Dolls Nest外伝『ポロッカの秘宝』 作:ゆらNari
「よい……っしょ」
朽ちた育房に、雑多な金属音が響く。
リエルは、多量の大型火器を背負いながら、母の元に訪れていた。
「人形、また死んだの?」
ネマは1つ残った左目で、彼女を凝視する。
「ネマ……」
彼女がここに戻ってきたのは他でもない。
頭の中で引っ掛かっていた"夢"__
ネマなら、あれが何か知っているかもしれない。
「あのね……私、夢を見たんだ。コロニーが滅びる前の夢……あれはなんなの?」
少しだけ、ネマは喉を微かに鳴らし、思案する。
「ああ……機械根の記録だね。あなたが情報に分解されたときにどこかで混じったのかも」
「記録……?」
リエルは小さく呟く。
「下層で死んだ誰かの記憶だよ。そんなものと混じったあなたは、本当にあなたなのかな?」
リエルはその言葉に思案する。
もしかすると、ナレフカの為に行動しているのは、死んだ誰かの思念かもしれないと。
「……分からない」
「そう、他に何かある?」
ネマに答える気は無かった。
リエルは首を振る。
「行って」
子供のように小さく頷いた後、彼女は再びどこかへ転送されていった。
◆
拠点の外縁部にはガーディナの小隊が集まっていた。
「作戦を伝達する!」
彼女達を取りまとめるニンフが、先頭に立って声を張る。
鎧殻に身を包んだ彼女達は、今まさに拠点に突入しようとしていた。
「15分前、拠点内に異形が出没し、多くの同胞が犠牲となっている!これより我々は拠点内に突入し__」
隊長の声を、謎の風切り音が遮った。
「なんだ__」
彼女が空を見上げた時、鋭角な砲弾が頭に直撃した。
次の瞬間、隊長は爆炎に飲まれ、近くに居たニンフ達も同じ運命を辿った。
「ヒット。次の目標を攻撃する」
拠点の遥か上空で、リエルは呟く。
自身の体長程もある重砲を3丁、更には懸架位置を無視した量のミサイルを、15基も装着していた。
「捉えた」
三つの砲門が火を噴き、反動でリエルの身体が跳ねる。
監視塔に直撃したそれは、焔の華を咲かせ、轟音と共に施設を崩落させた。
「狙う的が多くて助かるよ」
主要目標を潰した彼女は、砲弾を次々と放ち始めた。
甲高い音が何度も響き、反動でウサギのように空を跳ねた。
「ギリー、ありがとう。買って良かったよ」
リエルは微笑み、引き金を引く。
ギプロベルデ製の重砲は、かつて共にした主人の無念を晴らすかのように、怨嗟の咆哮を吐いた。
「何事だ!!」
時を同じく司令室。
鎧殻を身に纏いながら、マースは通信越しに怒鳴った。
絶え間なく訪れる爆音が、アラートの音を掻き消していた。
「じ、上空から砲撃が__」
爆音が遮るように響き、通信は途切れた。
一際大きな衝撃音。マースの顔が険しくなる。
「今の方角……武器庫か!?」
鎧殻の装着を終えるなり、マースは窓を突き破って吹き抜けに飛び出し、空を仰いだ。
空では、青い光が瞬いていた。
「各部隊、対空戦闘用意!飛ぶものは全て叩き落とせ!!」
彼女が怒鳴った瞬間、流星から多数の光が分かれる。
白煙を巻きながら拡散するそれは、百を超えていた。
「……ミサイルか!!」
指示を受けたニンフ達が放ったであろう弾丸が空を飛ぶ。
しかし、異形への自衛に追われてかその数は心許なく、撃墜出来たものは僅かだった。
「くそっ!!」
マースは身構え、爆発に備える。
次の瞬間、ミサイルを追い越す形で幾つもの砲弾が飛び出し、着弾した。
多数の火柱が昇るその場所は、対空迎撃に参加したであろうニンフ達の地点だった。
「司令っ!我々はどうすれば……」
逃げ延びた兵士が、マースの側に集まって来ていた。
「散開しろ!敵は異形だけじゃない!!」
彼女が指示を飛ばした瞬間、風切り音が響いた。
マースは舌打ちをすると、側に居た兵士の肩を掴み、引き寄せた。
「何を__」
次の瞬間、マースの眼前に砲弾が着弾し、吹き抜け全体が炎に包まれた。
彼女は兵士を盾にする形で吹き飛ばされ、建物に激突する。
視界の端では、青い流星が建物に着地していた。
「仲間が助けに来たとでも言うのか……!」
マースは盾にしたニンフを突き飛ばし、焼け焦げた吹き抜けで立ち上がる。
その時、彼女の耳に通信が届いた。
『……種子と接敵しました』
それは、ヘレスの言葉だった。
「何っ!奴は捕まっている筈だ!ヘレス!!」
彼女からの応答は無かった。
「応答しろ!……くそっ!!」
マースは歯軋りをし、通信が残った場所へと走り出した。
崩壊の演目は、終章へと向かいつつあった。
◆
数刻前に遡る__
ナレフカは、拠点の牢に捕らえられていた。
「……はぁ」
椅子と机だけの殺風景な暗い部屋で、肘をつき、ぼうっと天井を眺めていた。
先ほどから警報と砲撃音が響くが、彼女にとってはどうでも良いことだった。
「……あなたは頑張ったわよ、ナレフカ」
自分に言い聞かせるように、そう呟く。だが、言葉とは裏腹に、目からはポロポロと涙が零れていた。
「でも……」
__このまま死ぬのは、いやだな……
瞬間、目の前の壁が砲撃により崩壊した。
