Dolls Nest外伝『ポロッカの秘宝』   作:ゆらNari

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『竜の胎動』

リエルと出会う数日前、ナレフカが隠れ家で時間を過ごしていた時の事だった。

突然、ポロッカ製の通信機のランプが点いた。

 

「……っ!!」

 

ベッドで横になっていた彼女は思わず飛び起きた。

回線を開けっぱなしにして数年。ついに一度も鳴ったことの無かったそれが、繋がった。

 

「こちら702K ナレフカ!聞こえる!?もしポロッカの生き残りなら応答して!!」

 

それは半ば悲鳴にも近いものだった。

 

『ナレフカ……?』

 

ノイズ混じりに帰って来た声は、シードルのものだった。

 

「っっ、シードル!?良かった……今何処に居るの!」

 

長らく孤独に耐えて来た彼女にとって、それは間違いなく希望であった。

 

『ヴァルクレムが完成した。ポロッカに来い』

 

彼女はそれだけ告げると、無線が切れた。

 

 

ナレフカの足が地を踏んだ。

砂混じりの風が吹き抜ける高所、崩れかけた鉄骨の上。そこから見下ろす先には、かつての故郷__ポロッカがあった。

 

だが故郷の面影はそこに無く、巨大なクレーターが点在するばかりだった。

 

「変わらないのね、あの日から……」

 

ナレフカは小さく呟いた。

微かに笑みを浮かべながらも、その目元にはどこか寂しげな翳りが宿っていた。

 

息を吐いた後、彼女はクレーター内の小さな穴へと降りていく。

 

地下へと降り、長い通路を渡った先に、まだ"生きている"自動扉を見つけた。

 

付近の端末に近づくと、扉がひとりでに開いた。

 

「律儀に待っててくれたのね。」

 

彼女はそう言って扉の奥へと進んでいく。

 

__ポロッカ第八兵器開発局

 

扉の近くに立て掛けられた看板には、確かにそう書かれていた。

 

設備は依然として生きており、照明や通路は、ありし日と変わらない状態に復元されていた。

 

そして部屋に取り付けられた窓ガラスの先に広がっていたのは、かつて存在しなかった巨大なドーム状の格納庫だった。

 

部屋の最奥に位置するメインコンピュータの前で、何者かが椅子に座ってこちらを凝視していた。

 

「……シードル」

 

慣れ親しんだ、しかしそれでいて久しい__

かつての友の名を呼んだ。

 

「……待っていたよ、ナレフカ」

 

柔らかな口調で、彼女は微笑んだ。

かつてと変わらぬ顔が、そこにあった。

 

「君が生きていて良かった」

 

そう答える彼女は、何処か不気味だった。

 

「……どうして、私を呼んだの?」

 

「ああそれはね……」

 

そして、ゆっくりと片腕を上げ、指を弾いた。

 

「……動くな」

 

この部屋に隠れていたのだろう。いつの間にかナレフカは、数人の兵士に囲まれていた。

 

「……どうして?」

 

困惑するナレフカに対し、シードルの目は据わっていた。

 

「ヴァルクレムは完成したよ。君が一顧にも留めなかった計画を……私はやり遂げたさ」

 

シードルは下唇を噛み、憎悪に表情を歪めていた。

 

「君は私を幼精と嘲った!だが現実はどうだ、君は女王を守れず、私は様々な生存者をかき集めてコロニーを再建した!!」

 

彼女の弁舌に熱が入り、部下の兵士達も引き金に力が入る。

 

__殺される。

 

そう感じとったナレフカは、対処に思慮を巡らせていた時だった。

 

突如、入り口が爆ぜる。

爆風と共に、数名の兵士が突入してきた。

 

「全員、動くな!」

 

銃を構える兵士達の奥から、マースがその姿を表した。

 

「驚いたな。まさかポロッカの地下でコロニーを再建していたとは」

 

マースはシードルに銃口を向けた。

先ほどの饒舌から一転、シードルは拍手をしながら彼女を睨み付けていた。

 

「ようこそ、中層の羽蟲諸君。あいにくだが処刑台は混んでいてね、そこで待ってもらえるかな?」

 

「戯言を」

 

マースが手を挙げ、部下に指示を送ろうとした時だった。

 

壁と天井が砕け、3機のニンフが飛び出した。

 

「雪辱を晴らす時だ」

 

戦車型の下半身を持つ彼女達は、ギプロベルデのニンフだった。

 

彼女達が携帯する三丁のガトリング砲が一斉に火を噴いた。

 

女王(ははうえ)の仇っっ!!」

 

ギプロベルデのニンフが叫んだ。

 

ナレフカは窓から飛び出し、マースは大剣を盾として構えた。

過剰なまでの弾丸がマースと彼女の部下に投射され、軸線上にあった全てを粉々に打ち砕いた。

 

「貴様……!」

 

弾幕が止んだ時、マースは構えていた大剣を下ろした。

部隊は、彼女を除いて壊滅していた。

 

「さて……話しやすくなったね」

 

シードルは席を立った。

 

「丁度処刑台が一つ空いたよ。いかがかな?」

 

