『神造』の英雄   作:蘭陵

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14.幼女神戦争(マスコット・ウォーズ)

「……ボクは悲しいよ。……とっても悲しいよ、ベル君」

 機嫌を直して下さ~い、というベルの声にも、ヘスティアは反応しない。『神の宴』から彼女が何をしていたかと言えば、神友のヘファイストスに頼んで、ベルのための武器を作ってもらっていたのだ。

 前々から、ベルはヘファイストス・ブランドの短刀に憧れていた。それを知っていたヘスティアは、ベルの力になるなら「それしかない」と思ったのだ。

 とはいえその短刀を買うことなどできず、神友に頼み込んで特別に作ってもらった。鍛冶神特製の一品物である。その代償は2億ヴァリスというとんでもない借金となり、当然ながらそんな金など無いヘスティアはヘファイストスの店で働いて返すことになったのだがー。

 

 出来上がったのが、ちょうど『怪物祭』の当日。出遅れたヘスティアはベルを見つけ出すことができず、騒ぎが起きて行ってみたら、大事な大事なただ一人の眷族が、地上に現れた怪物を撃退したところだった。

 そこまではいい。それだけなら、ヘスティアも「やったねベル君、流石ボクの眷族だ」とでも舞い上がって喜んだことだろう。

 だが『ダイダロス通り』の住人から拍手喝采を浴びるベルがいかにも業物の短剣を持ち、女の子をお姫様抱っこで運んでいた、となれば、話は別である。

 そこから翌朝まで、ヘスティアはずっとダークなオーラを背負い、狭い本拠の隅で体育座りを続けていた。

 

「くそっ!ヴァレン何某君に続き、ボクのベル君をたぶらかそうなんて、どこの鳶なんだ!!!」

 これはシルさんの事を伝えない方がよさそうだなー、とベルは黙秘を貫く。幸い、ヘスティアがやってきたのはシルを治療師(ヒーラー)に預けた直後。顔を見ることはできなかったので、黙っていればバレないはずだ。

「それより神様、この短剣なんですけど…」

 壁に向かっていじけるヘスティアの視界に、無理矢理短剣を入れる。ヘスティアも目利きではないが、業物だということは分かる。しかしベルが問題にしたのは、そこではない。

「ここに書いてあるの、神聖文字(ヒエログリフ)じゃないですか?」

 読めないにしろ、それっぽい文字であることはベルにも分かる。そう言われて、ヘスティアもようやくその短剣を、まじまじと見た。

 

「うん?なになに…。『この刃が貴方を守りますように。メーテリア』。……どうやら、人の名前とメッセージのようだね」

 つまりこの短剣は、大切な人への守り刀だったのだ。装飾過多なのも、そもそも戦闘で使うことが想定されていないためだった。

「道理で、宝石みたいに綺麗だなと思いました。……では、そのメーテリアさんを探せば、この短剣の持ち主も判りますね」

 ベルは表裏のない声で言った。

 

「……ああ、そうだね。………君はそういう子だよね」

 呆れたように、だがその真っ白な心を賛美するようにヘスティアが言う。少なくとも数百万ヴァリスは下らない業物を拾ったのだ。普通なら黙って自分の物とする。

「……うーん、まずはエイナさんに聞けば判るかな?」

 誰かは知らないが、こんな業物の短剣を送るなら、相当名の知れた冒険者である可能性が高い。ギルドの情報を参照すれば、どこのファミリア所属か判るだろう。

「……ボクはバイトに行ってくるよ。……おばちゃん、怒ってるだろうなー」

 思い立ってすぐ行動したので、バイト先に何も告げず『神の宴』に行き、そこからヘファイストスのところで泊まり込みで頼み込んでいたのだ。つまり3日ほど無断でサボったのである。

 当然ながらこっぴどく怒られたが、それだけで済んだのはヘスティアの『神徳』と言えるかもしれない。

 

 ところが―。

「あれ?今日は客足が何か鈍いぞ…」

 おかしいな、とヘスティアも気付く。彼女のバイト先であるジャガ丸君の屋台は、普段なら冒険者や街の人で賑わうはずだ。見た目は良いヘスティアがマスコットキャラとなることで、同業者にも決して負けることはない。

