元神様、アイドルに仕えます   作:ただの片栗粉

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見えない影

朝。

 

ホロライブ事務所。

 

 

 

シグレ「…………」

 

 

 

段ボールを持ったまま、彼は廊下の真ん中で止まっていた。

 

 

 

スタッフ「シグレさん? その荷物、会議室お願いしまーす」

 

シグレ「……あ、うむ」

 

 

 

数秒遅れて動き出す。

 

 

 

明らかに様子がおかしかった。

 

 

 

 

 

 

違和感があった。

 

 

 

昨日からずっと。

 

 

 

誰かに見られている。

 

 

 

それも、人間ではない。

 

 

 

もっと冷たく、 もっと“高い場所”から。

 

 

 

シグレ「…………」

 

 

 

廊下を歩く。

 

 

 

その途中でも、何度も後ろを振り返る。

 

 

 

だが誰もいない。

 

 

 

それでも。

 

 

 

いる。

 

 

 

確実に。

 

 

 

 

 

 

休憩室。

 

 

 

猫又おかゆ「神様、今日めっちゃソワソワしてない?」

 

 

 

ソファでゲームをしていたおかゆが、ちらりと顔を上げる。

 

 

 

シグレ「……そう見えるか」

 

おかゆ「うん。さっきから三回くらい何もない廊下見てる」

 

 

 

シグレは黙る。

 

 

 

おかゆ「どしたの?」

 

シグレ「……少し、気になることがあるだけだ」

 

 

 

その瞬間。

 

 

 

ゾワッ――

 

 

 

背筋が凍る。

 

 

 

シグレの視線が、窓へ向いた。

 

 

 

外。

 

 

 

事務所向かいのビル屋上。

 

 

 

誰かが立っていた。

 

 

 

白い狩衣。 黒い仮面。 人ではあり得ない静かな佇まい。

 

 

 

そして。

 

 

 

目が合った。

 

 

 

シグレ「ッ……!」

 

 

 

次の瞬間、姿が消える。

 

 

 

おかゆ「え、なに?」

 

シグレ「……いや」

 

 

 

だが額には汗が浮かんでいた。

 

 

 

見間違いではない。

 

 

 

あれは。

 

 

 

“神使”。

 

 

 

神々に仕える監視者。

 

 

 

しかも、ただの使いではない。

 

 

 

 

 

 

昼過ぎ。

 

 

 

倉庫整理中。

 

 

 

シグレは脚立の上で機材を片付けていた。

 

 

 

だが集中できない。

 

 

 

視線を感じる。

 

 

 

天井。 窓。 廊下の奥。

 

 

 

どこからでも。

 

 

 

シグレ「……っ」

 

 

 

ガタッ。

 

 

 

足を踏み外しかける。

 

 

 

「うわっ!?」

 

 

 

すぐ下にいた桃鈴ねねが驚いて飛び退いた。

 

 

 

ねね「危ないよ!?」

 

シグレ「す、すまぬ」

 

 

 

珍しく、本当に余裕がない。

 

 

 

ねね「今日変だよ~? 具合悪い?」

 

シグレ「問題ない」

 

ねね「絶対問題ある人の顔!」

 

 

 

するとその時。

 

 

 

ピシッ。

 

 

 

空気が軋んだ。

 

 

 

シグレだけが反応する。

 

 

 

空間の端。

 

 

 

一瞬だけ、“裂け目”が見えた。

 

 

 

その奥に見えたのは――

 

 

 

白い世界。

 

 

 

巨大な門。

 

 

 

そして。

 

 

 

無数の目。

 

 

 

 

《霊格反応安定》

 

《“人間界への定着傾向”》

 

《観察継続しよう》

 

 

 

シグレの顔色が変わる。

 

 

 

シグレ(……やめろ)

 

 

 

《……》

 

 

 

その奥。

 

 

 

巨大な影が、静かにこちらを見ていた。

 

 

 

“大神”。

 

