元神様、アイドルに仕えます   作:ただの片栗粉

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星神は夜に笑う

ホロライブ3Dスタジオ。

 

 

 

今日は――

 

 

 

宝鐘マリンの3Dライブ当日だった。

 

 

 

マリン「今日はァ!! 宇宙一盛り上がっていくぞおおおお!!」

 

 

 

スタジオが揺れるほどのテンション。

 

 

 

スタッフが走り回り、 照明が切り替わり、 モニターには次々と演出が映し出される。

 

 

 

その裏側では。

 

 

 

シグレ「……何故この配線、こんな複雑に絡まっておる」

 

 

 

元神様が、床に這いつくばっていた。

 

 

 

マリン「そこの神様ー! 次の曲でスモーク追加あるから準備よろしくぅ!」

 

シグレ「我はいつから煙担当になった!?」

 

 

 

だが手際は良い。

 

 

 

ケーブル整理。 機材調整。 照明同期。

 

 

 

しかも何故か、シグレが触ると機材トラブルが減る。

 

 

 

スタッフ達も最近では。

 

 

 

「神様呼んで!」 「シグレさんいる?」 「その配線、神頼みしよう」

 

 

 

などと言い始めていた。

 

 

 

シグレ「不本意極まりない……」

 

 

 

だが。

 

 

 

その度に。

 

 

 

胸の奥で、微かに力が灯る。

 

 

 

感謝。 信頼。 期待。

 

 

 

それらが、少しずつ彼を満たしていた。

 

 

 

しかし。

 

 

 

同時に。

 

 

 

視線も増えていた。

 

 

 

ゾワッ――

 

 

 

シグレが振り返る。

 

 

 

スタジオ天井。

 

 

 

誰もいない。

 

 

 

だが、“いる”。

 

 

 

神使。

 

 

 

いや、それだけではない。

 

 

 

もっと巨大な何か。

 

 

 

神界からの監視は、日に日に濃くなっていた。

 

 

 

シグレ「……っ」

 

 

 

マリン「ん? どしたの神様」

 

シグレ「いや……」

 

マリン「顔怖いぞー? 笑っとけ笑っとけ! 配信に映るかもしれんし!」

 

 

 

シグレは苦笑する。

 

 

 

誤魔化せ。

 

 

 

まだ知られてはいけない。

 

 

 

 

 

 

ライブは大成功だった。

 

 

 

歓声。 コメント欄。 SNSの反応。

 

 

 

どれも熱狂に満ちていた。

 

 

 

マリン「っしゃああああ!! 打ち上げだァ!!」

 

 

 

その一声で、スタッフ含めた大移動が始まる。

 

 

 

 

 

 

夜。

 

 

 

居酒屋。

 

 

 

マリン「今日はみんな飲め飲めー!!」

 

フブキ「マリンテンション高すぎー!」

 

ころね「うぇーい!!」

 

 

 

完全に宴会だった。

 

 

 

シグレも半ば強制的に席へ座らされている。

 

 

 

シグレ「……人間は何故祝い事の度に大量の油を摂取するのだ」

 

ころね「唐揚げうまいから!」

 

 

 

正論だった。

 

 

 

だが。

 

 

 

ふと。

 

 

 

シグレの耳に、声が届いた。

 

 

 

《……おい》

 

 

 

低くも高くもない声。

 

 

 

直接、意識へ響く。

 

 

 

シグレの表情が変わる。

 

 

 

《裏へ来な》

 

 

 

神の声。

 

 

 

シグレは静かに立ち上がった。

 

 

 

フブキ「あれ、神様どこ行くの?」

 

シグレ「……少し風に当たってくる」

 

 

 

 

 

 

人気のない裏路地。

 

 

 

ネオンの光も届きにくい暗い場所。

 

 

 

そこに。

 

 

 

一人の女が立っていた。

 

 

 

長い銀髪。ピアス。 片手には缶ジュース。

 

 

 

どう見てもギャルだった。

 

 

 

だが。

 

 

 

その瞳だけが、人間ではない。

 

 

 

アマノセイ「よ。久しぶりじゃん、シグレ」

 

 

 

シグレの目が見開く。

 

 

 

シグレ「……星神、アマノセイ」

 

