休日の昼。
都内某所。
スタッフ「はいオッケーでーす! じゃあ次、商店街の方行きまーす!」
カメラスタッフの声が飛ぶ。
今日はすいせいの外ロケ企画の日だった。
街ブラ企画。 食レポあり。 ミニゲームあり。
そして何故か。
シグレ「……何故我が荷物持ちを」
大量の機材バッグを抱えさせられていた。
すいせい「だって力あるし」
シグレ「神格の使い方が雑!」
スタッフが笑う。
最近ではもう、“変な新人スタッフ”として自然に受け入れられていた。
◇
午後。
ロケは順調だった。
すいせい「いやーこのたい焼きめっちゃ美味しい!」
スタッフ「絵撮れてます!」
シグレ「……甘味とは恐ろしいな。人類を容易く笑顔にする」
すいせい「今さら?」
そんなやり取りをしながら移動していると。
ふと。
シグレの足が止まった。
シグレ「……?」
住宅街の一角。
ビルと民家に囲まれた細い道。
その奥に、小さな神社が見えた。
古い石段。 赤い鳥居。 小さな社。
人通りも少ない。
だが。
そこには“気配”があった。
神の気配。
シグレ「…………」
思わず目を細める。
すいせい「シグレー? どうした?」
シグレ「……少し待て」
彼はふらりと神社の方へ歩き出した。
◇
小さな境内だった。
落ち葉の積もる石畳。
古びた鈴。
賽銭箱には少しだけ硬貨が入っている。
人間から見れば、どこにでもある町の小さな神社。
だが。
シグレには見えていた。
社の縁側。
そこに、一柱の神が座っていた。
若い男の姿。
白い羽織。
穏やかな顔。
だが身体は少し透けている。
弱っているのだ。
その神は、ゆっくりとこちらを見た。
シグレ「…………」
神もまた、静かに見返す。
会話はない。
ただ視線だけが交わる。
風が吹く。
境内の鈴が、からん、と鳴った。
シグレは少し驚いていた。
敵意がない。
監視でもない。
ただそこに、“在る”神だった。
その神は小さく笑う。
まるで。
「珍しいな、お前みたいなのもいるのか」
そう言いたげに。
シグレは賽銭箱を見る。
数枚の硬貨。
供えられた缶コーヒー。
小さな花。
僅かな信仰。
だが確かに、この神はここで生きていた。
静かに。 慎ましく。
かつての神界のような序列争いもなく。
ただ、この街の片隅で。
シグレ「……」
何故か、少しだけ安心した。
神界の神々だけではない。
こういう神も、まだいる。
忘れ去られそうになりながら、それでも人の近くで生きる神が。
すると。
すいせい「おーい、シグレー!」
遠くから声が飛ぶ。
シグレが振り返る。
スタッフたちが待っていた。
すいせい「次行くよー! 休憩終わり!」
シグレ「……うむ」
もう一度だけ振り返る。
社の縁側。
そこにいた神は、もう薄くなりかけていた。
だが消える前に、小さく手を振った。
シグレも静かに目礼する。
言葉は不要だった。
同じ“神”だから分かる。
互いに、“人の世に残った側”なのだと。
◇
帰り道。
すいせい「で、何見てたの?」
シグレ「……小さな神社だ」
すいせい「あー、あそこ? 昔からあるらしいね」
彼女は何気なく続ける。
すいせい「たまに近所のおばあちゃんとかがお参りしてるの見かけるよ」
シグレは少しだけ空を見上げた。
シグレ「……それで十分なのかもしれぬな」
すいせい「ん?」
シグレ「いや」
大勢に崇められなくとも。
世界を支配しなくとも。
小さな祈り一つで、 静かに生きる神もいる。
それはきっと。
かつての神界では、誰も認めなかった在り方だった。
シグレ「……悪くない」
彼は小さく呟く。
その横で。
すいせいは首を傾げながらも、どこか穏やかに笑っていた。
――To Be Continued.