「え……!?」
一瞬のことで何一つ分からなかったが、異形の咆哮が彼女を現実へ引き戻した。
「っ……!」
__これが最後のチャンスなら…
彼女は、無我夢中で牢より走り出す。
「なんでこんなに異形が……!?」
鎧殻のある場所を探すが、知らない土地、更に異形が蔓延っているとなると何も分からない。
「ぅ……ぅ、司令部、応答……してよ……」
走る彼女の耳に、声がすり抜ける。
振り向くと、片脚を失ったニンフが横たわっていた。
彼女の前には異形が立っており、鋸歯状の器官を鳴らしながら、今まさに捕食しようとしていた。
「あぁ……全部クソだ!異形も……ガーディナも、全部!全部っ!!」
ニンフは停まった通信機を投げ捨て、絶え絶えに叫んだ。
その時、ナレフカと目が合った。
「助けて……」
彼女は涙ながらに呟いた。
「……っ!」
ナレフカは衝動に駆られ、彼女の元に走り出す。
「__!!」
異形がナレフカに反応し、振り向く。
彼女は姿勢を低くして異形の横を滑り込み、そのまま負傷したニンフを抱えて走った。
「お前……確か……捕まってたんじゃ」
彼女は震えながら尋ねる。
「私の鎧殻は何処にあるの?教えないなら置き去りにするわよ」
ナレフカは、心を鬼にして脅した。
兵士はしばらく考えた後、答える。
「本当に……殺さないんだな?」
「そっちが本当のことを教えてくれるならね」
血反吐に喉を焼かれながら、それでも兵士は答えた。
「さ……三番倉庫だ……鹵獲品を……多く入れてる……お願い、助けて……」
涙目で懇願する兵士にナレフカは頷き、三番倉庫へと足早に向かった。
__倉庫内は、人影は無くがらんとしていた。
だが、様々な武器や鎧殻が丁寧に保管されており、中には見慣れたポロッカ黎明期の初期型航空鎧殻やナガラの刀剣、ギプロベルデの大型砲なども置かれていた。
その中で、特に見慣れた
「……あった」
いくらかガタが来ていたはずの装備だったが、恐らく技師型によるものだろう。
傷やへこみなどが丁寧に修復され、その姿は主の帰りを待っているようにも見えた。
ナレフカは兵士に、付近で拾った修復剤を渡して倉庫内の小型シェルター前にゆっくりと寝かせる。
「今はこれだけしかないけど、少なくとも立って歩けるようにはなるはずよ」
「あんた……私を、殺さないのか?」
驚いた様子の兵士に、ナレフカは答える。
「約束、守ってくれたでしょ?」
それを聞いて、兵士は精一杯笑みを浮かべた。
「そっ、か……私も、あんたと同じ
「もう滅んでるわよ?」
自嘲気味に笑うが、何故か悪い気はしなかった。
__鎧殻を纏い、武器を取る。
当たり前に行っていたことだが、状況が状況だ。今は、どこか彼女に緊張が走った。
「なぁ」
兵士の言葉に、ナレフカは振り向いた。
「ありがとう。あんたのこと……知らないけど、頑張れよ」
「あなたも、生き延び__」
轟音、天井が崩れ落ちた。
「……!?」
大粒の瓦礫が質量弾となって、二人に降り注いだ。
僅かに反応が遅れたナレフカは、兵士を連れて飛翔しようと試みる。
だが次の瞬間、彼女は思い切り背中を押され、突き飛ばされた。
「え……」
振り向くと、背中を押した兵士は微笑んでいた。
「……生きて」
次の瞬間、降り注いだ瓦礫が兵士を押し潰し、ナレフカは取り残された。
「なんで!!」
ナレフカは叫び、瓦礫に向かって走る。
だが次の瞬間、土煙を散弾が突き破った。
彼女は反射的に上昇し、それを躱わす。
「……避けたか」
聞き覚えのある声に、背筋が凍る。
土煙が晴れると、ギプロベルデの
姿や武装こそ大きく違えど、ナレフカにはそれが誰なのかひと目で判別できた。
「ケルシュ……!」
「まさか敵を庇うとはな……役立たずめ」
ケルシュは足元に横たわった兵士を、蔑むように見下ろした。
瓦礫に潰された兵士の胸には鉄筋が深々と突き刺さっており、穏やかな面持ちで目を瞑っていた。
即死だった。
彼女が握っていた修復剤が滑り落ち、ケルシュがそれを踏み潰した。
ナレフカは、何も言わなかった。
ただ一度、細く息を吐き、静かにケルシュを睨んだ。
「来いよ、腰巾着」
ケルシュは、冷淡に吐き捨てた。
「……生きては帰さないわ」
ナレフカもまた、確かな殺意を以って呟いた。
読んで下さりありがとうございました。
次回は7/27(日曜)12:00~ 投稿予定です
キャラ紹介
マース
https://docs.google.com/document/d/1BFEAmuE_qpYqI1Ha-p1aXCAGGlIMvj_01NjeYxEsVjI/edit?usp=sharing
ケルシュ(拠点防衛仕様)
https://docs.google.com/document/d/1vzM7EDzoXdTo1_JttSAe4NOBduXxH_pdxbXxyvuWK2g/edit?usp=sharing
用語
異形
下層に住む、自動機械に取りついてるなんか虫みたいなやつ。何者かの手により拠点内に大量発生している。
拠点内の自動機械に取りつき、食えるニンフ全てを食って回る。