「やっぱり数日ボクがいなかったから…、って、いや、何か、全体的にお客が少ないような……」

 そこそこ客の入っていたはずの他の屋台も、今日にいたっては閑古鳥が鳴いている。それを思えば、ヘスティアの屋台は健闘している方だ。

「むっ、ここもそうか」

「あっ、タケ!」

 そこへ丁度やってきたのは、同じ神のタケミカヅチだ。彼もジャガ丸君の屋台のアルバイトをしており、ライバルではあるものの、バイト仲間という点ではヘスティアと親交が深い。

 

「タケ、何か知っているのかい?今日はやけにお客さんが来ないんだ。君の所もそうなのか?」

「中央広場に行けば解る。……しかし、ヘスティアも負けるとは」

 ヘスティアには何が何だか解らないが、中央広場に行けば解るということなので一緒に向かうことにした。タケミカヅチの深刻そうな顔を見れば、よほどのことがあったに違いない。

 ……確かに、「よほどのこと」ではあった。事件ではなく、ごく平和なことであったが。

 

「な、なんだこれは~~~~~!!!!」

 ヘスティアが思わず絶叫した。ある屋台に、人が次々に集まっていく。売っている物は、遠目でもパンだと判る。そして売り子をしているのは、自分も知っている幼女神だ。

「はいおつり。…いってらっしゃい、お兄ちゃん」

 フォルトゥナの言葉に、パンを買った男性客はでれーっとして去って行った。それだけでなく、通りかかっただけの男性冒険者まで、そそくさと行列に並んでいく。

「いってらっしゃい、お姉ちゃん」

 それを唾棄するように見ていた女性冒険者まで、次の女性客への対応でほんわりと相貌を崩し、行列に引き込まれていく。

 

「コラー、おさわりは禁止やー。イエスロリータノータッチ。基本やで基本ー」

 その行列を捌いていたのは、何とロキである。ヘスティアもタケミカヅチも、それで何となく状況は掴めた。そのロキの方も二人に気付いたらしく、にやけながら呼びかけてきた。

「おー、ドチビとタケミカヅチやん。どないしたー?」

 どないした、ではない。「やっぱり君の仕業か~!」と激昂するヘスティアに対し、ロキはあくまでもとぼけて言う。

 

「別に、ウチは何も悪いことはしとらへん。フォルトゥナが住んどったのがパン屋で、中央広場に出店を出せばきっと売れる思うたから、手回しをしただけやー」

 その点については、さすが【ロキ・ファミリア】の主神と言える。僅か数日でギルドの許可を取り屋台を用意してしまったのだ。ヘスティアなら、絶対に無理だったことである。

「ぐぬぬぬぬ~~~~~。君がそんな殊勝な奴なはずあるか!!!裏で何を考えているんだ!!!」

「ふふん、んなもん決まっとるやないか。パンが売れて、フォルトゥナと仲良くなるのが第一。第二は、ドチビ、自分から商店街のマスコットの座を奪うためやー」

 

「なんだとぉ!!!!!!」

 ヘスティアがさらに激昂する。前々からロキは、ヘスティアが商店街のマスコットキャラの様な立ち位置を確立していたのを、いけ好かなく思っていた。何より、ヘスティアが幼女(ロリ)と扱われるのが気に食わない。

「そ・こ・で、下界の子たちに真の幼女(ロリ)という物を教えたろと思ったんや―。いやでも、さすがフォルトゥナやねん。ここまでとは、ウチも予想外やった」

 話している間にも、行列はどんどん伸びていく。「売り切れー」と少女の声が響くと、並んでいた人たちは肩を落として散っていった。

「……ほんま、予想外やねん。もう売り切れたんか?」

 いくら何でも、まだ昼にもなっていないこの時間に売り切れるとは、ロキでさえも想像していなかった。

 

「ロキー、今日は一杯売れたよー」

「おー、さすがやなー。教えたようにやったら、大好評だったやろ?……しかし、こうなると、もーちょっと売り物のパン、増やさんとアカンな」

 それに対し、フォルトゥナは「えー」と声を上げる。彼女が反対した理由は自分の事ではなく、パン屋の夫婦のためだ。

「おじいちゃんとおばあちゃんが、寝る間もなくなっちゃう。だから駄目」

 元々が家族経営の、近所のパン屋という規模の店である。今日は大目に作ってもらったが、これ以上となればキャパオーバーは確実だろう。

 

