ダンテ《色彩》「……」
シロコ「ん……私を拉致したのはあいつ、だけど先生の知り合い?」
バージル「……親族だ」
(だが……何故、奴が閻魔刀を持っている?)
シロコ「親族?」
バージル「……いつまで辛気臭い顔で黙っているつもりだ……ダンテ」
バージルは数本の幻影剣を展開し、放つ。
だが──命中するはずの刃は、何かに導かれるように不自然な軌道を描き、ダンテを避けるように遥か後方へと飛び去った。
シロコ「先生の攻撃が……逸れた?」
バージル「っ……今のは」
?????「この時間軸──バージル先生の生体認証、完了」
その機械的な声が、どこからか聞こえた。
するとダンテの背後から、白髪の小柄な少女が姿を現した。
?????「この『シッテムの箱』に常駐しているシステム管理者であり、メインOS──」
A.R.O.N.A「──A.R.O.N.A、命令を実行します」
「『アトラ・ハシースの箱舟』、復旧システムを起動。約30分後。100%修復を想定」
「並行で箱舟に潜入した『ウトナピシュティムの本船』のハッキング中──」
???「……そっちにシャーレの先生がいるからなんとかなると思った?」
その直後、ダンテの背後からもう一人の少女が姿を現した。
シロコ《色彩》「言ってるでしょ。定められた運命を変えることはできない、と」
「キヴォトスは予定通り、終焉を迎える」
シロコ「…あれは……私?」
アロナ『え、え……目の前にいるA.R.O.N.Aは私で私も同じ『シッテムの箱』に常駐している管理者……つまり、私が二人……?』
『シロコさんも二人…?そ、それじゃあ……!』
『……いいえ!それでもおかしいです! どうして、「シッテムの箱」のOSが箱内ではなく、この場にいるのでしょうか? なにか……なにかズルでもしない限り……!』
A.R.O.N.A「回答、それは、ここが『状態の共存』を維持している『アトラ・ハシースの箱舟』の内部であるためです」
「私自身の教室は今も有していますが、この場所では空間が歪曲しているので実体化として現れることができます。ズルではありません」
アロナ『私の質問に答えた……? わ、私の声は先生にしか聞こえないはずなのに……』
A.R.O.N.A「私たちは、同じ『シッテムの箱』のOSであるため、相互干渉できるものと推測します」
「私はあくまで、『シッテムの箱』の所有者であるダンテ先生をサポートするだけの存在」
バージル「なるほど。つまりはダンテ、お前は俺の知るダンテではないと」
ダンテ《色彩》「……そういうことだ、それじゃあ始めようかバージル、俺とあんたの戦いを」
「キヴォトスを守りたければ俺を止めることだ」
ダンテは閻魔刀を鞘へ収める。
そして右手に、彼の名が刻み込まれた武器──魔剣ダンテを出現させ、バージルへ向けた。
バージル「……立場が変わっても俺たちは結局、対立する運命か」
ダンテ《色彩》「皮肉なもんだな」
シロコ「……先生、私も相手を──」
すると、シロコへ向けて銃弾が放たれた。
シロコ《色彩》「貴方の相手は私…」
シロコ「邪魔しないで!」
シロコ《色彩》「無理、あれは先生が望んだ戦いだから」
バージル「……」
ダンテ《色彩》「生徒が気になるのかバージル?」
ダンテは一瞬で間合いを詰め、掛け声と共に魔剣ダンテを振り下ろした。バージルは納刀したままの閻魔刀を両手で構え受け止めた。
鋼と魔剣が激突し、衝撃波が周囲へと走る。
ダンテ《色彩》「やるなバージル。そりゃあ俺が放った悪魔三体を返り討ちにできたわけだ」
バージル「やはり、あれらは元々貴様が持っていた魔具だったものか」
