皆さんは【推しの子】という作品をご存じだろうか。
黒髪で瞳の中に星を宿した女の子の表紙、或いは未成年・未婚の現役アイドルである女の子が赤ちゃん(それも双子)を生んだというストーリーの導入がネットの海で話題となり、一躍バズった漫画作品である。アニメ化もしたし実写ドラマ化もしたから、その辺で作品名を知った人も多いかもしれない。
まあでも……うん、いや、誤魔化しても仕方ないのでハッキリ言うが、割とストーリーが進むにつれて賛否両論な展開となっていき、最終回やその近辺はどちらかというと否寄りの意見が目立つ……もっと言うなら炎上してしまった作品でもあった。本当に残念なことである。
そんな【推しの子】という物語は、未成年・未婚の経産婦なアイドルこと星野アイを中心……とはせず、悲劇的な死を迎えた彼女の復讐に燃えるその息子、星野愛久愛海視点で進む。そしてその妹にしてもう一人の主役……かと思われた星野瑠美衣は残念ながらその内面についてはあまり深く描写されず、寧ろ愛久愛海に恋をしていた重曹ちゃんこと有馬かなちゃんの方がモノローグ量では勝っていたほどだ。あくまでいち読者としての意見だが、私はもうちょっと瑠美衣ことルビーを主役に据えて、彼女が母を越える完璧なアイドルになるまでの道程を応援したかったな、なんて気持ちがある。
あとやっぱり愛久愛海にも生きて幸せになってほしかった。ゴロー先生の時からなんかこう、彼は貧乏くじばっか引かされてる気がする。本当に不運。
さて、【推しの子】原作の話についての私の感想や意見はこのくらいにしておこう。
きっとこれを読んでいる皆さんも、そんなものにはさして興味はないだろうから。
本題に入る。
【推しの子】は芸能界を舞台にした人間ドラマと犯人を追い詰めるミステリーないしサスペンスが主題(恐らく)の作品だが、ガラスの仮面や名探偵コナンとは明らかに違う要素がある。
それは何かと聞かれれば、読者でなくとも【推しの子】のあらすじを知っている人なら大体ピンとくるだろう。
そう、『転生』要素である。
昨今は異世界転生というジャンルが一大ブームを築いているが、それとは違う。【推しの子】では主人公である愛久愛海そして瑠美衣が、「その世界に生きていた人物が生まれ変わった存在」という特殊な存在だ。
何故彼・彼女がファンだったアイドルの元に転生したのかというのは一応ストーリーで語られるのだが……いや、これは大した話でもないのでやめておこう。
とにかく、【推しの子】は現実を舞台にしつつも、神様や輪廻転生が登場するファンタジーのエッセンスが組み込まれた作品なのだ。
そしてその転生者である星野愛久愛海は、前世である雨宮吾郎の死の原因から母・星野アイ殺人事件の裏で糸を引いた人物の存在に感づき、芸能界に入ってその人物を探すこととなる。もし彼が転生者でなければ、母はたちの悪いストーカーに殺されたのだ、というだけで終わっていただろう。
それにしても、雨宮吾郎が長らくただの行方不明として扱われたのは、どんなに田舎だったとしても警察機関の無能っぷりを嘆かずにはいられな……げふんげふん。
また話題が逸れてしまった。申し訳ない。
【推しの子】の主要ストーリーに話を戻すが、星野アイ殺人事件を企てたのは、愛久愛海と瑠美衣の実父であるカミキヒカルという男だ。男、とはいっても彼はアイの1つ下で、父親としては相当若い。いや、アイも15で子供を産んでるから今更だが。
このカミキヒカルという人物、初登場からあまりにも怪しすぎて「ミスリードでは?」とか言われていたものの、蓋を開けてみればストレートに黒幕だったというキャラクターだ。動機はまあ……うん、サイコパスといえばいいのかただメンタルを病んでいたせいといえばいいのか。
他にも何人か殺しているらしいからまあ普通に殺人犯なのだけれど、11歳で年上の女優に逆レ○プされて子供まで作られたらそら人格も歪むわ、と一定の同情はしてしまうキャラでもある。殺人犯だけどね。
ただこの男こそが【推しの子】ストーリー全体の黒幕である以上、たとえば星野アイを救いたければ彼をなんとかするしかない。だから二次創作ではアイと彼を関わらせないよう仕向けたり、説得したり、オリジナルキャラクターを生み出してアイの恋人にさせたり、極端なものだとカミキヒカルをこの世からサヨナラバイバイしてしまうものさえあった。
……まあそうなるよね。私が仮に創作をするとしてもそういう風にする。
ドアチェーンの重要性さえ知らなかったアイのコトだから迂闊なことをして何処かでストーカーに住居バレするなんて展開は普通に起こりそうだが、だからといって連チャンで命を狙われるということはなくなるだろう。
そして黒幕なんて存在がなければ、愛久愛海もいつかは傷を癒やして俳優の道を素直に邁進できた可能性は高い。多分きっとメイビー。
