星の宝石と石の世界   作:終日のたり

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思ったより更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
次かその次くらいに時間を巻き戻してアクアとルビーの視点で番外みたいな形にする予定です。


兄は俳優、姉はアイドル

「ほら、ルビー! ママの真似してごらん?」

 

 ぽてり、べしゃり、と不格好にフローリングで転がってしまった姉に、瞳に星を浮かべたいつもの笑顔でダンスを披露する母。子供に真似をさせるためというより、1人のファンに向けた本気のパフォーマンスだということに、こうして直接立ち会って初めて気づく。

 

 そう、【推しの子】原作の名シーンの1つ(で多分いいと思う)である、前世の影響で身体を上手く動かせないルビーのトラウマ……トラウマなのか? を払拭する場面だ。強火過激派のアイファンな姉は、アイドル時代から全く衰えないそのパフォーマンスにすっかり魅せられ、そうしているうちにアッサリとトラウマを乗り越える。

 

 それは、これまで原作と何もかも違っていたこの世界で起こった、あの『それが始まり』の収録以来になる『原作通り』の出来事だった。

 

「めでたしめでたし、なのかな?」

「あ゛? なんだって?」

 

 昨日と打って変わって楽しげにお遊戯をしている姉を遠目にしつつ呟くと、隣で恐竜図鑑(幼稚園の本棚にあった子供向けの『きょうりゅうずかん』だが)を読んでいた千空が片眉を上げてこちらを見ていた。

 

「お姉ちゃん、ちゃんと踊れるようになって良かったなって」

「あ゛ー……まあ、確かにな。リハビリ連れてこられたばっかの全身骨折患者みてーだったのが嘘みてーだわ」

 

 なんつー喩えだ。だけど結構鋭い。まあ正しくは全身骨折じゃなく悪性のガンか何かだったハズだけど。

 

「でも本当に良かったよ。お姉ちゃん、お母さんみたいになりたいらしいから」

「あ゛あ゛、元アイドルなんだっけか? 百夜も名前知ってたし有名だったんだな」

「そうそう。今は女優業メインだからそっちの方が知ってる人多いかもだけど、アイドル時代はドームも2回埋めたしレコード大賞も2回取ったとかなんとか」

「そりゃおめでてぇこった」

 

 ククッ、と喉を鳴らす笑い方は如何にも保育園児らしくない。私が言うのもなんだけどさ、本当に君まだ三歳なの? いや本当に私が言うのもなんなんだけど。

 

「千空実は人生2回目イージーモードだったりする?」

「はあ?」

 

 なんか可哀想なものを見る目で見られるんだけど。え、これ私が悪い? ねえこれ私が悪いの? …………シンプルに腹立つからそのぴょろんと伸びた前髪引っ張ってもいいかな?

 

「バリバリ1回目のノーマルモードだわ。アホか」

「アホじゃないし。だぁって言動が全然保育園児じゃないじゃん。そりゃ疑いたくもなるでしょ。百夜さんからも『俺の息子本当に3歳……?』とか宇宙猫顔されてたし」

「百夜がアホなだけだろ。あとなんだ宇宙猫って」

 

 おっと、この時代あのネコチャンのミームは存在してなかったのか。そりゃそうか。

 という思考の脱線はさておくとして、入園式で子供そして父同士顔見知りになった、後ろ髪の少し長いオールバックにきちんと整えられた髭の男性を思い出す。その髭のせいで若干年かさに見えたけど、多分アレはせいぜい30前後だ。それであのセキュリティ完備のマンションに住めるんだから、よほど収入がいいのか実家が太いのか……いや、これ以上はやめとこう。他人様の経済事情を勝手に憶測するのは下品だってばっちゃが言ってた。

 

『は? カミキヒカル……さん!?』

 

 父と千空が握手を終えたタイミングで息子の名前を呼びながら駆け寄ってきた彼は最初、俳優である父を知ってたらしくちょっと驚いて見せた……ものの、すぐに気を取り直して大人らしく頭を下げてきた。そして次に私達三つ子を順番に見回し、私が千空と手を繋いだままなのを見てパァア……と効果音が聞こえるくらい顔を輝かせた。

 

『彼女か、千空!? もう出来たのか!?』

『『彼女じゃない(です)』』

『ちげーよ。初日で作れっかンなもん』

 

