『神造』の英雄   作:蘭陵

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10.梟の報せ

「あなた、私に対してだけ当たりが厳しくありませんか!!!!」

 目を覚ましたレフィーヤが、激昂する。まあ女性の髪を掴んで投げ飛ばすなどという蛮行をされては当然だろう。

「そんな掴みやすそうな髪型であるのが悪い。まさか女であれば、モンスターが手加減してくれるとでも思っているのではあるまいな?」

 それをノアは一太刀で斬り捨てる。とはいえ正論であり、レフィーヤの勢いが萎んだ。ノアはそこにさらに畳みかける。

「形から入るのが正しいわけではないが、貴様の武器も防具も後衛魔術師のそれだ。近接戦の技巧は論外。つまり、何も考えていない。そういう前衛に憧れる『だけ』の魔術師は、『悪しき魔法剣士』になりやすい」

 だから最初に、価値観を叩き潰す。華麗に敵の攻撃を捌き、一撃必殺の魔法を叩き込む。理想は正しく美しい。だがそのためには、近接戦も魔法も、一流以上に使えねばならない。

「怠れば、どちらにも中途半端な屑が出来上がる。それが『魔法剣士』という道だ。憧れるだけなら止めておけ」

 

「~~~~~!!!」

 全否定された怒りを隠せず、といって言われていることは正論で反論できず、レフィーヤはぐぎぎと歯を鳴らして睨みつけた。それに対し、ノアはどこ吹く風だ。

「……それにしても貴方、どうしてLv.2でそんなに強いんですか」

「俺の実力はLvで測れん。それだけだ」

 まるで第一級冒険者と対峙したようだった。確かに、それだけの実力者なら、【ロキ・ファミリア】といえど好誼を持っても損はないだろう。その点については、レフィーヤも納得できた。

 

 しかし、『魔法剣士』については、理解は出来たが納得は出来ない。

(やってやろうじゃないですか)

 一人前の『魔法剣士』になって、きっと見返してやる。ここまで見下されて、何もせずすごすご帰ってなるものか。何より、とにかくその横面に一発ぶちかまさなくては、気が収まらない。

 

 ―レフィーヤ・ウィリディス、朝の訓練に参加決定。

 

 

「……レフィーヤ、大丈夫?」

「……うう、……はい」

 とはいえ、ノアの教え方は結構酷烈(スパルタ)である。

「『並行詠唱』の前に、近接戦に慣れろ。敵の攻撃に怯えながらでは、ろくに魔力も練れん」

 そう言い、レフィーヤに詠唱を禁止させた。後はボロボロになるまで叩きのめした。結局レフィーヤは、ノアに一発も入れることが出来ずに倒れ伏したのである。

 

「次は私と、お願いします」

 何か今日は、リースが怖い。Lv差とは関係なく、アイズであってもそう感じる。そう言って、ほぼ休憩なしでノアと戦い続けている。必死のリースだが、傍目からは導かれているようにしか見えない。

「……やっぱり、私と扱いが違う」

 その様子を見ていたレフィーヤが恨みがましく言う。とはいえ、Lv.3のレフィーヤとLv.1のリースでは扱いが違うのは当然だろう。そう言うと、レフィーヤは何故か安堵の息を吐いた。

 

「それで、あなたの方ですが……」

 ぎろり、とレフィーヤに視線を向けられたベルが、「ひっ!」と小さく叫ぶ。もはやレフィーヤが恐怖の対象として、本能に刷り込まれてしまったようである。

「アイズさんが許す、と言うのですから、今回だけは大目に見ることにします。……ですが、次はありませんよ。訓練の最中に事故を装っても、無駄です」

 というか、本当に事故だったとしてもレフィーヤは魔法をぶっ放すことであろう。

 

