TSして地下に落ちた私が、人類最強の隣で生きていく話 作:幼女つおい
突然だが私は転生者だ。
なぜかと問われれば私は元成人男性だが今は推定6~8歳の幼女になっているからだ。
いやなんでだ!
思わず髪を掻きむしりたくなる私の気持ちをわかってくれるだろうか。
しかもこの世界、私のうろ覚えの記憶が正しければ進撃の巨人と言われる世界だ。
床に捨てられた新聞を見た情報から巨人、壁に覆われている。という単語を見て気づけた私を褒めてくれ。
ただ残念ながら原作知識というものはほとんどない。
なぜなら友人が面白いぞ! と一話だけ見せてもらっただけだからだ。
それでも気づけたのは奇跡と言って良いだろう。
まぁだからといって今の生活が良くなるもんでもないんだが。
そう! この不満をどうか聞いて欲しい。誰でもいいから!
今いるのが地下都市という名のスラム街なんだけどさ。
もうくっそ暗くて治安も最悪。
力無き者は搾取されていくしかない。生きていくことも難しい。
だってこんなプリティーな幼女に対して大人達は助けてくれるどころか卑猥な目でジロジロ見た挙げ句襲いかかるような変質者までいるんだからな。
世も末ってやつだ。
ただこんな地獄のような環境でも生きていける力を私は持っていた。
なんと私には超能力みたいな力が備わっていたんだ。
未だに能力の全貌はわからないんだけど。暴漢から身を守るぐらいには使える力だ。
今も超能力を使ってゴミに入った食べ物をこうちょちょいっと綺麗にすることで何とか食べれる状態(何度も腹を下した)にしているんだからな!
実際この力がなかったらそうそうに私は死んでいるか変質者の慰み者になっていただろうし。まじ感謝。
ーーーーーー
地下の市場は騒がしかった。
乾いた砂の舞う通路に軋む台車の音と怒号が飛び交う。天井の光源はほとんど壊れ、街灯の代わりに明かり草の瓶がいくつかぶら下がっているだけ。闇に沈んだ空間のなか三つの影が火花のように駆け抜けた。
「こっちだ、リヴァイ! イザベル、袋を押さえろ、落とすなよ!」
「わかってるってばっ! ……って重っ!」
先頭を走るのは黒い短髪の少年――リヴァイ。目元には冷ややかな鋭さが宿り動きには一切の無駄がない。
そのすぐ後ろ、盗品を抱えた赤髪の少女イザベルが必死に食らいつき、その最後尾をファーランが走る。彼の視線は背後にちらつく複数の明かり――追手の衛兵だ。
数分前、彼らは貴族商会の倉庫から銀器と保存食の入った袋を奪ったばかりだった。
簡単な下調べ、注意を引きつける小細工、時間差の潜入。完璧に近い計画だった。
――のはずだった。
「やべぇな、こっちの動き予測されてたかも……!」
ファーランは舌打ちしながら袋を肩にかけ直す。衛兵の数が多すぎた。しかも訓練された動き。偶然ではない。
リヴァイがちらりと後ろを振り返り小さく唸った。
「足が遅い。イザベル、荷物は捨てろ」
「やだよ! 苦労して盗んだんだよ!? あとちょっとで逃げ切れるって――わっ!?」
声と同時に足元で水音が弾ける。路地裏の排水溝の縁が濡れて滑っていた。
イザベルの体が前方に投げ出され袋が宙を舞った。中から飛び出した銀器が、がしゃん、と乾いた音を立てて石畳に散らばる。
「イザベル!」
ファーランとリヴァイが立ち止まり衛兵の接近を振り返る。向こうも足音を上げて迫ってきていた。
「チッ! なにへましてんだイザベル!」
「ご、ごめん兄貴……」
リヴァイは転んだイザベルを助け起こそうとしたがそれよりも早く衛兵が近づいていく。
このままだと間に合わない。
衛兵のひとりが既に数メートル先まで来ていた。鈍く光る棍棒を構え、躊躇なく間合いを詰めてくる。
「クソっ!」
イザベルが立ち上がり、叫ぼうとしたその瞬間。
――空気が、揺れた。
ひゅう、と冷たい風が吹いたように通路の空気が一瞬ぴたりと静止する。
次の瞬間、衛兵の膝ががくりと折れた。叫ぶ間もなくその体が崩れ落ち、無音のまま硬直する。
