本編のストーリーとは直接的な関わりが薄いエピソードも多いと思いますので、どうぞ気楽に読んでいってください。
ゲヘナ学園で大きなトラブルに見舞われたバージルだったが、どうにかそれを解決した。現在は、その帰り道──シャーレへと戻る途中だった。
ハルナ「あら、先生ではありませんか」
背後から声をかけられ、振り返ると、ゲヘナ学園でさまざまな問題を起こしている美食研究会がいた。
バージル「……美食研究会か。何の用だ」
アカリ「今から、最近おいしいと評判の回転寿司に行くところなんですが、先生もご一緒にいかがですか?」
バージル「寿司か」
イズミ「あれー? もしかして先生、お寿司を食べたことないの?」
バージル「あるにはあるが、遠い昔のことだ」
ハルナ「なら、一緒にいかがでしょう? 食を共にする方が多ければ、食事もより一層おいしくなることでしょうし」
アカリ「まぁ、先生に拒否権はありませんよ」
ジュンコ「いや、無理強いは良くな──」
バージル「わかった」
ジュンコ「いいの!?」
バージル「こういう場合、俺がどう断ろうと、聞き入れるつもりはないのだろう?」
バージルはどこか遠い目をしながら、呆れた表情で答えた。
ジュンコ「先生って、意外と巻き込まれやすいのね」
バージル「……」
・・・・
~回転寿司・店内~
ハルナ「それでは、この店の寿司がどの程度のものか確かめましょう。もし美味ではなかったら、爆破して──」
ジュンコ「ちょっ、やめてよ! また風紀委員長が来るじゃない!」
イズミ「まぁ、でも先生もいるから平気でしょ〜、そのときは共犯になるし」
バージルは彼女たちの会話を呆れた様子で聞き流しながら席に着き、黙って周囲の設備へと目を向けた。
すると、一つ気になるものが目に留まった。
アカリ「あら、先生。どうして固まっているんですか?」
バージル「……この蛇口は何だ?」
ジュンコ「それは熱湯──」
アカリ「それはお手洗い場ですよ。お寿司は直接手で食べることもありますので、衛生面には特に気を付けなければなりません」
「回転寿司店では、最初にこの装置で手を洗ってから食べるのがマナーなんですよ──」
バージルは蛇口を押した。
ジュワッ。
噴き出した熱湯が、バージルの指に直接かかった。
美食研究会「「「「あ」」」」
バージル「……っ!」
バージルは一瞬だけ反応を見せたものの、慌てて手を引くこともなく、ゆっくりと蛇口から手を離した。そして、熱湯がかかった手を反対の手でさすった。
ジュンコ「ちょっ、先生、大丈夫?」
イズミ「あはは、何やってるのさー、先生」
ハルナ「…………アカリさん、先生は初めてなのですから、そういう冗談は控えましょう。まぁ、失敗ありきの美食です」
アカリ「フフッ……ごめんなさい先生。本当に信じてしまうなんて。正しくは、湯呑みに粉末のお茶を入れて、黒いボタンを押すとお湯が注がれる装置なんですよ」
バージル「……先にそれを説明しろ」
バージルは、やや怒りのこもった声で言った。
・・・・
レーンに近い席に座っていたバージルは、美食研究会から雑用を押し付けられていた。
ハルナ「先生、エンガワを取ってください」
バージルは、流れてきたエンガワを取った。
アカリ「先生、タッチパネルでサーモンを十皿と、イカを五皿、玉子を七皿。それから……」
ジュンコ「あ、私、マグロを二皿」
バージルは無言でタッチパネルを操作した。
イズミ「んー、ワサビをのっけたハンバーグ寿司美味しい~」
バージル「……お前ら、俺を給仕係と勘違いしていないか」
ハルナ「いえいえ、そんなことはありません。ただ、先生が一番近くにいらっしゃいますので、お願いしているだけですよ」
あまりにも正論だったため、バージルは言い返すことができなかった。
その一方で、まだ寿司に一口も手をつけていないバージルに、アカリが声をかけた。
アカリ「先生は何か召し上がらないんですか?」
バージル「種類が多い。もう少し考えさせてくれ」
ジュンコ「いや、普通に食べればいいでしょ」
とりあえず何か食べようと考えていたところ、ちょうど大トロがレーンに乗って流れてきた。バージルはそれを取った。
