ロードス島に転生だぁ?ワクワクが止まらねえな、オイ! 作:くさくさ
覚醒後の数週間、俺の日常は大きく変わった。
まず、言葉の理解力が飛躍的に向上したことをアピールした。母が読み聞かせをしてくれる際、今までなら難しくて理解できなかったはずの物語の筋道を完璧に追ったり、登場人物の感情の機微について幼いながらも的を射た感想を述べたりした。母は最初、偶然だろうと考えていたようだが、それが日に日に鮮明になっていく俺の理解力に、驚きと喜びを隠せなくなった。俺が「もっと色々なことを知りたい」と熱心にねだると、母は喜んで筆と羊皮紙を取り出し、文字の基本から教えてくれた。俺はこの世界の文字をまるで水を吸い込むスポンジのように吸収していった。単語、短い文章、そして数ヶ月も経たないうちに、簡単な書物を読みこなせるようになった。今世の俺は記憶力がいいらしい。
(これで、いざという時にある程度は『勉強の成果』で誤魔化せるな)
俺は内心でほくそ笑む。前世の知識をポロリとこぼしても、「普段から勉強しているからだ」という言い訳が一応立つ。この世界の一般常識も、こうして身につけていきたい。
朝食前、俺は庭に出て、前世の記憶を頼りに、ラジオ体操の基本動作を始めた。四歳の体では全ての動きを滑らかに行うことはできない。手足はぎこちなく、バランスを崩しかけることもあった。それでも、俺は真剣に毎日欠かさず続けた。
「ロックス様、また変な踊りをしているのかい?」
庭で俺のぎこちない体操を見かけた下男のオベルが、呆れたような、しかしどこか面白がるような顔でそう言った。母も「あらあら、ロックスは本当に変わった子ね」と微笑むばかり。彼らにとって、俺の体操はあくまで「急にハキハキしゃべりだしたが、やはり子供」がしている奇妙な遊びの一つとして映っているようだった。
それでも、俺はトレーニングを続けた。
ある日、俺は家にあった古い大きな板に十六分割した線を引き、それぞれに数字を書き込み、それを家の壁に立てかけた。
「兄上、これ、勝負しない? 僕が言った番号を早くタッチするんだ!」
俺がそう誘うと、兄は最初は戸惑いながらも、面白そうに目を輝かせた。
「勝負? よし、やるぞ、ロックス!」
俺が「3!」と叫べば、兄は素早く「3」と書かれた場所をタッチする。最初は兄の反応の方が速かったが、俺は集中力を高め、少しずつ反応速度を上げていった。この板を使った訓練は、兄との遊びを通して、俺自身の反射神経と瞬発力を鍛える良い機会となった。ちなみに、この勝負は勝敗を決めるための明確な条件がないので、毎回勝敗はうやむやになった。兄が板にタッチする際には、俺は頭の中で、タッチする瞬間の彼の目の動きや体の重心移動を観察していた。兄も、次第に俺の指示への反応が速くなっていることに気づき、この勝負に熱中していった。
目をつぶって片足で立つ練習も始めた。最初はすぐにバランスを崩してよろめいていたが、集中すればするほど、体の軸が安定していく感覚を覚えた。
(目で見える情報に頼らないで、自分の体が今どうなっているかを正確に感じる練習だ。これがあれば、暗闇の中でも、足元が不安定な場所でも、正確に動けるようになるはず……!)
これは、足裏や体幹の感覚を研ぎ澄まし、不意の衝撃や地形の変化に即座に対応できる能力を養う上で不可欠だ。
さらに、四つん這いになって熊のように歩いたり、蟹のように横歩きしたり、あるいは低い姿勢で這うように進む「動物歩き」のような遊びも取り入れた。これは体幹の筋肉を鍛え、全身の協調性を高めるのに効果的だ。
さらにさらに、俺はスリングの訓練も始めた。家の裏手にある雑木林で小石を拾っては、見様見真似でスリングを回し、標的に向かって投げる練習を繰り返した。これにも兄は興味を示し、一緒に練習した。
(タンパク質の確保は重要だ。将来、食料に困らないためにも、狩りの技術は必須になる。これなら子供の俺でも、ある程度の獲物を仕留められるようになるだろう)
最初は全く当たらず、石は明後日の方向へ飛んでいったが、商社マン兼冒険家だった前世の経験から、物理的な運動のコツを思い出し、少しずつコントロールできるようになっていった。
父は城へ出仕する際、あるいは帰宅する際、庭でこれらの奇妙な「遊び」に熱中する俺の姿を度々目にしていた。他の者たちと同様に、最初は訝しげに見ていた父だが、俺が真剣に、そして毎日欠かさず続ける姿に、少しずつ興味を示し始めたようだ。
ある日の夕食時、食卓にはロックスの姿はなかった。彼はすでに、子供部屋で眠りについていた。父はワインを傾けながら、母に切り出した。
「ところで、イリーナ。ロックスのあの、奇妙な体操だが……」
母は訝しげに首を傾げた。「ああ、朝の? あんなに熱心で、本当に変わった子ね」
父は静かに頷いた。
「うむ。私も最初は、単なる子供の遊びかと思っていた。だが、この数ヶ月、見ているとな……あ奴の姿勢が良くなったように思えるし、動きにもどこか、無駄がなくなってきているように見えるのだ」
母は驚いた顔をした。「まさか、そんな……? ただの遊びでしょう?」
父はグラスを置き、真剣な眼差しで母を見た。
「いや、馬鹿にはできぬ。体の理に適った動きというものは、時に専門の訓練に匹敵する効果をもたらすことがある。ロックスのあの動きには、何か、理屈があるのかもしれない。もしや、あの『遊び』は、本物なのではないか?」
父の言葉に、母はハッと息を飲んだ。彼女の心には、夫の言葉がじんわりと、しかし確実に響いていた。
体幹トレーニングやバランストレーニングの回でした。他にもっと効果的なトレーニングありましたら教えてください。まあ、子供ができて、あんまり複雑な機器を使用しないものに限られますけど。