mission34 〜準備〜
~シャーレ~
リン「……先生、何処にいらしていたのですか」
バージル「それより、なにか分かったのか?」
リン「……先生が不在の間に、その件について話し合っていたのですが──」
リン「あれには物理的な干渉そのものができません。こちらの物理法則が通用しない状態です」
バージル「なるほど」
バージル「でだ。解決法は見つかったか?」
リン「いえ、それは見つかりませんでしたが、先生は何か案は見つかったのでしょうか?」
バージル「あぁ……良い知らせを持ってきた」
リン「良い知らせとは?」
バージル「……」
バージルは先ほど黒服から聞き出した内容を、一つ残らずリンへ伝えた。
リン「アビドス自治区にあるカイザーコーポレーションが発掘した古代兵器──それにこの現状を打破する可能性が」
バージル「そうなるな」
リン「はぁ……一体どこでその情報を手に入れたのか、何をしに行ってたのかはこの際置いときましょう」
リン「現在、打つ手なしなのは確かです。では、先生が得た情報に賭けてみましょう」
・・・・・
シャーレからの連絡を受けたアビドス対策委員会は、ただちにカイザーPMCの発掘現場へ向かった。その数時間後――
発掘現場で巨大な宇宙戦艦と思われる機体が発見されたとの報告を受け 、各学園から協力要員が集結した。
発掘現場の地下へ足を踏み入れると、そこには情報どおり巨大な船体が静かにたたずんでいた。
数時間に及ぶ初期調査の末、このオーパーツは未知の技術で構成されていることが判明したため── ヴェリタスやエンジニア部をはじめ、各学園の技術者や管理者、作戦立案を担当できる人材が次々と招集された。
その中でも予想外だったのはゲーム開発部だった。
ヴェリタスから宇宙戦艦の存在を聞きつけたゲーム開発部も、好奇心の赴くまま駆けつけたらしい。
しかし調査の結果、宇宙戦艦であるにもかかわらず、目立った推進装置や武装は確認できなかったらしく。外観からは、どうやって飛行するのかすら判別できなかったが、このオーパーツを利用すればアトラ・ハシースへの侵入は可能だと判断された。
バージルは解析装置に囲まれ議論を交わす生徒たちを一瞥する。技術面は専門家たちに任せることにし、バージルはその場を後にしようとした。
すると──リンに呼び止められ、そのまま別室へ案内された。
やがて関係者全員が作戦室へ集められる。
モモカ「先生、これ。作戦計画書。」
アユム「皆さんに協力していただいて、作成したものです」
リン「作戦名は──『アトラ・ハシースの箱舟占領戦』」
リン「……おそらく、これが最後の作戦となるでしょう」
カヨコ「成功したらサンクトゥムは作られないわけだし、失敗したらキヴォトスは終わる」
ハナコ「そうですね、いずれにしても最後の作戦になります」
アコ「成功させればいいだけの話ですよね!?不安をあおるような事を言わないでください」
リン「……では、作戦の説明に移ります」
リン「私たちの目標は、キヴォトス上空にある『アトラ・ハシースの箱舟を無力化する』こと」
リン「しかし、箱舟は物理的な介入を無効化する『状態の共存』によるバリアで保護されています」
リン「このバリアが存在する以上、箱舟に対しての物理的なアプローチは不可能とされていました──ですが」
リン「『ウトナピシュティムの本船』を同様の状態にすれば、理論上はバリアを通過することが可能です」
モモカ「要は、相手と同じ存在になったら、干渉できるって事~」
ヒマリ「そのための計算は、私がこの船の演算装置を用いて進行する予定です」
リン「そしてバリア通過後、箱舟へ船体を接舷させ、内部へ侵入します」
リン「無事に侵入できたら、主要施設をハッキングして箱舟の制御権を奪取します」
リン「当然、内部では激しい抵抗が予想されます」
ヒマリ「…制御権を掌握した時点で、箱舟は私たちのものになります。あとは自爆でも、地上への墜落でも選択可能です」
ヒマリの隣に浮かぶ小型ドローンから、不意に声が響いた。
小型AMAS「ええ…箱舟をハッキングし、奪う──それが私たちの勝利条件」
アコ「ご説明くださりありがとうございます。目標は至極シンプルですね。ところで──」
小型AMAS「…えっと、私はサポート型AMASで──」
ユウカ「リオ会長~~!?」
小型AMAS「!」
ヒマリ「…一瞬でバレましたね」
