Vに強引に起こされたダンテは、原点に立ち返るかのように、バージルと共に育った故郷へと帰ってきた。
ダンテ「こりゃあ、驚いた……思ったよりまともに残ってやがる」
何十年も前、兄弟とその家族が暮らしていた家は、崩れかけてはいるものの、今も原型をとどめていた。
家の中に入ると、壁には四人が写った家族写真が、当時と変わらぬ場所に飾られていた。
そのとき、グリフォンが、ようやくダンテのもとへ追いついた。
グリフォン「いたいた、やっと見つけた!……はぁはぁ」
「おい、ここに来て何やってんだよ!」
「なぁ?……ダンテってばよ!」
グリフォンの呼びかけを無視し、ダンテは家族写真へと歩み寄った。そして、写真を見つめたまま、独り言のように口を開いた。
ダンテ「俺の中に眠る悪魔の力が目覚めたのは……バージルにコイツを胸へ突き立てられたときだった」
刃は折れ、持ち手と、わずかに尖った刃先だけが残されたリベリオン。ダンテはそれを見つめたまま、再び口を開いた。
ダンテ「ずっと考えていた。親父が何故俺にリベリオンを託したのか」
グリフォン「あぁ、今話すことかよ、それ?」
ダンテ「俺は散々いろんな奴に刺されてきたが、こんな日が来るとはな」
そう言うと、ダンテはリベリオンを自らの腹部へと突き立てた。
グリフォン「おい! イカれちまったのか、魔王を倒すんだろ?」
「なあ、おい、自殺とかバカー!」
ダンテ「ぐっ……閻魔刀は人と魔の両者を別つ、だとしたらリベリオンは……」
すると、リベリオンは燃えるような赤い光を放ち、粒子となってダンテの中へ吸い込まれていった。
それと同時に、背中に携えていた魔剣スパーダも粒子となり、リベリオンと同じようにダンテの中へ吸い込まれていった。
グリフォン「おい、まさか、スパーダを吸収してるのか!?」
これまでに味わったことのない変化が、ダンテを襲った。苦しみを受け入れるかのように両腕を広げたダンテは、従来の悪魔化とは異なる姿へと変貌を遂げた。
荒い息を吐きながら、ダンテは高く飛び上がり、ユリゼンのもとへと向かった。
ダンテ(あいつは、ネロに倒させるべき相手じゃない……早く!)
クリフォトの中央部にある、ユリゼンがいると思われる場所へとたどり着いた。しかし──
ネロ「何だあの悪魔は……」
ダンテ(まじかよ……)
ダンテは目の前の光景に、思わず足を止めた──。
ネロはその場に座り込んでいた。全身に血を浴び、その隣には崩れ始めたユリゼンが横たわっていた。
ネロ「いや、まさか……ダンテなのか!?」
ダンテの気配を感じ取ったネロは、驚きの声を上げた。
ダンテは新たな形態を解き、いつもの姿に戻ると、ネロのもとへ歩み寄った。
ネロ「見せ場は俺がもらっちまった、あんた遅すぎるんだよ」
ネロは得意げな笑みを浮かべ、ダンテを見た。
ダンテ「……ネロ、お前がやったのか?」
ネロ「ああ、そうさ! これで証明できただろ? 俺はもう、あんたの足手まといなんかじゃねえってな!」
一か月前、ダンテに「足手まとい」と言われたことが、ネロの心にはずっと引っかかっていた。
今回の勝利で、以前の言葉を覆してみせる。ネロはそう考えていた。だが、ダンテの反応は、彼が期待していたものとは違っていた。
ダンテ「……いや、そういう意味で言ったんじゃねえんだがな」
ネロ「……どういうことだよ?」
そのとき、地面が大きく揺れた。振動はクリフォトの根全体へと広がっていく。
ネロ「何だ!? いったい何が起きてる?」
V「クリフォトの根が……完全になってしまった……」
声のした方へ二人が目を向けると、杖をついたVがこちらへ歩いてくるのが見えた。足取りはふらつき、今にも倒れそうだったが、それでも力を振り絞って二人のもとへ近づいてきた。
ネロ「V! お前、ボロボロじゃねえか。大丈夫なのか──」
V「……ユリゼンは敗れたのか?」
ネロの言葉を遮り、Vは崩れゆくユリゼンへと目を向けた。
ネロ「ああ、俺がやったさ」
V「そうか……それは哀れな最期だったんだろうな」
そう呟いたVは、しばらくユリゼンを見つめていた。やがて、何かを悟ったように目を伏せる。
