ユウカ「なっ、何!?」
ハナコ「多次元解釈システムに、エラー発生…!」
「『ウトナピシュテム』の状態が…箱舟と一致しません!」
リオ「値が変わったのは『アトラ・ハシースの箱舟』の方よ!」
ヒマリ「『アトラ・ハシースの箱舟』に変化が?…まさか、私達から逃れる為に…!?」
リオ「私達が認知している多次元ではなく…別の新しい軸を作ったのね」
「二次元の存在に対して、三次元を説明出来ないのと同じように…私達には知見出来ない次元へと退避したのでしょう」
リオ「戦艦のスピードを落としてちょうだい!このままでは、あの変形した多次元バリアに衝突してしまうわ!」
「連動しなくなってしまった状態で衝突すれば───私達は未知の次元に取り込まれるか、そのまま粉々になるかの二択よ!」
アヤネ「このスピードじゃあ……どのみち衝突は避けられません!」
アコ「何か他に手立ては無いのでしょうか…」
リオ「……無いわ。あれは科学ではなく、一種の概念と化している。あの状態を瓦解させる手段は、現状存在し得ない…」
リオ「───ただ一つの方法を、除いて」
「あれが『アトラ・ハシースの箱舟』という概念をコピーしたものであるのなら、あれに介入出来るのは…」
「……同一存在である、箱舟だけでしょうね」
バージルは説明を完全に理解したわけではなかった。
だが、概念に干渉するものならば、閻魔刀で直接切り裂けば断てる――そんな確信だけはあった。
無言のまま閻魔刀へ手を掛け、外へ向かって歩き出す。
その時──。
アリス「───アリス、理解しました」
「リオ会長、こんな所に居たんですね。もう一度会えて、よかったです」
ミドリ「アリスちゃん…」
モモイ「えっ、会長!?というか、姿を見せないでドローンを送るってどういう事!?」
リオ「…アリス、私は───」
アリス「はい、分かっています」
「この状況は──『名もなき神々の王女』であるアリスの力が、必要なんですよね」
ユズ「で、でもアリスちゃん……!」
モモイ「だ、ダメだよアリス!! またあんな事に───」
ミドリ「アリスちゃん…!」
アリス「──モモイ、ミドリ、ユズ。 そしてユウカ、ヒマリ先輩、リオ会長」
「アリスは『名もなき神々の王女』で、『ゲーム開発部』のメンバーで──『ミレニアムの生徒』です」
「アリスは……『魔王』で『勇者』です」
「…アリスは、アリスが望んでいる『アリス』です」
「だから『アリス』として…『ケイ』にお願いします」
ゲーム開発部がAL-1Sを「アリス」と呼ぶようになってから、もう一つの人格である「Key」は「ケイ」と呼ばれるようになっていた
アリス「アリスの中にある『アトラ・ハシースの箱舟』で…今の危機を解決出来るのなら、それで…世界を救えるのなら…」
「『アトラ・ハシースの箱舟』は、世界を滅亡させる兵器ではなく───世界を救う、勇者の武器になれます」
リオ「アリス、それは…」
アリス「それで世界を救えるのなら、アリスはそれを望みます」
「そうすれば、ヒマリ先輩はこれ以上リオ会長を恨まなくて良くなります」
「そしてリオ会長は、自分自身を恨まなくて良くて、隠れる必要もなくなります」
リオ「私、自身を…?」
アリス「それがアリスの───」
「『勇者』の、使命ですから」
アリスは静かに目を閉じる。
数秒の静寂が流れる。やがて再び、その瞳が開かれる。それまでの蒼ではなく、深い紅へと染まっていた。
ケイ「…………起動開始」
「……コードネーム『AL-1S』起動完了」
「プロトコルATRAHASISを実行します」
モモイ「あ、アリス……」
ミドリ「だ、大丈夫なのかな?」
ユズ「……」
アリスは静かにもう一度目を閉じる。やがて瞼がゆっくりと開かれる。
深紅に染まっていた瞳は、再び澄み渡る水色へと戻っていた。
ユズ「あ、アリスちゃん……!?」
ミドリ「……アリスちゃんなんだよね?」
アリス「はい。アリスは大丈夫です」
リオ「……という事は、『名もなき神』の<Key>を服従させたのね?」
「……いえ、これは服従ではなく───」
