『神造』の英雄   作:蘭陵

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3.不可解なるLv.2

「どういうことや、これ……?」

「ありえない……」

 アイズとロキの動揺に、ベルとエイナが困惑する。確かに特筆事項にある『ミノタウロスを2体撃破』というのは驚嘆に値する。【ランクアップ】の理由はこれだろう。だが二人の様子はそれ以上だ。

「………エイナちゃん、悪いけど、【フォルトゥナ・ファミリア】とこのノア・セファルって奴の情報、教えられるだけ教えてくんない?……ロイマンに怒られるようなら、うちの名前を出してもええ」

 常にない神ロキの威容に、エイナは「は、はい…」と頷いてバックヤードに下がって行った。しばらくして戻ってくると、薄い書類を差し出した。

 

「他ファミリアについて、公開情報以上のことはやはり教えられないとのことです」

 まず【フォルトゥナ・ファミリア】から。設立は2か月前。フォルトゥナが『下界』に来てすぐ発足したのだろう。ホームの位置は、『豊穣の女主人』から遠くない。

 構成員はLv.2の一人だけ。つまりノアだけだ。今回のランクアップでギルドの評価はHランクに上がった。普通ならば、零細を脱出できた、という程度だ。

 そして、ノア。冒険者登録は7年前。2か月前に【フォルトゥナ・ファミリア】に改宗している。それ以前は【カイルス・ファミリア】所属だったらしい。知らない名である。

 ランクアップは先日。ミノタウロス撃破は極めて難しいが、不可能とは言えない。レフィーヤから聞いた話では魔法ないし魔剣による攻撃だったらしい。強力な魔法による不意打ちなら、可能性はある。

 書面上から判断すると、【カイルス・ファミリア】所属で7年頑張ってきた冒険者が、ランクアップ直前で【フォルトゥナ・ファミリア】に改宗した、ということになる。引っかかる点はあるにしても、おかしいとまでは言えないレベルだ。

 

「エイナちゃん、こいつ、昨日ベートの蹴りを受け止めたんや。それに一緒に行動したアイズの見立てでは、まずLv.4は確実、Lv.5であってもおかしくない、とのことや。……こいつがLv.2って、マジか?」

 しかし、ロキもアイズもノアの実力を間近で見ている。だからこの数字はおかしいとしか思えない。【フォルトゥナ・ファミリア】が構成員のLvを偽っている、というのが最もありえるが…。

「……は、はい。昨日の事ですが、神フォルトゥナが自らランクアップの申請を行いました。『お兄ちゃんがランクアップしたの―』と、それはたいそうお喜びの様子で…」

 受付のカウンターに背が届かないので、ノアに抱っこされながらの申請だったという。ギルド中が何とも言えずほんわかしたので、エイナもよく覚えている。

 なお、流石に神の一柱と言うべきか、見た目も性格も幼女な彼女だが学識はある。申請書は綺麗な字できちんとしたものだった。

 

「……まあ、あいつが人を騙すとは思えんからな。それにLvを偽ってる言うなら、より怪しいのはこの【カイルス・ファミリア】の方や」

 ノアが【フォルトゥナ・ファミリア】に改宗してから2か月。2か月でLv.4級になれるわけがない。だから改宗前からLv.4、最低でもLv.3ランクアップ間近であったと考えられる。

「でも、それなら改宗してなおLvを隠す理由があるとは思えない」

 ここでアイズが口を挟んだ。Lvを隠したのが【カイルス・ファミリア】だとすれば、神フォルトゥナにそれを引き継ぐ理由がない。本当のLvを申請したところで、罰を受けるのは【カイルス・ファミリア】だ。

 

「【カイルス・ファミリア】については、こちらになります」

 エイナが再び調べてきた情報を差し出す。一言で言えば、よくある地味なファミリアだ。設立は7年前。構成員は多い時でも数名。書面上その全員がLv.1だが、つつましく生きていくだけならこれで充分可能だ。

