『神造』の英雄   作:蘭陵

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9.尾行禁止令、発令中

「アイズさん、最近どこに行ってるんですか?」

「あ、レフィーヤ。うん、ちょっとね……」

 このところ朝食が終わるとそそくさと一人で出かけていくアイズだったが、三日連続ともなると気にする者も出てくる。特にアイズを尊崇すること篤いレフィーヤであるから、気になったのだろう。

「……ちょっとダンジョンに、行ってるだけだから」

 いつものこと、と言えばそうである。遠征の翌日だろうが、いつもアイズはダンジョンに向かってしまう。「誰かが気を抜いてやらんと一生休みもせん」とはロキの談である。

 そう聞いて、レフィーヤは「あ、そうですか」とあっさり引き下がった。「それじゃあ」とアイズも恒例となった5階層の広間に向かう。

 ……見送ったレフィーヤが「むむむ…」と唸っていたことを、アイズは気付かなかった。

 

「あ、アイズさんも、これからですか?」

「リース、おはよう」

 5階層の道中、ばったりリースと出くわした。彼女については、アイズも「筋は悪くない」と思っている。が、正直言ってしまえばそれだけだ。ノアのような底知れなさも、ベルのような不思議さもない。

「……リースとノアって、どういう経緯で会ったの?」

 だから、話すことが無く、何となくノアのことを聞いてみた。しかし、言いにくそうに返された答えはあのミノタウロス事件の時の話である。助けてもらった上に治療施設の代金まで支払ってあり、その時の領収書のサインで名前を知った。結局、Lv.2になった知らせを見て所属するファミリアを知り、見つけたという。

「あ、その…、【ロキ・ファミリア】の皆さんを、恨んだりはしてませんから!」

 気を使われるように言われると、逆に気まずい。傍目からは美少女二人が仲良く話しているように見えるだろうが―。

 

「……何か殺気を感じたのですが、気のせいでしょうか?」

 不意に、リースがそんなことを言い出した。アイズも頷く。というより、誰かに付けられている。リースと会ってから、何かそれに変な気が混じるようになった。

 襲ってくる様子は無いので、とりあえず警戒はしながら放置していたのだが、殺気と言われると、流石に不穏だ。

「………」

 角を曲がる。二拍を置き、Lv.5の身体能力で跳ぶ。天井を蹴り、壁を走って、追跡者の後ろに回り込むと同時に取り押さえ―。

「レフィーヤ?」

 その相手は、よく知った後輩の少女だった。

 

「あっ、あはは…。私も少しダンジョンに潜ろうかと思いまして…」

「ここ、正規ルートとはかなり遠いけど……」

 Lv.3のレフィーヤである。単独行動(ソロ)の後衛魔術師、という点はあるにしても、5階層では訓練にはならないだろう。ここに彼女がいるのは、明らかに不自然だ。

「それに、今日ずっと尾行していたのは、レフィーヤ?」

 ぐう、と唸ってレフィーヤが俯く。そこまでバレていては言い逃れはできない。

 

「何なんですか貴女は!!!アイズさんとどういう関係なんですか!!!!」

 次の瞬間、逆ギレしたようにリースに向かってレフィーヤが叫び出した。その勢いのまま、最近アイズが楽し気に出かけていくのが気になり、後を付けたのだと白状する。

「この人を誰だと思ってるんですか!!!【剣姫】ですよ、【剣姫】!!どこの馬の骨とも知れない輩が話しかけていい人ではぐぅ!!!」

 レフィーヤの言葉が、いきなり遮られる。背後に無言で立っていたのはノアだった。木剣を思い切りレフィーヤの頭に叩きつけたのである。その後ろでは、ノアの蛮行にベルがひきつった表情で後ずさる。

 

「い、いきなり何をするんですか!!!……って、あー!!!!」

 涙目で頭をさすりながらレフィーヤが激昂し、気付いて叫ぶ。しかし、その絶叫の理由はノア3割に対し、ベル7割という感じか。

「ベートさんの蹴りを受け止めた10階層の人と、あ・な・た・は~~~~~~!!!!!!」

「は、はい!?僕ですか?」

「アイズさんにしたことを忘れたとは言わせませんよ!!!5階層の変質者!!!!アイズさんから半径100M以内に近づくのは禁止です!!!5秒以内に消えないなら蒸発させます!!!覚悟なさい!!!!」

