Dolls Nest外伝『ポロッカの秘宝』   作:ゆらNari

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『Ascalon』

突如現れたリエルの姿に、ナレフカは戸惑うばかりだった。

 

「どうして……」

 

ナレフカの声は震えていた。

 

「私……あの後考えたんだ。何がダメで、なんでこうなったのか」

 

リエルは小さく俯いた。

 

「でもやっぱり分かんないよ。私は結局、ズレてるから」

 

彼女は自嘲気味に笑った。

 

「けどね、ナレフカを守りたい気持ちは本物なんだ」

 

リエルはナレフカに手を差し伸べる。

 

「信じて。分からないけど、分かってみせるから」

 

ナレフカは、少し寂しげに微笑んだ。

 

「人が良すぎないかしら?」

 

「だって、友達……だよね?」

 

不安そうに尋ねたリエルに、ナレフカは笑った。

 

「ええ、そうね」

 

ナレフカはリエルの手を取り、シエルを凝視した。

 

「……気は済んだ?」

 

彼女は、一連のやり取りに、強い嫌悪感を示しているようだった。

 

「……ナレフカ、この船落とせる?あいつは、私が受け持つよ」

 

「……任せて」

 

彼女はそう呟くと、修復されたバーニアで窓を突き破る。

シエルが拳銃を弾いてそれを咎めるが、リエルが錆で弾を切り落とした。

 

小さく舌打ちをした後、シエルは彼女の方へと振り向き、笑いかけた。

 

「あなたがリエルだね?」

 

リエルは彼女を睨み付けたまま、小さく頷く。シエルは笑いながら続ける。

 

「始めまして。私はSee:El……あなたの、お姉ちゃんだよ」

 

仰々しいお辞儀をするシエルを、リエルは改めて見つめる。

自分と同じ匂いや声。

そして一瞬だけ見えた、同じ顔。

そんな彼女の姿に、少しばかりの不快感を覚えていた。

 

「私ね、これからガーディナを滅ぼすんだ。姉妹なんだからあなたも手伝ってくれるよね?」

 

シエルは手を差し伸べるしぐさをする。

 

「ネマにその気はないよ。今は躰を求めてる」

 

「じゃあ尚更協力してガーディナを滅ぼそうよ!そっちの方が探しやすいでしょ?」

 

少しだけ喜びを交えた声で彼女は語り掛け、リエルに手を差し伸べる。

 

「嫌」

 

即答だった。

シエルは一瞬表情を歪めた。

 

「なんで?」

 

「嫌だから」

 

リエルは眉一つ動かさずにそう答えた。

 

「……なにそれ」

 

落胆と侮蔑の混じった声が漏れ、シエルは彼女を睨み付けた。

 

「そんなので種子が務まるとでも?」

 

震える声で続けた。

 

「ママはそんなの望んでないっ……!!私達は完璧でなきゃ……!」

 

訴え掛けるような弁舌。だが、そんな中でもリエルは冷淡に吐き捨てた。

 

「ネマは興味なんて無いよ。あなたにも、私にも__」

 

金切り声のような金属音が、シエルの方から鳴り響いた。

リエルが攻撃を避けたと同時に、先ほど彼女がいた位置に杭のような形の砲弾が突き刺さる。

 

「黙れ……」

 

声を聞いたリエルが彼女の方へ振り向くと、再び拳銃を構えていた。

 

「黙れぇッ!!!」

 

狂ったように乱射された弾丸を、リエルは難なく弾き落とす。

 

「あなたの意思は何処にあるの、やりたいと思ってやってるの?」

 

「ママの意思こそ、私の意思だ!!」

 

シエルは拳銃を投げ捨て、自身の右腕を掴んだ。彼女の右腕を起点に、巨大なビーム刃が形成される。

 

それは、右目を守る深層のニンフが扱った武器と同じものだった。

 

「だからっ、ネマはもう興味すらないって……!!」

 

「あの時に望んだんだよ!!」

 

シエルはバーニアを吹かし、両肩から杭型のミサイルを再び放ち、リエルに突撃した。

 