ユウカ「急に姿を消したと思ったら……こんな所に!? というか本体はどこにいるんですか!」
ヒマリ「ユウカ、その辺で…リオは私を手伝ってくれているだけですよ」
ヒマリ「私が監視しておりますからご心配なく。少しでも不審な動きがあれば、すぐに破壊しますので」
ユウカ「はぁ…何を企んでるのか知らないですけど、絶対ゲーム開発部には近づかないでくださいね!」
小型AMAS「…分かったわ。万が一の場合に備えて、地上に戻る方法を探してみるわ。…もちろん、許可してくれるのなら、だけど」
ヒマリ「そうですね、お願いします。船が壊れてしまった場合、私たちは箱舟に閉じ込められますので」
小型AMAS「──では、すぐに取り掛かるわ」
リン「この先、何が待ち受けているのか分かりません、入念な準備が必要です」
モモカ「そうだねー、シャーレ襲撃があった時に現れたあの騎士らしきが現れたら詰むけどね」
リン「先生が倒したあれですね」
リンの言葉をきっかけに、その場にいた全員の視線が自然とバージルへ向いた。
バージル「……なんだ?」
リン「いえ、あの不明な生体を前にしても余裕でしたので」
バージル「……」
リン「もしかしてですが、先生はあの存在について知っているのですか?」
リン「あれは一体なんなのでしょうか?」
作戦室の空気が僅かに静まり返る。
バージル「……悪魔」
リン「……え?」
バージル「俺と同様、此処キヴォトスとは異なる世界──魔界の住人だ。」
ユウカ「こんな時に冗談を……いえ。先生はそんな状況で冗談を言う人ではありませんね 」
誰一人として、すぐには言葉を返せなかった。
作戦室は重苦しい沈黙に包まれる。やがて最初に口を開いたのはアコだった。
アコ「……なるほど、先生の不可解の力を持つ理由がなんとなくわかりました」
バージル「とはいえ、俺の場合は悪魔と人とのハーフ、半人半魔だがな」
作戦室に短い静寂が落ちた。
バージル「………なんだ黙り込んで」
リン「い、いえ、でも今までなぜ話してくれなかったのかと思いまして」
バージル「……聞かれていないからだ」
リン「……そうですか。相変わらずですね……先生らしい回答です」
リン「では、先生から必要な情報は伺いましたが──」
リン「…………少しこちらで情報を整理したいので、少し時間をいただいてもいいですか?」
バージル「……別にいいが」
・・・・・
生徒たちはバージルを交えず、得られた情報を整理し始めた。
しばらく意見を交わした後、リンは改めてバージルへ向き直る。
リン「とりあえず今……先生の出自については、ひとまず置いておきましょう」
リン「そうなると、悪魔に対抗できる唯一の戦力として、先生には生徒達と共に前線へ出ていただく必要があります。それでよろしいでしょうか」
バージル「……」
リンから生徒と行動を共にするよう求められ、バージルは不服そうにしばらく沈黙した。
リン「それでよろしいですね?先生」
バージル「……分かった」
リン「では、話はまとまった事ですので…夜明けと共に出発といたします」
リン「それまでに…できる限り各自、休憩を取るようにしてください」
その場で解散、バージルも外の空気を吸いに出ようとするが、またしてもリンに呼び止められる。
リン「先生はもう少し話がありますので残ってください」
バージル「…なんだ」
足を止めたバージルは、小さく息を吐いて振り返る。
他の生徒たちが退室し、作戦室に残ったのはリンとバージルだけとなった。
リン「もう一つだけ確認したいことがあります」
リン「先ほど先生は、あの騎士のような存在を『悪魔』と呼びました」
リン「これから私たちは箱舟へ突入します」
リン「もし、あのような存在が再び現れた場合に備え、少しでも情報を共有していただけませんか?」
バージル「それはあいつらが要る前で話すことではないのか?」
バージル「なぜわざわざ、俺とお前だけで」
リン「他の方が要ると先生も話しづらそうでしたので、あまり横やりが入ると全然話がまとまりませんので」
バージル「それは同感だ」
リン「それでは話は戻しまして、先生がお相手した悪魔?というものはこれから先、出現するのでしょうか?」
バージル「……あれは少し特殊な個体だ」
バージル「箱舟の中がどうなっているかは知らんがな……」
リン「と言いますと、あれほどではないにせよ、同種の存在が現れる可能性が?」
バージル「無くはないが、お前たちが気にする必要はない。悪魔は俺が引き受ける」
