元神様、アイドルに仕えます   作:ただの片栗粉

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元神様、部屋を探す

深夜一時。

 

ホロライブ事務所。

 

 

 

シグレ「……ふむ」

 

 

 

宿直室の簡易ベッドに腰掛けながら、シグレは静かに天井を見上げていた。

 

 

 

狭い。

 

 

 

非常に狭い。

 

 

 

ベッド一つ。 小さな机一つ。 薄い毛布。

 

 

 

しかも壁が薄い。

 

 

 

隣の部屋からスタッフの笑い声が普通に聞こえる。

 

 

 

シグレ「……人間界、“睡眠環境”に厳しくないか?」

 

 

 

元神様、現在。

 

 

 

事務所暮らし二週間目である。

 

 

 

最初は「寝る場所があるだけありがたい」と言っていた。

 

だが最近になって問題が発生していた。

 

 

 

・朝早くからスタッフが入ってくる ・夜中にコピー機が動く ・何故かミオが夜食を作り始める ・ラプラスがたまに秘密基地扱いして侵入してくる

 

 

 

結果。

 

 

 

シグレ「安眠という概念が存在せぬ……」

 

 

 

その時。

 

 

 

ガチャッ。

 

 

 

すいせい「お疲れー……って、うわ」

 

 

 

差し入れのコンビニ袋を持ったすいせいが、宿直室を見て顔をしかめた。

 

 

 

すいせい「改めて見ると狭いねここ」

 

シグレ「棺桶よりは広い」

 

すいせい「比較対象どうなってんの」

 

 

 

すいせいは部屋を見回す。

 

 

 

床には雑誌。 積まれた段ボール。 端っこには何故かフブキが置いていったゲーム機。

 

 

 

完全に“仮住まい”だった。

 

 

 

すいせい「……ねぇ」

 

シグレ「なんだ」

 

すいせい「そろそろ部屋探したら?」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

シグレ「…………部屋」

 

すいせい「そう。部屋」

 

 

 

シグレは少し考える。

 

 

 

シグレ「人間界、“住居”が必要なのか?」

 

すいせい「必要だよ!? 今さら!?」

 

 

 

元神様、現代生活の基礎がまだ甘い。

 

 

 

すいせい「いや普通に考えて。宿直室って本来泊まる場所じゃないからね?」

 

シグレ「だが雨風は凌げる」

 

すいせい「最低ラインすぎる」

 

 

 

彼女はため息を吐いた。

 

 

 

すいせい「よし。今度の休み、部屋探し行くよ」

 

シグレ「む?」

 

すいせい「このままだと、あんた一生ここ住みそうだし」

 

 

 

 

 

 

二日後。

 

 

 

都内、不動産屋前。

 

 

 

シグレ「…………」

 

 

 

店を見上げるシグレ。

 

 

 

すいせい「なにその“魔王城来ました”みたいな顔」

 

シグレ「緊張している」

 

 

 

自動ドアが開く。

 

 

 

店員「いらっしゃいませー」

 

 

 

シグレ、ビクッ。

 

 

 

すいせい「なんで入店でダメージ受けてんの」

 

 

 

 

 

 

数十分後。

 

 

 

店員「ご予算はどれくらいでお考えですか?」

 

 

 

シグレ「予算」

 

すいせい「お金のこと」

 

シグレ「……なるほど」

 

 

 

シグレは腕を組む。

 

 

 

シグレ「現在の我の財産は、三万二千円とコンビニポイントカードだ」

 

店員「えっ」

 

すいせい「言い方!!」

 

 

 

店員が若干引いていた。

 

 

 

すいせい「いやちゃんと働いてますから! 給料日まだなだけで!」

 

 

 

その後も。

 

 

 

店員「お風呂トイレ別が良いですか?」

 

シグレ「……何故分ける必要が?」

 

すいせい「神様ァ!!」

 

 

 

店員「築年数は気にされます?」

 

シグレ「建物にも寿命があるのか……」

 

すいせい「あるよ!!」

 

 

 

完全に珍獣を見る目をされていた。

 

 

 

 

 

 

数時間後。

 

 

 

数件内見した結果。

 

 

 

シグレ「狭い」

 

すいせい「東京だからね」

 

シグレ「高い」

 

すいせい「東京だからね」

 

シグレ「壁が薄い」

 

すいせい「東京だからね」

 

 

 

東京、元神様に厳しい。

 

 

 

シグレは疲れ果てていた。

 

 

 

シグレ「人間は何故こんな環境で生きておるのだ……」

 

すいせい「慣れだよ慣れ」

 

 

 

その時。

 

 

 

店員「あ、そういえば」

 

 

 

店員が資料をめくる。

 

 

 

店員「この近くに、ちょうど空いた部屋がありますね」

 

すいせい「近く?」

 

店員「はい。星街さんの住んでるエリアのすぐ隣です」

 

 

 

すいせい「え?」

 

 

 

 

 

 

案内されたアパートは、古いが綺麗な建物だった。

 

 

 

二階建て。 築年数はそこそこ。

 

だが日当たりは良い。

 

 

 

シグレ「……悪くない」

 

 

 

部屋はワンルーム。

 

最低限の設備。

 

だが静かだった。

 

 

 

何より――

 

 

 

すいせい「ここ、私の家から徒歩五分くらいだ」

 

 

 

シグレは窓を開ける。

 

 

 

夕方の風が入ってきた。

 

 

 

不思議と落ち着く。

 

 

 

シグレ「……ここにする」

 

すいせい「即決!?」

 

シグレ「静かだ」

 

 

 

数秒後。

 

 

 

シグレ「あと、貴様が近い」

 

 

 

すいせい「……は?」

 

 

 

シグレは真顔だった。

 

 

 

シグレ「人間界の知識が不足している以上、近くに案内役がいる方が合理的だろう」

 

 

 

すいせいは数秒固まったあと、顔を逸らす。

 

 

 

すいせい「……まあ、迷子になられても困るしね」

 

 

 

少しだけ耳が赤かった。

 

 

 

 

 

 

契約も終わり。

 

 

 

夕暮れの帰り道。

 

 

 

シグレは新しい鍵を見つめていた。

 

 

 

シグレ「……これが、“我が家”」

 

 

 

神だった頃。

 

彼に“家”という概念はなかった。

 

 

 

社はあった。

 

神域もあった。

 

 

 

だが、“帰る場所”とは少し違った。

 

 

 

すいせい「嬉しい?」

 

 

 

シグレは少し考えたあと、静かに頷く。

 

 

 

シグレ「……うむ」

 

 

 

その顔は、どこか少しだけ。

 

 

 

本当に、人間らしかった。

 

 

 

だが次の瞬間。

 

 

 

シグレ「ところで」

 

すいせい「ん?」

 

シグレ「家具とは何を買えば良い」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

すいせい「……まさか」

 

シグレ「?」

 

すいせい「布団も冷蔵庫も洗濯機も無いの?」

 

シグレ「必要なのか?」

 

 

 

すいせい、天を仰ぐ。

 

 

 

すいせい「ダメだこの元神様!! 文明レベルが低すぎる!!」

 

 

 

こうして。

 

 

 

元神様の一人暮らし生活が、幕を開けることとなった。

 

 

 

――To Be Continued.

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