炎と嵐が惑星を飲み込んだ先の物語。
火を付けた先の世界(1)
紅く、紅く燃えている
触れたら無事で済まないぞと、焼けた脳が警鐘を嫌と言う程に鳴らす。そんなものは分かり切っている。だからこそ、私の繰るAC、LOADER4の出力を限界まで引き上げると、ブースターから発せられる橙色の炎が大きく燃え上がる。
火を付けられた"コーラル"がどれ程危険なのかは、ウォッチポイントの一件で既に身体中に叩き込まれた。コーラルの奔流に巻き込まれて死にかけたからだ。あの時は"エア"がいなければ、彼女がいなければ私は死んでいた。
私の友人であり、コーラルから生まれた実体を持たないルビコニアンであるCパルス変異波形のエアは、電子機器のハッキングや、目標地点のマーキング等々……。武力しか取り柄の無い私を、事ある毎に、"ウォルター"のように助けてくれた。
ウォルターは、私の恩人だ。何年もの間冷凍保存され、やがて廃棄処分されかけていた旧世代型強化人間の私を拾い、やがて"意味"を与えてくれた人。誰よりも優しくて、義理堅くて。その心は鋼のように剛いようで、彼が今まで失って来た沢山のものの破片が刃となって突き刺さり、そして硝子のように脆くなってしまっていた。それにも関わらず、安値で取引されていた旧世代型強化人間である私をわざわざ買い取り、そしてどんな時でも私の力になってくれた人。私はその人の使命を受け継ぎ、結果的に……。
──二人とも、殺した。
ウォルターは最初の頃、私を連れてルビコンに来た目的を「コーラルを手にすればその利益でお前のような脳の焼けた強化人間でも人生を買い戻せるだけの大金を得る事が出来るからだ」と言っていた。だけど、ウォルターの本当の目的は、コーラルが増殖して宇宙に広がる汚染になる前に全て焼き尽くす事だった。
アーキバスに捕えられたウォルターが残した音声メッセージからそれを伝えられた後、私はウォルターの意志を継いで燃え残った全てに火を付ける事を選び、エアと決別した。
その時に
「……残念です」の一言が聞こえた途端に、頭の中から何か大切なものが抜け落ちたようなあの感覚は今でも鮮明に脳裏に蘇る。ウォルターの手配によって、仕事が無い時の合間合間に少しずつ再手術をしていった体、その中には発声機能も含まれていた筈なのに、その時には何も喋れなかった。
そしてエアと私は再会した。それが感動の再会であればどれ程良かったものだろうか。私達は封鎖ステーションで、互いの意志の火をぶつけ合い、その火花を散らした。
そうして、エアを……殺した。そしてコーラルに火を付け、未だ地上に居るであろうウォルターも……焼き殺した。
私が、ころした。
「あ、ああ……!」
駄目だ。その事実が反芻されると、胃の中から不快な物が込み上げ始め、段々と頭が痛くなる。動悸が激しくなっていき、どくんどくんという心臓の鼓動が聞こえる度に、胸が締め付けられていって苦しい。目から伝っていく液体は留まる事を知らないと言わんばかりに零れ落ちて行き、喉から発せられたのは呻き声のみ。
ラスティも、ミシガン総長も、ルビコニアンも、企業の人間も、他にも色々殺したんだ。罪の有無など関係無く焼き殺したんだ。
私が、ころした。
「ごめん、なさい……!」
今更謝っても遅い。散々殺した獣風情でありながら、今更赦しを乞う事なんて許される筈が無いというのに。
〈メインシステム、通常モード起動〉
私はLOADER4との神経接続を解除した。それは機体操作を放棄する事に等しい。迫る焦熱に対しては、恐怖を感じるどころか、罪悪感で潰れそうになってしまった心が、死という救済で浄化されていくような感覚がして、寧ろ満足感さえ抱き始める。それは、とても熱かった。
熱い、あつい……
ああ……
これで、よかったんだ。
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────
──
〈こっちだよ!!〉
「サンキュー、店長!いつも助かってるぜ!」
「はあ〜、やっと目的地かしら?そこにはちゃんとビリーの求めるブツってのはあるのよね?」
「ニコ、私は大丈夫だと思うぞー?プロキシの出したルートだからねっ!」
「ったく、そんな事は分かってんのよ!猫又!」と、ビリーの探し物に時間が掛かっている事に対してあからさまに苛立った様子のニコ。彼女が頭目として事業を営んでいる便利屋"邪兎屋"の三人と、スカーフを身に付けたボンプが、瓦礫に塗れたコンクリートの地面を歩んでいく。
