元神様、アイドルに仕えます   作:ただの片栗粉

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たまり場

休日、午後一時。

 

 

 

シグレ「…………」

 

 

 

新居。

 

 

 

元神様の部屋は、驚くほど質素だった。

 

 

 

布団。 小さな机。 ノートパソコン。 段ボール三箱。

 

 

 

以上。

 

 

 

シグレ「……人間の“最低限”とは難しい」

 

 

 

生活感が壊滅している。

 

 

 

冷蔵庫の中には水しかない。

 

しかも何故か全部ぬるい。

 

 

 

そんな時だった。

 

 

 

ピンポーン。

 

 

 

シグレ「む?」

 

 

 

玄関を開ける。

 

 

 

そこには――

 

 

 

戌神ころね「やっほーーーー!!」

 

猫又おかゆ「遊び来たよ〜」

 

ラプラス・ダークネス「ふははは! 視察に来てやったぞ!」

 

 

 

騒がしい三人組が立っていた。

 

 

 

シグレ「……何故」

 

おかゆ「すいちゃんから住所聞いた」

 

シグレ「情報漏洩!」

 

 

 

ころねは既に靴を脱いでいる。

 

 

 

ころね「おじゃましまーす!!」

 

ラプラス「ふむ……これが“元神の住処”か」

 

 

 

数秒後。

 

 

 

ラプラス「狭くない?」

 

シグレ「貴様いきなり失礼だな!?」

 

 

 

ころねが部屋を見回し、目を輝かせる。

 

 

 

ころね「なんか秘密基地みたい!」

 

おかゆ「生活感ゼロだねぇ」

 

 

 

冷蔵庫を開ける。

 

 

 

おかゆ「水しかない」

 

ラプラス「しかも冷えておらんぞ!?」

 

 

 

シグレは腕を組む。

 

 

 

シグレ「食事は基本、事務所かコンビニで済ませている」

 

おかゆ「ダメ人間の一人暮らしだこれ」

 

 

 

 

 

 

数十分後。

 

 

 

何故かゲーム大会が始まっていた。

 

 

 

ころね「うぉおおおお!! やれやれやれぇ!!」

 

ラプラス「待て待て待てズルい!!」

 

 

 

テレビ画面には格ゲー。

 

 

 

シグレ「……人間は何故、仮想空間で争う」

 

おかゆ「暇だからかなぁ」

 

 

 

シグレはコントローラーを持ちながら真顔だった。

 

 

 

そして弱い。

 

 

 

圧倒的に弱い。

 

 

 

ころね「よわよわ神様だー!!」

 

シグレ「ぐぬぬ……!」

 

 

 

神界にゲーム機は無かった。

 

 

 

その結果。

 

 

 

ボコボコである。

 

 

 

ラプラス「ふははは! 見よ、この華麗なるコンボを!」

 

シグレ「待て何故空中で十回殴れる!?」

 

 

 

さらに。

 

 

 

映画鑑賞会まで始まった。

 

 

 

ころね「ホラー映画みよ!ホラー!」

 

シグレ「嫌な予感しかしないのだが」

 

 

 

二十分後。

 

 

 

映画『呪怨系ホラー』上映中。

 

 

 

テレビ 「………………」

 

 

 

シグレ「…………」

 

 

 

真顔。

 

 

 

ころね「神様リアクション薄いな〜」

 

おかゆ「怖くないの?」

 

 

 

シグレは静かに答えた。

 

 

 

シグレ「我、神界で本物の怨霊を見慣れている」

 

 

 

説得力が違った。

 

 

 

だが次の瞬間。

 

 

 

テレビ 「ドンッ!!!」

 

 

 

シグレ「うぉっ!!?」

 

 

 

びっくり演出には普通に驚いた。

 

 

 

ラプラス「雑魚では?」

 

シグレ「音がデカいのだ!!」

 

 

 

 

 

 

夕方。

 

 

 

騒ぎ疲れた一同は床に転がっていた。

 

 

 

ころね「腹減ったー」

 

ラプラス「何か食うものはないのか」

 

 

 

シグレ、冷蔵庫を見る。

 

 

 

水しかない。

 

 

 

ラプラス「終わっている」

 

 

 

おかゆが笑う。

 

 

 

おかゆ「じゃ、コンビニ行く?」

 

ころね「行くー!」

 

 

 

二人が立ち上がる。

 

 

 

ラプラス「吾輩も行こう」

 

 

 

三人でわちゃわちゃと玄関へ向かう。

 

 

 

だが。

 

 

 

おかゆだけが途中で立ち止まった。

 

 

 

おかゆ「あ、ころさん先行ってて〜」

 

ころね「ん? りょーかーい!」

 

ラプラス「早く来いよ!」

 

 

 

バタバタと玄関が閉まる。

 

 

 

部屋に残ったのは。

 

 

 

シグレと、おかゆだけだった。

 

 

 

急に静かになる部屋。

 

 

 

シグレ「……どうした」

 

おかゆ「んー」

 

 

 

おかゆは窓際へ座り込み、ぼんやり外を眺める。

 

 

 

その横顔は、いつもの気の抜けた笑みより少しだけ静かだった。

 

 

 

シグレ「何かあるな」

 

おかゆ「わかる?」

 

シグレ「最近学んだ。人間は“元気そうに誤魔化す”」

 

 

 

おかゆは少し笑った。

 

 

 

おかゆ「神様、変なとこだけ鋭いねