mission38 ~悲劇の終着地~
ダンテ《別時間軸》 「よう、バージル」
プレナパテスを演じていた、あの辛気臭い顔つきのダンテではない。
そこにいたのは、バージルのよく知る、余裕に満ちた態度を見せるダンテだった。
ダンテは何食わぬ顔で執務室へ足を踏み入れる。
バージル「ダンテ……」
ダンテの姿を認めた瞬間、バージルは無言で閻魔刀へ手を伸ばした。最悪の事態となれば、即座に戦闘へ移れるように構える。
ダンテ 「ちょ、ちょい待て。別にあんたと戦いに来たわけじゃないんだ」
ダンテは慌てて両手を上げ、敵意がないことを示した。
バージル「……そうか。でだ、こんな時間に、わざわざ俺の前に姿を現した理由はなんだ?」
「ただ顔を拝みに来たわけではないだろうな」
ダンテ「そんなまさか。あんたの顔なんて嫌でも忘れられねぇよ。悪夢に出てきそうなくらいにな」
ダンテの軽口に、バージルの張り詰めていた空気が僅かに緩む。
閻魔刀へ伸ばしていた手から力が抜け、先ほどまでの殺気も静かに消えていった。
ダンテ「……じゃあ、話は戻すとして場所を変えようか」
バージル「……ここでは話せない内容か?」
ダンテ「まぁな、ここじゃあ、あんたの生徒に聞かれているかもしれないし、大人の秘密ってやつだ!」
そう言って、ダンテは念のためとばかりに執務室を見渡す。
バージル「……当番生徒はもう帰って、今シャーレは無人だが?」
ダンテ「いやいや、そういうことじゃなくてな」
バージル「……?」
ダンテ「シャーレに盗聴器をつけられてたり、外出する度に生徒に監視されてる可能性がな」
バージル「ないな……」
ダンテ「まじか!? プライバシーとかちゃんとあるのか!?」
バージル「あたかもされたような言い草だな……」
事実なのか、ダンテは気まずそうに目を逸らす。そして、何事もなかったかのように話を戻した。
ダンテ「………まぁそういうわけだから、どこか遠く生徒がいない場所で話そうか」
バージル「良いだろう」
そう言うと、バージルは閻魔刀で空間を十字に斬り裂き、ポータルを開いた。
それを見たダンテは、腰に差していた閻魔刀を軽く抜き、苦笑する。
ダンテ「いやぁ、それ便利だな、俺も使えるように努力はしたんだが全然上手く扱えなくて、山海經へ行こうとして振るったら、レッドウィンターに繋がっちまってさ」
バージル「お前は魔具を適当に扱いがちだ」
「……はぁ」
「まぁいい、人目のない場所なら、アビドスが適任だろう」
・・・・・
~アビドス砂漠~
バージル「此処でいいだろう。周囲は一面砂漠だ。生徒に聞かれることもない 」
ダンテ「オケ―、それじゃあ本題、率直に話すぜ」
そう言うと、先ほどまで浮かべていた笑みが消えた。
ダンテは表情を引き締め、バージルと向き合う。
ダンテ「……俺がいた世界に来てくれ」
バージル「……は?」
ダンテ「あぁいや、もうちょっと具体的に言うとだな」
「俺がいた世界で、とある悪魔を倒すために手伝ってくれって話だ」
ダンテの頼みを聞いたバージルは眉をひそめ、信じがたい話を聞いたかのように表情を引きつらせた。
バージル「愚問にもほどがある」
「……俺は帰る」
バージルは踵を返そうとする。
ダンテ「おい、待てって……」
バージル「重要な話だと思って真面目に聞いた結果が……悪魔の打倒に協力だと?」
「今の俺たちの敵になる悪魔など、ほとんどいない」
「そんな話のために呼び出したというのか……」
ダンテ「……まぁ確かにな」
ダンテはそう言うと、僅かに俯き、黙り込んだ。
バージル「……何を黙っている?ダンテ」
ダンテ「相手になる悪魔がいない……か」
「……そうだったら、どれほどよかったんだろうな」
ダンテはそれだけ呟くと、俯き気味に視線を落とした。
その顔には、どこか遠い過去を思い返すような、重苦しい色が浮かんでいた。
バージル「……まさか、今のお前でも倒せないほどの存在がいるとは言わないだろうな?」
ダンテ「いや、そのまさかさ」
「そいつは……悪魔なんて言葉じゃ収まらねぇ存在だ」
その言葉を聞いたバージルは、僅かに目を見開いた。
数秒の沈黙。
バージルは、未だにダンテの言葉を信じ切れてはいなかった。
むしろ、何かの冗談か、あるいは自分を騙そうとしているのではないかと疑っている。
それでも、確かめるように口を開いた。
バージル「……その悪魔の名は?」
ダンテ「ない──」