アリス「はい。ケイがアリスのお願いを聞いてくれました」
「でも、アリス一人ではできません。今のアリスには、みんなの力が……」
「そして、リオ会長の力が必要です」
リオ「わ、私の……?」
アリス「顔を見せてください、リオ会長」
リオ「っ……わ、私は……」
しばらくの沈黙が流れる。
小型AMASから光が放たれ、一人の少女の姿がホログラムとして映し出された。そこに映し出されたのは、リオだった。
アリス「……アリスは、リオ先輩と会いたかったです」
「なんだか、前よりも痩せたように見えます。ちゃんと寝ていますか?」
リオ「アリス、私は……」
「……自らの選択で、貴女を───」
アリス「リオ先輩……アリスに謝らなくても大丈夫です」
リオ「……勿論、貴女は私を許さないでしょうけれど……」
アリス「───許す必要はありません」
「何故なら……仲間同士は、言葉にしなくても気持ちが伝わるものですから」
リオ「私が……貴女の……「仲間」……?」
アリス「はい。リオ先輩は、アリスの仲間です」
「リオ先輩はこうして先生やヒマリ先輩……そして、皆を助けているのですから。だから、アリス達はもう「仲間」です」
リオ「で、でも私は……貴女を……」
アリス「大丈夫です」
「序盤のボスが、後半で仲間になるのはよくある事です。お約束の展開だって聞きました。だから、大丈夫です」
アリス「リオ先輩は、この世界を守る為に、誰よりも頑張った人です」
「そんな凄い人に……「アリスの仲間になってくれてありがとう」、と伝えたかったんです」
「では……始めます!」
「ここからはアリスのターンです!!」
ミドリ「アリスちゃん!!頑張って!!」
モモイ「お願いアリス、魔王城をブッ飛ばして!!」
ユズ「アリスちゃん……お願い……!!」
アリスは操舵室を飛び出し、本船の舳先へと向かう。
巨大なレールガンを持ち、彼女は
アリス「名もなき神々の王女、AL-1Sが承諾します──ここに、新たな聖域が舞い降りん────!」
「ターゲット確認。」
「出力、臨界点突破。」
「魔力充填……100%。」
「行きます!」
「悪を打ち砕く、正義の一撃──」
リオ「ここは──彼女たちの表現を借りるとしましょう」
「行け、勇者よ……! 私たちの世界を救いなさい!!」
アリス「もちろんです! アリスは、仲間の期待に応えます!!」
「光───よ!!!」
アリスから放たれた光は一直線に駆け抜け、多次元バリアへと直撃した。
ハナコ「直撃です!多次元バリア、粉砕!!!」
リオ「っ……!!!」
ヒマリ「本当に──多次元バリアを貫通したのですね……」
ユウカ「あ、アリスちゃんは……!?大丈夫なの!?」
モモイ「今、安全な場所に連れて行ってるとこ!」
ミドリ「今は意識を失っていますが、アリスちゃんは無事です!」
ユズ「医務室に連れて行って、私たちが様子を見ます」
ユウカ「え、ええ、頼んだわよ」
リン「このチャンスを、逃してはなりません……!! 最大出力で突進します!!」
アヤネ「は、はい!分かりました!! 最高出力で……突入します──!!」
リン「バリアを突破し、このまま箱舟内に侵入します!!」
モモカ「……しょ、衝撃来るよ!!しっかり捕まって!」
ウトナピシュティムの本船は、多次元バリアを突き破り、その勢いのまま箱舟へ激突した。
凄まじい衝撃が艦内を揺らし、全員の身体が大きく前へ引っ張られる。
──こうして一行は、 ついに『アトラ・ハシースの箱舟』への侵入に成功した。
モモカ「せ、成功したの……?」
リン「……はい。ようやく……内部に侵入できました」
「各員、被害状況を報告してください」
ハナコ「多次元解釈システム、問題ありません。ただ、衝突の影響で中枢システムがダメージを受けたようです」
アコ「メインコントロールシステムも動作不能ですね……」
カヨコ「各エリアの通信もダメ…それに、演算システムもボロボロ」
ヒマリ「この状態では本船による支援は期待できませんね……」
その時だった。艦橋全体に鋭い警報音が鳴り響いた。