ハルナ「醤油やワサビなどありますのでお好きな量を取って食べてください」
ハルナはバージルの近くにワサビと醤油を置いた。
イズミ「あ、先生、ワサビをいっぱい入れるとおいしいよ」
バージル「……そうなのか?」
イズミ「そうそう♪」
そう言って、イズミはワサビを山盛りにした寿司を平然と平らげた。
それを見たバージルは、ワサビの刺激もさほど強くはないのだろうと判断したのか、小皿に盛られたワサビを山盛りにすくい取り、寿司の上に乗せた。
ジュンコ「いや、入れすぎでしょ!?」
バージルは、そのまま寿司を口に運び、飲み込んだ。
直後、バージルの動きが止まった。深く息を吸い、上を向いて鼻を押さえる。やがて息を吐き出すと、湯呑みのお茶を口に流し込んだ。
バージル「……刺激が強い。正直、ワサビの味しかしなかった」
ジュンコ「そりゃそうでしょ!?」
会計時──
会計は、数人で食事をしたとは思えないほどの金額に膨れ上がり、合計は数万円に達していた。バージルは、やや不服そうな表情を浮かべながら会計を済ませようとしていた。
店員「兄ちゃん、回転寿司は初めてか?」
バージル「……それがどうした?」
店員「ワサビをそんなに乗せる人、初めて見たわ」
「兄ちゃん、面白いなぁ。見てたら、つい笑っちまったよ。ははは!」
どうやら、バージルの慣れない行動が店員のツボに入ったらしい。店員は悪気もなく、その様子を思い出しては笑っていた。
その様子を後ろで見ていた美食研究会は、ひそひそと話し始めた。
ハルナ「食というものを、単なる笑いの種にするとは……」
「お客様がどのように食を楽しもうと、それを嘲笑するなど論外です。そのような店に、真の美食を語る資格はありません」
アカリ「どうします、ハルナさん?」
ハルナ「断言します。この店の評価は、私の中で急落しました。爆破しましょう」
アカリ・イズミ「「はーい」」
ジュンコ「ちょっと、また!?」
美食研究会は、いつものように爆破の相談を始めた。
そして、ハルナはリモコン型の起爆スイッチを押した。
アカリ「先生、外に出ましょう」
バージル「は?」
バージルは訳も分からないまま、美食研究会に引っ張られるようにして店の外へ連れ出された。
店員「おい! まだ会計が済んで──」
ドゴーン!
爆破された店を、バージルは黙って見つめていた。そして、この光景を目の当たりにしたことで、一つの疑問が解けた。
バージル「……なるほど。空崎がこいつらを追う理由が分かった」
ハルナ「それでは先生、次のお店にいきましょうか」
バージル「……まだ行くのか」
ハルナ「先生には本当の美食というものを体験してほしいのです。それまで諦めずに連れて回ります」
また振り回されるのか、と不服そうな表情を浮かべるバージル。そのとき、一人の生徒が歩いてきた。
???「はぁ……被害が出たと聞いて来てみれば」
「また、あなたたちなのね」
ハルナ「あら、ヒナさん」
ヒナ「あなたたちは、どれだけ治安を悪くすれば気が済むの……?」
バージル「……」
ヒナ「先生!? どうして先生がここに……?」
ハルナ「先生には、これから美食というものを教えてあげたいと思いまして」
ヒナ「そう……。それで、今回はどういう理由で爆破したの?」
ハルナ「私の美学に反する店でしたので、これまでの店舗と同じ目に遭わせました」
アカリ「先生の悪口を言っていましたしね」
ヒナ「先生の……」
数秒間沈黙して考え込んだヒナは、やがて美食研究会とバージルに向き直った。
ヒナ「なるほど、大方理解できたわ」
「先生は今回、巻き込まれた被害者ということにさせてもらう」
「残りのあなたたちは、鉄格子の中でしっかり反省してもらうわ」
ハルナ「皆さん、走りますよ」
アカリ・イズミ「「はーい!」」
ジュンコ「ちょっと、待って!?」
ヒナ「待ちなさい!」
美食研究会はバージルを残して逃げ出し、ヒナはその後を追っていった。
彼女たちの背中を黙って見送ったバージルは、小さく呟いた。
バージル「……帰るか」
今後もこういった、本編とは少し趣の異なるお話を書いていく予定です。