さて、随分長く語ってしまったがそろそろ結論に入ろう。
何故私が【推しの子】についてこうも長々語ったのか。それは……
「いい子でちゅね~ルビー~」
蕩けるように美しい、けれどどこか作り物めいた微笑みで金髪の赤ん坊を抱っこする黒髪の美少女が目の前にいるからだ。
うーん、アニメそのままの光景。そして彼女が抱きかかえてるのはルビーではなくアクアマリンである。瓜二つとはいえ二卵性で性別が明確に違うんだから、我が子を間違えて呼ぶのは流石に酷い。抱っこの機会を逃したルビーはびゃあびゃあ泣いているし、間違えられたアクアマリンの眼は死んでいる。
…………この赤ん坊らしからぬ感情表現。少なくともアクアマリンの方は原作通り雨宮吾郎が入っているようだ。
「そっちはアクアマリンだよ、アイ」
「ありゃ?」
おおよしよし、とアイの隣に座っていた人物がルビーを抱き上げてあやす。だけど抱き上げられたルビーは更に火がついたように泣き出していよいよ手に負えない。
てへ、と舌を出して誤魔化しつつもアクアマリンを危なっかしくもベビーベッドに戻し、ルビーを受け取るアイ。途端にご機嫌になるルビー。
あ、はい。貴方も天童寺さりなちゃんですね。知ってた。
「おーよしよし、ルビーは相変わらずパパが苦手ねえ」
「というより、ママが好きすぎるんじゃないかな? ねえルビー?」
「だあっ!」
「ははっ、やっぱりね。ちょっと悔しいけど、いつかパパのこともちょっと好きになってくれるといいな」
「……やっ!!」
「うっっ」
まるでゴキブリでも見るかのような目で身体ごと顔を背けるルビーと、そんな愛娘の様子に倒れ伏す『パパ』。
そんな彼と彼女の間に挟まれた台風の目ことママこと星野アイは、「パパがしんだ! このひとでなし!」と、誰から教わったのか不明のネットミームを口にしている。
当然元ネタも、そしてそれがネットミームとも知らないルビーは突然の「ひとでなし」呼ばわりにこの世の終わりのような顔をする。無論、「冗談でちゅよー」とケラケラ笑うアイ本人に慰められすぐに蘇生したが。
…………と、なんてことないように情景を描写してみたが、そろそろ限界だ。
賢明なる読者の皆様ならとっくにお気づきだろう。この場面は間違いなく【推しの子】原作第1話の情景……なのは間違いない。少なくとも日時はほぼ一致している。だけど決定的にあるものが違う。
記憶が薄れている方は原作1巻を手元に引き寄せて確認してほしい。本来ここでアイと一緒に赤ん坊をあやしているのは、彼女を娘のように思っていた佐藤社長、もとい斎藤壱護社長だ。アイをクソアイドル呼ばわりしつつも、何だかんだ彼女の妊娠出産を全力でバックアップ(もとい隠蔽)したやり手社長。……そして、アイの死で人生を狂わせてしまった一人である。
だがもう予想いただいているとおり、今この部屋にいるのは斎藤社長ではない。
「あっ」
愛おしそうに金髪の子供2人を見つめていた青年が、こちらに気づく。金色の髪にヴァイオレットカラーの瞳の、如何にも優しげな……いや、本当に優しい微笑みを浮かべた美形。髭のそり跡すら見つからないその中性的な美貌の持ち主はそう、あのカミキヒカルである。
もう一度繰り返す。
あの、カミキヒカルである。
いや、別に父親からフルネーム自己紹介されたわけじゃないんだけど、でもこの目立つ美形はマジでマンガで見たままだ。オマケにアイからは普通に「ヒカル君」って呼ばれてるから間違いない。
繰り返すが、カミキヒカルは本来【推しの子】の黒幕である。
11歳で壮絶な性体験を味わい、そこから坂道を転がるように精神を病み人殺しに手を染めた……ハズの青年。そんな彼が今、目の前で綿菓子のような微笑みを浮かべこちらを見ている。
そして。
男性の少し骨や筋が目立つ、けれど特別筋肉質でもない両腕は、危なげなく『私』を抱きかかえた。
……ああ、仕方ない。
少し遅れてしまったが……というか長々と語り続けることで随分抵抗していたが、そろそろ観念して私自身の紹介をさせて貰おう。
「おはよう、エメラルド。いい夢は見られたかい?」
私の名前は星野エメラルド。
この二人……カミキヒカルと星野アイの『夫婦』間に生まれた双子――ではなく三つ子の一番下に生まれた、元【推しの子】読者の転生者である。
というノリで基本的に語られる予定のお話。
以下、オリ主の簡単なパーソナルデータ。
○星野エメラルド(漢字はいずれ)
前世は【推しの子】読者だった。原作は最終話まで読破済み。若くて美人な母親に喜ぶ間もなく、彼女が「星野アイ」で更に自分が「アクアやルビーのきょうだい」として生まれてしまった事実を知り絶望……したものの、その直後に家族面して(実際家族だが)現れたカミキヒカルによって「あっこれ大丈夫なやつ」とテノヒラクルーした。自分の内面のことながら温度差で風邪引きそうになった。
前世の死因は×の××。享年は××歳。