 食い気味に否定したのがあらぬ疑いをかけられた息子本人ではなく、うちの父と兄だったのはまあ一旦置いておくとして。

 

『つーか昨日の今日で作ってたらとんだ恋愛脳だろ。常識的に考えろやアホ百夜』

『辛辣!! うちの子保育園に入ってもずっと辛辣!!』

『おい待て千空。なんだその言い草は。うちのエメの何が不満だ』

『こっちはこっちでめんどくせえなシスコンかよ』

『こんなに可愛い妹を可愛がらなくてどうする? うちの妹の悪口は許さないぞ』

『悪く言ってんのはテメーのことだよアクア。言動が完全に厄介オタクじゃねーか』

『……えめ? あくあ?』

 

 日本人の名前としては耳慣れない響きのせいだろう。頭にクエスチョンマークを浮かべた千空パパに向けて、ちょこちょこと一列に並ぶ三つ子(わたしたち)

 

『星野アクアマリンです。アクアと呼んでください』

『星野ルビーでーす☆』

『星野エメラルドです。エメでお願いします』

『あー、うん。こりゃご丁寧にどうも。石神百夜です。よろしくな、3人とも』

 

『千空と仲良くしてくれてありがとな』なんて、ほぼ確実にこの文字通りキラキラした名前3連チャンに引っかかっただろうに、それをおくびにも出さないなんて出来た大人だと思う。恐らく同じ気持ちになっただろう父が『変わった名前で驚いたでしょう?』と苦笑いを浮かべた。

 

『妻が宝石の名前を付けるって譲らなかったんです。うちの宝物になる子達だからって……僕も最終的に賛成したんですけどね。漢字の方は僕の希望を聞いて貰いましたし』

 

 およ?

 

『奥さんっつーと、確か星野アイちゃ……アイさん?』

『はい。ご存じでいてくれて嬉しいです』

 

 にこやかに談笑を続けるパパコンビを余所に、私はちょっと首を捻った。

 漢字はカミキヒカル(父親)の希望を通した? ということはルビーは『瑠美衣』じゃないしアクアマリンは『愛久愛海』じゃないってこと? じゃあ何を……というか、そもそも私の『エメラルド』ってどんな漢字を書くんだろう?

 

 ……なんて疑問は残念ながら、その場では解消されることはなく。

 

 そのまま最初の通園は、一緒に帰ることになった石神ファミリーが実は私達と同じマンションに住んでいたり、ついでに部屋は上下だったということが分かったりと多少のサプライズはあったものの滞りなく終わった。

 そして初日の流れのまま、同じ組に所属する私と千空はなんとなく毎日一緒に本を読んだり、ちょっと恥ずかしくて面倒くさいお遊戯を一緒にやったりして過ごしている。ちなみに私と千空が月組なのに対し、姉は星組で兄は空組だ。

 

「おにいちゃーん!」

 

 お遊戯が終わったらしい姉が、恐らく私達と同じく室内の何処かにいたのだろう兄に向けて手を振っている。彼女はそのまますぐ並んで座っていた私達にも気づいて大きく手を振った。

 

「エメー! 千空ー!」

 

 うーん、100点満点のファンサ。千空の左手を取って一緒にひらひらさせて応えておく。

 

「あの人懐っこさはデビューしたら強みになりそうだね」

「テメーこそその感想は保育園児らしいのかよ」

 

 いや私はちゃんと人生2回目だし。…………とは流石に言えないな。私がバラしたら必然的に残り2人もバレるだろう。実の両親にも明かしていない秘密を、まだ友達(一応)になって間もない彼に明かすのは不義理な気がする。

 

「そういえばね、お兄ちゃんも苺プロの子役部門に正式所属が決まったんだよ」

「へえ。子役ってことは俳優志望か」

「今のところね。ちなみに銀幕デビューだけならもうしてるんだよ。ホラー映画だから千空知らないかもだけど」

「なんて映画だ?」

「『それが始まり』」

「……あ゛ー、見たことあんな。そういや序盤に金髪のガキが出て……なるほどアレがアクアか」

「え、見たのあれ? 確かCERO指定かかってなかった?」

「百夜がDVD借りてきた中にあったんだよ。借りてきた本人がビビりまくって中盤でギブアップしてたけど」

「百夜さんゴリゴリの理系なのに幽霊苦手なんだねー」

 