赤い警告灯が一斉に点滅し、静まり返っていた艦橋の空気が一瞬で張り詰めた。
アユム「な、何でしょうか!?」
モモカ「うわっ、あれってサンクトゥムにいた敵じゃん!?こっちに向かってきてるよ!」
ヒマリ「想像しておりましたが、これほどまでに早く……まるで、待ち構えていたかのような……」
カヨコ「何とか止めないと……船が壊れたら終わりよ。迎撃できる人は?」
ホシノ『うへ~、おじさんたちの出番かな?』
通信越しで対策委員会が声を上げた。
ハルナ「ふふっ。では乗った船ですので、私たちもまいりましょうか」
続いて、美食研究会も応じる。
ユズ「こ、ここは私たちも」
そして、ゲーム開発部も続いた。
ユウカ「貴方たちは、ダメよ!危険すぎるわ」
モモイ「平気だってユウカ、こっちにはチートみたいに強い先生がいるんだよ!何とかなるって」
リン「……先生、迎撃をお願いします。皆さんの援護をしてください 」
バージルは小さく頷き、本船を後にした。
彼にとって、この程度の敵は障害ですらなかった。
──だが。
バージル「……!」
アトラ・ハシース内部へ足を踏み入れた――その瞬間だった。
バージルの足元に、魔法陣が音もなく浮かび上がった。
アユム「!? 先生の足元から超高エネルギー反応です!」
リン「先生! 今すぐその場から離れてください!!」
制止の声が届くよりも早く、魔法陣は眩い閃光を放った。
空間そのものが大きく歪み、バージルの姿は光の中へと呑み込まれていく。
リン「先生!?」
光が収まった時には、そこにバージルの姿はなかった。
~???~
バージル「……ここは」
(あいつらと分断されたか……まあいい。元より単独で動くつもりだった)
(かえって都合がいい)
バージルは周囲を見渡し、現状を確認した。
天井は高く、無機質な通路が奥へと伸びていた。
その時──
ズシン……。
ズシン……。
重々しい足音が通路の奥から響いてくる。
やがて、暗闇の向こうから巨大な影がゆっくりと姿を現した。
それは一歩踏み出すたびに床を震わせ、まっすぐバージルへと近づいてくる。
???「止まれ……」
???「この先へ進むことを許されるのは、我が主のみ」
姿を現したのは、三つの頭を持つ巨大な魔獣。
かつてユリゼンが使役していた悪魔――
キングケルベロス。
キングケルベロス《色彩》「立ち去れ。さもなくば、我が牙がお前を喰らう」
三つの首が一斉に咆哮を上げる。
その咆哮と同時に凄まじい冷気が通路全体へと駆け巡り、床や壁を瞬く間に氷に閉ざされる。
しかし、バージルは眉一つ動かさず、むしろ面倒な相手に絡まれたかのように億劫そうな表情を浮かべていた。
キングケルベロスなど眼中にないと言わんばかりに、その脇を通り過ぎようとする。
キングケルベロス《色彩》「――!」
その態度に激昂したキングケルベロスは、巨大な前脚を振り上げ、一気に薙ぎ払った。
直撃する寸前、バージルの姿が掻き消える。
振り下ろされた前脚は虚しく床を抉った。
バージルはすでにキングケルベロスとの間合いを大きく離れ、静かに立っていた。
気付けば閻魔刀は抜き放たれ、すでに鞘へと納まっていた。
納刀の音と同時に、キングケルベロスの首元へ一本の斬線が走る。氷を司る頭部は首から切り離され、床へと落ちた。
バージル(門番すらこなせぬ駄犬……考えなしに牙を剥いた結果──)
「残り二頭──」
キングケルベロス《色彩》「ほざけぇぇぇ!! 我が炎で焼き尽くしてくれる!!」
今度は左の首に魔力が集中する。
咆哮とともに灼熱の業火が噴き上がり、通路全体が一気に熱を帯びた。
床を覆っていた氷は音を立てて砕け、立ち込める蒸気が視界を真っ白に染める。
その白煙を利用し、キングケルベロスは巨体とは思えぬ速度で突進した。
だが――バージルは冷静だった。飛び掛かるキングケルベロスを難なく躱すと、再び間合いを開く。
キングケルベロス《色彩》「わが雷は全てを貫く!」
キングケルベロスの右の頭部から青白い電流が迸る。咆哮とともに雷光は周囲一帯へ広がっていく。
バージルは抜いた閻魔刀を空へ放る。
