灼けた虚の先で   作:爆死担当抹茶

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 "ノーカウント"にはならない事もある。


幸運な男

 

 

 作戦を説明する。

 

 雇主はフジツー・ミレニアム。目標は、ホロウレイダー"フルカウント"の無力化。

 

 奴は変なデザインのヘルメットを被った大柄のホロウレイダーで、フジツーが開発している共生ホロウに住みつき、隙あらばエーテル資源を掻っ攫って行く子悪党だ。

 

 なんでも、奴が言うには「企業が金を集め、貧困な個人には金が向かないのは不公平だ。故に私はその罪を"清算(フルカウント)"しなければならない」という主張らしい。

 

 あいつも他のホロウレイダーから物資を強奪したりしている癖によくそんな口が叩ける物だな。ついでにその腐れ根性も傭兵諸君に叩いて貰えると助かる。勿論事が終われば我々が回収し、然るべき対応を行う予定だ。

 

 なお、そのホロウ内には商人をやっている禿頭の男が居るらしい。無いとは思うが、万が一狙われる事があれば一大事となるだろう。警戒しておくに越した事は無い。

 

 こんなところか。悪い話では無いと思うぜ、返事を期待している。

 

 

 前金   なし

 基本報酬 100000ディニー

 特別報酬 なし

 

 ・ホロウレイダー"フルカウント"の排除

 

 ・ホロウレイダーの商人の目撃情報あり

 

 

 まずは企業や組織へと名前を売る為に、ばら撒き依頼からこなして行く事にした私は、インターノット上の掲示板で発見した丁度良さげなミッションを受諾した。雇主である企業、フジツー・ミレニアムはリン曰く、最近頭角を表し始めた新興企業との事らしく、エーテル関連の技術には目を見張る物があるのだとか。

 それにしても、ルビコンでは最も優れた傭兵としてアリーナのランク1まで登り詰めた私が、貪るようにばら撒き依頼に取り付いている。木端の傭兵のように今を生きる自分の姿が事実だと考えると、滑稽な冗談を聞いたような気分にすらなる。尤も、ルビコンと新エリー都は全くの別物なのだから、それは当然の事実ではあるのだが。

 ホロウ内のマップである"キャロット"は、依頼受諾のメッセージを送った直後にフジツーから送られてきている。相手の手際が良いのであれば、こちらもさっさと仕事を終わらせるのが道理という物だろう。

 

「それじゃあ、早速行くとしようか」

 

 ──さあ、レイヴン。仕事を始めましょう。

 

 ……私の友人が今この場に居たならば、そう言っているのかもしれないな。

 

 

 ────────

 ────

 ──

 

 

 禿頭が悪目立ちする男のホロウレイダー、"パッチ・ザ・グッドラック"の半生は数奇なものだった。とある日まで己の事を幸運だと思い込んでいた彼は、とあるビジネスで小さいながらも成功を納め、順調な暮らしを築き上げていっていた。

 

 "旧都陥落"。

 

 零号ホロウの暴走により、旧エリー都がホロウ災害に見舞われたあの日、生まれつきエーテル適正が高かった彼は、偶々旧都陥落から生き延びたのだった。

 

 そしてその時に、己の財産の殆どを失った。

 

 それ以来、エーテルという危険物質に可能性を見出したかつてのヘーリオス研究所の研究狂い達のような人間達──尤もこれは、ただのパッチの偏見なのだが……──つまりは強欲な人間、そのような連中に対してパッチは深い嫌悪感を抱く事になったのであった。その者達の強欲により、彼は己が最も大切にしていた物を失う事になったとパッチは考えたからだ。

 

 財の殆どを失った彼は、一か八かでなけなしの財産を武器弾薬の購入に全投入した後、いち早くホロウレイダーとして、ホロウ内での武器弾薬を売買するビジネスを行い始めた。その時に偶然出会った大物のホロウレイダーが商品に高い評価を付けた為に、彼はホロウレイダーの中ではそこそこ有名な人物となっており、ホロウ内で銃火器を扱う際には彼の商品を使う事が"鉄板"である事から、いつしか"鉄板のパッチ"とも呼ばれるようにもなった。

 

 そんな彼は先程、大柄で変なヘルメットを被った、荒くれのホロウレイダーに捕まった。パッチは商人、つまりは金を持っている。そう考え、それを奪わんとする強欲なホロウレイダーは後を経たない。だがパッチはその状況を打破する為に使う手段を持ち合わせていた。

 

「あの穴の下に、たんまりとお宝が見えるんだ。まあ、とりあえず覗いてみろよ、すげえお宝だぜ!へへへへッ……!」

 

「……何っ!?案内しろ!!」

 