V「となると……俺は、もう戻れないのか……」
ネロ「……どういう意味だ?」
Vの言葉に疑問を抱いたネロが問い返そうとした、そのときだった。
ダンテ「……それより、クリフォトの根が完全になったってのはどういうことだ?」
V「言葉どおりの意味だ。魔界と人間界が一体になってしまった。このまま放置すれば、人間界は魔界へと変わり果てるだろう」
ネロ「だったら、手遅れになる前に止めねえと!」
ダンテ「……そうだな」
ダンテは足元に落ちている閻魔刀へと目を向けた。
ダンテ「兄貴……いや、あいつが持っていた閻魔刀を使えば、魔界と人間界をつなぐ扉を閉じられる。そこに落ちてるやつだ」
そう言うと、ダンテは閻魔刀へと歩き出した。
V「まて、ダンテ」
彼の背中に向かって、Vが声を上げた。
ダンテ「……何だ、ポエム野郎」
V「俺と一勝負しろ」
ネロ「っ! ……何言ってんだ、V! こんな時に仲間割れなんか──」
状況を理解できず、驚いた表情を浮かべながら、ネロはVへと近づいた。
V「……これは、今の俺が決めた目標だ。誰にも拒まれる筋合いはない」
ダンテ「……いいぜ、やってやるよ」
ダンテは迷うことなく、魔剣ダンテをVへと向けた。
それでも、二人が何をしようとしているのか、ネロには理解できなかった。
ネロ「おい、二人とも、一体何をしようとしてるんだ!?」
ダンテ・V「「ネロ、お前は黙っていろ」」
二人の剣幕に押され、ネロは何が何だか分からないまま、口をつぐんだ。
???「俺たちを忘れちゃあ困るぜ」
ダンテ「何だ、お前たちもやる気かよ?」
グリフォンが高度を下げ、Vのもとへ舞い降りた。一方、Vの背後からはシャドウも姿を現した。
グリフォン「そりゃあもちろん! Vちゃんと俺たちは一心同体みたいなもんだ。やられたら俺たちはアウトー!」
「だけど、相手があんたなら俺たちも話が変わってくるもんだぜ。何でかって? それはなぁ! かつて俺たちをぶち殺してくれた、てめぇへの復讐だ!」
「俺たちを思い出せないとは言わせないぜぇ~、ダンテちゃん?」
ダンテ「どうりで、どっかで見たツラだと思ったぜ。だが、俺相手に挑むのか? もっと平和的な解決方法があるはずだろうに……命は大事にするもんだぜ? なあ、チキン野郎?」
V「ダンテ、お前なら薄々気づいているかもしれないが、ユリゼンと俺は元々一心同体だった」
ダンテ「……やっぱりそうか。それで? 今のあんたは、その片割れの復讐でもするつもりか?」
V「復讐か……間違いのようで、間違いではないな」
「俺とユリゼンでは、強さに必要不可欠なものについての考え方が違っていた。だが、互いに分かたれた後も、同じ目標を持っていた」
ダンテ「ほう、それって何だ? 何か大きな目標でもあるのか?」
V「それは……ダンテ、お前に勝つことだ!」
Vは声を張り上げると、指を鳴らした。
すると、Vの髪が白く染まっていく。同時に、地面からナイトメアが這い出てきた。
ダンテ「勝つためか……ふっ、あんたらしい考え方だな。その根性には敬意を表するぜ……V」
「いいぜ。あんたがそれを望むなら、俺も敬意を持って相手をしてやる」
こうして、ダンテとV、そしてVの使い魔たちによる、最後の兄弟喧嘩が始まった。
しかし、勝敗は初めから分かりきっていた。
最後まで余裕を崩さずに立っていたのは
──ダンテだった。
ダンテ「最初から、戦っても勝てないことぐらい分かっていたんじゃないか……V?」
Vの使い魔たちは地面に倒れ込み、その身体も少しずつ崩れ始めていた。
一方、Vも力を使い果たしかけていた。杖を地面に突き立て、片膝をつきながら、苦しげに息をついていた。
V「……ああ、分かっていたさ。俺ではお前に勝てないことぐらい、勝負をする前からな」
ダンテ「……これで気が済んだだろ……V? さすがのお前も、死にたいわけじゃないだろ」
Vの身体の崩壊は、さらに加速していった。
V「……まだだ。まだ……」
ダンテ「おい、これ以上は──」
さすがのダンテも、苦しげに息をつくVへ手を差し伸べた。
しかし、Vはその手を振り払い、口を開いた。