 税金はきちんと納められており、変な問題を起こしたこともなく、ギルドとしては注視するまでもない、書面通りになっているから問題のない零細ファミリアとしか見ていなかったという。

 そして2ヵ月前、その時唯一の構成員だったノアの改宗を受けて解散している。Lvを偽っていたことの証拠隠滅のため、とも考えられる。本拠も引き払われており、神カイルスの行方を知る者はいない。

 

「うーん、わからんな…。ま、ここはやはり、フォルトゥナに直に聞いてみよ」

 ギルドの権限で、【フォルトゥナ・ファミリア】を強制捜査することも出来る。しかし、以前別のファミリアにそれをして痛い目に遭った経験があるので、明確な証拠がない限りギルドを動かすのは難しい。

 それに何より、【ロキ・ファミリア】の進言が強制捜査の発端となれば、フォルトゥナとの関係にひびが入るのは確実だ。ロキとしては絶対に避けたい事態である。

 ギルドで教わった【フォルトゥナ・ファミリア】の本拠(ホーム)を目指す。大通りから入った裏手の、普通の住宅街。住所は、その中にあるパン屋で間違いないようだった。

 

「………ここか?」

 パン屋が本拠(ホーム)というのも、そこまで変な話ではない。零細なら家の空き間を借りるファミリアも多い。貧乏所帯の【ヘスティア・ファミリア】など、廃教会を本拠にしているくらいだ。

 と、その時、冒険者であろう、ヒューマンの少女が店を出てきた。少し癖のある金髪をサイドテールにして、緑の瞳が印象的だった。顔は童顔で、美人と言うより可愛いと評するべきである。その少女は神ロキに気付くと、一礼してすれ違っていった。

「…うわ美少女やー。アイズたんにも劣らぬ逸材やー。……どこのファミリアのもんやろ?」

 ノア一人しか構成員のいない【フォルトゥナ・ファミリア】所属であるはずがない。自分たちと同じように、何か用があって【フォルトゥナ・ファミリア】を訪れたのだろう。

「……ウチに欲しかったわ、あれ」

 どこぞの色ボケ神なら、気に入った子であれば無理矢理奪う。自分はそれより道徳あるからな、と思い、ロキはパン屋の扉を開けた。

 

「いらっしゃいませー、………あれ、ロキ?」

 店に入ると、幼女の声が響く。フォルトゥナが店番をしている、というのはそれだけで判った。

「なんやー!!!こんないたいけな幼女まで働かんといかんほどファミリアの経営が苦しいんかー!!!ネエちゃんに言えば、金なんてなんぼでも出したるちゅうにー!!!」

「お金なら困ってないよ?お兄ちゃんがいっぱい稼いできてくれるから」

 働いているのはこのパン屋の持ち主で、住まわしてくれている夫婦のためだと言う。「おじいちゃんとおばあちゃんが喜んでくれるから」と笑顔で言うフォルトゥナに、ロキは今度は「何てできた幼女なんや…」と感涙を流す。

 なお、フォルトゥナが店番をするようになって以降、特に男の冒険者の来店が増え、売り上げは急激に伸びたとのことだ。

 

「神フォルトゥナ、ノア・セファルについて聞きたい」

 ロキに任せると話が進まなくなりそうなので、アイズが切り出す。しかしアイズでは尋問になりそうな気配を敏感に感じ取ったロキが、さっと豹変して話を繋いだ。

「いやー、ついこの間契約した奴がLv.2にランクアップしたんやってな。ツイとるやないかー」

「うん!……でもお兄ちゃん、改宗した時にはすっごく強かったから、当然なの。むしろ何で今までランクアップしてなかったのかな?」

 Lvのことを持ち出しても、フォルトゥナに動揺はない。『天界きっての悪戯者(トリックスター)』を自負するロキである。神が相手でも、嘘をついているかどうか見当はつく。

(嘘は、ない―)