「え!?ええ~~~~~!!!ちょっ…、あれは不可抗力で―」

 レフィーヤの記憶は無かったが思い当たる節はある。悲鳴を上げるベルと、それに向けて杖を構えるレフィーヤであったが、次に「ぎゃふぅ!!!」と奇声を上げて倒れる。ノアの木剣が、再び脳天に決まっていた。

 

「行くぞ」

 気絶したレフィーヤを一瞥し、ノアは言う。放っておく気なのか問われると「Lv.3の【千の妖精(サウザンド・エルフ)】ならこの階層で死ぬことはない」と冷酷に突き放した。

「そういうわけにも、いかないと思いますけど……」

 命を狙われたにも関わらず、ベルが控えめに言う。リースもそれに賛同した。それを受けてノアは振り返り、「では誰が運ぶ?」と問う。

 エルフは認めた者以外、他種族との肌の接触を許さないという風習がある。触ろうとして手を叩かれた、なんてことはざらだ。背負うにしろ抱えるにしろ、目を覚ました相手から恨まれるのは避けたい。

 

「レフィーヤはそういうエルフじゃ、ないけど……」

 そう口を挟んだアイズだが、何だかんだ言ってもこの中で適任は彼女だろう。女性だし同じ【ファミリア】で気心も知れた仲だ。軽々とレフィーヤを背負い、いつもの広間に向かう。

「………【剣姫】、今日はまず俺と戦え」

 これまたいつもの様にノアが【閃光刃】でモンスターを一掃し、いつもと違うことを言い出した。アイズが目を丸くした後、これ以上借金を作りたくないので躊躇すると、勘違いするなと木刀を二本取り出す。しかし、普段彼が使う剣より遥かに短い。

「あ、そういうこと……」

 ベルの手本ということを、アイズもここで理解した。レフィーヤを降ろし、アイズも木剣を構える。

 

「……Lv.1に見える程度には、手加減しろ」

 小声で言われた。そこから踏み込みからの、一閃。アイズにしてみれば難なく防げるぬるい一撃だ。軽く合わせ、こちらも一撃。ノアはそれを右の剣で弾き、左の一閃。

 二刀流の手本としてノアが選んだ戦闘型(バトルスタイル)は、速度重視の近接戦(インファイト)。手数で相手を圧倒し、攻撃を受ければ一方の剣で相手の獲物を弾き、受け流し、格闘も混ぜて反撃に出る。

「……す、すごい」

 ベルにしてみたら、自分の理想像を見ている思いだろう。そして二人の立ち合いは、手加減してなおLv.1にすれば桁違いに凄まじい。そこで彼は失言してしまった。「これが第一級冒険者の力…」と。

 

「何を言っているんですか。アイズさんは、実力の3割も出してませんよ。……せいぜいLv.2の、中堅ぐらいというところですか」

 不意に、後ろから声がした。気絶から目を覚ましたレフィーヤである。頭をさすりながら、ベルに対しては睨みつけたが、とりあえず問答無用で襲うのは止めたようだ。

「……で、あなたたちはここで何をしているんですか?」

「ノアさんとアイズさんに、訓練を付けてもらっています」

 答えたのはリースだ。ベルはレフィーヤの言葉に一度振り向いたものの、再び立ち合いを目に焼き付けようと、それどころではない。

 

「……………ふーーーーーん、そうですか。…………そうなんですか」

 ものすごく不満そうに答えたレフィーヤを横目に、アイズがノアの剣を大きく弾き、ノアが間合いを取ったことで立ち合いは終わりとなった。

「……こんなところだな。参考になったか?」

 ベルは言葉を忘れたように無言でがくんがくんと大きく頷く。それで、アイズも大体の事情を理解した。来る途中でたまたま出会い、短剣使いの見本を見せるという話になったのだろう。

(意外に面倒見は、いい……)

 ノア・セファルという人物が、アイズには今一つわからない。無口で無愛想で他人に関心がないようで、実はけっこう優しい。フォルトゥナ様が懐いていたのも、そのためなのだろうか。