 

 

神界上位神。

 

 

 

かつて天の星々を司っていた存在。

 

 

 

アマノは気だるそうに手を振る。

 

 

 

アマノ「そんな警戒すんなって。別に今日は殺しに来たわけじゃないし?」

 

シグレ「……何の用だ」

 

 

 

アマノは壁にもたれ、ため息を吐いた。

 

 

 

アマノ「お前さぁ。なんで狙われてるか、ちゃんと理解してないっしょ」

 

シグレ「……」

 

 

 

図星だった。

 

 

 

神界が異常に反応している。

 

 

 

だが、元神一柱にここまでする理由が分からない。

 

 

 

アマノは缶ジュースを軽く揺らしながら言う。

 

 

 

アマノ「神界って今、“信仰量”だけで回ってんのよ」

 

シグレ「知っている」

 

アマノ「でもお前、それ壊しかけてんの」

 

 

 

シグレが眉をひそめる。

 

 

 

アマノ「普通、神は祈られて強くなる。でもお前、違うじゃん」

 

 

 

指を向ける。

 

 

 

アマノ「人間に信頼されて、感謝されて、“一緒に生きる”ことで力戻してる」

 

 

 

シグレの目がわずかに揺れる。

 

 

 

アマノ「それ、神界からすると超ヤバいの。だって“崇められなくても神になれる”って証明になっちゃうから」

 

 

 

夜風が吹く。

 

 

 

アマノは少しだけ真面目な顔になった。

 

 

 

アマノ「今の神界、序列しか見てない。信仰数、影響力、格……そんなのばっか」

 

 

 

どこか嫌そうに笑う。

 

 

 

アマノ「正直ウチもウンザリしてんのよね。上の連中、“人間のこと”もう数字でしか見てないし」

 

 

 

シグレ「……ならば何故、お前はここへ来た」

 

 

 

アマノは肩をすくめた。

 

 

 

アマノ「気まぐれ」

 

 

 

数秒後。

 

 

 

アマノ「……あと、お前今の方が楽しそうだから」

 

 

 

シグレは少し黙る。

 

 

 

否定できなかった。

 

 

 

神界にいた頃より。

 

 

 

雑用して、 笑われて、 怒られて、 感謝される今の方が。

 

 

 

ずっと、生きている実感がある。

 

 

 

アマノ「でも気をつけな。大神、かなり本気でお前警戒してる」

 

シグレ「……」

 

アマノ「監視も増えてるし、下手したら直接来るよ」

 

 

 

その言葉に、空気が冷える。

 

 

 

アマノは空を見上げた。

 

 

 

アマノ「ったく。神が人間と仲良くして何が悪いんだか」

 

 

 

その時。

 

 

 

ピシッ――

 

 

 

空間に亀裂が走る。

 

 

 

アマノが舌打ちした。

 

 

 

アマノ「……チッ、もう見られてる」

 

 

 

神界からの監視。

 

 

 

大神の目。

 

 

 

アマノは面倒臭そうに手を振った。

 

 

 

アマノ「今日はここまで。長く話すとウチまで怒られんのよ」

 

シグレ「待て、まだ――」

 

アマノ「あと一個だけ」

 

 

 

彼女はニヤッと笑う。

 

 

 

完全にギャルの顔だった。

 

 

 

アマノ「お前、“神様”向いてないけど、“誰かの隣にいる存在”には向いてるわ」

 

 

 

そう言って。

 

 

 

星の粒みたいな光と共に、彼女の姿が消えた。

 

 

 

静寂。

 

 

 

シグレは一人、路地裏に残される。

 

 

 

胸の奥がざわついていた。

 

 

 

信頼で力を得る。

 

 

 

そんなもの。

 

 

 

神界では異端どころではない。

 

 

 

だが。

 

 

 

シグレは思い出す。

 

 

 

ホロメン達の笑顔。

 

「ありがとう」の言葉。

 

居場所。

 

 

 

それら全てが、自分を少しずつ満たしていた。

 

 

 

シグレ「……脅威、か」

 

 

 

かつて神だった男は。

 

 

 

初めて、“今の自分”が何なのかを理解し始めていた。

 

 

 

――To Be Continued.

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