 なんか意外。理系の人ってなんか一律「おばけなんてないさ♫ おばけなんて嘘さ♫」のイメージだったのに。

 という私の内心が顔に出たのか、「あのな」と千空は溜息交じりに言う。

 

「そもそも『幽霊がいる』とも『いねえ』とも証明できた奴は今のところ誰もいねーんだよ。たまたまそこで噂になった幽霊の正体が枯れ尾花だったからって、世界中で目撃されてるモンが全部そうだとは誰も結論づけられてねえ。だったら『いるかいないか』を今あーだこーだ議論したところで何の意味もねーんだよ」

「と、人生1回目の保育園児が申しております」

「茶化してんじゃねーぞ」

「あいたっ」

 

 ひらひらさせていた手を振り払われてデコピンを受ける。結構痛い。

 

「あ、お姉ちゃんまた踊ってる」

 

 今度はB小町の『サインはB』完コピだ。3歳児の短い手足じゃやっぱり限界があるけど、まあもともとオタ芸はきっちり出来てたし運動神経はいいんだろうな。

 

「来週からダンススクールにも行くらしいし、うちの兄姉は大忙しだね」

「…………お前は?」

「へ?」

「だぁから、テメーはどうなんだよ。あの両親であの兄姉だろ」

 

 あの、と軽く顎をしゃくってくるくる踊ってるルビーと、そろそろ彼女の体力が心配になったのだろう駆け寄っていくアクアを指す千空。人を顎で差すって時点で本当に保育園児らしくない、が、まあそれはいいとして。

 

「今のところ予定はないかなー。別に芸能界に憧れもないし」

 

【推しの子】読んでて芸能界に憧れる人なんてだいぶ少数派だと思う。むしろゼロに近いのでは? いや統計取ったわけでもないから知らんけど。

 

「それにアイドルでも俳優でも、芸能界で生き残るなら何か光るものがいるでしょ。顔はあの両親だし自信もそりゃあるけど、そういうのだけじゃ幾らでも替えが効くしね」

 

 というか仮に何かあっても――それこそ原作有馬かなのような演技力があっても――人付き合いや何かのトラブルであっという間に芽を摘まれることがあるのが芸能界だ。それこそアクアやルビーみたいな明確な目標(アクアは若干まだ曖昧みたいだけど)もないのに、2人に流される形で飛び込んだっていいことは無い。寧ろ2人の足を引っ張ることすら有り得てしまう。

 

「ま、3人もいるんだし1人くらい平凡でもいいでしょ。親不孝するつもりもないしね」

「……………………」

「え、何その如何にも『こいつ全然分かってねーな』みたいな顔」

「なんでそこは分かるのに自分のことはわからねーんだよテメーは」

 

 ラブコメの鈍感主人公か、と謎の罵倒をされた。意味分からんけどシンプルに悪口だってのは分かるぞそれ。

 

「ねえ、千空!」

「うるせー黙れバカ。いや黙んなくていいからなんか喋ってろ。俺は寝る」

「寝てる人の横で延々独り言言えと?」

 

 どんな拷問だそれは。

 

「じゃあ歌ってろ。しょっちゅう鼻歌零してんだろそれでいい」

「子守歌が無いと寝られない赤ちゃんかな?」

「言ってろバカ。おやすみ」

「誰がバカd…………嘘でしょ本当に寝ちゃったよこの人」

 

 お休み3秒とかのび太君かよ。さてはまた本の読み過ぎかなんかで夜更かししたな?

 ……ったくもう、人をアレ○サか何かと勘違いしてないかコイツ。いやこの時代まだア○クサ実用化されてなかったハズだけど。

 

「――――おばけなんてないさ♫ おばけなんてうそさ♫」

 

 とはいえ何となく喋り足りない気持ちもあったので、大人しくぼそぼそ小声で歌ってみたり。

 眉間の皺を伸ばしていとけない寝顔を見せる千空はいつの間にかちゃっかり人の膝まで使って寝こけている。

 

 こうやって寝てるとちゃんと保育園児なんだなー……なんて微笑ましくなったのも束の間。

 子供とはいえ普通に重い頭1つを膝に乗せるというシンプルな拷問は、ここからなんと30分も続くことをこの時の私はまだ知らない。




ヒント:1/fゆらぎ
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