Dolls Nest外伝『ポロッカの秘宝』   作:ゆらNari

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『夢の答え』

「よい……っしょ」

 

朽ちた育房に、雑多な金属音が響く。

 

リエルは、多量の大型火器を背負いながら、母の元に訪れていた。

 

「人形、また死んだの?」

 

ネマは1つ残った左目で、彼女を凝視する。

 

「ネマ……」

 

彼女がここに戻ってきたのは他でもない。

 

頭の中で引っ掛かっていた"夢"__

 

ネマなら、あれが何か知っているかもしれない。

 

「あのね……私、夢を見たんだ。コロニーが滅びる前の夢……あれはなんなの?」

 

少しだけ、ネマは喉を微かに鳴らし、思案する。

 

「ああ……機械根の記録だね。あなたが情報に分解されたときにどこかで混じったのかも」

 

「記録……?」

 

リエルは小さく呟く。

 

「下層で死んだ誰かの記憶だよ。そんなものと混じったあなたは、本当にあなたなのかな?」

 

リエルはその言葉に思案する。

もしかすると、ナレフカの為に行動しているのは、死んだ誰かの思念かもしれないと。

 

「……分からない」

 

「そう、他に何かある?」

 

ネマに答える気は無かった。

 

リエルは首を振る。

 

「行って」

 

子供のように小さく頷いた後、彼女は再びどこかへ転送されていった。

 

 

拠点の外縁部にはガーディナの小隊が集まっていた。

 

「作戦を伝達する!」

 

彼女達を取りまとめるニンフが、先頭に立って声を張る。

鎧殻に身を包んだ彼女達は、今まさに拠点に突入しようとしていた。

 

「15分前、拠点内に異形が出没し、多くの同胞が犠牲となっている!これより我々は拠点内に突入し__」

 

隊長の声を、謎の風切り音が遮った。

 

「なんだ__」

 

彼女が空を見上げた時、鋭角な砲弾が頭に直撃した。

次の瞬間、隊長は爆炎に飲まれ、近くに居たニンフ達も同じ運命を辿った。

 

「ヒット。次の目標を攻撃する」

 

拠点の遥か上空で、リエルは呟く。

自身の体長程もある重砲を3丁、更には懸架位置を無視した量のミサイルを、15基も装着していた。

 

「捉えた」

 

三つの砲門が火を噴き、反動でリエルの身体が跳ねる。

 

監視塔に直撃したそれは、焔の華を咲かせ、轟音と共に施設を崩落させた。

 

「狙う的が多くて助かるよ」

 

主要目標を潰した彼女は、砲弾を次々と放ち始めた。

甲高い音が何度も響き、反動でウサギのように空を跳ねた。

 

「ギリー、ありがとう。買って良かったよ」

 

リエルは微笑み、引き金を引く。

ギプロベルデ製の重砲は、かつて共にした主人の無念を晴らすかのように、怨嗟の咆哮を吐いた。

 

「何事だ!!」

 

時を同じく司令室。

鎧殻を身に纏いながら、マースは通信越しに怒鳴った。

絶え間なく訪れる爆音が、アラートの音を掻き消していた。

 

「じ、上空から砲撃が__」

 

爆音が遮るように響き、通信は途切れた。

一際大きな衝撃音。マースの顔が険しくなる。

 

「今の方角……武器庫か!?」

 

鎧殻の装着を終えるなり、マースは窓を突き破って吹き抜けに飛び出し、空を仰いだ。

空では、青い光が瞬いていた。

 

「各部隊、対空戦闘用意!飛ぶものは全て叩き落とせ!!」

 

彼女が怒鳴った瞬間、流星から多数の光が分かれる。

白煙を巻きながら拡散するそれは、百を超えていた。

 

「……ミサイルか!!」

 

指示を受けたニンフ達が放ったであろう弾丸が空を飛ぶ。

しかし、異形への自衛に追われてかその数は心許なく、撃墜出来たものは僅かだった。

 

「くそっ!!」

 

