Dolls Nest外伝『ポロッカの秘宝』 作:ゆらNari
このあたりから少しばかり残酷な表現が増え始めます。
注意しながら突っ走ってください。
僕も最後まで書ききります
__歓声が響き渡る。
ガーディナ拠点、建設されたバリケードに併設されたメインゲートが開かれる。
彼女達の視線は、1点に集中した。
大きな音が鳴り響くと共に、作戦の功労者たる英雄達を、凱旋で迎え入れた。
前時代の人類の真似事だが、この拠点では確かに価値のあるものである。
先頭を行くのは、ヘレス。
対ギプロベルデ機甲特戦隊の隊長にして、この捕獲作戦の立案者でもある。
「特戦隊隊長だ!!」
「対ギプロベルデ機甲特戦隊万歳!!」
「特戦隊隊長万歳!!」
彼女の姿が見えたと同時に、兵士達の歓声が一際大きくなる。
それに続き、武装を外された四脚の自動機械、そして作戦に従事した兵士達が続く。
自動機械の上には、鎧殻を外され、手錠を掛けられたリエルとナレフカの姿。
瞬間、兵士達の声が波打つように賛美から罵倒へと変わった。
「トライブラスターを返せー!!」
「殺せー!!」
「処刑だー!!」
リエルは何やら忙しなく拠点の建物を見渡しており、ナレフカは感心と困惑の入り交じった表情で周囲の反応を眺めていた。
「さっきから流れてるこの音、何?」
リエルはやや不機嫌そうにナレフカに聞くも、彼女は首をかしげるばかりだ。
「我らが司令の趣味だよ。前時代のヨルなんとか言う行進曲らしい」
リエルの耳に、ヘレスの通信が聴こえてきた。
「私も司令の"これ"はさっぱりだがね」
捕獲したときと違う砕けた態度で接する。彼女に対し、リエルは微笑んだ。
「捕虜にまで見せて聴かせるなんて、見栄っ張りなんだね」
ヘレスの乾いた笑いが、通信越しに聞こえる。
「あぁ、全くだ」
◆
__拠点の一角
歓声の上がっていた外とは別に、拠点内は静寂を保っていた。
薄暗い殺風景な部屋。椅子と机のみがぽつんと置かれたその空間に、ナレフカは連れられていた。
「ここは……?」
周囲を見渡していると扉が開き、彼女の向かいの席にヘレスが座る。
「まぁ楽にしなよ。正直に話してくれれば何も問題はない」
睨むナレフカにも動じず、彼女はわざとらしい柔らかな笑みを見せた。
そして、手に持っていた資料を大雑把に机に広げた。
「……?」
紙束の数枚に、ナレフカの視線が止まる。
そこには、地図と熱源反応を示す写真があった。写真に記された熱源を指差しながらヘレスは答える。
「これだ。これについて知っていることを話せば良い。どうだ?」
「知らない」
写真を凝視もせず、突き放すように答える。
ヘレスは一瞬だけ表情を歪める。
その後無言で手を上げ、彼女の頬を平手で叩いた。
「自分の立場を理解してないようだな。ガーディナに黙秘権はないぞ?」
彼女は先程とは違う鋭い口調でナレフカを問い詰める。
だがナレフカの目つきに変化はなかった。
「私達、ポロッカ航空士がそう簡単に口を割ると思う?」
その言葉を聞き、ヘレスは彼女の眉間に拳銃を向けた。
「その口ぶり、何か知ってるな?今すぐに吐いた方が身のためだぞ?」
彼女は銃口を額に押し付ける。
ナレフカの表情は冷ややかであった。
「今更そんな虚仮威しなんて怖くない」
「……バレてたか」
眉を落とすヘレスに、彼女は続ける。
「あなたに私は殺せない。そうでしょ?」
ナレフカが得意げに答えた瞬間、銃声が響いた。
「そう、殺せないさ」
ヘレスは銃口を下に向け、ナレフカの右脚を撃ち抜いていた。
「っ……ぐぅ……!」
続けて、歯を食い縛るナレフカの頭を銃床で殴った。
「だが我々はガーディナだ。人道も、慈悲も、その他一切を持ち合わせていない」
熱を持った銃口を、彼女の傷口に押し当て、抉った。
「手脚を削ぎ落とそうか。異形に少しずつ食わせても良い、技師型に分解させて、貴様の脳髄を解析するのも良いかもしれないな?」
苦痛で表情の歪むナレフカに、ヘレスは優しく微笑んだ。
「話せば、楽に殺してやろう」
__その時
けたたましい警報が部屋の静寂を引き裂いた。
赤いランプの点滅と共に、放送が流れる。
『警報!警報!牢獄エリア付近にて異形発生!繰り返す!牢獄エリア付近にて異形発生!』
「何!?」
「……?」
そこにいた誰もが、目を大きく見開いた。
「クソッ、こんな時に……!」
苛立ち交じりに呟き、兵士を呼び寄せる。
「こいつを牢に連れていけ!」
「かしこまりました」
兵士はナレフカの腕をつかみ、強引に立たせる。
なおも表情を崩さない彼女に、ヘレスは顔を寄せた。
「いいか、事が済んだら嫌でもその口を開きたくなるようにしてやる。手段はいくらでもあるからな」
そう彼女に吐き捨てた後、彼女は誰かに通信をしながら外へと飛び出していった。
武装を終え、部下を連れたヘレスは、連絡通路に辿り着く。