雷は狙いどおり刀身へ集中し、閻魔刀は避雷針となった。
それでもバージルは動かない。
落ちてくる閻魔刀を待つように、その場に静かに佇んでいた。
その隙を見逃さず、キングケルベロスは口腔へ電撃を集中させる。
キングケルベロス《色彩》「隙だらけだ!」
雷光がバージルへ迫る。
しかし――そこに彼の姿はなかった。
バージルは落下してきた閻魔刀を掴み取る。
その姿が再び掻き消えた時には、すでに雷を吐き続ける頭部の懐へ入り込んでいた。
閃光のような斬撃が首筋に走る。雷を司る首は、宙へ舞った。
バージル「……残り一つか」
二つの首を失い、キングケルベロスに残る頭部は、炎を司る一つのみ。
キングケルベロス《色彩》「グググ……!」
バージル「相手との力量差すら測れんとは……」
先ほどの失敗から学ばず、キングケルベロスはバージルへ飛び掛かった。
バージルは抜刀と同時に、キングケルベロスへ一直線に駆け抜けた。
両者は交差し、一瞬の静寂が流れる。
バージルは何事もなかったかのように閻魔刀を一度だけ振り、刃に付着した血を払う。
そのまま閻魔刀を鞘へ納める。
その納刀の音が、戦いの終わりを告げた。
納刀の音が部屋に響くと同時に、キングケルベロスの残った頭部――それに繋がる首へ一本の斬線が走った。
キングケルベロス《色彩》「馬……鹿……な……」
三つの頭を失ったキングケルベロスの巨体は、その場に崩れ落ち、やがて魔力の粒子となって消えていった。
バージル「……時間の無駄だったな」
・・・・・
先へ進むと、そこには銀髪と狼耳を持つ少女――バージルのよく知る生徒、砂狼シロコが立っていた。
普段通り、感情の読めない表情で佇んでいる。
バージル「砂狼……」
シロコ「ん!先生がいるということは他のみんなもここに来たんだ」
バージル(見た目はあの時のシロコとは違うな)
その時、バージルに向けて通信が入る
リン『先生!ご無事ですか?』
バージル「あぁ平気だ。砂狼を見つけ出した」
リン『……そちらにもいるのですか?』
バージル「?」
ヒマリ『会話中に失礼しますが、先生が今いらっしゃる場所は、第4エリア中央付近です』
『ですが、こちらにも砂狼シロコさんがおられます。私たちの目の前――第三エリアに……いったいどうして』
ホシノ『なるほどねー、やっとわかったよ』
ヒマリ『どういう事でしょうか?』
ホシノ『私たちはてっきり「色彩」とかいうやつのせいで、シロコちゃんが変わってしまった──そう思ってたんだけどさ』
『つまり、おじさんたちの目の前にいるシロコちゃんは、私たちの知ってるシロコちゃんじゃない』
『先生の前にいるシロコちゃんこそ、私たちの知ってるシロコちゃんってこと』
『そっちのシロコちゃんの容姿に変化とかあるかな~』
バージル「ないな、いつも通りの見た目だ」
リン『では先生、これから合流し──』
バージル「悪いが七神、俺は色彩の嚮導者のもとへ向かう」
リン『なっ、それはどうしてですか?』
バージル「俺個人の問題だ。そっちで危機が起きたら連絡して来い。以上だ」
リン『ちょっと待ってください先生──』
バージルは通信を切った。
バージル「砂狼……お前は一人で合流しに行けるか?」
シロコ「ん、先生は何をしに行くの?」
バージル「……首謀者に会いに行く」
シロコ「ん、なら私も行く。無理やり連れて来ておいて、放置するなんて許せないから」
バージル「好きにしろ」
・・・・・
~アトラ・ハシース・第4エリア中央~
バージル(ここか……)
シロコ「先生、あいつ。私を拉致したやつ……」
バージル「……っ!」
シロコが重火器を向けた先に立っていたのは、色彩の嚮導者。
おそらく、この厄災の元凶。そして数体の悪魔を従え、幾度となくバージルへ魔を差し向けてきた存在だった。
白髪。
赤いコート。
見慣れた無精髭。
その姿は、誰よりも知っている男だった。
バージル「……ダンテ」
しかし、バージルの視線は、その右手へと吸い寄せられた。そこに握られていたのは――
本来、この場に二振り存在するはずのない刀。
閻魔刀。