ホロライブ3Dスタジオ。
今日は――
宝鐘マリンの3Dライブ当日だった。
マリン「今日はァ!! 宇宙一盛り上がっていくぞおおおお!!」
スタジオが揺れるほどのテンション。
スタッフが走り回り、 照明が切り替わり、 モニターには次々と演出が映し出される。
その裏側では。
シグレ「……何故この配線、こんな複雑に絡まっておる」
元神様が、床に這いつくばっていた。
マリン「そこの神様ー! 次の曲でスモーク追加あるから準備よろしくぅ!」
シグレ「我はいつから煙担当になった!?」
だが手際は良い。
ケーブル整理。 機材調整。 照明同期。
しかも何故か、シグレが触ると機材トラブルが減る。
スタッフ達も最近では。
「神様呼んで!」 「シグレさんいる?」 「その配線、神頼みしよう」
などと言い始めていた。
シグレ「不本意極まりない……」
だが。
その度に。
胸の奥で、微かに力が灯る。
感謝。 信頼。 期待。
それらが、少しずつ彼を満たしていた。
しかし。
同時に。
視線も増えていた。
ゾワッ――
シグレが振り返る。
スタジオ天井。
誰もいない。
だが、“いる”。
神使。
いや、それだけではない。
もっと巨大な何か。
神界からの監視は、日に日に濃くなっていた。
シグレ「……っ」
マリン「ん? どしたの神様」
シグレ「いや……」
マリン「顔怖いぞー? 笑っとけ笑っとけ! 配信に映るかもしれんし!」
シグレは苦笑する。
誤魔化せ。
まだ知られてはいけない。
◇
ライブは大成功だった。
歓声。 コメント欄。 SNSの反応。
どれも熱狂に満ちていた。
マリン「っしゃああああ!! 打ち上げだァ!!」
その一声で、スタッフ含めた大移動が始まる。
◇
夜。
居酒屋。
マリン「今日はみんな飲め飲めー!!」
フブキ「マリンテンション高すぎー!」
ころね「うぇーい!!」
完全に宴会だった。
シグレも半ば強制的に席へ座らされている。
シグレ「……人間は何故祝い事の度に大量の油を摂取するのだ」
ころね「唐揚げうまいから!」
正論だった。
だが。
ふと。
シグレの耳に、声が届いた。
《……おい》
低くも高くもない声。
直接、意識へ響く。
シグレの表情が変わる。
《裏へ来な》
神の声。
シグレは静かに立ち上がった。
フブキ「あれ、神様どこ行くの?」
シグレ「……少し風に当たってくる」
◇
人気のない裏路地。
ネオンの光も届きにくい暗い場所。
そこに。
一人の女が立っていた。
長い銀髪。ピアス。 片手には缶ジュース。
どう見てもギャルだった。
だが。
その瞳だけが、人間ではない。
アマノセイ「よ。久しぶりじゃん、シグレ」
シグレの目が見開く。
シグレ「……星神、アマノセイ」
神界上位神。
かつて天の星々を司っていた存在。
アマノは気だるそうに手を振る。
アマノ「そんな警戒すんなって。別に今日は殺しに来たわけじゃないし?」
シグレ「……何の用だ」
アマノは壁にもたれ、ため息を吐いた。
アマノ「お前さぁ。なんで狙われてるか、ちゃんと理解してないっしょ」
シグレ「……」
図星だった。
神界が異常に反応している。
だが、元神一柱にここまでする理由が分からない。
アマノは缶ジュースを軽く揺らしながら言う。
アマノ「神界って今、“信仰量”だけで回ってんのよ」
シグレ「知っている」
アマノ「でもお前、それ壊しかけてんの」
シグレが眉をひそめる。
アマノ「普通、神は祈られて強くなる。でもお前、違うじゃん」
指を向ける。
アマノ「人間に信頼されて、感謝されて、“一緒に生きる”ことで力戻してる」
シグレの目がわずかに揺れる。
アマノ「それ、神界からすると超ヤバいの。だって“崇められなくても神になれる”って証明になっちゃうから」
夜風が吹く。
アマノは少しだけ真面目な顔になった。
アマノ「今の神界、序列しか見てない。信仰数、影響力、格……そんなのばっか」
どこか嫌そうに笑う。
アマノ「正直ウチもウンザリしてんのよね。上の連中、“人間のこと”もう数字でしか見てないし」
シグレ「……ならば何故、お前はここへ来た」
アマノは肩をすくめた。
アマノ「気まぐれ」
数秒後。
アマノ「……あと、お前今の方が楽しそうだから」
シグレは少し黙る。
否定できなかった。
神界にいた頃より。
雑用して、 笑われて、 怒られて、 感謝される今の方が。
ずっと、生きている実感がある。
アマノ「でも気をつけな。大神、かなり本気でお前警戒してる」
シグレ「……」
アマノ「監視も増えてるし、下手したら直接来るよ」
その言葉に、空気が冷える。
アマノは空を見上げた。
アマノ「ったく。神が人間と仲良くして何が悪いんだか」
その時。
ピシッ――
空間に亀裂が走る。
アマノが舌打ちした。
アマノ「……チッ、もう見られてる」
神界からの監視。
大神の目。
アマノは面倒臭そうに手を振った。
アマノ「今日はここまで。長く話すとウチまで怒られんのよ」
シグレ「待て、まだ――」
アマノ「あと一個だけ」
彼女はニヤッと笑う。
完全にギャルの顔だった。
アマノ「お前、“神様”向いてないけど、“誰かの隣にいる存在”には向いてるわ」
そう言って。
星の粒みたいな光と共に、彼女の姿が消えた。
静寂。
シグレは一人、路地裏に残される。
胸の奥がざわついていた。
信頼で力を得る。
そんなもの。
神界では異端どころではない。
だが。
シグレは思い出す。
ホロメン達の笑顔。
「ありがとう」の言葉。
居場所。
それら全てが、自分を少しずつ満たしていた。
シグレ「……脅威、か」
かつて神だった男は。
初めて、“今の自分”が何なのかを理解し始めていた。
――To Be Continued.