彼女は嗜虐心に満ちた、邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

窓を飛び下りた先、取って付けたような仮設通路や入り組んだ地下道をナレフカは歩く。

 

「何……これ」

 

そこを抜けた瞬間、視界が開けた。

第八兵器開発局を中心として、かつてのコロニー内部にはあるはずのない巨大な地下都市が建造されていた。

 

「……まるで蟻みたいね」

 

ドーム状の格納庫を中心に、様々なコロニーの生き残りがそれぞれ建物を増築して生活を営んでいた。

そのニンフ達の服装は千差万別で、色以外でまとまりがない。

 

「ファブラー……ギプロベルデ、ナガラ出身の子まで……!」

 

物陰に隠れながらしばらく歩いた後、ナレフカは思わず足を止める。眼前に広がるのは、この空間の中でもっとも広い建物だった。

 

警備がいないか確認をしながら慎重に扉を開けて中へと入る。

キャットウォークへと続く階段を、音を立てないように登りながら建物の中心を見た。

 

「……!」

 

多数のニンフが作業をしている格納庫内、その中心に聳える巨影に、ナレフカは釘付けとなった。

 

「あれは……?」

 

黒い外装の航空機が鎮座していた。

前時代の輸送機を更に大型化したようなそれは、あまりにも巨大で、空を飛べるとは到底思えなかった。

 

「本当にこれが飛ぶなら……あなたは何をする気なの、シードル」

 

あの日、シードルが手渡した資料。

空飛ぶ都市、ヴァルクレム。

航空学に秀でたポロッカですら不可能と吐き捨てたその計画が、形となって目前にあった。

 

現実感を失いそうなほどの衝撃だった。

 

「そこのお前!止まれ!」

 

兵士の声で、ナレフカは正気に戻った。

キャットウォークから飛び下り、スラスターを吹かす。

 

そのまま着地し、出口へと走る。

 

「本当にこんなものを作っていたなんて……」

 

現在の装備では火力が足りない。ニンフも多すぎる。

 

__だからこそ、逃げるしかなかった。

 

兵士達を撒き、倉庫の出口へと向かう。

 

「あと少し……!」

 

倉庫内の扉をロケット砲で破壊し、ナレフカは外へと出た。

 

「__ああ、見つけたよ」

 

真上から、聞き慣れた声が耳に入った。

次の瞬間、ナレフカは上から降って来たニンフに蹴られ、地面に叩きつけられた。

 

「ぐっ……」

 

ナレフカは顔を上げ、相手の顔を確かめる。

そして、その"匂い"に絶望した。

 

「……リエル?」

 

相手は、未知の鎧殻に身を包んだリエルだった。

 

「うん?あー……そういうことか」

 

彼女は指を鳴らした。

 

「前哨基地が吹き飛んだのはそういう事だったのか」

 

リエルのような彼女は、無駄のない所作でナレフカの両腕をへし折った。

 

「__っう!!」

 

絹を裂くような悲鳴の後、続けざまにナレフカの加速翅を分解した。

 

「私はSee:El、渾名はシエル。多分リエルって子の、お姉ちゃんだよ」

 

「お姉……ちゃん……?」

 

シエルは微笑むと、ナレフカの首を掴んで持ち上げた。

 

「うん。本来なら殺すとこだけど……私の協力者があなたの生存を望んでるから」

 

その単語を、過去にシードルが呟いていた事を思い出す。

 

「あなたがアーヴドの協力者__っ!」

 

シエルは彼女の首を絞め、程なくして緩めた。

 

「喋り過ぎだよ、ほら行こう」

 

彼女はナレフカを引き摺りながら、シードルの居室に辿り着く。

 

「おお、捕まえてくれたようだね」

 

二人に気が付いたシードルが、嬉しげに振り向いた。

 

「あなたの同期はご覧の通りに。そっちも上々だね」

 

シエルが部屋の隅を見やると、手足が千切れ飛んだマースが、ボロ雑巾のように転がっていた。

 

「ああ、彼女達も復讐を果たせたようで何よりだよ」

 

ギプロベルデの戦車型ニンフの三人は、損傷こそしているものの、死者は出していなかった。

 

「所詮は左遷された負け犬だ。"今"を戦う我らの敵ではない」

 

彼女は誇らしげに呟くと、倒れたマースに唾を吐いた。

 

「アレを使って何をする気なの……!」

 

ナレフカが問うと、シードルは窓越しに映る格納庫を指差した。

 

「ヴァルクレムでガーディナを潰すんだよ。我ら下層の民から安住の地を奪った羽蟲共を……地獄に叩き落とす為にな」

 

シードルは満面の笑みで答えた。

 

「アレが飛ぶ筈ない__」

 

食って掛かろうとしたナレフカの頭を、シエルは掴んだ。

 

「飛ぶよ」

 

彼女は不気味に微笑むと、ナレフカの顔を床に叩き付けた。

鈍い痛みの中、彼女は意識を手放してしまった。




読んで下さりありがとうございました。
次回は8/17(日曜)12:00~ 投稿予定です
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