魔剣の一撃を受け止めていた閻魔刀。その鞘から、バージルは刀身を抜き放った。ダンテに向けて振るうが、ダンテはバックステップで躱し、距離を取った。
ダンテ《色彩》「なんだ? あいつらのこと知ってたのか?」
バージル「知っているも何も、俺の世界の貴様は、それらの魔具を用いて俺と何度も魔界で張り合っていた」
ダンテ《色彩》「……なるほどな」
「お前の世界じゃ、『V』は元の体に戻れたのか」
バージル「……何?」
ダンテ《色彩》「道理で手強いわけだ。俺みたいに老けてもいねぇし、どの時間軸なのか判断しづらかった」
バージル「つまり、何が言いたい?」
ダンテ《色彩》「俺の世界じゃ……」
一瞬だけ魔剣ダンテを握る手に力が入る。
ダンテ《色彩》「あんたは復活できずに死んだ。……魔王としてな」
バージル「……だから、貴様が閻魔刀を──」
その言葉を最後まで聞くことなく、ダンテはショットガンの引き金を引いた。
放たれた銃弾はことごとく軌道を逸らされ、バージルを避けるように消えていく。
バージル「貴様は……会話嫌いにでもなったのか?」
ダンテ「それはアンタの方だろ」
バージル「……それか、都合の悪い話だったか?」
ダンテ「……」
ダンテは魔剣ダンテを構え直し、バージルも静かに閻魔刀を構えた。
二人の間には静寂だけが流れる。
その静寂を消すように、周囲ではシロコ同士の銃撃音だけが鳴り響いていた。
ダンテが僅かに力んだ時。二人の姿が同時に掻き消えた。
激しい金属音が連続して鳴り響く。
閻魔刀と魔剣ダンテが幾度となく衝突し、火花が周囲へ散った。
両者の刃は激しく振るわれ、その軌跡は空間へ幾筋もの斬撃を刻んでいく。
シロコ「すごい戦い……」
シロコ《色彩》「……油断大敵」
シロコ「……っ!」
シロコは別時間軸のシロコの蹴りを受け、後方へとのけ反った。
シロコ「貴方たちは一体何が目的なの?」
シロコ《色彩》「……私は私の運命を実現するだけ、つまりは世界の終焉に導くということ」
シロコ「……私が? 世界を、滅ぼす……?」
シロコ《色彩》「そう」
「……そして先生──ダンテ先生は私に協力してくれる形で色彩の嚮導者となった」
シロコ「ふざけ、ないで────!!」
「そんなの、信じない──!」
「世界を滅亡させる……?私が、そんなことするわけ───!」
シロコ《色彩》「あなたがいくら否定したところで奇跡が起きない限り、未来は変えることはできない」
「これが現実、これが終着点、これは既に定められたことなの」
バージル「……ダンテ、一体何を企んでいる、俺の知っている貴様はそんな奴ではない筈だ」
ダンテ《色彩》「それはこっちの台詞だ……」
「あんたも、言葉で相手の戦意を削ろうとするタイプじゃなかったはずだ」
「いつからそんな口で揺さぶりをかけるようになった?」
幾度となく剣の打ち合いにより火花が散る。その中でダンテに向けて隙ができる度に幻影剣を向けるが、それらはダンテへ届く寸前で軌道を変え、虚空へ消える。
ダンテ《色彩》「……勝敗がつかないな」
A.R.O.N.A「朗報、宇宙戦艦『ウトナピシュティムの本船』のハッキングに失敗。」
「箱舟の演算処理装置の端末の破損を確認。リソース不足により、サンクトゥム顕現プロセスが解除されました」
「同時に二次被害、アトラ・ハシースの管制権が本船へと渡りました」
ダンテ《色彩》「……まじか」
A.R.O.N.A「……状態を確認、本船により、「アトラ・ハシースの箱舟」の「自爆シーケンス」が準備中であることを確認しました」
「当該のシーケンスが起動した場合、爆発後の船内における先生方、ダンテ先生、バージル先生の生存確率は19.0%、それらを除く全員の生存確率は0.0003%以下です」
「至急対処法が必要──」