異形の姿を探したその時、金属扉が吹き飛び、そこからニンフが飛び出した。
「あぁ……嫌だ嫌だ嫌だぁぁ!」
続けて二本足の異形が彼女に飛び掛かると、生きたまま彼女を貪り始めた。
「チッ、監視塔のやつらは何をやってたんだ」
食われるニンフをよそに、愚痴をこぼした。
「この1体だけか!?」
付近の兵士に声を上げる。
兵士は首を振った。
「情報が錯綜しています!しかし、外には群れがないと!」
__明らかに妙だった。
異形は普通、群れで襲いに来る。
だが、確認できるのは室内の個体のみだった。
「群れから離れた個体か……?」
速やかに暴れる異形の後方へと回る。
「お前達は陽動を頼む!」
兵士の1人が頷き、異形の気を引く。
その隙に、ヘレスは後自動機械のタンクと異形をまとめてバズーカで撃墜して見せた。
「お見事です、隊長」
世辞はいい。と軽く返した後、改めて状況を確認する。
「監視塔からの反応は?」
「……途絶えました」
兵士は重々しく呟く。
それと同時にヘレスは確信した。この騒動は異形によるものではない。
あの種子が、引き起こしたものだと。
「今すぐ換気システムを止めろ!!」
彼女は鬼気迫る勢いで叫び、その場から走り出した。
「クソ!!種子なんぞ捕らえるべきじゃなかったんだ!!」
◆
__一方、数刻前
ナレフカのいる場所と遠く離れた建物に、リエルは手錠を掛けられたまま連れられていた。
「さっさと歩け」
眠そうにふらふらと歩くリエルの背中を、兵士が銃のストックで乱暴に押す。
「……」
リエルは兵士をちらりと見るのみで、特に反抗の意思は無さそうだ。
__ヘレス隊長は用心深すぎやしないか
兵士の目には、匂いを除けば眠そうなだけの普通のニンフにしか見えない。
内心、隊長の警戒が過剰すぎるとすら感じていた。
__こんな腑抜けたやつの何に気を付けるってんだ?
今にも眠気の移りそうなこの空間から早く抜け出したい。兵士はその一心で、リエルを牢へ押し込むべく歩を進めていった。
「ここだ。さっさと入れ」
「ねぇ」
兵士が牢へと着いたところで、リエルが話し始めた。
「……?」
「主って信じてる?」
唐突な言葉に、兵士は調子を乱された。
「な、なんのことだ?」
「ほら、アルカンドで広まってる"お話"」
兵士は数秒の沈黙の後、呆れたように鼻を鳴らす。
「あぁ、上層のカルトな。どうした急に」
兵士の反応を気にも止めず、リエルは続ける。
「私も、あなた達も死んだら素敵なところに行けるのかな?」
兵士は変わらず小馬鹿にしたように話しかける。
「信じるものは救われる、だったか?お前もあの宗教の信者なのか?」
リエルは小さく首を横に振る。
「違うよ……でも、愛してくれてたら良いのにね……」
その時、兵士は彼女の異変に気づく。
彼女は口の中で、何かをもごもごと動かしていた。
「お前、何を口に入れてる!」
「アゥラム……良い旅を」
リエルは兵士を見つめると、聖女のように微笑みかけた。
「さ、さっさと吐き出せ!」
ストックで彼女の顔を殴ろうとしたが、その瞬間、リエルはまるで糸が切れたかのようにその場に崩れ落ち、その口からは体液がじわりと零れていた。
兵士はその情景に理解が追い付かず、目を丸くした。
「……!!司令部へ報告!捕か……く……し」
兵士の視界が、ぐらりと揺れる。先程まで喋れていたのに、呂律が次第に回らなくなる。
「ぇ……ぁ?」
不意に膝が折れ、何もない床に叩きつけられる。口から血反吐が飛び出し、意識は朦朧とし始めた。
「ぇ……ぅ……ぅ……」
自分の体内で何かが蠢く感覚に襲われながら、彼女は倒れた。
最後に視界に写ったのは、リエルの身体を内側から食い破った小型の異形。
「__!!」
それは産声を上げながら黒い煙を出し、換気扇へと吸い込まれていく。
程なくして、異形の到来を告げるサイレンが、牢に鳴り響いた。
読んで下さりありがとうございました。
次回は7/20(日曜)12:00~ 投稿予定です
キャラ紹介
ヘレス
https://docs.google.com/document/d/1ETRKPtPp_kqD2dy55SaBQ7vspZl4vEB9ufVAq2USBI0/edit?usp=drivesdk
用語
対異形用拠点
下層の一角に建てられた拠点。
異形の中層進出を防ぐ目的で作られた拠点であり、特に名前はない。
元はギプロベルデのものであったようで、拠点の通常型ニンフは対異形用にギプロベルデ産の兵器を利用することもしばしば。拠点指揮官であるマースの下、日夜異形との戦いに明け暮れている。
主な業務内容は異形との戦闘、収集したセルの加工と女王への献上、滅んだ下層コロニーの兵器回収や調査、戦闘型の凱旋など。
一般的なガーディナ兵の目線では完全な「左遷先」という扱いではあるものの、暮らしている兵士たちの士気はそれなりに高い。