灼けた虚の先で   作:爆死担当抹茶

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 鴉は渡り着いた先で、新たに出会う。



火を付けた先の世界(2)

 

 リンの額を冷や汗が伝う。

 

 ボンプ越しに見えるのは、先程までエーテリアスを蹂躙していた、犬のシリオンと思わしき少女。その少女が振り回す水浅葱の刃が、今度はホロウ内にいる彼女の友人である邪兎屋に向けられていた為である。

 光波の刃は、タナトス、そしてデュラハンといった強力なエーテリアスにいとも容易く傷を付け、その体を貫き切断した。邪兎屋のメンバーが光波の刃をまともに喰らってしまったら、その先の運命は……。

 その光景を想像して、リンは大きく首を左右に振る。凄惨な光景を考えるよりも、己の仕事に集中しなければならないとすぐに思い直す。

 

〈ビリー、そのまま引きながら射撃を……って、後ろに飛んで!!〉

 

「そこまでは引き撃ちしながらの延滞戦法って事か店長ってうおわああっ!!!????」

 

 ビリーがリンの助言通りに咄嗟のバックステップを踏んだ刹那、目下10数m程の距離にいた筈の少女は、ビリーの懐があった場所に光波の刃を払う。横一文字に振るわれたそれが空を切り裂く様を見て、一歩遅ければ上半身と下半身が分たれていた事実を彼は知る。

 

「ビリー、交代(スイッチ)するぞ!」

 

 猫又がその小柄な体躯とシリオン特有の身体能力を生かし、少女へと接近。短刀を振り翳す素振りを見せて、少女に回避行動を誘発させる。思惑通りに事は運び、少女は回避行動を取り、僅かな隙が生まれる。それを好機と見た瞬間的に背後へと回った猫又は短刀で突きを入れ……

 

(……ッ!?見抜かれて……!)

 

 ──ようとした瞬間、その隙は敢えて作られた物だと、水浅葱の凶刃が迫るのを見て猫又は悟る。一瞬で後ろを振り返った少女が、その時の回転から生まれる遠心力を余す事無く腕に掛けた為に、光波の刃は避ける事も回避する事も叶わない。

 

「猫又に、手を出すんじゃ無いわよっ!!」

 

 だが、振るわれた光波の刃は直前で少女が体を大きく捩った事により僅かながら猶予が生まれ、何とか猫又は受ける事に成功する。短刀と光波の刃がぶつかり合い反発したその直後、少女が居た地点を、ニコがアタッシュケース状のランチャーから発射した特殊エーテル弾が掠める。

 

「……」

 

 その立ち振る舞いは歴戦のものでありながらも、戦法は猟犬のように喰らいつくようなものである少女。放たれる攻撃の悉くは正確無比にウィークポイントに向かい、回避行動は最適な起動を完璧に動く。三対一、その圧倒的不利を背負いながらも邪兎屋の一同を圧倒し、息切れ一つすら起こさない無尽蔵の体力。それでいながらも一言も発せずに構えを取る少女が、邪兎屋の面々には、全てを焼き尽くす力の表象のようにすら見えた。

 

「……終わらせようか」

 

 そんな少女は初めて言葉を放つと同時に、一同の視界から消え去る。

 

「な、どこに行ったの……!?」

 

 そうニコが言葉を溢した瞬間に、彼女の視界に水浅葱の凶刃が映る。それがニコの見る最後の光景……

 

 ピタッ!

 

「……やっぱり、敵意は無いのか」

 

 にはならなかった。寸止めされた光波の刃を見て、ニコは思わず腰を抜かすのだった。少女の瞳の色は、紅蓮の業火を彷彿とさせる赤色から、いつの間にか透き通る青空のような蒼色へと変わっていた。

 

 

 ────────

 ────

 ──

 

 

「……すまなかった」

 

「ったく、いきなり切り掛かってくるとかびっくりするわよホントに!このツケはいつか払「いや、こちらこそスマねぇ!コソコソ探るようなマネをしちまって、ほらこの通り!」ちょっビリー、遮んないでよ!」

 

 ピンク髪のツインテールの女が顰めっ面で私に捲し立てようとした所を、人型の機械(ただしアーマードコアでは無い)が静止する。猫耳が特徴的な小柄なのはその様子を見て、くふふと小さく笑う。

 

〈ほんと、ニコにあんたの刃が迫っていた時には思わず目を覆っちゃったよ……〉

 

 ……ところで、これは何なんだ?