バージル「……は?」
ダンテ「その悪魔には名なんてない」
バージル「……そんな生まれたばかりの悪魔に負かされたのか?」
バージルの問いに首を横に振るダンテ。
ダンテ「いや、その逆だ」
バージル「逆?」
ダンテ「あらゆる悪魔の始祖。悪魔という種族、その始まりの存在だ」
バージルは何も言わず、ただ黙ってダンテの話を聞いていた。
ダンテ「その悪魔は、自身をこう呼んでいた」
『最古の悪魔』
ダンテ「――そう名乗っていた」
バージル「最古の悪魔、聞いたことがないな」
ダンテ「あぁ、俺も最近知ったことだ。たぶんトリッシュも知らないだろうな」
母の顔を被った悪魔――トリッシュですら知らない。
その言葉を聞いたバージルは、過去の記憶を辿るのをやめた。
悪魔について博識なトリッシュが知らないのであれば、自分がいくら記憶を探ったところで知る由もない。
ならば、これ以上考えるよりも本人から聞いた方が早い。そう判断したバージルは、ダンテへと問いかける。
バージル「……手は交えたのか?」
ダンテ「あぁ、交えた……覚えている限り一戦だけだがな」
バージル「……どうだった?」
ダンテ「……敵わなかった。どう足掻いても勝てなかった」
バージル「今のお前がか」
流石に話が大きすぎるのではないか――そんな疑念が、バージルの脳裏をよぎる。
ダンテ「あぁ、俺が出し尽くせる力はほとんど使った」
「だが、精々、出血させるのが限界だった。傷は一瞬で再生されてな……あの時は一周回って笑うしかなかったぜ」
バージルから見て、ダンテは決して侮れる男ではない。
そのダンテ自身が、力の差を認めている。
ならば、相手は自分の想像を遥かに超えている可能性も考えなければならない。
バージル「……仮に聞くが、俺が加わったところで勝機はあるのか?」
ダンテ「分からねぇ」
返ってきたのは、迷いのない短い一言だった。
バージル「……勝算も無い戦いに俺を巻き込むつもりか」
ダンテ「いや、勝ち筋が無いわけじゃねぇ」
「ただ、それで本当にあの化け物を倒せるかは分からねぇって話だ」
ダンテはそう言い切った。
その口調には迷いがなく、冗談や無謀な賭けに出ているような様子もない。
少なくとも、ダンテには何かしらの勝ち筋が見えている――そうバージルは察した。
バージル「なるほど。勝機はあるが、確証はないというわけか」
ダンテ「それでもだ。あんたは、色彩の嚮導者だった俺を相手に、同等以上に戦った」
バージル「……色彩という理解不能な力に染められていた貴様に勝ったところでな 」
ダンテ「染められって、別に俺の体に変化はないぜ。力が衰えたわけでもない」
「でもよ、シロコには色彩っていう重荷を背負ったまま、何も残らない世界で一人きりの未来を歩いてほしくなかった」
「先生ってのはさ。子供の代わりに重荷を背負う仕事だろ」
「生徒が幸せになるはずだった時間や、思い出、青春のすべてを奪われるなんて……そんなの、見過ごせるわけがないだろ」
「だから、色彩は俺が肩代わりしたのさ、まぁ、色彩が生徒にどんな作用を起こすのかは、詳しくは知らないけどな」
バージル(……責任ゆえの行動か。時間軸は違えど、ダンテはダンテだな)
ダンテ「まぁ、生徒じゃないからなのか、それとも半分は悪魔のおかげなのか……理由は分からねぇが、俺には色彩の影響が全くなかった。運が良かったってことだな」
「まぁ、つまり……色彩を上手く利用させてもらったってわけさ」
先生としての責任を背負い、色彩すら利用してシロコを救おうとするダンテ。
その行動が生徒を思ってのものだということは、バージルにも理解できた。
だが、それでもなお、そこまでして一人の生徒を救おうとする理由までは理解できない。
バージル「そこまでする動機はなんだ」
ダンテ「動機か、そうだな……俺がここまで来た目的は二つあってな。一つはシロコ。俺の世界で最後に残った、たった一人の生徒だ。あいつを孤独から解放すること」
「二つ目は俺を負かした相手、俺より強い者と共闘し悪魔の討伐。この二つだ」
バージル「そんなことを考えていたのか。お前の所の砂狼からは、そんな雰囲気など感じられなかったがな」
バージルは、別時間軸のシロコがこれまで見せてきた言動を、改めて脳裏に思い浮かべた。
ダンテ「シロコには……説明していないな、何せあいつは今も罪悪感を抱き続けてる、これ以上子供に重い罪を背負わせるわけにはいかないし」