 その眼で見て、ロキは結論を下した。そもそも嘘を吐くと言う発想があるかも怪しいのがフォルトゥナである。疑ったのは念のためと言っていい。

 だから、嘘はない。が、何か秘密はある。

 

(あいつが本当にLv.2とすると、まず考えられるのは大量の『潜在値(エクストラポイント)』と『スキル』やけど、にしても既知の情報からでは説明つかん。…『未知のスキル』と考えるのが当然やな)

 Lvはその人の強さを表す指標だが、では下位Lvの人は上位Lvの人を倒せないかと言われると、必ずしもそうではない。

 目安として、【ランクアップ】はいずれかの【ステイタス】が評価D、数値で500に達すると可能になる、と言われている。しかし限界は個人次第であり、得意分野なら900以上になる冒険者もいる。

 Lvの上昇ごとにその【ステイタス】は初期値になる(リセットされる)が、これまで積み上げてきた数値が消失するわけでなく、潜在値(エクストラポイント)として反映される。

 この数値次第で、特に上位の人がすぐ【ランクアップ】した場合は、拮抗あるいは凌駕することも可能になる。一番身近な例がレフィーヤであろう。魔力だけなら彼女は、Lv.5の冒険者にも匹敵すると言われている。

 

(……けど、レフィーヤの例はあくまで『魔力』だけ。全体でとなると、ひっくり返せるのはせいぜい一つ上までやろ)

 Lv.2の冒険者が総合でLv.4に匹敵するなど、どれほど潜在値を稼ごうとあり得ない。【ステイタス】の上限は999とされる。仮に上限まで鍛えても、すぐ【ランクアップ】した冒険者との潜在値の差は500程度となる。一つ【ランクアップ】すれば、このくらいの差は埋まってしまう。

 そして『スキル』だが、これだって恒常的に全能力強化、しかもLv差を覆すほどの上昇などというスキルは聞いたことがない。冒険者が聞けば、羨む前に「何だその反則!」と怒り出すだろう。

 

「なーフォルトゥナ、その『すっごく強かった』ってどのくらい凄かったんや?こそっとネエちゃんにだけ教えてもええやろ?」

「……ロキ、【ファミリア】の内部事情には不干渉、とりわけ団員の能力については禁制(タブー)って聞いたよ。……お兄ちゃんからも、『魔法とスキルについては絶対に言うな』と言われているし」

 やっぱり他人には言えないようなスキルか、とロキは表情に出さずに心中で頷く。素直すぎるフォルトゥナの言葉を誘導するなど、ロキのような百戦錬磨の神からすれば児戯ですらない。

 むしろ、聞き出す側が罪悪感に耐えられるかが問題であろう。ロキによると「あんな少女を騙すなんて、心の中では泣いてたんやで」とのことだ。

「……あー、悪かった。そんじゃ、あいつとの馴れ初め聞かせてや」

 探りを入れた後は、フォルトナの機嫌を損ねないよう、すぐに喜んで話しそうな話題に変える。自分ではこう上手くは出来ない、とアイズは思う。この辺りは、流石『天界きっての悪戯者(トリックスター)』だ。

 

 ロキの読み通り喜んで話してくれたフォルトゥナだが、内容は大したことではない。『下界』に降りてオラリオまでやってきて、このパン屋の前で窓越しにパンを見ていたらちょうど出てきたノアと出会ったというだけだ。

 最初、腹をすかせた迷子と間違われたらしい。もっともどこに行けばいいかわからない、という点ではあまり変わりなかったかもしれない。とにかく上がり込んでパンとスープをご馳走になり、身の上話を聞いている内に神だと判明し、それから【ファミリア】結成の流れになったという。

 なお、ノアはその時にはこのパン屋に住んでいた。この家には離れがあって、空き家となっていたそこを借りていたのである。だから、夫婦との血縁は無いそうだ。

 

「ふーん、そんで前の神と話をつけたんか」

「つけてないよ?お兄ちゃん、『半脱退』状態だったから。いつでも好きな神と契約していい、って約束してたんだって」

 今度は【カイルス・ファミリア】に対しての探りに、フォルトゥナは無邪気に返す。その様子からして、本当に知らないのは間違いない。

(カイルス……。そんな(やつ)いたか?)