彼等の現在地は"ホロウ"。外界から覗くホロウは、光1つとて見られない巨大な黒い球であり、その見た目はブラックホールを彷彿とさせる。しかしその中は、崩壊したビル群や街区が無作為に広がる巨大な空間であり、外界の常識は通用しない事さえある。
ホロウ内部は"エーテル"と呼ばれる物質で満たされていて、またそのエーテルが生み出す怪物"エーテリアス"が跋扈している。また、エーテル適性が低い人間がエーテルに被曝すると体がエーテル侵食が起こる。長時間の被曝または烈性エーテルの短期間での大量被曝を受けた人間は、最終的にはエーテリアスに変貌してしまう。一度そうなってしまえば、もう元に戻る事は叶わず、ホロウを拡げる尖兵である化け物に成り果てる。
しかしエーテルはエネルギー資源としても優秀で、立入禁止区域であるホロウ内には"ホロウレイダー"と呼ばれる命知らず達が、エーテル資源で一儲けを企んでいたり、探し物を見つけるべく東奔西走していたりする。
ホロウ、そしてエーテルは世界を蝕む病巣であると同時に、"旧都陥落"の
ような凄惨な災害から復興し、現在の"新エリー都"を築き上げる為の一助ともなった優秀な資源でもある。
「アンビーは新作のハンバーガーだ何だって言って猛ダッシュでハンバーガー屋に向かったし、さっきエーテリアスの咆哮っぽい音も聞こえたからここら辺も危険かもしれないし……全くもう!」
〈アンビーのそれ、今お兄ちゃんが買いに行ってる奴だ……〉
ボンプがそう語った瞬間に、猫又とニコの腹の虫が鳴き出す。ぐう、という大きな音が、彼女等がホロウの中に入ってかなりの時間が経っている事を語る。
「うにゃ、お腹が空いてきた……早く帰ってお魚が食べたい、そういう気分……」
「それ言われると余計腹が減ってこねぇか?いや俺は食事の必要が無ぇから別に構わないんだが……」
「わ、た、し、が!構うの!」
「まあまあ、ニコの親分……って!?お、おおおおおおおぉぉぉっ!!!!???」
カリカリするニコをビリーが嗜めようとした瞬間、彼の目に求めていた物が地面に横たわっているのが目に入り、雄叫びを上げて興奮し出した。
「これだよ、これこれ!!!映画版スターライトナイトの限定ポスター、当時100枚しか刷られなかった幻の初期版!!!一見すると通常版とそんなに変わらねえかもしれないが、よく見ると……そう、ここだよここ!!!スターライトナイトのポージングとか背景の星の輝きとかが絶妙に違くて、それからそれから……」
「「〈……〉」」
ビリーはスターライトナイト、ひいては特撮モノの映画の話題について語り出すと、もう止まらない。そのまま早口で喋り出したビリーを止める術は最早その場の全員には無く。このまま小一時間のマシンガントーク会が続くものかと思われたその時。
ザンッ!!
何かを刻むような音が聞こえると同時に、興奮気味だったビリーも、呆れ顔だったニコと猫又も、そしてボンプを通して彼等にルートを導き出しているプロキシ"リン"も、先程までの何処か気が抜けたような空気を一変させて周辺を警戒する。
ここはあくまでもホロウであり、何が起こるのか分からない危険な空間、どれだけ警戒しても余分な事は決して無い。その場にいる全員が物陰となる車の裾へと飛び込み、音のする方向に目を向ける。
そこに居たのは、犬の耳に白い髪と紅い目。体の各所に包帯を巻いた華奢な少女が、ブレードの形に整えられた水浅葱の光波を振り回し、たった1人で複数のエーテリアスを圧倒している光景だった。
「お、おいっ!?あれって……!?」
ビリーが思わず声を漏らす。少女が戦っているのは、"タナトス"と"デュラハン"。それらはホロウの中でも強力なエーテリアスの筈なのだが……。
タナトスが身を消し背後から切り掛かっても、デュラハンがその重厚な盾状のエーテルを叩きつけても、少女はそれを舞うように回避し、川の流れを想起させる程自然な動きでブレードを構えて受け流す。
対象的に少女の振る光波の剣はやがてタナトスを真っ二つに切り、デュラハンの体を貫く。二体の怪物は瞬殺されていた。
正に鬼神の如き強さを見せつけた少女の横顔が、それを物陰から隠れて見ていた一行には、全てを焼き尽くす炎と嵐のようにすら見えた。
そしてその炎が、呆けた表情で眺めている一行にとっても決して対岸の火事で無い事を悟るには、あまりにも遅かった。
ジュアッ!!