リエルは飛来した杭を弾き落とし、腰を低く落とす。

薙ぎ払われた光刃が彼女の頭を掠める。

 

「過去に取り憑かれちゃ駄目なんだ!」

 

リエルは懐に潜り込み、シエルの腹を切る。

だが傷は浅く、微かに血が流れる程度に留まった。

 

「速度が足りないか……」

 

すれ違いざまに、リエルはブリッジに転がる椅子を手に取る。

 

「私が、私だけがネマの意思を汲めているんだ!!」

 

彼女は再び杭型のミサイルを放つ。

が、リエルはそれを椅子で受け止めると、シエルに向かって投擲した。

 

「だから死ねよ!私が正しいんだからさぁっ!!」

 

シエルは出力に任せ、巨大なビーム刃でブリッジ全体を薙ぎ払った。

投擲された椅子は蒸発し、高炉のように焼け爛れたブリッジだけが残る。

 

「お前が悪いんだ!お前はママから愛されてる筈なのに、その愛を、友達っ、友達なんかに向けるから!!」

 

シエルが吐き出した言葉は、嫉妬だった。

 

「私だって、愛されてないよ」

 

リエルが床を突き破り、飛び出す。

完全に密着したこの状況で、彼女が躱すのは不可能だった。

 

「じゃあね、お姉ちゃん」

 

リエルの錆が、シエルの胸を貫いた。

 

「……ぁ」

 

シエルは血を吐き、彼女に手を伸ばすも、リエルが刃を引き切り、シエルは倒れた。

 

「分かってたんだ……勝てないし……ママは愛さない事もさ」

 

シエルの独白を、リエルはただ聞き入っていた。同じ種子として。

 

「だからね!私ねっ、もっと頑張るから!!」

 

シエルは鎧殻の隙間から、一本の注射器を取り出した。

 

「っ!!させない!!」

 

嫌な予感を感じたリエルは、シエルの首を貫き、トドメを刺した。

しかし、注射器は既に打ち込まれていた。

 

次の瞬間、シエルの口から大量の子蜘蛛が溢れ出し、瞬く間に彼女の血肉を食い荒らした。

 

「何を……!」

 

リエルは咄嗟に飛び退く。

シエルの体は瞬く間に骨だけの姿となってしまった。

 

「おはよぉ……!!」

 

シエルの体が起き上がり、鎧殻が崩れ落ちる。

彼女の眼窩に入り込んだ蜘蛛が光り、目のように彼女を凝視していた。

 

「第二ラウンドだよリエルぅ……!」

 

崩れた鎧殻が彼女の周囲を浮遊し、高速で回転し始める。

そして、彼女を中心に巨大なエネルギーが滞留し始めた。

 

「まずいっ!!」

 

リエルはブリッジの窓を飛び出す。

次の瞬間、青緑の光がブリッジを呑み込んだ。

 

 

ナレフカは、要塞のブリッジから空を背に降下していた。

 

「"要塞を落として"か……無茶なお願いよね」

 

最初に通った穴に入り、第八兵器開発局を通り過ぎる。

 

「任せて……って言った私も私か」

 

1人、小さく微笑む。

策がないわけではない。1つだけ、ヴァルクレムに対抗しうる兵器を彼女は知っていた。

 

__"あれ"がまだ残っているなら……!

 

不安と希望を胸に、ナレフカは再びポロッカ跡の奥へと進む。

 

彼女がたどり着いたのは、どこよりも巨大な扉だった。

ゆっくりと着地し、操作基盤に触れる。

 

「まだ動く……!」

 

おもむろにナレフカはカードキーを取り出そうとした。

耳に、小さな履帯の音が入る。

音のした方に振り向いたと同時に、壁が爆ぜた。

 

「……意図は分からん。だが、見過ごせないな」

 

爆煙と共に、先刻ガーディナの兵士たちを潰したギプロベルデの鎧化兵3人がナレフカへと突進する。

ナレフカは知らなかった。要塞外にもシードルは戦力を侍らせていたのだ。

 