マースは身構え、爆発に備える。

次の瞬間、ミサイルを追い越す形で幾つもの砲弾が飛び出し、着弾した。

多数の火柱が昇るその場所は、対空迎撃に参加したであろうニンフ達の地点だった。

 

「司令っ!我々はどうすれば……」

 

逃げ延びた兵士が、マースの側に集まって来ていた。

 

「散開しろ!敵は異形だけじゃない!!」

 

彼女が指示を飛ばした瞬間、風切り音が響いた。

マースは舌打ちをすると、側に居た兵士の肩を掴み、引き寄せた。

 

「何を__」

 

次の瞬間、マースの眼前に砲弾が着弾し、吹き抜け全体が炎に包まれた。

彼女は兵士を盾にする形で吹き飛ばされ、建物に激突する。

 

視界の端では、青い流星が建物に着地していた。

 

「仲間が助けに来たとでも言うのか……!」

 

マースは盾にしたニンフを突き飛ばし、焼け焦げた吹き抜けで立ち上がる。

その時、彼女の耳に通信が届いた。

 

『……種子と接敵しました』

 

それは、ヘレスの言葉だった。

 

「何っ!奴は捕まっている筈だ!ヘレス!!」

 

彼女からの応答は無かった。

 

「応答しろ!……くそっ!!」

 

マースは歯軋りをし、通信が残った場所へと走り出した。

 

崩壊の演目は、終章へと向かいつつあった。

 

 

数刻前に遡る__

 

ナレフカは、拠点の牢に捕らえられていた。

 

「……はぁ」

 

椅子と机だけの殺風景な暗い部屋で、肘をつき、ぼうっと天井を眺めていた。

先ほどから警報と砲撃音が響くが、彼女にとってはどうでも良いことだった。

 

「……あなたは頑張ったわよ、ナレフカ」

 

自分に言い聞かせるように、そう呟く。だが、言葉とは裏腹に、目からはポロポロと涙が零れていた。

 

「でも……」

 

__このまま死ぬのは、いやだな……

 

瞬間、目の前の壁が砲撃により崩壊した。

 

「え……!?」

 

一瞬のことで何一つ分からなかったが、異形の咆哮が彼女を現実へ引き戻した。

 

「っ……!」

 

__これが最後のチャンスなら…

 

彼女は、無我夢中で牢より走り出す。

 

「なんでこんなに異形が……!?」

 

鎧殻のある場所を探すが、知らない土地、更に異形が蔓延っているとなると何も分からない。

 

「ぅ……ぅ、司令部、応答……してよ……」

 

走る彼女の耳に、声がすり抜ける。

振り向くと、片脚を失ったニンフが横たわっていた。

彼女の前には異形が立っており、鋸歯状の器官を鳴らしながら、今まさに捕食しようとしていた。

 

「あぁ……全部クソだ!異形も……ガーディナも、全部!全部っ!!」

 

ニンフは停まった通信機を投げ捨て、絶え絶えに叫んだ。

その時、ナレフカと目が合った。

 

「助けて……」

 

彼女は涙ながらに呟いた。

 

「……っ!」

 

ナレフカは衝動に駆られ、彼女の元に走り出す。

 

「__!!」

 

異形がナレフカに反応し、振り向く。

彼女は姿勢を低くして異形の横を滑り込み、そのまま負傷したニンフを抱えて走った。

 

「お前……確か……捕まってたんじゃ」

 

彼女は震えながら尋ねる。

 

「私の鎧殻は何処にあるの?教えないなら置き去りにするわよ」

 

ナレフカは、心を鬼にして脅した。

兵士はしばらく考えた後、答える。

 

「本当に……殺さないんだな?」

 

「そっちが本当のことを教えてくれるならね」

 

血反吐に喉を焼かれながら、それでも兵士は答えた。

 

「さ……三番倉庫だ……鹵獲品を……多く入れてる……お願い、助けて……」

 

涙目で懇願する兵士にナレフカは頷き、三番倉庫へと足早に向かった。

 