 

 

「あの、アイズさん、この件について、ロキや団長は……」

「うん、許可は、取ったよ」

 説明を求められ、一通り済むと、レフィーヤがアイズに見えないように、「チッ」と舌打ちした。主神や団長の許可が無ければ連れ帰せると思ったが、承諾済みではどうしようもない。

(しかし、【フォルトゥナ・ファミリア】、【フローラ・ファミリア】、【ヘスティア・ファミリア】なんて、どこも零細じゃないですか)

 少なくとも、レフィーヤの記憶には無い。単なる友好関係というのならいくらでも結ぶべきだが、幹部を貸し出すというのは破格の厚遇だ。【ロキ・ファミリア】側の貸しの超過になるのは明らかである。

 一応、神フォルトゥナだけは『豊穣の女主人』での一件で、ロキがものすごく気に入っていたことを知っている。そのため、ロキが気安く承諾してしまったという可能性はあり得る。レフィーヤにすれば、「なんて考え無しなことを」だが。

 とはいえ、何であれ、【剣姫】直々に訓練を付けてもらうなど、そんなうらやま…、【ステイタス】を延ばす大チャンスを見過ごすわけにはいかない。将来のために、きっと必要だ。うん間違いない。

 

「わ、私も参加しても、いいでしょうか?」

 内心の葛藤を結論付けたレフィーヤの申し出に対し、アイズは隣のノアの表情を伺う。あれ、とレフィーヤは思う。アイズではなく、ノアがそういう事の主導権を握っているような態度だ。

「………後衛魔術師としての訓練なら、教えられることはない。【九魔姫(ナイン・ヘル)】辺りに頼め」

 ノア、アイズ、リース、ベル。全員前衛ないし中衛であり、後衛魔術師としての訓練相手にはならない。リヴェリアに頼むべきというのは正論である。うぐっとたじろいだレフィーヤだが、引くわけにはいかない。

 

「私は近接戦もこなせるような、『魔法剣士』になりたいと考えているんです。だから、近接戦や、並行詠唱の練習をお願いします!」

 全くの勢い任せ、という訳ではない。「憧れるなぁ…」くらいの思いではあったが、現状の後衛魔術師として砲台役を務めるだけでなく、前線に斬り込む力も欲しいとは、常々考えていた。

「………」

 それに対しノアは無言で不躾に、レフィーヤの全身を品定めするように眺める。レフィーヤが思わず身を捩ってしまい、リースが「女性をそんなにじろじろ見るのは失礼ですよ」と笑顔でノアの肩を掴んだ。その迫力にはアイズといえど少々たじろいだ。

 

「誤解するのはやめろ。……まあいい。……口先では何を言っても理解できないだろう。まずは体験させてやる」

 リースの迫力にはノアも圧されたようである。切り捨てるようないつもの口調ではなく、なんとなく弁解するような口調になっている。

「そちらは好きなように戦え。魔法を打ち込もうが構わん」

「わ、私は魔術師とはいえLv.3ですよ!?あなたは確かLv.2だったはずですが!?」

 そして、ノアが言い出したのはレフィーヤとの模擬戦だ。しかもノアは剣無し魔法無しの、格闘のみ。普通なら、Lv.2が近接戦を苦手とするLv.3に喰らい付き、技と駆け引きを駆使してLv差を覆せるか、という展開になるはずだが―。

 

「がっ!」

 真正面から踏み込んでからの、後ろ回し蹴り。そんなモーションの大きい技に対して、レフィーヤは反応できなかった。意識が刈り取られる寸前で、踏みとどまる。しかしレフィーヤの視線の先に、既にノアはいない。

「寝ろ」

 前を見ていた視線が、急に上を向く。何が起きたか把握もできず、そのまま天井、後ろの壁、地面と光景が移り変わる。

「ぶっ!!!」

 後ろに纏めて垂らしている髪を掴まれて投げられた、と理解できたのは、地面に叩きつけられた後だった。

 

 ―周囲はドン引きである。

 




レフィーヤの断髪フラグが立ちましたが、すぐ切らせるかはまだ考え中です。
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