「……ッ!」

 

桁違いの装甲と火力、そして機動力を生かしにくい閉所。

通常の鎧殻よりも脆いポロッカの鎧殻ではひとたまりもない。

 

「シードルに何があった!答えて貰うぞ」

 

ガトリング砲が向けられ、空転を始める。

 

__一か八か……!

 

最後の抵抗として、ナレフカはロケット砲を構えた。

 

ガトリング砲が回り切るより先に、天井が軋むような低音を立てた。

 

「なんだ……」

 

ナレフカも鎧化兵たちも、一瞬だけその異音に視線を上げる。

 

次の瞬間__

 

重い衝撃と共に、分厚い天井が砕け散った。

 

「な__」

 

ちょうど真下にいたギプロベルデ鎧化兵は、悲鳴を上げることも、理解する間もなく身体を潰された。

 

「貴様、何故生きて……!」

 

ナレフカと、残った二人の鎧化兵は息を呑んだ。

 

「……今を戦っている?……ははははっ!!!老いぼれどもが揃って……偉そうに……」

 

空気の噴き出す音と共に、大剣を杖にマースが立ち上がる。

多量の血液を流し、四肢すらも満足に残っていないその姿は、まるで屍鬼のようだった。

 

「もう一度恐怖を……刻んでやろう……!」

 

スラスターを噴射し、兵士の一人に突撃した。

流星のような残光を描き、鈍い衝突音を響かせる。大剣に貫かれた兵士はマースと共に壁面に激突し、履帯を残して潰れた。

 

「ッハハハ……そうだ、こうだったな。貴様らを潰した感覚はぁ……!」

 

乾いた笑いを浮かべながら、残った1人を恍惚とした表情で睨み付ける。

それと同時に大剣を使い、"てこ"で主のいない履帯を盾代わりに持ち上げる。

 

「羽蟲がぁ!私の、私の仲間を!!また殺しやがって!!」

 

残された一人は絶叫し、重砲を放った。

立てられた履帯が爆風を受け切り、砕け散る。

 

「喚くなよ!!すぐに家族のところに送ってやる!!!」

 

マースは大剣を突き立て、脚部のバーニアを全力で吹かした。

そして大剣を手放すと、彼女はミサイルのように加速した。

 

「黙れ!!」

 

彼女はガトリング砲を構え、マースに向けて乱射する。

 

「私にぃ!二度も効く訳無いだろう!!」

 

弾丸がマースの身体を削り取るも、彼女は笑っていた。

 

「死ねよ老害!!」

 

マースは右手に括り付けられた射突杭を突き出した。

接触の瞬間、鉛玉が彼女の胸を貫くも、マースは甲高い声で笑っていた。

 

「ハハハハハッ!!大姉様ぁ!!」

 

爆炎と共に杭が射出され、ギプロベルデ兵の上半身を貫いた。

次の瞬間、遅れてやってきた衝撃と炎が、マースの眼前にあるものを吹き飛ばした。

 

「大姉様……やりましたよ。マースは、ギプロベルデを、また倒しました……」

 

爆風によって右腕すらも喪ったマースは、背中から倒れた。

 

「あなたは……確か……」

 

この顛末を眺めていたナレフカは、ゆっくりとマースに近付いた。

 

「ポロッカの生き残り……だったか?」

 

彼女は半ば諦めた様子で目を瞑った。

 

「修復剤なら余ってるわよ。礼くらいさせて」

 

「構うな。どうせもう……助からん」

 

数度の咳と共にマースは吐血した。

 

「無線機を取ってくれないか……それくらい……良いだろ?」

 

「何を伝えるつもりなの?」

 

ナレフカは彼女の懐から、一本の通信機を取り出した。

 

「どのみち我らは処刑される。あてがなくとも、逃げるように__」

 

マースは激しく咳き込む。

 

「死ぬだけよ、こんな場所じゃ」

 

「なら……どうする。いや、どうすれば良い……?」

 