「あの……、レフィーヤ、さん」

「何ですか」

 恐怖を抑え込んでおずおずと話しかけてきたベルに対し、レフィーヤの態度は取り付く島もない。それでもベルは一度生唾を呑み込み、意を決して言った。

「……レフィーヤさんは、凄い魔術師なんですよね?」

「んなっ!」

「…うん。レフィーヤは、凄いよ」

 いきなり何を言うのか、おだてても何も出ない、けど称賛されればやはり嬉しい、といろいろな思いで言葉に詰まったレフィーヤに対し、即答したのはアイズである。

「……そんな凄い人が、どういう理由でさらに上を目指すんだろう、って、聞いてもいいですか?」

 

「………」

 そんなこっぱずかしい事を、ろくに知りもしない貴方に教えるわけないじゃないですか。そう言おうとしたものの、隣ではアイズが興味津々という表情で覗き込んでくる。……どうにも断れない。

「……私を含めて魔術師という存在を蔑んだり卑下しているわけではありませんが、やはり魔術師は『守られる』ことが前提の存在です。そこからの脱却を目指しても、ごく当たり前の考えでしょう」

 レフィーヤの答えに対しアイズは「それだけ?」と首をかしげる。この人は、こういう話題には滅茶苦茶鋭い。真実ではあるが、建前に過ぎない事を見抜かれている。

「……あとは、『憧れ』ですかね。冒険者になる前、凄い魔法剣士を見たんです」

 詳細は話さなかったが、その答えにアイズも満足したようである。三年前のことだ。その人はレフィーヤの魔砲(アルクス・レイ)より凄い砲撃で、階層主(ゴライアス)を一人で倒して見せた。

 

「……次は、ベルとレフィーヤで、戦ってみようか?」

 少し考え込んで、アイズが突拍子のないことを言い出した。ベルは「え?」と困惑し、レフィーヤは「んなっ!」と再び言葉に詰まる。だが、アイズなりに考えた提案だ。

「……『並行詠唱』の練習なら、まずはベルを相手にしてみるのがいいと思う」

 ノアや自分では強すぎて、たとえ禁止されずとも詠唱する暇などない。ベルが相手なら、余裕もできるだろう。逆にベルには、難しいとは思うがLv.3を相手に詠唱を止められるかという、わかり易い課題ができる。

 

「………」

 ベルがちらりとレフィーヤの方に視線を向けると、ものすごく不満げな目で睨みかえされた。アイズに訓練を付けてもらいたくて参加したのに、というのが心の声だろう。

「……まあ、仕方ありません」

 再び内心の葛藤を結論付け、あくまで練習の為と割り切りレフィーヤが承諾する。そして実際、アイズの提案は理に適っていた。ベルが相手なら、レフィーヤも落ち着いて詠唱することができる。

 今日のベルは、ノアから借りた短刀二刀流。手本を必死で真似しているようだが、昨日までは一本だったせいか、まだ動きがぎこちない。

「【解き放つ一条の光 聖木の弓幹―】」

 レフィーヤの方は、既に二度並行詠唱に成功した。ノアにぼこぼこにされたことを思えば、ベルの攻撃は生温い。もちろんまだ実戦に耐えるレベルではないものの、近接戦をこなしながら並行詠唱に成功しているというのは、確実に一歩進んだと実感できる。

 

「【汝、弓の名手なり―】

 ―のだが、少々慢心していたのではないだろうか。所詮はLv.1。Lv.3の自分なら、苦手な近接戦でもあしらえる。左右の短剣、どちらで斬りかかられても、防げる。

「やあぁぁ!!!」

 ベルが選んだ手は、体当たり(タックル)。全く想定していなかった攻撃に、レフィーヤは見事にすっころんだ。ベルと二人で転がりながら、魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を起こしかけ、辛うじて防ぐ。

「いたた……」

 見事に、一本取られた。今のは完全にこちらの油断である。やはり近接戦の経験が足りないのだと実感する。左右の手ばかり注視して、それ以外の攻撃を全く考えていなかった。

 

「……………」

 そこまではいい。それは自分の未熟だと、レフィーヤも思う。だが今の状況は、傍目から見れば、ベルに押し倒されて組み敷かれたようにしか見えない。手もあちこち怪しいところに当たっている。

