Dolls Nest外伝『ポロッカの秘宝』   作:ゆらNari

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Not See El(神は見ない)

油圧式のハッチが開き、砂漠に裂け目が生じる。

裂け目に砂が流れ込み、ナレフカとアスカロンが地表に姿を現した。

 

「やるしかないわよナレフカ。しっかり」

 

ナレフカはアスカロンの端末に触れる。

次の瞬間、砲台をロックしていたボルトが外れ、床に落ちた。

 

「……適性が無くたって!!」

 

彼女は自身を遥かに超える大きさのそれを脇に抱え、辛うじて持ち上げた。

筋肉が悲鳴を上げ、飛行型の鎧殻が軋む。

 

「友達にぃ……託されたんだから!」

 

身体を震わせながら、ヴァルクレムの中心部に照準を合わせる。

引き金に手を伸ばしたその時、ぶつりと嫌な音が鳴った。

 

「えっ」

 

右手から力が抜け、アスカロンは砂地に落ちた。

__右手の筋繊維が切れた。

 

「うそ……そんな、駄目」

 

ナレフカは目に見えて焦り、慌てて修復剤を口に運ぶ。

このままではリエルを見殺しにしてしまう。

そんな焦燥が、彼女の心を締め付けた。

 

「手が要り用か?指揮官代理殿」

 

その声と共に、幾人かの影が空から降って来た。

その何れもが重装備のニンフであり、先頭に立つ人物は、ナレフカの知る顔だった。

 

「ケルシュ……!!」

 

ナレフカは身構える。

 

「瓦礫と異形を押し除けてどうにか生還した。本隊と合流しようと思ったら、コレが来た訳だ」

 

ケルシュは無線機を取り出した。

 

「さて、指揮官代理殿。貴殿が託された者は私たちだ。貴殿は、殺し合った相手を率いる度量がお有りか?」

 

ケルシュ達は、煤と傷に覆われていた。

後ろに居たニンフ達の面持ちは暗く、生きる意思さえ希薄なようにすら思えた。

 

「あるわ」

 

ナレフカは即答した。

彼女達に既視感を覚えていたからだ。

彼女達は私だ。

コロニーを喪った頃の、私だ。

 

「では指揮官殿」

 

ケルシュはナレフカを見つめた。

 

「貴女を腰巾着と罵り、すまなかった」

 

ナレフカは頷いた。

 

「ううん。私も恥じない生き方をしてみせるわ」

 

そう答えた時、ケルシュは後ろの部下に目配せする。

 

「はっ」

 

部下と三人がかりでアスカロンを軽々と持ち上げると、不敵に笑った。

 

「では早速、指示を貰おうか。指揮官殿?」

 

 

リエルの身体が、要塞の上部に吹き飛ばされる。

 

「うぐっ……!」

 

まるでボールのように跳ね、要塞に叩きつけられる。

三度跳ねたと同時に彼女はスラスターを吹かし、なんとか着地して見せた。

 

「リエルぅぅっ!!」

 

彼女の視線の先で、瞳を怪しく光らせたシエルがゆっくりとブリッジから這い上がって来た。

 

「どう、似合ってるかな、似合ってるてるてるてる?」

 

砕けた鎧殻が屈曲し、六枚の鉄片が彼女の背中に突き刺さる。

歪な鉄片はしなり、まるで翼のように羽ばたいた。

 

「おねえちゃんとあそぼうよおぉ!!」

 

六枚の羽が開き、眩い光を発する。

次の瞬間、右腕に備えられた発振機から極大サイズの光刃が飛び出す。

 

「ベルグちゃんがね!!飴をくれたの!!」

 

彼女は支離滅裂な事を言いながら、光刃を薙ぎ払った。

その規模はブリッジで振るわれたものを、優に超えていた。

 

「この大振りなら……!」

 

要塞の表面を溶解しながら叩きつけられたそれをリエルは難なく回避し、シエルに向け加速を付けながら刀を構える。

 

リエルが近づこうとした瞬間、彼女は右腕を向ける。

 

「わた、わたしね!ヒガンバナを、あげ。あげげ」

 

彼女は髑髏の頭を鳴らしながら喋る。

リエルの回避と、高出力の熱塵砲の照射がほぼ同時に行われた。

避けたにも関わらず、リエルの鎧殻の一部が溶けていた。

 

「やばい……な」

 

焼けた鎧殻の一部を見ながらリエルは呟く。

次の瞬間、翼が再び瞬く。

 

光刃が再び照射されると身構えた彼女だったが、突然シエルが消えた。

 

「ママがね!プレゼント、決めたの!!」

 

そう感じる程の速度で、彼女はリエルの懐に入った。

 

「速いっ!!」

 

リエルの抜刀と、シエルの右腕が激突する。

が、圧倒的な膂力によって、リエルは吹き飛ばされた。

 

「ママのプレゼントでね、たくさん!いっぱい!友達とバイバイしたの!!」

 

要塞に叩きつけられたリエルを、更にシエルは容赦なく殴りつける。

 

「うぐっ……ぁ!」

 