シロコ《色彩》「そう……時間稼ぎだったんだ。私たちの注意を引く作戦ね」
シロコ「……そうなの先生?」
バージル「いや、そんな気はなかった」
シロコ二人「………」
ダンテ《色彩》「随分と生徒のことを信じているようだな、何かあるかも分からないにも関わらず」
バージル「その何かがあればすぐ駆けつけようとはした。だがそれがなかっただけだ」
シロコ「……そうだね。この場にバージル先生以外にも……私にはみんながいる!」
シロコ《色彩》「……みんな、ね」
ダンテ《色彩》「……」
別時間軸のシロコは、小さく呟く。ダンテは僅かに視線を落とした。
A.R.O.N.A「対処法を検討中、解決策は存在します。これより、別ルートでウトナピシュティムを──」
シロコ《色彩》「……いや、必要ない。試したところで、同じ結果が繰り返されるだけ」
「仲間たちとの絆で、危機を乗り越える──これは脅威だね」
ダンテ《色彩》「……諦めるか?」
シロコ《色彩》「いや、まだ続ける。一人になっても私は私自身の本能に従って」
ダンテ《色彩》「…………」
「そうかい。分かった……A.R.O.N.A……」
A.R.O.N.A「指示を確認。「シッテムの箱」の演算支援を中止。演算全てを戦闘支援モードに切り替えます」
ダンテ《色彩》「……悪いな、バージル。ここから本気でやろうか」
「人として……悪魔として……そして……先生として」
バージル「……先生として?」
アロナ「先生!現在「アトラ・ハシースの箱舟」は、自爆態勢に入りました!!」
「生徒のみなさんが、先生とシロコさんのもとへ向かっています! どうしますか?」
バージル「……別に返答する必要はない。生徒が来る前に片をつければいいしな」
アロナ「……分かりました、では今私たちがすべきことは別の時間軸の『シロコ』さんと『プレナパテス』に立ち向かうことです」
バージル「言われなくとも……」
閻魔刀を静かに構える。
A.R.O.N.A「……探知。この時間軸に存在する先生のエネルギー反応が急上昇しています」
ダンテ《色彩》「あぁ、分かった。シロコの支援を頼む、A.R.O.N.A」
A.R.O.N.A「指示を確認、砂狼シロコに戦闘支援を行います」
バージル「……アロナ、この戦いには介入するな」
アロナ「なっ!?どうしてですか?」
バージル「奴と対等な立場で蹴りをつけたい」
アロナ「……いつも、そうやって自分勝手なんですから……はぁ、分かりました。こちら側のシロコさんの支援に回ります」
ダンテ《色彩》「……準備は良いか?バージル」
バージル「……」
ダンテ《色彩》「反応しろよ」
バージル「……閻魔刀は使わないのか」
ダンテ《色彩》「これは俺には似合わなくてな、魔剣を主軸にしてあんたに勝つ」
バージル「貴様がそれを持っていると違和感しかないな」
ダンテ《色彩》「……分かってるさ」
「俺だって、こんな形で閻魔刀に頼ることになるなんて思ってなかった」
「……でも、その話をするのは……今じゃない」
バージル(……今、だと?)
ダンテがそう言うと、彼の周囲の空間が歪む。
その身は禍々しい悪魔の姿へと変貌した。背には四枚の巨大な翼が広がり、周囲の空気を震わせた。
バージル「……そうか」
それ以上、言葉を返すことはなかった。
怒りでも、悲しみでもない。ただ目の前にいる、別時間軸の弟と向き合うために。
バージルにとって、一年ぶりに見るダンテの姿。その顔を静かに見据えながら、閻魔刀を構え直す。
それが、彼にできる唯一の返答だった。
ダンテが悪魔の姿へと変貌した。
その姿に応えるように、バージルもまた真魔人へと姿を変える。
次回、『あまねく奇跡の始発点編』最終話。