 パッチの言う通りに着いて行くホロウレイダー。お宝という単語に目を眩まし、己の強欲に飲まれるような人間は、パッチが最も嫌う人種であり、最も騙し甲斐のある獲物だと思っていた。

 そうして二人が向かった先には、大穴があった。中々の深さではあるが、人が生身で降りてもしっかり着地さえすれば深手は負わない程度の深さでもあるその大穴を、ホロウレイダーはパッチに言われるがままに覗く。しかしその大穴には、見た所では、お宝はたんまりどころか欠片すらも無い。ホロウレイダーが血相を変え、パッチの方向を振り向こうとしたその時……

 

「へへッ、悪く思うなよ」

 

 パッチの蹴りがホロウレイダーに炸裂し、大柄である体が災いしてバランスを大きく崩す。足を大きく滑らせ、大穴の底に受け身を取れずに落下する。受け身を取れなかった筈なのに何故か無傷だったホロウレイダーはすぐに立ち上がり、崖上を覗く。

 

「あんたの死体から剥いだお宝、せいぜい高く売ってやるからよ!ウヒャヒャヒャヒャッ!」

 

 最早様式美すらも感じる単純な罠。それすらも見抜けなくなってしまうのが欲深い人間。パッチはそのような人間を最も忌み嫌っている。

 だからこそ、そのような人間をエーテリアスの餌として大穴に蹴り落とすパッチは、大きな笑い声を上げ、口角は大きく釣り上がりつつも、目は死んだ魚のように乾いた感情を抱いているのみだった。

 彼の境遇には多少の同情の余地はあれど、その行為自体に賛同出来る人間は少ないだろう。事実、パッチのような境遇の人間は新エリー都にごまんと存在するし、その殆どが真っ当に働き日々を生きている。

 

 だからこそ、大穴に蹴り落としてきた人間達の怨嗟、彼が積み重ねてきた罪が清算される時が来たのかもしれない。

 

「……お前。今、俺に対して何をしたか理解しているんだよな?」

 

「……あ、あんた……。まあ、落ち着いて話を聞いてくれ。俺が悪かった、悪気は無かったんだ。ただ、ちょっと魔が差したっていうか……。な?分かるだろ?許してくれよ」

 

 蹴り落としたホロウレイダーが大穴から脱出し、現在に至る。

 

 捕食者に詰め寄られてビクビクと震えるシマウマのように見える禿頭の男。皮肉な事に、側から見た彼は、強欲な人間に憎悪を燃やす復讐者というよりは、彼自身が最も忌み嫌う、己の欲の為に他者を平気で命の危険に晒す小物中の小物のように見えたのだった。

 ホロウレイダーが、パッチから強奪したショットガンを抜く。カチャリという散弾の装填音が周辺の乾いた空気に響き渡る。脂汗を全身に滲ませるパッチは、ホロウレイダーの醸し出す殺意に圧倒され、今にも失禁してしまいそうな程に怯えていた。

 

「待ってくれ!降参だ!あんたは生きている。ノーカウントだ、ノーカウント!な、分かるだろ?同じホロウレイダーじゃないか!」

 

「……阿呆だな」

 

 足をプルプルと震えさせながら、縋るように語るパッチ、生き延びようとする為に恥すら厭わず名誉をかなぐり捨てるその姿勢は、見事と言うべきか哀れと言うべきか。ホロウレイダーは最早呆れて物も言えず、先程までの怒りもどこへやら。

 だが、仮にもホロウレイダーは殺されかけたのだという事実を忘れてはいなかった。どこか様子おかしい人間が多いホロウレイダーだが、連中もそこまでは馬鹿じゃない。ショットガンの銃口はなおもパッチに向けられたままだ。

 

(糞が、最悪だぜ……ついてねえ、ついてねえよ!)

 

 パッチは悟る。"旧都陥落"以降の幸運に対する皺寄せは正しく今なのだと。そして今、自分の命がここで終わるのだと。

 

「悪いが、見逃してやれん。ここでくたばりな!ハラショォォォオオオオオ!!!」

 

("あいつ"に託されたってのに……こんな結末マジかよ、夢なら覚め──)

 

 走馬灯のようにパッチの脳裏を巡る彼の記憶。その中には、彼が商売を始めるきっかけとなった男の姿が写る。そして記憶の回歴を終える間も無く、ショットガンの引き金に指がかけられたその瞬間。

 

「ぐごおっ!?」

 

 ホロウレイダーが大きく吹き飛ぶ。パッチは一瞬の困惑の後、ホロウレイダーが吹き飛んだ理由が蹴り飛ばされた事であると知る。ではそれをしたのは誰か、そうパッチが考えた時。

 

「……依頼目標発見、撃破する」

 

