Dolls Nest外伝『ポロッカの秘宝』   作:ゆらNari

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『空に挑む者達』

「いやはや……恐れ入った」

 

拠点の閲兵場にて、ヘレスとリエルは対峙していた。メルツェは、ヘレスの横でリエルを睨み続けている。

 

「待ちくたびれたよ。あと何人殺したら来てくれるか数えてたんだ」

 

リエルの周囲には、10を超えるニンフ達が倒れ、事切れていた。

 

「まさかここまで戦線をズタズタにされるとはね……予想できなかった、流石だよ」

 

ヘレスの言葉の抑揚こそ変わらないが、その声色は少しばかり怒気を交えていた。

 

「見せたがりの隊長のお陰だよ。おかげで脱走せずに換気口を特定できた」

 

リエルは微笑み、呟いた。

 

「換気口を特定しても、異形の卵をそこからばら撒くか?たとえお前が蘇れたとしてもだ」

 

「あれ、知ってたんだ」

 

ヘレスは一振りの剣を引き抜いた。

 

「なあ、教えてくれよ"化け物"。異形に内側から喰われる感覚はどんな気分だ?」

 

煽るヘレスに対し、リエルは微笑んだ。

 

「大したことないよ」

 

「……お喋りが過ぎたな。少しばかり私達に付き合ってくれよ」

 

リエルは3丁の重砲をパージし、一振りの槍を取り出した。

 

「……誘った以上は、喜んで」

 

その直後、ヘレスの背嚢から乾いた金属音と共に、小さな筒状の装置がひとつ転がり落ちた。

 

「種子と接敵した」

 

彼女が通信機へ呟くと、弾けるような音と共に白煙を撒き散らした。

瞬く間に閲兵場全体が、綿を押し詰めたような濃霧に呑まれていく。

 

「……っ?」

 

煙が視界を遮り、誰の姿も見えない。

 

「……煙幕?」

 

何も見えぬ中、周囲を見渡す。

車輪の駆動音の後、数度の砲撃音が聞こえ、リエルは咄嗟に身体を動かした。

 

彼女の頬を、風と砲弾がすり抜ける。

と同時に、少し遅れてミサイルが現れた。

 

「ぐ……っ!?」

 

彼女は、バーニアを瞬時に吹かし、鋭角状にミサイルを回避した。

外れた弾が離れた壁に接触し、光と音を発した。

 

「オラァ!!」

 

それと同時に、メルツェの声と共に後方から衝撃。

彼女の身体は大きく前方にのけぞる。

 

__蹴られた。

 

そう判断するや否や槍の穂先を後方に向け、突き立てようとする。

だが、既に後方に気配はなかった。

 

「バカが!当たらないんだよ!」

 

お返しとばかりに向こうからは赤い熱塵の光が飛び、リエルの鎧殻を掠める。

隠し持っていたサブマシンガンを取り出し、光の見えた先に銃撃するも、手応えがない。

 

__熱い……?

 

自身の身体を見ると、鎧殻の一部が赤熱していた。先ほど攻撃が当たった場所だ。

 

「貫通してない……!」

 

熱塵兵器のように見えたが、それは鎧殻に粘液のように張り付いていた。

 

付着した熱塵より高温を検知し、リエルはそれが鎧殻と中のニンフを焼く兵器だと理解した。

 

__火炎放射器だけじゃないのか……!

 

「お前に、アルカンドとの戦いで見出だした我々の戦術を味わわせてやる!」

 

煙の中、ヘレスの声が響き渡る。

そのわざとらしい宣言に、リエルは眉を顰めた。

 

__何かあるな。

 

再び、ミサイルが飛来する。

リエルは姿勢を低くして、ミサイルの下を滑り込んだ。

 

彼女の頭上を、メルツェが薙ぎ払うように放った燃焼弾が通過する。

 

「耳は良くてさ」

 

リエルが呟いた時、煙を破ってヘレスが飛び出した。

 

「貰ったぞ」

 