「わかっとるでー。非戦闘員として、ファミリアで従業員を雇うんや。そんで今の店を大きくしてもええし、支店を出すとか、パンは別のとこで焼く形にするのもアリやろ」

 おじいちゃんとおばあちゃんのパンが、もっと多くの人に食べられるようになる。そうロキに説かれると、フォルトゥナも乗り気になった。

 元々、フォルトゥナには商売をしているという感覚がない。だから「儲けよう」と説いても無駄だが、「老夫婦のパンを広めよう」と説けば乗ってくる。

 

「騙されちゃだめだ!!!フォルトゥナ、ロキの事だから、きっと何か悪だくみを考えているに違いない!」

「言ってくれるやんけ、ドチビ。……あのな、ウチはフォルトゥナには、天界にいた時から何の悪さもしてへんわ!」

 それにロキだってこのパンの出来は認めていて、「素朴だが味わいのあるパン」と思っている。広めたいという気持ちは、全くの嘘ではない。

「…そうや、もっとええ事思いついたで。この屋台の隣に、ジャガ丸君の屋台を出すんや。ほんでこのパンに、揚げたてのジャガ丸君を挟んで食べてもらう。行けそうやろ?」

 んぐっ、とヘスティアが言葉に詰まった。意趣返しなのは明らかだが、たしかに『フォルトゥナにとっては』悪い話ではない。

 ところが、そのフォルトゥナは欠伸をして、今にも寝てしまいそうだった。

「ロキ、私帰る。お昼寝する」

 パン屋の朝は早い。それに朝から売り子もして、疲れたのだろう。ロキが「話はまとめておくさかい、おやすみー」と言うと、眠そうに歩いて行った。

 

「さてどうする、ドチビー、タケミカヅチー。土下座して頼むって言うんなら、考えんでもないで。ここに店を出す手続きなら、ウチの方で面倒みたる」

「ぜひともお願いします」

 ヘスティアが葛藤したその一瞬に、タケミカヅチは地に頭を付けていた。

「……お前が同じジャガ丸君のアルバイターになってから3か月、俺の店の売り上げは大きく落ちた。……マスコットキャラの有無はでかいと思ってたんだ。……フォルトゥナなら、お前にも勝てる」

「こらタケー!君には武神たるプライドが無いのかー!!!」

「悪いなヘスティア。俺には養わなくちゃならない眷族()が大勢いる。……あいつらのためなら、プライドなんて何度でも捨ててやるさ」

 【タケミカヅチ・ファミリア】は総勢6人、そのうち2人がLv.2という、戦力で見れば下位派閥の中ではかなり有力な【ファミリア】だ。

 普通ならタケミカヅチは本拠で悠然と、武神らしく武芸の鍛錬でもして過ごせる身分のはずだ。それがアルバイトに身をやつし、ファミリアも貧乏ファミリアとして有名なのは、故郷―極東の地で、多くの孤児を養っているためである。

 

「……どんな手を使おうとも、俺は、あいつらを飢えさせるわけにはいかん」

 土下座しながら、毅然としてタケミカヅチは宣言する。聞いている者がいれば、その心情に心打たれたはずだ。……土下座の体勢と幼女頼みという点を脇に置いておけば、だが。

「ボクは納得してないぞー!陰謀だ陰謀ー!!!」

「残念やな、ドチビ。これは市場の原理や。商いは競争、客が正義なんやで」

 ぐぬぬぬぬと唸るが、ヘスティアにはどうしようもない。「こうなったらボクも妹要素を前面に押し出して…」と呟いてみるのがせいぜいの抵抗だった。

「くそっ!!!見ていろ!!!必ず挽回してやるからなー!!!」

 




ストック分も含めてこれまで作成した話の中で一番のお気に入り回。

なお自分はヘスティアのことを嫌っているわけではありませんが、「イジりやすいキャラ」とは思ってます。
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