元神様、アイドルに仕えます   作:ただの片栗粉

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小さな社の神

休日の昼。

 

 

 

都内某所。

 

 

 

スタッフ「はいオッケーでーす! じゃあ次、商店街の方行きまーす!」

 

 

 

カメラスタッフの声が飛ぶ。

 

 

 

今日はすいせいの外ロケ企画の日だった。

 

 

 

街ブラ企画。 食レポあり。 ミニゲームあり。

 

 

 

そして何故か。

 

 

 

シグレ「……何故我が荷物持ちを」

 

 

 

大量の機材バッグを抱えさせられていた。

 

 

 

すいせい「だって力あるし」

 

シグレ「神格の使い方が雑!」

 

 

 

スタッフが笑う。

 

 

 

最近ではもう、“変な新人スタッフ”として自然に受け入れられていた。

 

 

 

 

 

 

午後。

 

 

 

ロケは順調だった。

 

 

 

すいせい「いやーこのたい焼きめっちゃ美味しい!」

 

スタッフ「絵撮れてます!」

 

シグレ「……甘味とは恐ろしいな。人類を容易く笑顔にする」

 

 

 

すいせい「今さら?」

 

 

 

そんなやり取りをしながら移動していると。

 

 

 

ふと。

 

 

 

シグレの足が止まった。

 

 

 

シグレ「……?」

 

 

 

住宅街の一角。

 

 

 

ビルと民家に囲まれた細い道。

 

 

 

その奥に、小さな神社が見えた。

 

 

 

古い石段。 赤い鳥居。 小さな社。

 

 

 

人通りも少ない。

 

 

 

だが。

 

 

 

そこには“気配”があった。

 

 

 

神の気配。

 

 

 

シグレ「…………」

 

 

 

思わず目を細める。

 

 

 

すいせい「シグレー? どうした?」

 

シグレ「……少し待て」

 

 

 

彼はふらりと神社の方へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

小さな境内だった。

 

 

 

落ち葉の積もる石畳。

 

 

 

古びた鈴。

 

 

 

賽銭箱には少しだけ硬貨が入っている。

 

 

 

人間から見れば、どこにでもある町の小さな神社。

 

 

 

だが。

 

 

 

シグレには見えていた。

 

 

 

社の縁側。

 

 

 

そこに、一柱の神が座っていた。

 

 

 

若い男の姿。

 

 

 

白い羽織。

 

 

 

穏やかな顔。

 

 

 

だが身体は少し透けている。

 

 

 

弱っているのだ。

 

 

 

その神は、ゆっくりとこちらを見た。

 

 

 

シグレ「…………」

 

 

 

神もまた、静かに見返す。

 

 

 

会話はない。

 

 

 

ただ視線だけが交わる。

 

 

 

風が吹く。

 

 

 

境内の鈴が、からん、と鳴った。

 

 

 

シグレは少し驚いていた。

 

 

 

敵意がない。

 

 

 

監視でもない。

 

 

 

ただそこに、“在る”神だった。

 

 

 

その神は小さく笑う。

 

 

 

まるで。

 

 

 

「珍しいな、お前みたいなのもいるのか」

 

 

 

そう言いたげに。

 

 

 

シグレは賽銭箱を見る。

 

 

 

数枚の硬貨。

 

 

 

供えられた缶コーヒー。

 

 

 

小さな花。

 

 

 

僅かな信仰。

 

 

 

だが確かに、この神はここで生きていた。

 

 

 

静かに。 慎ましく。

 

 

 

かつての神界のような序列争いもなく。

 

 

 

ただ、この街の片隅で。

 

 

 

シグレ「……」

 

 

 

何故か、少しだけ安心した。

 

 

 

神界の神々だけではない。

 

 

 

こういう神も、まだいる。

 

 

 

忘れ去られそうになりながら、それでも人の近くで生きる神が。

 

 

 

すると。

 

 

 

すいせい「おーい、シグレー!」

 

 

 

遠くから声が飛ぶ。

 

 

 

シグレが振り返る。

 

 

 

スタッフたちが待っていた。

 

 

 

すいせい「次行くよー! 休憩終わり!」

 

 

 

シグレ「……うむ」

 

 

 

もう一度だけ振り返る。

 

 

 

社の縁側。

 

 

 

そこにいた神は、もう薄くなりかけていた。

 

 

 

だが消える前に、小さく手を振った。

 

 

 

シグレも静かに目礼する。

 

 

 

言葉は不要だった。

 

 

 

同じ“神”だから分かる。

 

 

 

互いに、“人の世に残った側”なのだと。

 

 

 

 

 

 

帰り道。

 

 

 

すいせい「で、何見てたの?」

 

シグレ「……小さな神社だ」

 

すいせい「あー、あそこ? 昔からあるらしいね」

 

 

 

彼女は何気なく続ける。

 

 

 

すいせい「たまに近所のおばあちゃんとかがお参りしてるの見かけるよ」

 

 

 

シグレは少しだけ空を見上げた。

 

 

 

シグレ「……それで十分なのかもしれぬな」

 

すいせい「ん?」

 

シグレ「いや」

 

 

 

大勢に崇められなくとも。

 

 

 

世界を支配しなくとも。

 

 

 

小さな祈り一つで、 静かに生きる神もいる。

 

 

 

それはきっと。

 

 

 

かつての神界では、誰も認めなかった在り方だった。

 

 

 

シグレ「……悪くない」

 

 

 

彼は小さく呟く。

 

 

 

その横で。

 

 

 

すいせいは首を傾げながらも、どこか穏やかに笑っていた。

 

 

 

――To Be Continued.

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