「ベルグ、エルア、ユリーネ、サーシャリ、ナクラ、リュコア、ゾルカン、フェミル、アムリエル、フィリカ、トラグマ、シードル」

 

彼女は経典を唱えるかのように、誰かの名前を呼び続けた。

巨腕でリエルを掴み上げ、再び要塞に叩きつける。

硬い表面が砕け、金属片が弾けた。

 

「みんな、大好き!だいすき!だいすき!!」

 

何度も叩きつけられた後、シエルはリエルを離さず、そのまま腕を振り抜いた。

鉄板の床を抉る耳障りな音が響き、リエルの背中が火花を散らしながら地面を滑っていく。

 

「ママは?まま、まま。だいすきだよね。だよ、だよ」

 

シエルは右腕を掲げる。肥大化した武器の内部に、再び青緑のエネルギーが滞留し始めた。

彼女の自我は、完全に溶け切っていた。

 

「りえぅ、だいすきなの!???」

 

「良い加減に……しろッ!」

 

リエルは、掴まれながらも手元から手榴弾を取りだし、シエルに投げる。

爆発と同時に右腕による拘束は解かれ、リエルは逃げるように彼女から距離をとる。

 

「か……っは」

 

リエルは吐血する。

ボロボロになりながらもゆっくりと立ち上がり、刀を構えた。

シエルを再び睨み付け、驚愕した。

 

「あははは……はは」

 

彼女は先程の爆発で怯んだに過ぎない。

爆風の中のシエルは、傷一つ付いていない。

唯一燃えていた翅は、既にゆっくりと再生を始めていた。

 

「りぇう、大好き?」

 

ゆっくりと爆風から現れる彼女に、リエルは一か八か、再び距離を詰めた。

 

「もらった!!」

 

錆を抜き、推進の加速に任せて彼女を斬り付ける。

下層中に甲高い金属音が響き、要塞の上部に衝撃が走る。

 

「……!?」

 

__刀は確かに命中していた。

 

だが、刃はシエルの骨に浅く食い込んだだけで止まり、ヒビ一つ入らない。

 

「……なんで……!」

 

リエルは刃を引き抜こうとするが、逆にシエルが笑みを浮かべて彼女の腕を掴んだ。

 

「私もだよぉぉ!!」

 

リエルは左手で短剣を取り出して袖を破る。

それと同時に隠し持っていた複数の手榴弾や短剣などが音を立ててシエルの周囲に散らばった。

 

「一発でダメでもこれなら……!!」

 

拘束から自由になったリエルは飛びながら懐の拳銃を取り出し、手榴弾の一つに向けて発砲する。

引き金を引いた瞬間、落ちていた手榴弾が連鎖的に爆発した。

 

轟音と火花がシエルを包む。 リエルは爆風に弾かれ、何とか距離を取った。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

爆風の奥、煙の中から青緑の光がちらつく。 翅がまだ、ゆっくりとうねっている。

 

「しぃ、ちゃん?」

 

虚ろな声で、シエルは呟いた。

再びゆっくりと歩み寄る彼女に、リエルは刀を向ける。

 

「まだ……死なないの……!」

 

「しいちゃ。ころしたの?なんで?なんでなんでなんでなんで」

 

シエルの声は不気味であり、それでいて寂しさに満ちていた。

 

「大好きだったのに!!!」

 

甲高い声で叫び、翼が剥離して右腕に突き刺さった。

 

彼女が腕を振り上げ、光刃を展開する。

次の瞬間、甲板の温度が一気に上昇し、リエルの皮膚が焦げ始めた。

 

下層の雲が吹き飛び、空が青白く染まる。

放出された光刃は、下層の天井を貫いていた。

 

「まさか、それを振り下ろす気__!!」

 

光刃がゆっくりと動き、太陽のように輝く刃が近付く。

リエルの鎧殻は、あまりの熱上昇に警告音を発し続けていた。

 

「こうなったら」

 

リエルは錆を構え直す。

アレを止めるには、基部を抜いて相打ちに持ち込むしかない。

特攻を覚悟した彼女の耳元に、ひとつの通信が飛んだ。

 

『下がって』

 

考えるよりも先に、リエルは飛び退いた。

次の瞬間、一筋の光が甲板を下から貫いた。

 

シエルの右腕を貫き、二つの光は消失した。

 

『動力部を撃ち抜いた!爆発するから!!飛んで!!!』

 

それは、ナレフカの声だった。

 

「嘘だよね!!?」

 

リエルはバーニアを吹かし、空を飛ぶ。

次の瞬間、甲板が膨れ上がり、内側から爆炎が突き破った。

 

「しぃちゃぁぁん!!!」

 

爆炎がシエルを包み込み、ヴァルクレムの巨体が真っ二つに割れた。

轟音を立てながら、地面に落下しているそれを、リエルは空から眺めていた。

 

「シエル……」

 

彼女はシエルに思いを馳せる。

種子の末路。最期まで報われず、愛されない。

あんなものが__

 

「ままぁぁ!!」

 

爆炎を突き破り、シエルが飛び出す。

骨だけの身体の殆どが溶けてしまっており、辛うじて人型を止めているレベルだった。

 