V「ダンテ……俺は、お前が憎かった。いや、俺たちはお前が憎かったんだ。常に俺たちの先を行き、同じ双子でありながら、何もかも恵まれていたお前が!」
Vの本心を聞き、ダンテは軽口を叩くことなく、黙って耳を傾けていた。
V「俺の身体が完全に崩壊すれば、この世からバージルという男は完全に消える」
ダンテ「……覚悟を決めてるんだな。自分の死を」
Vの言葉を聞いたネロは、黙っていられず二人の会話に割って入った。
ネロ「Vが死ぬって……生きられる方法があるかもしれないだろ!」
ダンテ「ネロ、それは野暮ってもんだぜ。男が死を覚悟している時に、生きられるなんて希望を持たせるのは……」
V「……ネロ、お前は甘い奴だ。俺たちよりも恵まれた環境で育ったんだろう……。それを大事にしろ……よ」
Vの身体は、ついに限界を迎えた。足や腕が、砂のように崩れていく。
ネロ「V……」
Vは力が抜けたように、その場へ崩れ落ちた。
そして、地面に衝突した瞬間、ガラスが割れるような音とともに、その身体は砕け散った。
===V視点===
Vは真っ暗な空間にただ佇んでいた。
V『これが死か……』
死を受け入れたつもりだった。だが、いざ死を迎えてみれば、恐怖がないわけではなかった。
暗闇と孤独が、Vの心を覆い尽くす。
怖い。
その感情が、Vの心を埋め尽くしていた。だが──。
グリフォン『何だよ、Vちゃん? 泣いてるのか?』
すると、Vの周囲に、彼に仕えていた魔獣たちが集まってきた。
V『……泣いていない』
グリフォン『ケッ、素直じゃねぇな。とはいえ、ダンテに負けたのは癪だよな。どうせなら、あいつの素っ頓狂な声でも聞きたかったぜ。そうだろ?』
シャドウ『グルル……』
グリフォン『ネコちゃんもそう言ってるぜ?』
V『……死んでも、お前たちと連れ添わなければならないのか』
グリフォン『心細くて泣いてたくせに、何言ってんだ? 言ったろ? 無様同士なら寂しかねぇって。死んでも俺たちはあんたについて行くぜ、Vちゃん?』
V『……ハ、そうか』
=========
Vの死を見届けたダンテとネロ。
二人はVと長い年月を共に過ごしたわけではない。それでも、彼の死を悼んでいた。涙こそ流さなかったものの、その表情には深い悲しみが浮かんでいた。
ダンテは閻魔刀を拾い上げると、再び歩き出した。
ネロ「おい! どこ行くんだよ、ダンテ?」
ダンテ「分かってるだろ。この根をどうにかしないといけない」
ダンテは、足元に伸びるクリフォトの根を踏みつけて示した。
ネロ「だったら、俺も一緒に──」
ダンテ「お前がいるから、俺は行けるんだ! ……ここはお前に任せる。いいな?」
ネロ「……」
ダンテ「それと、そこにあるVの遺品も頼んだぜ」
ダンテが指し示した先には、Vが常に持ち歩いていた詩集が落ちていた。
ダンテ「それじゃあ、ここは頼んだぜ、ネロ」
ネロ「待て! ダンテ!」
ネロが呼び止める声を上げたものの、ダンテは真魔人へと変身し、クリフォトの根を離れて飛び去っていった。
~魔界~
魔界にそびえるクリフォトの根。その前に、ダンテが立っていた。
ダンテ「ははぁん? これがその根か。随分と成長しちゃって」
閻魔刀を抜き、クリフォトの根を切り倒そうとした、そのときだった。根の一部にひびが入り、そこから巨大な犬が飛び出してきた。
ダンテ「これはたまげたなぁ、根から迷子のワン公が飛び出してくるなんて、飼い主はどうした? 一緒に探してやろうか?」
そのワン公は、三つの頭を持つ悪魔──かつてダンテが戦ったことのある種族だった。
キングケルベロス「ほざけ! 我が主である魔界の王がいなくなった今、番人としてこのクリフォトの根を守護するだけだ!」
ダンテ「番人なんて堅苦しい使命を背負うより、もっと自堕落な生活を送った方が人生……いや、悪魔生を楽しめるもんだぜ」
キングケルベロス「我を愚弄する気か、人間ごときが!」
ダンテ「ほれ、ワンちゃん、散歩してやる。こっちきな!」
キングケルベロス「この下等生物が!!」
ダンテ「楽しい散歩になりそうだ!」
次回からは番外編に入ります。
本編とは少し違い、バージルとキヴォトスの生徒たちの日常を中心とした話を投稿していく予定です。