「な……んだ……?」
リヴァイの視線が横の陰に吸い寄せられる。
そこには、小さな影――少女。くすんだ布切れのような服を纏い、痩せた体を抱えるようにしてただ黙ってこちらを見つめていた。
その目は、まるで星のように光っていた。
それはとても綺麗で思わず時間を忘れて見てしまうぐらいに。
「おい、おい! リヴァイ! 何してんだ!」
いつの間にかファーランに肩を揺すられていた事に気づいたリヴァイはハッとする。
「チッ! おいそこのガキ、俺等と来い」
「うぇ!? なんでだよ兄貴」
「いいから行くぞ。おい担ぐが暴れるなよ」
リヴァイの言葉に驚きながらも頷く幼女を片腕で担ぐ。
その姿にイザベラとファーランは目をパチクリとさせるが黙ってリヴァイと共にその場を後にした。
ーーーーーー
あの後メチャクチャ揺られながら運ばれた私は、狭い路地にある小部屋みたいなところに連れて行かれた。
リヴァイーー短髪おかっぱの目つきが悪い人にアジトまで運んでもらったんだけど、おろし方とか優しかったからたぶん悪い人ではないと思う。
物は盗んでいたけどね。
「ふぅーっ、死ぬかと思ったー!」
赤毛の少女、イザベルがどさっと毛布に倒れ込み、わざとらしく大げさに息を吐く。
その隣で、確かファーランって人が肩にかけた袋をどんと下ろした。
「上等だ、これだけ盗って逃げ切ったのは久しぶりだぜ。……でも、今回のMVPはあの子かな」
彼が視線を向けた先――それが、私だった。
私は入口近くの木箱に腰を下ろしていた。まだ心臓が落ち着かなくて呼吸は浅く、額にはじんわり汗がにじんでいる。
それでも、体の芯は不思議と静かだった。
「なぁ、ちょっと聞いていいか」
その声は思っていたよりも低く、でも棘のない声だった。
顔を上げるとリヴァイが壁際に立ち、こちらをじっと見ていた。
「さっきの……あれは、お前の“力”か?」
「……うん」
私は頷いた。もう隠す意味もない。むしろ隠して嫌われる方が怖い。
「どうやって使ってんだ? 訓練か? 道具か? 薬か?」
「わからない。ただ……念じたら、止まることがあるだけ。でも、使いすぎると……頭が痛くなって、吐き気がして、最悪、意識が飛ぶ」
リヴァイはしばらく黙っていた。何かを測るような、見極めるような目。
でも、そこに敵意はなかった。むしろ、真面目に“理解しよう”としてくれている気がした。
「そうか。……苦しくなるのに、よく助けたな。イザベルを」
「見過ごせなかったから。それだけだよ」
簡単な理由。でも、それがすべてだった。あのとき動かなかったらきっと一生後悔してた。
リヴァイは小さく息を吐く。目を細めるとほんのわずかに表情が緩んだ気がした。
「礼を言う。あいつが無事だったのは、お前のおかげだ」
……この人、こんな優しい言い方もできるんだ。ちょっと驚いた。
「で、名前は?」
代わってイザベルがひょこっと顔を出してくる。さっきのやり取りを聞いていたらしい。
「……名前、ない。みんな“チビ”とか“ネズミ”って呼ぶから、それで」
「じゃあさ、今日から“ホシ”って名前はどう? 地下でピカッて光ったし、ちっちゃいのに目立ってたし、星みたいだったから!」
「ホシ……」
その音の響きが、胸の奥にやさしく降りてきた。
名前なんて、いらないと思ってた。でも――あってもいいかも。そう思わせる温かい響きだった。
「……素敵な名前をありがとう」
イザベルがぱあっと笑い、ファーランが「いい名前じゃん」と頷く。
そして、リヴァイも一歩こちらに近づいて、低い声で言った。
「お前がここにいたいなら、しばらく俺たちと一緒にいろ。ただし――変な動きはするなよ。仲間を守る力があるなら仲間に向けるな。それだけは約束してくれ」
「うん、約束する」
本気で言った。偽りはなかった。
私はこの場所で生きていく。そのためにこの力も、この体も、使ってやる。