リン「……つまり、先生お一人で相手をする、と?」
バージル「当然だ」
リン「……それほど自信があるのですね」
バージル「何だ。まさか俺が苦戦するとでも?」
リン「……いえ。少なくとも、その姿は想像できませんが」
リン「どれほどの数が現れて来るのか中の構造も分かっていませんし、時間もありませんから部隊を分けて突撃する場合が──」
バージル「それも気にすることではない、箱舟内なら、おそらくどこで戦闘が起きてもすぐ駆けつけられる」
リン「……各学園へ招集を掛けた際、先生が真っ先にサンクトゥムへ駆けつけられた時のように、ということですか?」
バージル「まあ、そんなところだ」
リン「………分かりました。では、悪魔への対処は先生に一任してもよろしいでしょうか」
バージル「容易いことだ」
・・・・・
その後、夜明けを迎え、バージルが箱舟内へ戻ると──
バージル「なんだ、その服…」
ハナコ「コスチュームです。宇宙戦艦の乗務員ですよ?専用の衣装があっても良いでしょう」
バージル「…必要な物か?」
コトリ『ええ!もちろんです。エンジニア部のロマンを裏切るわけにはいきませんからね!「発進!」とか、「高度上昇!」とか、そういった台詞を言うのに、普段の制服ではカッコ悪いじゃありませんか!』
バージル「遊びに行くわけではないが……まあいい。俺が着るわけでもない」
リン「はぁ…」
リン「では、これより私たちは、キヴォトス上空七万五千メートルに存在する『アトラ・ハシースの箱舟』へ突入します」
リン「箱舟を占領し、機能を無力化──そして、無事地上に戻らなくてはなりません」
リン「それでは、点呼をとります──」
リン「オペレーター、浦和ハナコ、天雨アコ、奥空アヤネ、早瀬ユウカ、鬼方カヨコ、明星ヒマリ、由良木モモカ、岩櫃アユム…そして統括責任者──七神リンです。」
リン「発進後、地上で航空管制および技術支援を担当するのは──ミレニアムサイエンススクールのヴェリタス、音瀬コタマ、小鉤ハレ。」
リン「エンジニア部、猫塚ヒビキ、白石ウタハ、豊美コトリ」
リン「箱舟の突入後、襲撃に備え占領戦のサポートをするのは──アビドス対策委員会の小鳥遊ホシノ、黒見セリカ、十六夜ノノミ」
リン「そして現在、この船唯一の武装であるレールガンの所有者、ゲーム開発部の天童アリス──そして、才羽モモイ、才羽ミドリ、花岡ユズ」
リン「そして最後に──」
モモカ「ん~?まだいるの?」
リン「皆さんの食事を担当する、ゲヘナ給食部の愛清フウカと…美食研究会」
フウカ『……いや、なんで私がここにいるの!?』
どうやら美食研究会は、一生に一度あるかどうかの宇宙での食事を味わいたいという、実に彼女たちらしい理由で乗り込んできた。
リン「…先生、この宇宙戦艦の起動に関してですが──」
バージル「今やる」
バージルは内心でアロナへ呼びかける。
バージル『というわけでアロナ』
アロナ『はい!やっと、アロナちゃんの出番ですね!』
アロナ『今から。私の能力でこのオーパーツを起動しますね』
・・・・・
アコ「メインパワーの起動を確認しました!」
アユム「メインコントロールシステムの稼働、完了……!」
モモカ「各エリアの通信システム、演算システムのチェック、オールクリア……ここまではマニュアル通り、ばっちりだね」
カヨコ「エンジンシステム、クリア」
ハナコ「多次元解釈システムのチェック、クリア。オールクリアです」
ユウカ「管制システムチェック、オールクリア……よし!これで全部使えるわよ!」
アコ「発射準備、完了!命令待機中です!」
リン「これより、宇宙戦艦、発進します」
アヤネ「これより宇宙戦艦──離陸します!!」
艦体全体が低く唸りを上げる。
地下施設の天井から砂塵が舞い落ちる。
超古代兵器──ウトナピシュティムの本船は、数千年の眠りから目覚めるようにゆっくりと浮上を始めた。
アヤネ「高度上昇……現在、780m!」
ユウカ「多次元解釈システムの起動は今でいいのよね?」
ヒマリ「計算は終わりました。ハナコさん、お願いします」
ハナコ「計算完了……多次元解釈システム、起動します!」
リン「これより、『アトラ・ハシースの箱舟』に向かって加速します」
モモカ「うわっ、皆しっかり捕まってね!マニュアル通りなら、尋常じゃない速度が出る筈だから!」
アヤネ「最大出力…加速します!!」