「えっ!?」
一行の中で最も身長の高いビリーの頭の僅か上を、月光を形取ったような光波の刃が掠める。鋼鉄製の車が焼き切られ、赤熱から冷めた滑らかな断面を見せたその先。
「……お前達は、何者だ?」
──紅い視線がどこまでも冷たい殺意を込めて睨んでいた。
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──
ーー脳深部コーラル管理デバイス起動、解除条件をクリア。
ハンドラー・ウォルターからのメッセージを再生します。
ーー621。
お前に……は、まだ……来が……る。
お前……身の、稼……金と、友……と。
そし……前の、選択……。
それは、お前……罪ではない。だから……気負うな。
62……1,。
お前は……普……の人……を……。
友人た蜿倶ココ驕斐→縲√♀蜑阪?莠コ逕溘r豁ゥ繧√?
ーーーーーーーー
ーーーー
ーー
「……え?」
「なん、で?」
何かが聞こえたような気がすると同時に私は
五臓六腑四肢に至る全身に血液が染み渡る。薄橙の肌を擽る風が肌を撫で、乾いた涙のざらざらとした触感が眼元を覆い、背中に触れるコンクリートの大地の硬さが、横たわっている状態である事を示す。
「私は……死ななかったの?」
未だに目の前の現実が受け入れられない。私は死ねなかったのだろうか。目の前に広がる荒廃した灰色で彩られたコンクリート施設群は人工の質感を呼ぶ無機的な殺風景。天国や地獄と呼ばれる空間のイメージと比較しても、そこには天使や悪魔といった存在は見られない。
私は、燃え残ったのか。
そう頭では理解していても、心が理解を阻む。もしも神が存在し、私の運命を操作しているのであれば、何故これ程残酷な現実をまざまざと見せつけてくるのだろうか。私のような屑ばかりが生き残り、ウォルターのような良い人間が死ぬ。これは余りにも不当な事実なのではないか。
……否、これは妥当な事だろう。何故ならば私は散々殺して、猟犬から獣に成り下がった害獣。何億もの人間、史上最も多くの人命を奪った個人。そうであれば、この世でわざと生かし続け、罪悪に呑まれ苦しむ事が私の今生きている理由なのだろう。
「ぐるるああぁぁっ!!」
突如として聞こえた咆哮。僅かな怠気を孕む体に鞭打ち、なんとか立ち上がりその声の方へと目を向ける。
「っ!?」
怪物が居た。
頭部が黒い球状の浮遊物に置換された人の形、それが複数体、私を取り囲むように向かって来る。そのうちの一体はこちらに向かって、咎人を拷問する鞭のようにしなる腕をこちらに振り抜かんとしていた。
咄嗟に身を大きく後方に下げてそれを回避する。直前まで私が寝ていた床は怪物の狂手によって打ち付けられ、みしりという不穏な音と共にヒビが入る。
「こいつ、コンクリートに一発でヒビを……?」
力が強いせいだろう、怪物は先の攻撃で手が地面にめり込んでしまったようで、引き剥がそうと必死になっている為動けないといった様子。その動作を見るに、高度な知的生命体と呼べる程度に発達した思考回路は持ち合わせていない事に気が付く。
「化け物、か……」
きっと目の前の化け物を放置すれば、その凶刃に掛かった人間は死ぬだろう。燃え残った私の罪は、きっとこれからの行為をしても赦される事は無い。だとしても、私はもう、直接的だろうが間接的だろうが、生命を弄び、奪うような真似はしたくない。
「……倒す!」
ふと左手の甲に何かを付けている感触を覚える。そこには本来はACの武器である筈の"
私は無意識的に、ルビコンでACに乗っていた頃にあたりまえに行っていた、最早呼吸の動作とも言えるパルスブレードの二連切りを怪物に浴びせる。
一撃目でその岩石のような身体を真っ二つに切り伏せて、流れるように放たれる二撃目は化け物を塵へと変えた。
今度は前方に駆け出し一体を袈裟斬りにし、同時に腕を降り掛かってくる二体の怪物を横一文字に振り抜き、腹部を切断。力を失った怪物は地に斃れる。
無我夢中にパルスブレードで怪物を切り伏せていると、気が付けば辺りに腐るほどいた筈の怪物の影は、ただ二体のみとなっていた。
片方はマントのようなものを羽織った相貌が卑劣な"
姿形からして先程まで屠った化け物とは大きく異なる。おそらく上位の個体、指揮官的存在。先のそれとは比べ物にならない強さかもしれない。
強敵の登場に心臓の脈拍が速くなり、アドレナリンが脳中を駆け巡る。"脳深部コーラル管理デバイス"が脳波を調整した為に発生した、一種のゾーンとも呼べる状態が、私の知覚範囲を拡張する感覚と共にやって来る。
ズガァン!!