 

 丸っこいボディに兎のような耳が生えている、オレンジのスカーフがチャームポイント……という奴なのかもしれない謎の機械からは、私の事をあんたと呼ぶの声が聞こえてくる。先の人型の機械を見た時にも驚きは感じだが、今度の機械はそれ以上だ。

 

「……それで、お前達は結局誰なんだ?生憎無駄な探り合いや文句の言い合いっこに対して脳のリソースを割くのは苦手だから、せめて名前ぐらいは教えて欲しい」

 

「二言目がそれっておかしいんじゃな「俺はビリーでこっちはニコの親分だ!」まーた割り込「あたしは猫又!そんなに警戒するんじゃない、悪い奴じゃないぞ!私達は"邪兎屋"のメンバーで、他にも一人居るんだが……そっちは今、新発売のハンバーガーを食べに行ってるんだ」もう、猫又まで!!」

 

 私は戦闘面を除けばウォルターやエア程脳が回る訳では無い私は、だからこそ直接的に物を聞く事にしたのだが……ニコとやらは顰めっ面に更に怒りを乗せてしまった。幸いビリーとやらと猫又とやらがそれを遮ったお陰でこれ以上何か言われる事は無さそうだ。

 

「一応敵意が無かったから攻撃は止めた。まあ、敵意があったとしても殺す気は無かった。ただその場合、何故物陰で見ていたのか、何者なのか……体に聞く事もあっただろうけど。それで……そっちの丸っこい機械は?ビリーとやらと同じ手合い?」

 

〈私はリン!……とは言っても、今はこの"ボンプ"越しに、ここ"ホロウ"内にいる邪兎屋のメンバーを案内してた所だから、本体は別の場所にいるただの人間だけどね。それにしても、さっき"エーテリアス"をああも一方的に倒していたあんたは何者?〉

 

 ……固有名詞が多過ぎる。いや、私が知らないというだけで一般的に普及している言葉なのかもしれない。とにかく、丸っこいのはボンプ、現在の場所はホロウ、先の化け物達はエーテリアスで良いだろう。

 

「……ただの傭兵だ。普段はアーマードコア、ACに乗って依頼をこなしているんだが、なにしろ緊急事態(イレギュラー)が発生した。私が乗っていた筈のACが紛失した為、仕方無くエーテリアスとやらと、生身での戦闘を行う形となった」

 

 "レイヴン"……傭兵としての名前、ルビコンでの名義までは言わない。星系一つを焼き払った主犯、その名前を口に出してしまえば、どうなる事か判ったものでは無いだろうから。

 それにしても、邪兎屋の一同の表情に困惑が浮かんでいるのは何故だろうか。それこそ今の私のように、知らない名詞を複数個言われて戸惑っているかのように。

 

〈んー、えっと。その……〉

 

 リンがボンプ越しに言葉を発する。何か探るような、言葉を選んでいるような感じがするのは何故だろうか……?

 

〈アーマードコア、って何?少なくとも私は聞いた事が無いんだけど……〉

 

「……え?」

 

 そんな筈は無い。ACは近代戦闘において、パーツ換装により個々人毎の最適解となる武装を施した兵器に仕上げる事が可能である事から、量産性に優れるMT同様、最も普及した人型戦闘兵器である。その名前も、概念も知らないと言う事がある筈が無いのに、困惑の混じったリンの声には嘘は見られない。邪兎屋の一同も同様といった様子。

 生きていれば一度は耳にするに違い無い単語を知らない、それは何故なのだろうか。……いや、考えてみれば、エーテリアスやホロウといった私が知らない単語をリン達は話していた。その口調には、それがこの世界において一般に話しても通じるだろうという固定観念に近い確信があった。

 だがそれを私は知らず、逆に私にとっては体の一部に等しく、当然一般に話しても通じるACという単語を彼女達は知らない。

 

 今、私の脳裏に浮かんだ一つの仮説は、現実の物とするには余りにも荒唐無稽なものであり、だが現状の辻褄合わせとしては最適な解でもある。恐らく、私は……。

 

「……一応聞くが、ルビコン3という惑星(ほし)の事を知っているか?ベイラムとアーキバスという二大企業に聞き覚えはあるか?」

 

〈……ごめん、全く分からないや〉

 

 やはり、私は……

 

 ──別の世界に、流れ着いたらしい。

 