「まだ生きて!!」

 

シエルはリエルに掴みかかり、そのまま地上へと落下し始めた。

 

「まま、あいして」

 

シエルの溶けた指がリエルの肌を突き刺し、溶かす。

殴り合いをするまでもなく、シエルは溶けた身体をリエルに癒着させようとしていた。

 

「っ……!!」

 

二人は崩壊するヴァルクレムと共に、落ち始めていた。

 

「二射目をやるわよ!!」

 

地上では、その姿をナレフカが見上げていた。

 

「はぁ!?どう見ても無理だろう!??」

 

アスカロンを担いでいたケルシュは抗議する。

既に銃身は赤熱しており、電源元である砲台からは、煙が出ていた。

 

「私達まで吹き飛ぶ!あいつは不死身なんだろ!??」

 

ケルシュは抗議するも、ナレフカは首を振った。

 

「それでも、一人のニンフよ」

 

ナレフカは再び引き金に手をかけた。

 

「あの子を、もう死なせたりしない」

 

「ああ!そうかい!いいさ、地獄まで付き合ってやるよ!!」

 

ケルシュ達は観念した様子で照準を調整し始める。

 

「標的はシエル!絶対に外さないで!!」

 

ナレフカが叫び、ケルシュは歯軋りをした。

 

「このクソ照準器で、無茶を言ってくれる……!!」

 

仰角調整は人力。照準機は簡易的なカメラがあるだけだった。

 

そして対象は、落下するシエル。

リエルと組み合った二人のサイズは、豆粒に等しかった。

それは、ビルの上から針を落とし、地上の蚊を撃ち抜くような精度が求められていた。

 

「外しはしないさ」

 

照準を揃えたケルシュは、人差し指を挙げた。

それが合図だった。

 

「当たれぇっ!!」

 

ナレフカが引き金を引いた。

次の瞬間、電源が爆発し、銃身が引き裂けながら光線が放たれる。

 

合図のラグさえも計算に入れた完璧な照準は、無数に落ちる瓦礫を交わし、落下する二人、それもシエルの胴体だけを撃ち抜いた。

 

程なくしてアスカロンが爆発し、ナレフカ達は吹き飛ばされて砂地に転がる。

 

「行っっけぇ!!!」

 

ナレフカは、空に居るリエルに向かって叫んだ。

 

「分かってる!!」

 

自由を取り戻したリエルは錆を構え直す。

 

「まま、抱きしめて」

 

シエルは両手を広げ、抱き着こうとしていた。

 

「バイバイ、お姉ちゃん」

 

突き出した刀が、シエルの額を貫く。

頭を破壊された彼女は停止し、そのまま仰向けとなって、落ちて行く。

 

「さみ……しいよ」

 

彼女はそう呟き、ヴァルクレムと共に地上に激突した。

轟音と土煙が巻き上がり、周囲一帯を覆い尽くす。砂煙に巻き込まれたリエルは、地上に降りるしかなかった。

 

地上に降り立ったリエルはナレフカを探す。

視界は悪かったが、砂地で腰を下ろした彼女がそこに居た。

 

「ごめん、秘宝。壊しちゃった」

 

彼女は折れたカードキーを見せる。

 

「徒労をさせたわね。ごめんなさい」

 

眉を落とす彼女に対し、リエルは首を振った。

 

「ううん。もっと良いものに気付けたから」

 

「……え?」

 

リエルは白い歯を見せて、澱みなく答えた。

 

「私には友達が居るってこと」

 

ナレフカはその返事に目を丸くし、笑った。

 

「なんだ……分かってるじゃない。ヒトの気持ち」

 

「なら良かった」

 

リエルはナレフカに手を差し伸べ、彼女も手を取った。

 

 

そして後日。

朽ちた育房で、リエルはネマに顛末を伝えていた。

 

「それでネマ。シエルって知ってる?」

 

「……?」

 

ネマは少し沈黙し、思い出しているようだった。

 

「ああ……そんな子も居たかな」

 

「……そっか」

 

リエルは、シエルの叫びを思い返していた。

分かりきっていた答えだったが、こうして言葉にされると、辛いものがあった。

 

「あの子の役目は終わったから、何も考えなくて良い」

 

淡々と答える母に抱いた感情は、失望だった。

 

「他に何かある?」

 

リエルは首を降り、笑顔を作った。

 

「ううん。すぐに使命を果たすよ。待っててね」

 

明るく答えた言葉の裏で、リエルは暗い決意を固めた。




用語

S0C0 Ascalon
ポロッカの地下に眠っていた大型の圧縮熱塵砲。
名前の由来は竜殺しの剣から。
見た目はCaladbolgをシンプルに大型化して固定砲台にしたような見た目。
本来は前時代の大企業、メタメトリア社が大型の輸送機や爆撃機の撃墜を目的として開発していたが、連射が効かない、出力の膨大さに砲身がもたないなどの理由により試作段階で放棄されていた。
その後、付近にコロニーを興したポロッカが遺構を発見・再稼働させ、解析。当コロニー熱塵兵器群の技術基板の一翼を担うこととなった。
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