昼下がり。
ホロライブ事務所の休憩室。
シグレ「…………」
彼は真剣な顔でスマホを見つめていた。
そこに映っているのは――
《初心者でも簡単! 5分で作れる絶品チャーハン!》
シグレ「……なるほど」
その瞬間。
大神ミオ「シグレくん、なに見てるの?」
後ろから覗き込んできたのは大神ミオ。
買い出し帰りらしく、袋いっぱいに食材を抱えている。
シグレ「料理だ」
ミオ「えっ」
シグレ「人間界で生きる以上、“自炊”なる技能は避けて通れぬと判断した」
ミオ「急に偉いね!?」
そこへさらに――
不知火フレア「お、なんか面白そうなことしてる?」
角巻わため「料理!? わためぇお腹空いた!」
フレアとわためまで集まってきた。
シグレ「む、ちょうど良い。貴様ら、人間界の調理術を我に教えよ」
フレア「なんかRPGのイベント始まった?」
わため「神様ってご飯作らないの?」
シグレ「神は供物を受け取る側だからな」
ミオ「うわ、急に神様っぽい」
◇
数十分後。
事務所キッチン。
シグレはエプロン姿になっていた。
フレア「……なんか妙に似合うな」
わため「新婚さん感ある!」
シグレ「何故だ」
ミオが冷蔵庫を開けながら言う。
ミオ「で、何作るの?」
シグレ「“ちゃーはん”だ」
わため「チャーハン!」
フレア「初心者が選ぶには微妙に難しいライン来たな……」
シグレはスマホを見ながら頷く。
シグレ「安心せよ。“簡単”と書いてあった」
フレア「あっ、その言葉を信じちゃダメなやつ」
◇
まずは卵。
ミオ「はい、卵割ってみよっか」
シグレ「任せよ」
パカン。
ベチャ。
わため「あっ」
中身が全部シンクへ落ちた。
シグレ「…………」
ミオ「だ、大丈夫大丈夫! 最初はみんな失敗するから!」
フレア「殻だけ綺麗に残ってるの逆に才能だよ」
二個目。
グシャッ。
シグレ「何故だ!?」
わため「力が強すぎる!」
三個目でようやく成功。
シグレ「……ふぅ」
ミオ「なんで卵割るだけでラスボス戦みたいな空気になるの」
◇
次は炒め工程。
ジュワァァァァッ!!
シグレ「うおっ!?」
油が跳ねた瞬間、神様が飛び退く。
フレア「いや避けすぎ避けすぎ!」
ミオ「火から3メートル離れないで!?」
シグレはフライパンを睨む。
シグレ「この器具……敵意がある」
わため「フライパンに意思を感じてる」
ミオ「ほら、ちゃんと振って!」
シグレ「こうか!?」
ブワッ!!
チャーハンが宙を舞う。
フレア「うわあああ!?」
わため「米が飛んだぁぁ!!」
数粒、天井に張り付いた。
シグレ「…………」
ミオ「すごいなぁ……ここまで豪快な初心者初めて見た」
◇
その時。
ガチャッ。
獅白ぼたん「お疲れ様でー……すごい匂いするね?」
ぼたんがキッチンへ入ってきた。
だが次の瞬間。
ぼたん「……なんで天井に米ついてるの?」
全員沈黙。
フレア「神の力です」
ぼたん「雑な説明だなぁ」
ぼたんは笑いながら、シグレのフライパンを覗き込む。
ぼたん「お、でも意外と形になってるじゃん」
シグレ「当然だ。我を誰だと思っている」
わため「さっきまで卵に負けてた人」
シグレ「それは言うな」
◇
そして完成。
皿に盛られたチャーハンは――
見た目はちょっと焦げ気味だった。
ミオ「……うん」
フレア「ギリ食べ物」
ぼたん「まぁ初心者なら上出来じゃない?」
シグレは腕を組む。
シグレ「では食すがよい。我が初めて創造した“人の料理”を」
わため「なんか壮大!」
全員で一口。
もぐ。
沈黙。
シグレ「……どうだ」
ミオがゆっくり頷く。
ミオ「……味は普通に美味しい」
フレア「えっ、ほんとだ」
ぼたん「ちゃんとチャーハンしてる」
わため「おいしい!」
シグレは少し目を見開いた。
シグレ「……成功、したのか?」
ミオ「うん、大成功だよ」
その瞬間。
パァァァァァ……
何故かシグレの後ろに神々しい光が差した。
ぼたん「なんで料理成功しただけで覚醒演出入るの?」
フレア「達成感が重すぎる」
シグレは静かに呟く。
シグレ「これが……“手料理”」
わため「なんか感動してる!」
ミオは少し笑いながら言った。
ミオ「誰かに作るご飯ってさ、結構嬉しいもんなんだよ」
シグレは皿を見る。
神だった頃、 供物を受け取ることはあった。
だが、“誰かに食べてもらうため”に何かを作ったことは、一度もなかった。
フレア「次はカレーとか挑戦する?」
シグレ「……まだ早い」
ぼたん「チャーハンで瀕死だったもんね」
シグレ「否定できぬ」
その時。
ボンッ!!!
突然、電子レンジから煙が上がった。
全員「!?」
ミオ「ああああ!? 誰か冷凍唐揚げ入れっぱなし!!」
わため「わためぇじゃないよ!?」
フレア「えっ私でもない!」
全員の視線が、シグレへ向く。
シグレ「…………」
ぼたん「神様?」
シグレ「“500秒”という表示、“強さ”だと思っていた」
沈黙。
ミオ「500秒温めたの!?」
フレア「レンジ壊れる!!」
わため「神様ぁぁぁ!!」
今日もまた、ホロライブ事務所には騒がしい悲鳴が響き渡るのだった。
――To Be Continued.