 だとすれば。

 

 ウォルターに拾われて、アーマードコアに乗って。眼前の敵を駆逐して、目標を達成して。少しずつ再調整をして、人間に近づこうと努力した日々。

 壁や旧宇宙港で肩を並べて戦い、互いの意志をルビコンの灼けた空の上でぶつけ合った戦友(ラスティ)、ウォッチポイントでコーラルの奔流に意識が散逸しかけていた私を救い出し、解り逢えないまま殺し合った友人(エア)との出会い。

 そして星系全てを仕方の無い事だとして焼き払い、惑星一つに生きる全ての生命(いのち)を焼き殺し、散々殺して回った獣に成り下がってまで成し遂げた、過去から続く人々……そしてウォルターの意志。

 

 それらの旅路の足跡が一切残らない世界に来てしまったのならば、それらの全ては一体何だったの?そこに"意味"はあったの?戦友を、友人を、恩人を殺したにも関わらず、それすらも無かった事にされ、漠然と漂う罪悪の感情だけが永遠に裁かれる事無く残り続けるの?

 

 全ては幻想だった(  All is Fantasy  )

 

「……認めない。そんな不条理を、私は認めない」

 

〈……どうしたの、大丈夫?ちょっと、聞いてるの?〉

 

「!?あ、ああ。少しだけ……考え事を」

 

 無意識に口に溢したのを聞かれてしまったらしい。私も、まだまだ駄目だなぁ……

 

「なぁーに暗くなってんのよ!!!」

 

 大声と共に急にニコが突っ込んで来たかと思えば、横倒しにされてしまった。そこに覆い被さるように乗ってくる、怒り心頭といった様子のニコが、先程から存在する事に違和感を感じていた頭に生えている何かを引っ張って来た。

 

「!?むぐっ、ちょ、引っ張らないで……!」

 

「私はあんたが考え事をして暗くなるとかどうでもいいのっ!多分昔に何かあったんでしょうけど、そんな事は今はどうでもいいの!だからさっさと前を向いて羽ばたくの!……そうね、じゃあまず、私達は喋る事喋ったんだから、せめて名前ぐらいは言いなさい!」

 

 ……

 

 前を向いて、羽ばたく……か。

 

 恐らくあの人も、ウォルターも、私がそうある事を望んでいたのかもしれない。なのであれば、かつての日々が無かった事になる、そうだとしても、私はそうしなければならないのかもしれない。

 

「……ふふっ!」

 

「な……何か可笑しかった訳!?だとしたら承知しな──」

 

「レイヴン」

 

「……え?」

 

 気付けば私は口を開いていた。かつては自由の表象であり、今は惑星一つを焼き払った主犯の、過去の罪を累算する帳簿務める筈の忌名を方に出していた。

 

「レイヴン、それが私の名前。そうだ、これが私の名前だ」

 

 自分に言い聞かせるように反芻された言葉。それを一同が聞くと、何故か嬉しそうな顔をされた。

 

「……何、その顔?」

 

〈いやあ、レイヴンちゃんが可愛いなあ〜って。さっきまで萎れちゃってた"頭の犬耳"が、ちょっとだけ上がったからさ〉

 

 ……頭の犬耳?ああ、そうか。なるほど、それがさっきまでの頭の違和感の正体だったのか……。

 

 ???????

 

 これは……この世界に来たせいで起こった事なのか?

 

「しょうがないわね……ホラ、鏡!」

 

 鏡面に映る自分の姿を見ると、犬の耳に白い髪と蒼い目。体の各所に包帯を巻いた華奢な少女が、驚いたかのように尻尾を大きく立てていた。何故このような姿に?なんだかもうよく分からない、ありがとうございました……?

 

〈みんな、エーテリアスの大群が迫って来てる!早く裂け目まで向かって脱出しよう!〉

 

 ボンプ越しの音声がそう語る。私はもう自棄になりながら、リンの案内の下、邪兎屋の一同と共にホロウを脱出すべく走り回った。

 

 

 ────────

 ────

 ──

 

 

「ようこそ、"Random Play"へ!ここは六分街、いや新エリー都一番のビデオ屋!取り扱うビデオの中に、あなたの望む逸品がきっとそこに!」

 

「ははは……リン、宣伝は後でも出来るだろう?……そして、レイヴンさん、話は聞いてるよ。僕はアキラ、リンと共にここRandom Playの営業を行うと同時に、"プロキシ"としてホロウの案内もしている。これからよろしく、もし何か僕達が力になれそうな事があれば是非声をかけて欲しい」

