夕方。
ホロライブ事務所。
シグレ「…………」
カタカタカタ。
無言でパソコン作業をしている。
だが。
明らかに様子がおかしい。
五分おきに後ろを振り返り、 廊下を見るたび警戒し、 たまに窓の外を睨んでいる。
しかも今日だけで三回、マウスを逆向きに握った。
完全に集中できていない。
そして。
それに気づかないほど、すいせいとおかゆは鈍くなかった。
◇
休憩室。
おかゆ「……ねぇ」
すいせい「うん」
おかゆ「神様、最近めちゃくちゃ怪しくない?」
すいせい「やっぱそう思う?」
二人はコーヒー片手に、小声で話していた。
おかゆ「この前なんて、廊下の監視カメラに向かって“姿を現せ”って言ってたよ?」
すいせい「なにそれ怖」
しかも。
・急に黙り込む ・ぼーっと空を見る ・物音にビビる ・何もない場所を警戒する
完全に不審者である。
おかゆ「問い詰める?」
すいせい「うん。あれ絶対なんか隠してる」
◇
数分後。
シグレ「……む」
資料整理中だったシグレの前に。
すいせいとおかゆが、無言で座った。
シグレ「なんだ」
すいせい「それ、こっちのセリフ」
おかゆ「神様さぁ、最近なんか変だよねぇ?」
シグレの肩がピクリと揺れる。
シグレ「……何のことだ」
すいせい「はい出た。“何のことだ”」
逃げる時のテンプレだった。
おかゆ「最近ずっとソワソワしてるし、視線気にしてるし、寝不足っぽいし」
すいせい「あと今日シュレッダーに書類じゃなくてタオル入れてた」
シグレ「…………」
やっていた。
シグレ「少し疲れているだけだ」
すいせい「嘘」
おかゆ「嘘だねぇ」
即答だった。
シグレは目を逸らす。
だが。
この二人、妙に勘が鋭い。
すいせい「ねぇ」
少し真面目な声。
すいせい「なんかあるなら言ってよ」
シグレは黙る。
おかゆも、珍しく静かだった。
おかゆ「神様ってさ、困ると一人で抱え込むタイプでしょ」
図星だった。
シグレ「……」
すいせい「私たち、そんな頼りない?」
その言葉に。
シグレは少しだけ困った顔をした。
頼りないわけではない。
むしろ逆だ。
だからこそ巻き込みたくなかった。
神界。 大神。 監視。
そんなもの、人間側には関係ないはずだった。
だが。
すいせいとおかゆは、逃がしてくれそうになかった。
おかゆ「話すまでここ動かないよ~?」
すいせい「今日は長期戦でもいい」
完全に包囲網。
シグレ「……貴様らな」
数秒沈黙。
やがて。
シグレは小さく息を吐いた。
シグレ「……条件がある」
すいせい「ん?」
シグレ「他の者には話すな」
おかゆ「おっ」
シグレ「絶対だ」
二人は顔を見合わせ、頷いた。
シグレは少しだけ目を伏せる。
そして。
静かに口を開いた。
シグレ「……我は今、“神界”から狙われている」
沈黙。
すいせい「…………はい?」
おかゆ「神界って、あの?」
シグレ「文字通りの意味だ」
おかゆがゆっくり瞬きする。
すいせいは腕を組んだ。
すいせい「……いや待って」
シグレ「む」
すいせい「元神様なのは知ってたけど、“現在進行形で命狙われてる”は聞いてない」
シグレ「言ってないからな」
正論だった。
おかゆ「え、なにそれ怖……」
シグレは静かに説明する。
神界に監視されていること。
神使が来ていること。
自分の力が戻り始めていること。
そして。
それを神界が危険視していること。
話すほどに。
二人の表情が真剣になっていく。
すいせい「……なんでそんなことになるの」
シグレは少し迷ったあと、答えた。
シグレ「我は今、“信仰”ではなく“信頼”で力を取り戻しているらしい」
おかゆ「信頼?」
シグレ「貴様らに必要とされ、感謝され、人の近くで生きることで力が戻っている」
おかゆがぽかんとする。
すいせいも静かに聞いていた。
シグレ「それは、今の神界にとって異常らしい」
神は崇められる存在。
だがシグレは違う。
一緒に働き、 笑われ、 支え合うことで力を得ている。
それは神界の在り方を壊しかねない。
おかゆ「……なんか」
すいせい「うん」
おかゆ「めちゃくちゃブラック企業みたいな神界だね?」
シグレ「否定できぬ」
思わずシグレも苦笑した。
だが。
すいせいは真面目な顔のままだった。
すいせい「で」
シグレ「?」
すいせい「もしその神界? の人たちが来たら、あんたどうなるの」
シグレは少し黙る。
そして。
シグレ「……最悪、“消される”」
空気が止まった。
おかゆの笑みが消える。
すいせいも、ゆっくり目を細めた。
数秒の沈黙。
やがて。
すいせい「……はぁ」
深いため息。
シグレ「む」
すいせい「バカ」
シグレ「何故!?」
突然怒られた。
すいせい「なんで一人で抱えてんのそういうの!」
おかゆ「そうそう。仲間外れよくないよ~」
シグレは少し呆然とする。
怒られると思っていなかった。
すいせい「……怖かったんでしょ」
その言葉に。
シグレの目が少し揺れた。
図星だった。
神界に見つかった時。
確かに怖かった。
だが。
おかゆがふっと笑う。
おかゆ「ま、でも」
すいせい「うん」
おかゆ「今さら神様一人くらい増えても、ホロライブだしねぇ」
シグレ「どういう理屈だ」
すいせい「気にしない気にしない」
二人は笑う。
その笑顔を見て。
シグレはようやく少しだけ、肩の力を抜いた。
シグレ「……変な人間達だ」
だが。
悪くなかった。
誰かに秘密を共有するというのは。
思っていたより、 ずっと心が軽くなるものだった。
――To Be Continued.