヤッホー!先生」
セイア「・・・・」
バージル「百合園に呼ばれて来たが、お前たちもいたのか 」
ナギサ「・・・・セイアさんが話す前に先生には感謝と謝罪をさせてください」
バージル「?」
ナギサ「トリニティを救い、そしてミカさんを連れ戻しありがとうございました」
セイア「私からもナギサ同様に先生には感謝しかない」
バージル「別に大したことはしてない、それに過ぎた話だ、一々引きずるな」
ミカ「あはは!ほら言ったでしょ?ナギちゃん、セイアちゃん。そんなにかしこまらなくても先生は許してくれるって」
ナギサ「ミカさんは上品さが欠けすぎていますよ 」
セイア「ナギサ、ミカにこれ以上言っても変わらないよ」
ナギサ「それも・・・・そうですね」
セイア「では、先生呼んだ理由を話したいところだが、その前にナギサとミカは席を後にしてくれないかい?」
ミカ「えぇー?なんで、先生と二人っきりで何するつもりなのかな?私たちに聞かれたくない話かな? 」
ナギサ「ミカさんの言う通り、私たちは三人でティーパーティー、隠し事はあまりしてほしくないのですが・・・・」
セイア「すまない、でもこれは先生にとって重要な話だから、出来れば先生と対面で話を付けたい」
バージル「俺の?」
ナギサ「・・・・分かりました。セイアさんがそこまでいうなら少しばかり二人きりにさせます」
ミカ「なんでー?納得できないなぁ?」
ナギサ「ミカさん、行きますよ」
ミカ「ちょ、ナギちゃん、引っ張らないで一人でちゃんと歩けるから」
・・・・・
セイア「・・・・いなくなったようだね」
バージル「で何の話を?」
セイア「直接聞くが、先生は“悪魔”という存在なのか? 」
バージル「っ・・・」
セイア「ふむ、その顔からして事実なのか」
セイア「予知夢でゲマトリアの会話を聞いたがその通りだとはね」
バージル「・・・・それを聞き出すために呼びだしたのか?」
セイア「いや、なに、これは本題を話す前置きだ、先生には伝えなければならないことだ」
バージル「・・・・」
セイア「これは私が最後に視た予知夢」
バージル「最後?」
セイア「そこのところは気にしなくていい、そしてその光景は・・・・」
セイア「赤く染まり果てた世界。建物の残骸があることからキヴォトスの未来に起こりうる出来事 」
セイア「そんな未来、今のキヴォトスでは想像もつかない場所で、先生は
セイア「・・・・その先は視えなかったが、おそらくは──」
バージル「赤いコート・・・・」
セイア「・・・・心当たりがあるのかい?」
バージル「いや、気にするな、それよりその未来はいつ実現するんだ?」
セイア「分からない、私の未来視は喪われている」
セイア「だが、私が見た『キヴォトスの終焉』と関係しているのは確かだ」
バージル「キヴォトスの終焉・・・・?」
セイア「・・・・天から巨大な塔が飛来し、虚空が緋色に染められ──」
セイア「不吉な塔は、まるで悲鳴を上げるように鳴動し・・・・この世界を少しずつ削り取って・・・・黒い光が天から舞い降り・・・・世界が終焉に傾いていく・・・・そうして・・・・キヴォトスのすべてが崩壊し──チリ一つ残さずに、全てが虚無へと消えた」
セイア「明晰夢を喪う前に、私が視た夢だ。正直のところ、先の視た光景とキヴォトスの終焉に関わっていない事を望んでいるのだが・・・・」
セイア「もしこの先私が視た光景が現に起きてしまうと思うと気にしないわけにはいかなくて」
バージル「なるほどな・・・・」
セイア「・・・・」
セイア「すまないね先生、私の相談に乗ってもらって、少し気が晴れたよ」
・・・・・
そうしてセイアとの会話を終え、バージルはシャーレに戻る
~シャーレ・執務室~
バージル「終焉に、赤いコートの人物・・・・」
アロナ「心配しないでください先生。何があっても、アロナが先生を守りますから!」
バージル「・・・・アロナ、何度も言うが俺は守ってもらう程、弱くは・・・・」
バージル「もういい勝手にしてくれ」
そのバージルの言葉にアロナの表情は[ぱぁ]と明るくなると
アロナ「任せてください!そういうわけでシッテムの箱の電源は切らないようにお願いします」
バージル「はぁ」