 

 興奮気味に宣伝するリンを嗜めながら、アキラと名乗った青年が語る。ちなみに二人は兄妹との事で、側から見ても、互いの事が好きであるというのがよく分かった。

 そのような存在が私にが居たのかは分からない。強化手術を受ける前の記憶が、私には存在しないから。もしそういった存在がいたのであれば、今は何をしているのだろうか、そもそも生きているのだろうか。私には分からない。

 

 ……余計な感傷に浸る前に、伝える事を伝えねばならないだろう。

 

「暫くの間はここに住まわせて貰う事になるけど、いつまでもここに居る訳にもいかない。その時になったら伝える、それまではよろしく。それと、私はこれまで通り傭兵として働く。独立傭兵"レイヴン"として。……ああ、心配は要らない。これでも作戦(ミッション)成功率は100%、ACが無くてもやっていける。それにこの"レイヴン"の名前は、あくまでも傭兵としての識別名。本名では無いからその辺りも心配は不要だ」

 

 そもそも、別の世界から来た私が新エリー都のライセンスを持っている筈も無いので、本名も何も無いと言ってしまえばそれまでだが……。

 

「なるほど、傭兵ねー……今まではどんな仕事を受けて来たの?」

 

「作戦目標の破壊とか敵の殲滅のような物もあれば、打上花火の護衛や氷原の化け物退治。金さえ貰えば、どんな仕事もしてきた。必要であれば、お前達の護衛も行う事も可能だ。例えば……」

 

 カウンター上に転がっていたペンを手に持ち、壁へと投擲する。するとガシャンという何かの機械が壊れる音が、飛び散るスパークの光と共に来る。割れたレンズの破片が、壊した機械がカメラだった事を物語る。

 

「これは……?」

 

「良ければ、このように隠れて探るような真似をする不届者の"始末"も請け負うが、どうする?後、今は狙撃銃で覗かれているような感触がする。不思議なのは敵意がお前達では無く私に向いている事。だがその銃口がお前達に向く事もあるかもしれない故、それも始末する事を推奨するが……」

 

「いやいや、大丈夫。だけどレイヴンさんの腕は良く分かった」

 

 ……何かを隠そうとしている表情だが、敢えて触れるような事はしなかった。アキラが急いで情報端末を取り出し何かのメッセージを送ると、やがて敵意は消えたので、警戒は最低限に留めておく事にする。

 

「それと……私はあくまでも傭兵。誰かと密な交流関係を築き上げる事は決して無い。勿論、お前達とも。たとえ釜の中の飯を共に食べた人間であっても敵対する事も少なく無いのが傭兵。だから、なるべく仕事の時に私情を挟むような事が無いようにしたい」

 

 そう告げると、「そうか……」と、僅かに陰りが見える表情で応える二人。だがこれも私が傭兵である為に必要な事だ。

 

 "仕事"は傭兵にとって最も重要な概念である。例え全てを焼き尽くす程の優れた力を持つ傭兵であっても、依頼が無ければ何者にも成れない。木端の傭兵であっても、仕事があるというだけで意味を持つ存在に成れる。しかしその"仕事"が親しい仲である人間を害する内容であればどうであろうか。躊躇が生まれる事も多々あるだろう。

 だからこそ、傭兵は基本的に、親しい仲の人間を持つ事は無い。例外を挙げるとすれば、それが恩人であったり、長い時間を離れる事無く共にした仲であったりするケースぐらいだろう。

 

 それと……これは私個人としての考えになってしまうけれども。私と関わった人々は、最終的には全員死んだ。一度嵌ってしまったら抜け出せない底無しの毒沼にも似たその運命に、この兄妹を巻き込みたくは無い。そういった考えもある。

 

 

 ──この咎は、私のみが背負うべき物だから。

 

 

「……まあ、そういう訳だ。短い間だけど、改めてよろしく」

 

「うん!こちらからも、よろしくね!」

 

「心より歓迎するよ」

 

 この後、リンに勧められたインスタント麺を食べた後シャワーを浴びて睡眠に入った。こうして、この世界に来ての初日は幕を閉じた。

 

 






 どうしても旧作の台詞のオマージュを入れたい症候群。

 そして二話目が投稿された真実に驚愕。

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