 白髪の犬のシリオンである華奢な少女が、青かった目を紅に染めた。たったそれだけで、パッチは息を呑む。一切の殺意が感じられないにも関わらず、硝煙と鉄の匂いを辺りに漂わせる少女の存在が、パッチには全てを焼き尽くす黒い鳥に見えた。

 そしてそこからは蹂躙だった。ホロウレイダーは少女の素早い動きを全く追う事が出来なかった為に、一方的に殴られ蹴られ、終いには腹にドロップキックを受けて、胃の中の物を全て吐き出して気絶してしまった。

 

「作戦目標の沈黙を確認。ミッション完了」

 

 パッチは終始、口をあんぐりと広げてその光景を見ていた。現実の物とは思えない高速の近接戦闘をを見せた少女に疲労は一切感じられない。

 ふと少女の目線がパッチとかち合ったその時、漸くパッチは我に帰り、阿保面を際立たせる開いた口を動かし、少女に声を掛ける。

 

「お、おい!あんた、一体何者なんだ!」

 

 少女が何者かはパッチには分からない。だが、彼は己が幸運だと言う事実を、命が助かったという事実を噛み締め……

 

「……商人か。なら命を助けた分の駄賃だ、このショットガンとお前の店に並んでいたガトリングは貰って行くぞ」

 

 直ぐに、それが半分幻想だったと知った。

 

 

 ────────

 ────

 ──

 

 

 フジツーが開発しているというホロウ内に侵入する。エーテリアスの姿は殆ど見られず整備も整っている辺りを見ると、ホロウレイダーに目を付けられるのも頷ける。

 エーテルは危険だという事は、リンとアキラから嫌と言う程に聞かされた。何でも、エーテルに長時間被曝してしまった人間は侵食されるとの事で、頭痛や吐き気といった症状から始まり、症状が進行して行くと命が危険なのだとか。最終的には、運が良ければそのまま心臓が動かなくなって死に、最悪の場合では体内で烈性エーテルが悪さをする為に、エーテリアスと化してしまうらしい。

 キャロットのデータを基とした、目標の推定位置へと向かうと、件のホロウレイダーが見つかった。変なヘルメットを被った大柄、伝えられた情報と外見の特徴は一致している。あれがフルカウントだろう。

 

「待ってくれ!降参だ!あんたは生きている。ノーカウントだ、ノーカウント!な、分かるだろ?同じホロウレイダーじゃないか!」

 

「……阿呆だな」

 

 ……何やら話し合っている。少し覗いてみると、フルカウントが全身を汗で濡らした禿頭の男に対して、ショットガンと恨みが籠った殺意を向けているのが見えた。さながら肉食動物が獲物を追い詰めたような構図ではあるが、禿頭の男が何をしたのだろうか。

 

 ──なお、そのホロウ内には商人をやっている禿頭の男が居るらしい。無いとは思うが、万が一狙われる事があれば一大事となるだろう。警戒しておくに越した事は無い。

 

 先程のブリーフィングて言っていたのはあの禿頭の男だろう。だが、戦闘能力を有しているようには見えない。実際、ホロウレイダーに捕まってビクビクと震えるのみというのは、ホロウに這入り込んだ腕自慢の命知らずとは到底思えない。警戒は最低限で良いだろう。

 

「悪いが、見逃してやれん。ここでくたばりな!ハラショォォォオオオオオ!!!」

 

 まあ、そんな事はどうでもいい。

 

「……依頼目標発見、取り押さえる」

 

 仕事を終わらせよう。

 

「ぐごおっ!?」

 

 フルカウントに向かって急接近し、蹴りを一発。その大柄の体躯からは想像出来ない程、面白いくらいに吹っ飛び、受け身も取れずに転がって行くフルカウント。見積もった所10m程、手加減したつもりだったのだが、奇襲を全く警戒していなかった為だろうか。いずれにせよ、相手は体躯だけは一丁前の、ただの凡夫に過ぎないだろう。

 

「なっ……き、貴様はフジツーの手先か!?薄汚れた企業共の狗め……貴様等の上の人間が肥えた腹にどれ程の悪意を詰め込──」

 

「うるさい」

 

「ぐっごおおぉぉぉぉおおお!?い、いつの間にここまで接近していたのか!?」

 

「御大層な思想を語っている暇があるのであれば、もう少し目の前の敵に集中する事を勧めよう。そうすれば、私の接近に……気付ける訳無いか。お前と私の実力差は明白、大人しく静かになって貰うぞ」

 

 言葉を語りながらボディブロウを一発入れ、よろめいた所に右ストレート。防御の一つもさせないように放たれた連撃がフルカウントの体感を崩すのにはさほど時間は掛からなかった。意識を混乱させ、地面に大の字で倒れるフルカウントに止めを刺すべく、大きく跳躍。そのままドロップキックを腹に入れれば、私の足と地面に挟まれた胃から中の物を吐き出し、フルカウントは動かなくなった。