__倉庫内は、人影は無くがらんとしていた。

だが、様々な武器や鎧殻が丁寧に保管されており、中には見慣れたポロッカ黎明期の初期型航空鎧殻やナガラの刀剣、ギプロベルデの大型砲なども置かれていた。

 

その中で、特に見慣れた鎧殻(A12C2 Salnas)も置かれていた。

 

「……あった」

 

いくらかガタが来ていたはずの装備だったが、恐らく技師型によるものだろう。

傷やへこみなどが丁寧に修復され、その姿は主の帰りを待っているようにも見えた。

 

ナレフカは兵士に、付近で拾った修復剤を渡して倉庫内の小型シェルター前にゆっくりと寝かせる。

 

「今はこれだけしかないけど、少なくとも立って歩けるようにはなるはずよ」

 

「あんた……私を、殺さないのか?」

 

驚いた様子の兵士に、ナレフカは答える。

 

「約束、守ってくれたでしょ?」 

 

それを聞いて、兵士は精一杯笑みを浮かべた。

 

「そっ、か……私も、あんたと同じ()に産まれたかったよ」

 

「もう滅んでるわよ?」

 

自嘲気味に笑うが、何故か悪い気はしなかった。

 

__鎧殻を纏い、武器を取る。

当たり前に行っていたことだが、状況が状況だ。今は、どこか彼女に緊張が走った。

 

「なぁ」

 

兵士の言葉に、ナレフカは振り向いた。

 

「ありがとう。あんたのこと……知らないけど、頑張れよ」

 

「あなたも、生き延び__」

 

轟音、天井が崩れ落ちた。

 

「……!?」

 

大粒の瓦礫が質量弾となって、二人に降り注いだ。

僅かに反応が遅れたナレフカは、兵士を連れて飛翔しようと試みる。

だが次の瞬間、彼女は思い切り背中を押され、突き飛ばされた。

 

「え……」

 

振り向くと、背中を押した兵士は微笑んでいた。

 

「……生きて」

 

次の瞬間、降り注いだ瓦礫が兵士を押し潰し、ナレフカは取り残された。

 

「なんで!!」

 

ナレフカは叫び、瓦礫に向かって走る。

だが次の瞬間、土煙を散弾が突き破った。

 

彼女は反射的に上昇し、それを躱わす。

 

「……避けたか」

 

聞き覚えのある声に、背筋が凍る。

土煙が晴れると、ギプロベルデの多脚鎧殻(BdomBalgas2)を装備したニンフが立っていた。

 

姿や武装こそ大きく違えど、ナレフカにはそれが誰なのかひと目で判別できた。

 

「ケルシュ……!」

 

「まさか敵を庇うとはな……役立たずめ」

 

ケルシュは足元に横たわった兵士を、蔑むように見下ろした。

瓦礫に潰された兵士の胸には鉄筋が深々と突き刺さっており、穏やかな面持ちで目を瞑っていた。

即死だった。

 

彼女が握っていた修復剤が滑り落ち、ケルシュがそれを踏み潰した。

ナレフカは、何も言わなかった。

 

ただ一度、細く息を吐き、静かにケルシュを睨んだ。

 

「来いよ、腰巾着」

 

ケルシュは、冷淡に吐き捨てた。

 

「……生きては帰さないわ」

 

ナレフカもまた、確かな殺意を以って呟いた。




読んで下さりありがとうございました。
次回は7/27(日曜)12:00~ 投稿予定です

キャラ紹介

マース
https://docs.google.com/document/d/1BFEAmuE_qpYqI1Ha-p1aXCAGGlIMvj_01NjeYxEsVjI/edit?usp=sharing

ケルシュ(拠点防衛仕様)
https://docs.google.com/document/d/1vzM7EDzoXdTo1_JttSAe4NOBduXxH_pdxbXxyvuWK2g/edit?usp=sharing

用語

異形
下層に住む、自動機械に取りついてるなんか虫みたいなやつ。何者かの手により拠点内に大量発生している。
拠点内の自動機械に取りつき、食えるニンフ全てを食って回る。
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