彼女が剣を振り上げる。

リエルは、それの迎撃に意識を向けようとするも、何かが引っ掛かった。

 

__声を出せば奇襲の意味がない。本命は……!!

 

彼女は槍を手放し、足元に手を伸ばした。

その瞬間、リエルの背後からマースが現れた。

 

「赦しでも請うつもりか!!」

 

マースは身の丈程ある巨剣を唸らせ、彼女に振り払う。

 

次の瞬間だった。

リエルはパージしていた重砲を拾い上げ、その場で回転しながら鈍器として振り回した。

 

「「何だと!?」」

 

ヘレスは飛び退く。

しかし、マースはカウンターを受ける形で、横腹に銃身が直撃した。

彼女の身体が吹き飛び、転がりながら壁に激突した。

 

「司令!!」

 

ヘレスが叫ぶ。

マースはゆっくりと立ち上がると、リエルを見て微笑んだ。

 

「ッハハ!今のを避けたのはお前が初めてだ!やはり種子は厄介だな!」

 

ヘレスはそのまま高速機動で煙幕の中に逃げ込み、マースがそれに続く。

 

__どうする?

 

要は、煙幕を使った陣地。相手にせず撤退すれば問題はないはずだ。

だが同時に、それは厄介なヘレスを野放しにするという意味である。

 

「仕留めておくべきだよね」

 

リエルはそう呟くと、意を決して煙幕へと足を踏み入れた。

 

「報告しろ、手短に」

 

「例の種子と交戦。A4T戦術にてメルツェと共に対応しています」

 

マースの通信に、ヘレスは即座に応答する。

 

「僭越ながら__」

 

「作戦に合流する。立て直すぞ」

 

言い切る前にマースも応答した。

 

「そう来なくては……!」

 

ヘレスはそれを聞き、再び煙幕へと疾る。

 

「あああああっ!クソクソクソォッ!!」

 

だが、ふとメルツェの怒声が聞こえた。

銃声なども確認できず、やられた様子でもない。

 

「どうした?」

 

「アイツ、増えたのにいない!何処だよぉ!!」

 

それを聞いて、ヘレスは周囲を見る。

 

「増えた……?」

 

リエルの数が、5人に増えていた。

だが、メルツェの横にいるにも関わらず、攻撃をする気配はない。

 

「……まさか」

 

ヘレスはゆっくりと近づくも、反応はあるのに影が見えない。

足下を見ると、そこには擬装装置が置かれていた。

 

「……メルツェ!動く反応を狙え!」

 

焦燥した様子でヘレスはメルツェへの命令を下す。

 

「動くやつ?……こいつだぁぁ!!」

 

メルツェの声と共に熱塵の光が迸り、確かな手応えと共に動いていた反応が止まる。

__煙が晴れると、そこには膝をついたリエルがいた。

身体からは煙と若干の火の粉が上がっており、鎧殻の廃熱が追い付いていないようにも見える。

 

「やったやったやったぁ!」

 

動かない彼女を見て、メルツェは銃を構え、近づく。

 

「お前を殺して、火傷の悪夢とはおさらばだ!!」

 

「待て!!」

 

マースが叫ぶも、もう遅かった。

瞬間、リエルは顔を上げ、サブマシンガンをメルツェへと向ける。

 

「え……?」

 

一瞬の出来事だった。

メルツェは横から押し出された。

彼女の視界に、銃弾を多数撃ち込まれるヘレスの姿が映った。

 

「ヘレス……?」

 

メルツェの声は、まるで時間の中に置き去りにされたようだった。

 

「ばか……やろ……う……」

 

その言葉を最後に、ヘレスは事切れた。

 

「こんなものか」

 

冷淡にリエルはそう呟き、その場を立ち去った。

 

「貴様ァ!」

 

マースは、リエルの元に走る。

だが残っていたのは、憔悴状態となったメルツェと、ヘレスの死体のみだった。

 

「ヘレス……ヘレス……」

 

死したヘレスを、メルツェはうつろな瞳で眺めていた。

 