 

「作戦目標の沈黙を確認。ミッション完了」

 

 潰されたカエルのようにピクリとも動かないフルカウントを目下に据えて、ミッションの完了を告げる。初陣としてもあまりにも呆気無いものである気もするが、事前にリンによって案内されたHIAセンターのVR仮装戦闘によって身に付けた格闘術の実践への落とし込みとしては上出来なサンドバッグだっただろう。

 

 後処理はフジツーの人間に任せて、裂け目へと向かおうとしたその時、先程フルカウントに詰められていた禿頭の男が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔でこちらを眺めているのと視線が合った。すると男は我に帰ったように大慌てしながら、開いた口を動かす。

 

「お、おい!あんた、一体何者なんだ!」

 

 ……ふむ、禿頭の男は商人だったな。であれば、このショットガンと、あそこに並んでいる武器類はこの男の商品か。考えてみれば、死にかけていた所を助けたのだ、これくらいの駄賃は許されるだろう。

 

「……商人か。なら命を助けた分の駄賃だ、このショットガンとお前の店に並んでいるガトリングは貰って行くぞ」

 

「あ、あぁ……。ってオイオイ、そりゃ殺生って奴だぞあんた!?商人の命に等しい商品を持って行くってのかよ!!そりゃナシだろ?なあ?」

 

「私がお前を助けなければ、お前は命そのものを失っていた。違うか?」

 

 禿頭の男は私の言葉を聞いて押し黙る。何かを思案する男の目線は、しかしこちらを値踏みするような思惑があるように感じられる。"この男の言葉は信用ならない"と直感が告げるような感覚がした。

 

「……何を考えている?」

 

「ああ、そうだ!あの穴の下に、たんまりとお宝が見えるんだ。まあ、とりあえず覗いて──」

 

「そんな物に興味は無い」

 

 そう言い放つと、乾きかけていた禿頭の男の額に再び汗が浮かぶ。恐らくはこちらを騙す意図か何かでも企んでいたのだろう。だが仮に宝の話が真実だとしても、私は向かう事は無い。

 

 私が欲するの果ての無い闘争、そしてその末に待ち受ける己が身の破滅。好きに生き、理不尽に死ぬ。その時まで生き延びる事こそが私の義務であり、惑星を焼く大罪を犯した私に課された呪いなのだから。その為に最も都合の良い生き方が傭兵というだけで、富や権威は二の次の話でしかない。

 

 私は、ウォルターの望んだ"普通の生活"を送れる権利を持たないから。私は、全てを焼き尽くす"黒い鳥"で無ければならないから。

 

 これがウォルターの望んだ未来では無かったとしても、そうするしか私の存在はあり得ないから。

 

「……そうか、あんたは欲深い訳じゃあねえんだな……。まあ、あんたは命の恩人でもある。そのショットガンとガトリングはくれてやる。それと俺んとこに寄った時の弾薬とかはお得意様価格にさせて貰うぜ。」

 

 急な態度の変化に少し疑念が湧きはするものの、こちらの主張が通ったようで何よりだ。

 

「それとだな、お得意様として扱うには名前が知りたいから聞かせて貰えねえか?」

 

「レイヴン、それが私の名前だ」

 

「俺はパッチ・ザ・グッドラック、ホロウ一の商人であるナイスガイとは俺のことよ!それじゃよろしくな、()()()()()()()!!」

 

「……その呼び方はなんとなく嫌な感じがするからやめて欲しいかもしれない」

 

「……なっ、何でだよ!俺程のナイスガイのお得意様なんだから、少しでもいい感じに見せた方が絶対良いだろう!?」

 

 ……ともあれ、今日はとても良い買い物が出来た。         

 

 






 フロム民お馴染みのあの男が、本小説にもまさかの登場。

 "もし新エリー都にパッチがいたら?"という幻覚が湧いてきていたのと、武器がパルスブレードのみだとどうしても戦闘が単調になってしまうので、戦闘に華を持たせたいが為にショットガンとガトリング……つまりはZIMMERMANとHUBENを導入したかった為の本話。

 個人的パッチ解釈とソウルのパッチとACfAパッチが6:2:1ぐらいの比率なのは、まあいいでしょう……。

 お分かりだとは思いますが、フジツー・ミレニアムの元ネタは富士通とムラクモ・ミレニアムです。何故ここを掛け合わせたのか、コレガワカラナイ

 第一話以降全然エーテリアスと戦ってない……次回は軽めかつエーテリアスとの戦闘にしたい(なるとは言っていない)

 世間話ですが師匠とその餅は入手出来ました。アストラは……駄目でした、世に神引きのあらん事を。

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