ナレフカは、喉から出かけた言葉を飲み込み、躊躇う。

しかし、彼女の脳裏にリエルが浮かんだ。

 

「私が……あの子達を生かしてみせるわ」

 

マースは声を出して笑った。

しかし程なくして咳き込み、多量の血を吐いた。

 

「……頼んだ」

 

マースは微笑んだ。

ナレフカは頷くと、無線機の電源をつけ、彼女の口元に近付けた。

 

「総員……ポロッカの遺構を盾に退避せよ……加えて、大隊指揮権を、私からナレフカに委譲する……総員。生きろ……」

 

マースは呟くと、力尽きたように目を瞑った。

 

ナレフカは無線機のスイッチを離すと、マースを横切った。

 

「任せて」

 

去り際、ナレフカは呟いた。

 

「……大姉様、ヘレス。迎えに来たんだな……うんっ、今行くよ」

 

マースは明るげな声で話していた。

ナレフカは思わず振り向くも、マースは既に事切れていた。

 

「っ……」

 

ナレフカは言葉に出来ない思いを抱きながら、無線機のスイッチを入れた。

 

「こちらナレフカ。ガーディナ大隊へ通達する。空に浮かぶアレは、ポロッカの邪竜だ」

 

彼女は大きく息を吸う。

 

「放っておけば、中層や上層すらも食い尽くすだろう。だから……だから生存を優先して欲しい」

 

ナレフカは扉を開く。

外の荒れ様と打って変わって、その部屋は未だ厳粛な空気が漂っていた。

 

「私はこれからアレの撃墜を試みる。でももし、諦めの悪い者がまだ居るなら。どうか協力して欲しい」

 

彼女は無線機のスイッチを切り、照明を付けた。

その中心には、巨大な砲台が鎮座していた。

 

彼女は背丈の三倍はある砲身を撫でた。

__Ascalon.

砲身にはその名が刻まれていた。

 

「多分、リエルがここに来たのも運命だったんだ」

 

彼女はカードキーを取り出し、目を瞑る。

そして、制御盤にそれを勢いよく突き刺した。

その瞬間、砲身の隙間から青い光が漏れ出し、部屋の天井が音を立てて開き始めた。

 

「行こうアスカロン。邪竜狩りだ」

 

外の光が差し込む中、ナレフカは胎動を始めた砲台に手を乗せた。




読んで下さりありがとうございました。
次回は9/7(日曜)12:00~ 投稿予定です

キャラ紹介

シエル
https://docs.google.com/document/d/1Ah360Jt4lZ495-sFPrObmvWemXj6OwBuEFNPtyCpc04/edit?usp=drivesdk

用語

空中要塞Valkrem
読みは「ヴァルクレム」
ポロッカのタカ派が開発を進めていた巨大空中要塞だが、開発の目途が立った段階で必要な資源の膨大さと異形の数により断念。
女王と共に中層への脱出が図られることとなった。
しかし、シードルを筆頭としたタカ派の残党により他コロニーの生き残りと共に引き続き開発が進められ、長き時を経てついに完成を迎えた。
見た目は某機動戦士のガ○ダ級のような見た目。さすがにアレほどではないが空中要塞と名打っているだけあり極めて大型。
その姿からポロッカではしばしば前時代の幻獣「竜」になぞらえられることもある。
武装は機体上部に多数の対空熱塵砲、両翼の根本に2門の大出力泡電主砲、下部には拡散熱塵爆撃砲が備えられている。
動力には空気中や周辺の小型のセルを吸引して分解、エネルギーに変換する独自の動力機関を搭載しており、ホド内であれば半永久的に飛行することが可能となっている。
装甲も厚く、既存のホドの兵器ではほぼ破壊不可能とされている。
いかに未知の技術も多いポロッカより産まれた兵器であるとはいえ、彼女らの技術のみでこのような兵器を開発するのは難しい。そのため、本機と相対し、生き延びたとあるガーディナ兵は、どこかのコロニーより技術供与があったのではないかとの見解を示している。
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