「もういい……」

 

マースは軽蔑の眼差しを向けて横切り、外の景色を眺める。

 

「……!」

 

そして、気づいた。彼女の目的は、指揮官の足止め。

拠点は、既に異形によって壊滅寸前に追いやられていた。

 

 

一方、三番倉庫__

 

荒れ果てた倉庫の中で、ケルシュとナレフカは対峙していた。

 

「いい加減……しぶといぞ」

 

ケルシュはナレフカを睨み付ける。

互いに消耗しきっており、激しい戦いのあとが見てとれた。

 

「お互い様でしょ……」

 

既に火器を奮うだけのセルは無く、倉庫内にあった刀剣を握っていた。

 

「白兵戦でケリを付ける……」

 

「……望むところよ」

 

ケルシュがそう呟くと、ナレフカも身構えた。

 

2人の間に、僅かな静寂が流れる。

互いに、息を細く吐き、緊張からか武器に力が入る。

 

そして、倉庫の柱のひとつが、轟音と共に倒れた。

 

「行くぞ!!」

 

「……!!」

 

全力で推進を吹かし、敵に向かって吶喊する。

それと同時に、ケルシュの両副腕の散弾砲がナレフカへと向けられた。

 

「くたばれえぇぇ!!」

 

__彼女はそれを見切っていた。

ケルシュの砲撃とナレフカの跳躍が、同時に起きた。

 

「な__」

 

ナレフカはその勢いのまま刀をケルシュに振り下ろそうとするが、違和感に気づく。

 

__ケルシュは、笑っていた。

 

瞬間、ナレフカは後方からの光と衝撃に襲われ、大きく飛ばされた。

 

「が__!?」

 

吹き飛ばされたその時、視界がスローになる。

ケルシュは、自身、それと同時に後方の火薬庫を狙っていたのだ。

 

「__!______!」

 

何かケルシュが叫んでいるが、聞き取れない。

視界の端で、あの無愛想な顔がどこか誇らしげに見えた。

 

炎と風、衝撃を最後に、ナレフカは意識を失った。

 

__どれ程の時間がたっただろうか

 

「大丈夫?」

 

目を覚まし、飛び起きる。

そこにいたのは、リエルだった。

 

「リ……エル?」

 

「良かった。生きてたんだ」

 

ナレフカの手を引き、彼女は立ち上がった。

 

「さ、早くこんなところから出よう」

 

今までは何とも思わなかったが、どこか無機質な彼女の言葉に、ナレフカは違和感を覚えた。




読んで下さりありがとうございました。
次回は8/3(日曜)12:00~ 投稿予定です

用語

A4T戦術
ヘレスら特戦隊が編み出した戦術のひとつ。
名前は「Anti-Alquand-Airforce-Armored-Trooper(対アルカンド航空鎧化兵)」の略。
基本的な動きは
戦闘開始時、あるいは事前に煙幕を展開して相手の視界を奪い、空からの攻撃を封じる。
→煙幕内でも自由に行動できるように3人はセンサーに独自の改造を施しており、煙幕内では一方的に砲撃。しかし相手は攻撃を仕掛けてもヘレスらの機動力は高く、慣れていなければ雑に撃つだけなので当たらない。
→たまらず外に出る。そうすればヘレスの近接攻撃かメルツェの火炎放射、ケルシュの狙撃が煙幕内から唐突に飛び出すため確実に当たる。
というもの。

ヘレスが現在産み出している最も新しい戦術だが、比較的行動が受動的である点や隊の連携、専用の装備が必要不可欠であること、センサー系統の技術はアルカンドに一日の長があることなどからほぼ初見殺し用となっている。
現に、仮想敵であるはずの航空鎧化兵には目立った戦績を上げられておらず「見つけても相手にしない」という古典的かつシンプルな対策で避けられている。
反面、アルカンドの騎士や巡礼達、そして防衛戦においてはその効果を順当に発揮し、有利に立ち回れていたようだ。
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