「俺が先生として最後に出来ることは、あいつを孤独から解放することだったさ」
「……ネロみたいに、何も知らないまま罪を背負わせるわけには……いかないためにもな」
ダンテの小声は、バージルの耳には届かなかった。
しかし、神妙な面持ちを浮かべるダンテの様子を見て、バージルはあえて追及せず、話を進めることにした。
バージル「?……まぁ、いい大方理解した」
「だが一つ言いたいことがある」
ダンテ「なんだよ?」
バージル「そんなことなら、やり方があったはずだ。変にキヴォトスを危険に晒すな」
ダンテ「おい、バージル、お前が言うか!!」
あまりにも正論だったため、バージルは反論することができず、黙り込んだ。
ダンテ「まぁ、取り敢えず賭けには勝ったわけだ。願ったり叶ったりだぜ」
バージル「……賭け?」
ダンテ「いや、気にするな、こっちの事情だ」
「アトラ・ハシースも結果として見れば、動力はあれど機能停止にできたしな」
「あとは悪魔を倒して一件落着かな」
バージル「別に、まだ共闘をするとは」
ダンテ「頼むよバージル、このままじゃあの悪魔ジジィを倒せず、人間界が魔界へひっくり返っちまう──そうなったらネロ達がどんな目に遭うか」
バージル「知ったこ……」
ダンテの口から出た「ネロ」という名前に、バージルは思わず言葉を止めた。
ダンテ「……?どうしたんだ、急に黙り込んで」
バージル「……ネロは、生きているのか?」
ダンテ「俺がここへ来る前までは生きてた」
「その後は……分からねぇ」
バージル「……そうか」
ダンテ「まぁ、クリフォトの根を閻魔刀で切り倒しに行く直前まで元気にしてたしな。何もなければ生きている」
「でも……もしこのまま最古の悪魔──老魔を放っておいたら、恐らくは命を落とすことになるかもな」
ダンテが口にした最悪の可能性に、バージルの表情が僅かに強張った。
バージル「……」
ダンテ「あとはそれだけじゃない、俺とシロコが此処へ来た痕跡、足跡はまだ残ったままだろうし、このまま放っておくべきではないだろ?」
「お前の世界と俺の世界にいる最古の悪魔……二体が動き出すかもしれねぇ」
「そうなれば、俺たちは二体を同時に相手取ることになる。手なんて組まれちゃあ、勝機は確実に無くなるだろう」
さらなる最悪の可能性を聞き、バージルは静かに決意を固めた。
バージル「……たしかにな。キヴォトスも、元いた世界も危険に陥るかもしれん」
「いいだろう、ダンテ、乗ってやる、その戦いに」
バージルが協力を承諾すると、ダンテは何故か黙り込んだ。
バージル「なんだいきなり黙り込んで」
ダンテ「いや誰だよ」
目の前にいるバージルが、自分の知る兄とはあまりにも違って見えたのか、ダンテの口から思わずそんな言葉が漏れる。
バージル「俺は俺だが」
それに対してバージルは、至って真面目な顔で率直に返した。
ダンテ「俺の知ってる兄貴だったら、『キヴォトスが危険に陥る? 知ったことか』って言うはずだろ」
バージルはしばし黙り込んだ。
何か言いかけては止め、結局、別の言葉を選ぶ。
ダンテはそれを急かすことなく、黙って待っていた。
バージル「勘違いするな。俺が困るのは、キヴォトスが消えることだ。それだけだ」
ダンテ「……はいはい、なんか諸事情がありそうだし、深くは聞かないでおくぜ。ざっと時間軸のズレってことで考えておくよ」
バージル「……それより、さっさとお前のいた世界? 未来だったか、行くぞ」
ダンテ「そうだな」
「じゃあ、今から崩壊したアトラ・ハシースに行くか」
バージル「……何故、箱舟に行く必要が?」
ダンテ「あれを使えば過去とか未来とか関係なく繋ぐことができる。まぁA.R.O.N.A曰く色々面倒な条件があるけどな」
「ま、取りあえず、バージル」
ダンテはそれ以上何も言わず、バージルのほうを見る。
その意図を察したバージルは、深いため息を吐いた。
バージル「……はぁ、俺が開くのか」
バージルは閻魔刀を振るい、アトラ・ハシースへと続く通路を開いた。
ダンテとバージルは、先週まで互いに敵として戦っていた場所へと足を踏み入れる。
今回登場したオリキャラ、この作品で最初で最後のオリキャラとなります。
そして今回から名前……というより二つ名?が出てきた「最古の悪魔」について。
中二感のある名前ですが、どうか温かい目で見ていただければと思います。