「あ・な・た・と・い・う・ひ・と・は~~~~~~~~~!!!!!!」

 羞恥で真っ赤になったレフィーヤと逆に、ベルの顔は青くなる。Lv.3相手に一矢報いたという歓喜もどこへやら、「ごめんなさーーーーーい!」と叫んで跳び退る。

「やっぱり、許しませーーーーーーーん!!!!!!」

 目を吊り上げ杖を振り上げるレフィーヤに対し、ベルにできることは一つしかない。まさに脱兎の勢いで逃げたベルをレフィーヤが追う。アイズが状況を把握した時には、既に二人とも見えなくなっていた。

 この日、ヘスティアが留守の為ステイタスの更新は出来なかったが、仮に出来ていたらベルの敏捷値は過去最高の上昇を記録したに違いない。

 

 

「貴様が悪い」

 昼近くになり、ようやく戻ってきたベルとレフィーヤであったが、話を聞いたノアは一刀でレフィーヤに非があると斬り捨てた。日常ならともかく訓練中に体を触られたからと激昂するのは、『お上品な妖精』でいたいという思いを捨てきれないからだ。

「………残念だけどレフィーヤには、まだ覚悟が足りない」

 アイズも、厳しい意見だとは想いながらも、それに賛同する。前線に出るのだ。血を頭からかぶり、体液でべとべとになることもある。モンスターに組み敷かれることもあるだろう。華やかな面ばかりを見て、辛いところを見ようとしていない。

 

「ア、アイズさん……」

 アイズにまで否定されたレフィーヤは、思い切りしょぼくれて帰って行った。言い過ぎたかとアイズがなだめようとするも、「一人にしてください」とにべもない。

「この程度で諦めるなら、『魔法剣士』など目指さない方が良い」

 ノアは相変わらず、感情の薄い声で切り捨てた。どこぞの狼のように罵倒することはないが、少なくとも一理はある正論を容赦なく叩きつける。人を傷つけるという点ではどっこいどっこいだろう。

 

 拒絶されたとはいえ、やはり可愛い後輩が気になるアイズはレフィーヤの後を追っていった。時間も時間だし今日の訓練は終わりだろう。ノアも歩き出そうとしたが、リースが引き留めた。

「…あの、ただ訓練を付けてもらうのも悪いと思ったので、お昼を作ってきました。…その、よければ、ですけど」

 重鎧に大楯に剣といういつもの装備に加え、今日は何やら大きめのバスケットを持ってきていた。何かと思っていたら、三人分の昼食だった。自分とノアとアイズの分らしい。

「ベルさんには作ってくれる人がいるじゃありませんか」

 おいしそうだったのでつい手が伸びたベルの手をはたき落とし、有無を言わせぬ圧でリースが言う。笑顔なのに目が笑ってない。引き下がったベルは大人しく自分の分をほおばることにした。

 

「美味いな」

 ノアが短く言う。無表情で食べながらだから、いまいち本心かわからない。リースが微妙な表情をしているのを傍目に、ノアはどんどん食べ進めていく。

「……あの、ノアさんとアイズさんって、どういう関係なんですか?」

 そんな中、リースが聞く。ノアは本気でわからないという様子で「どういう意味だ?」と聞き返した。食べる手も止めまじまじと見つめてくる姿に、リースも安堵の息を吐いた。

 

 そこに一羽の梟が飛んできて、手紙を落として去っていった。

「………すまないが、しばらく留守にする」

 梟が持ってきた手紙を一読し、舌打ちを一つすると立ち上がる。「知り合いから依頼(クエスト)でも頼まれましたか?」と聞いたベルに「そんなところだ」とだけ言い、次の瞬間には、【無影脚】で消えていた。

 




ベル君の異性の好みが「金髪、長髪、エルフ」である点について。
これって前世の妹のイメージ(山吹色も大枠では金髪系だろうから)では……?
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