 神であるロキが記憶を探っても、まったく引っかからない。謎なファミリアとしか言いようがないだろう。もしや闇派閥(イヴィルス)との繋がりがあるのでは、とは、邪推のし過ぎだろうか。

 

(ま、今はこんなとこやな)

 新たな情報は無いと言っていいが、あまり深入りしてフォルトゥナの機嫌を損ねるのが、一番まずい。あとは当たり障りのないこちらの事情と、このオラリオのことなどで話を繋ぐ。

「ねえロキ、あの『剣のお姉ちゃん』はあなたの眷族だったよね?こっちの『兎のお兄ちゃん』も?」

 その中で話がアイズとベルに及び、一瞬だけロキの視線がベルの方に流れた。しかしすぐさま相貌を崩し、笑顔に戻ると話を再開する。そのベルは「う、兎?」と困惑していた。

「んー、こっちは違うんや。何や、気になる?」

「うん」

 それはそれは、とロキの視線がまたベルの方に向く。今度はしっかり見定める様で、それでいてどこか「ご愁傷様」と憐れむようであった、とベルは思う。

 

 アイズは興味ないことに話題が移ったと見たのか、店内のパンを物色していた。確かにこれからダンジョンに行くとなると、昼食用として丁度いいだろう。ジャガ丸くんという芋の揚げ物を挟んだパンをありったけ買っていたが…。

「そうや、なーベル君、確かあのドチビ…君の主神のヘスティアやけど、ジャガ丸くんの屋台でバイトしてるっちゅう話やったと思うけど…」

 いきなり話を振られて、怪訝そうにベルが頷く。日々の銭を稼ぐため、ヘスティアが屋台のバイトをしているのは事実だ。時給わずか30ヴァリスで酷使されていると本人は嘆くが、その理由が一度失火で屋台を爆発させたためであることをベルは知らない。

「ええこと思いついたで。フォルトゥナ、このパン、もっと大々的に売りにだすんや」

 

 楽しい楽しい悪戯を思いついたと邪悪な笑みを浮かべながら、ロキはフォルトゥナと何か話し始めた。護衛はもういい、と言うので、アイズはダンジョンに向かうことにする。

 ベルも目当てのノアがいない以上、ここにいる意義はない。彼もダンジョンに向かうことにしたのだが、何となく、という感じでアイズと並んで歩くことになった。

「ごめんなさい」

 ちらちら隣を窺っていたベルが、いきなりアイズに謝られて「え?」と固まる。何のことか、全くわからない。

「私が倒し損ねたミノタウロスのせいで、君に迷惑をかけて、いっぱい傷つけたから……」

 

「ち、違います!悪いのは迂闊に下層にもぐった僕でっ!ヴァレンシュタインさんは全く悪くありません!!……僕の方こそ、助けていただき、ありがとうございました」

 自分の謝罪を越える勢いで頭を下げたベルに軽く瞠目したアイズだが、状況に理解が追いつくと小さく微笑んだ。それを上目で見たベルが顔を真っ赤にし、さらに深く頭を下げる。

「……アイズ。……私を呼ぶときは、アイズ、でいいよ。みんなそう呼ぶから。……あと、困ったことがあれば、私にできる事なら力になるから」

 兎と姫の間に、運命の紐が結ばれた。

 




なお、私の中でのベル君の恋愛優先度は
アイズ>シル>リリ>(レフィーヤ)>ニイナ>リュー(ポンコツ化後)>春姫>その他
※レフィーヤが括弧つきなのは恋愛対象ではない(がこのくらいの深い関係性はある)と思っているため
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