元神様、アイドルに仕えます   作:ただの片栗粉

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神様聞いてください

午後。

 

ホロライブ事務所。

 

 

 

シグレ「……何故こんなにも段ボールが存在するのだ」

 

 

 

大量の荷物を前に、シグレは真顔で立ち尽くしていた。

 

 

 

新グッズ。 収録機材。 イベント備品。

 

 

 

事務所の廊下には、山のような段ボールが積まれている。

 

 

 

シグレ「人間界、“箱”に依存しすぎではないか?」

 

 

 

そう言いながらも、彼は黙々と荷物を運んでいた。

 

 

 

すっかり裏方仕事が板についている。

 

 

 

その時。

 

 

 

「……あの」

 

 

 

後ろから、小さな声が聞こえた。

 

 

 

振り返ると、そこにいたのは――

 

 

 

風真いろは。

 

 

 

控えめに立ちながら、少し困ったような顔をしている。

 

 

 

シグレ「む? 風真ではないか」

 

いろは「お疲れ様でござる……」

 

シグレ「どうした。その顔」

 

 

 

いろはは少し視線を泳がせたあと、小さく頭を下げた。

 

 

 

いろは「……ちょっと、相談がありまして」

 

 

 

 

 

 

数分後。

 

 

 

休憩スペース。

 

 

 

シグレはいろはの向かいに座っていた。

 

 

 

テーブルには温かいお茶。

 

 

 

シグレ「して、悩みとは」

 

 

 

いろはは湯呑みを両手で包みながら、小さく息を吐いた。

 

 

 

いろは「……最近、自分の配信がわからなくなる時があるんでござる」

 

 

 

静かな声だった。

 

 

 

いろは「楽しくやりたいのに、“もっと上手くやらなきゃ”とか、“期待に応えなきゃ”って考え始めると、何をしたいのか分からなくなって……」

 

 

 

シグレは黙って聞いていた。

 

 

 

いろは「みんなすごいじゃないでござるか。面白くて、歌も上手くて、ちゃんと自分の色があって……」

 

 

 

少し俯く。

 

 

 

いろは「拙者、自分がちゃんと前に進めてるのか、不安になるんでござる」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

遠くでスタッフの笑い声が聞こえる。

 

 

 

シグレはしばらく考えたあと、静かに口を開いた。

 

 

 

シグレ「……神にも、似た者はいる」

 

いろは「え?」

 

 

 

シグレは窓の外を見る。

 

 

 

シグレ「神々は常に比べ合う。“誰がより信仰を集めたか”“誰がより崇められるか”とな」

 

 

 

それは、かつての神界。

 

 

 

数字。 格。 信仰。

 

 

 

全てが序列だった。

 

 

 

シグレ「だがな。人は、“完璧だから”祈るわけではない」

 

 

 

いろはが顔を上げる。

 

 

 

シグレ「弱くとも、迷っていても、それでも前へ進こうとする者に、人は心を寄せる」

 

 

 

静かな声。

 

 

 

だが、不思議と真っ直ぐだった。

 

 

 

シグレ「貴様が悩むのは、本気だからだ。本気で向き合っているから、迷う」

 

 

 

いろは「……」

 

シグレ「ならば、それは恥じることではない」

 

 

 

いろはは少しだけ目を丸くする。

 

 

 

シグレ「“自分らしさ”とは、探して得るものではない。積み重ねた先で、他者が見つけるものだ」

 

 

 

しばらく沈黙。

 

 

 

やがて、いろはは小さく笑った。

 

 

 

いろは「……なんだか、少し楽になったでござる」

 

シグレ「そうか」

 

いろは「ありがとうございます、シグレ殿」

 

 

 

その瞬間だった。

 

 

 

――ぽうっ。

 

 

 

微かな光が、シグレの胸元で揺れた。

 

 

 

シグレ「……!」

 

 

 

視界が、一瞬だけ歪む。

 

 

 

目の前の景色が遠ざかり、 代わりに“別の場所”が見えた。

 

 

 

白い空間。

 

 

 

巨大な柱。

 

 

 

無数の光。

 

 

 

そして。

 

 

 

《……観測反応》

 

《下界に神格波長を確認したわ》

 

《アマツカミ=シグレ》

 

 

 

シグレの目が見開く。

 

 

 

神界。

 

 

 

忘れるはずもない、あの空間。

 

 

 

《あいつ消えてなかったの?》

 

《再活性化を確認したわ》

 

《危険度再査定を開始。》

 

 

 

冷たい声。

 

 

 

次の瞬間。

 

 

 

“視線”が向いた。

 

 

 

ぞわり、と。

 

 

 

まるで空そのものがこちらを見たような感覚。

 

 

 

シグレ「ッ――」

 

 

 

一瞬で血の気が引く。

 

 

 

向こうも気づいた。

 

 

 

自分を認識した。

 

 

 

神界が、“アマツカミ=シグレ”を再び捉えた。

 

 

 

《監視対象へ指定》

 

《必要に応じて、処分を――》

 

 

 

ブツッ。

 

 

 

視界が戻る。

 

 

 

事務所の休憩室。

 

 

 

シグレはテーブルに手をついていた。

 

 

 

いろは「シグレ殿!?」

 

 

 

彼女が慌てて立ち上がる。

 

 

 

いろは「大丈夫でござるか!? 顔色が……!」

 

 

 

シグレはすぐに表情を整えた。

 

 

 

シグレ「……問題ない」

 

いろは「でも今――」

 

シグレ「少し立ち眩みだ。気にするな」

 

 

 

だが。

 

 

 

手が僅かに震えていた。

 

 

 

神界が動いた。

 

 

 

それはつまり。

 

 

 

自分が再び、“神として認識され始めている”ということ。

 

 

 

信仰が戻れば、 神格も戻る。

 

 

 

だがそれは同時に、追放された存在として再び狙われることを意味していた。

 

 

 

いろは「本当に大丈夫でごさるか?」

 

 

 

心配そうな声。

 

 

 

シグレは数秒沈黙したあと、いつものように肩をすくめた。

 

 

 

シグレ「心配するな。ただ、“人間の仕事量”に魂が悲鳴を上げただけだ」

 

いろは「えっ」

 

シグレ「段ボールが多すぎる」

 

 

 

いろははぽかんとしたあと、小さく吹き出した。

 

 

 

いろは「ふふ……それは確かに大変でござるな」

 

 

 

シグレも笑う。

 

 

 

だが。

 

 

 

その瞳の奥だけは、笑っていなかった。

 

 

 

神界は、自分を見つけた。

 

 

 

あの場所は決して、“裏切り者”を許さない。

 

 

 

それでも。

 

 

 

シグレは休憩室の外を見る。

 

 

 

忙しなく動くスタッフ。

 

笑い合うホロメン。

 

誰かの配信準備。

 

 

 

守りたいと思ってしまった。

 

 

 

この騒がしくて、 温かくて、 人間臭い場所を。

 

 

 

シグレ「……厄介だな」

 

 

 

誰にも聞こえぬほど小さく、元神様は呟いた。

 

 

 

――To Be Continued.

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