直後、騎士の大盾がその下に佇む存在の頭蓋を割らんと振り下ろされる。人間を逸脱した生命体の剛腕が振う大質量の一撃に対して、真横に大きく跳躍する事でこれを回避、着地時に大きく曲げた両足の膂力全てを地面を持って地面を蹴る。
騎士の懐に急接近する事に成功しパルスブレードを起動、二連切りを浴びせようと光波の剣を振り抜く。一撃目は直撃したものの、二撃目は直前に騎士と私の間に割り込んだ死神の切り払いによって阻止される
「ペアでの連携……厄介」
その戦いぶりは、解放戦線からの依頼で封鎖機構の兵器を破壊する任務を受けた時のLC機体らの動きを想起させる。盾を持つLCが前に出て、火力を出せる武器を放つ。状況によって包囲挟撃、連追撃と戦法を柔軟に切り替える事により敵を翻弄する為、対象が戦場に出て間も無い新兵であれば混沌としてまごつく内に物言わぬ肉塊と化しているだろう。
尤も、無数の戦場を渡り歩いた私の前では、無意味な皮算用でしか無い。それであれば、あの忌々しい
──安そうな方から片付けよう。
死神へと向かって急接近、するとそれはその体を虚空へと消す。
「……そこかっ!」
「ぐおうるぁっ?」
背後にパルスブレードを振り抜くとそこには消えたと思われていた……否、こちらに奇襲をするべく姿を消していた死神の姿が。初見で見抜かれるとは思っていなかったのだろう、防御姿勢を一切取れていない死神の胸部にパルスの奔流が容赦無く払われ、対象に大きな裂傷が入り、よろめく。
直後、窮地の仲間を救わんとしたのか騎士が大楯を再び振り下ろす。だが既に把握済みの攻撃、大きく側転する事により大質量の一撃は地面に轟音を打ち鳴らしそれを砕くだけの結果に終わる。
そうして騎士が動けなくなった所に、重傷を負いふらつく死神へと迫り、パルスブレードの出力を最大まで上昇させる。
「……相手が悪かったな」
ザンッ!
死神は呻き声を上げる事すら叶わず塵となった。そして大楯を地面に突き刺したまま、未だ動けずにいる騎士に対しても。
「
ザシュウ……!
パルスブレードを突き刺すと、騎士はその体を粒子へと変えながら斃れたのだった。
「……ふう」
これで化け物の群れは倒せた。
「次は……」
ジュアッ!!
「えっ!?」
パルスブレードの出力を調整して横一文字に大きく振り抜くと、月光の形をした水浅葱の光波の斬撃が空を刻む。鋼鉄製の車が焼き切られ、赤熱から冷めた滑らかな断面を見せたその先。
「……お前達は、何者だ?」
三つの人影と、一つの兎のようなものが驚愕の表情でこちらを見ていた。
6/21日を記念して、かつ、最近復帰したゼンゼロと、所持金が4億coamを突破したACVIとのクロスオーバーの小説が少ない、そんな気がしたので書いた小説、後悔しかしていない。