 

 

神界上位存在。

 

 

 

かつてシグレを裁いた側。

 

 

 

その圧力だけで空気が重くなる。

 

 

 

《アマツカミ=シグレ》

 

《何故まだ人間界へ執着する》

 

 

 

頭の奥へ直接響く声。

 

 

 

シグレは歯を食いしばる。

 

 

 

シグレ(貴様らには関係ない)

 

 

 

《……感情維持を確認》

 

《危険性上昇》

 

 

 

ゾワリ、と。

 

 

 

“敵意”が向く。

 

 

 

ただ見られるだけではない。

 

 

 

測られている。

 

 

 

値踏みされている。

 

 

 

まるで、“不要なら消す”と言わんばかりに。

 

 

 

シグレ「……ッ!!」

 

 

 

ドン!!

 

 

 

突然、脚立から飛び降りる。

 

 

 

ねね「ひゃっ!?」

 

 

 

周囲のスタッフが驚いて振り返る。

 

 

 

シグレは呼吸を乱していた。

 

 

 

ねね「ど、どうしたの!?」

 

 

 

数秒。

 

 

 

シグレは黙ったまま。

 

 

 

やがて、無理やり笑みを作った。

 

 

 

シグレ「……いや」

 

ねね「?」

 

シグレ「脚立、思ったより高かった」

 

 

 

ねね「絶対違う!!」

 

 

 

 

 

 

夕方。

 

 

 

屋上。

 

 

 

シグレは一人で立っていた。

 

 

 

風が吹く。

 

 

 

東京の空。

 

 

 

その遥か上。

 

 

 

見えない場所から、確かに“視線”を感じる。

 

 

 

シグレ「……大神の使いか」

 

 

 

かつてなら。

 

 

 

神使が現れることなど誇りだった。

 

 

 

上位神に認識されることは、“格”の証明だったから。

 

 

 

だが今は違う。

 

 

 

あれは監視だ。

 

 

 

そして恐らく――。

 

 

 

排除の前段階。

 

 

 

ガチャッ。

 

 

 

扉が開く。

 

 

 

振り返ると、そこにはすいせい。

 

 

 

すいせい「いた。探したんだけど」

 

シグレ「……なんだ」

 

 

 

彼女は缶コーヒーを投げ渡す。

 

 

 

すいせい「はい」

 

 

 

受け取る。

 

 

 

すいせいは隣へ来ると、空を見るシグレをちらりと見た。

 

 

 

すいせい「……なんか最近、変じゃない?」

 

 

 

ドキリ、とした。

 

 

 

すいせい「ぼーっとしてるし、ミス増えてるし」

 

シグレ「……」

 

すいせい「なんかあった?」

 

 

 

シグレは少し黙る。

 

 

 

言うべきか。

 

 

 

神界が動いていることを。

 

自分が再び狙われ始めていることを。

 

 

 

だが。

 

 

 

シグレ「……大したことではない」

 

すいせい「ほんとに?」

 

シグレ「うむ」

 

 

 

彼は肩をすくめる。

 

 

 

シグレ「少し、“昔の知り合い”に見つかっただけだ」

 

 

 

半分本当で、 半分嘘。

 

 

 

すいせいはしばらく彼を見ていたが、やがてため息を吐いた。

 

 

 

すいせい「……無理しないでよ」

 

シグレ「む?」

 

すいせい「最近、あんた普通にうちの戦力なんだから」

 

 

 

その言葉に。

 

シグレは少しだけ目を細めた。

 

 

 

戦力。

 

 

 

かつて神界で使われた言葉とは、全く違う響きだった。

 

 

 

シグレ「……善処しよう」

 

 

 

風が吹く。

 

 

 

その背後。

 

 

 

誰にも見えない場所で。

 

 

 

白い仮面の神使が、静かにシグレを見下ろしていた。

 

 

 

まるで、“観察対象”を見るように。

 

 

 

――To Be Continued.

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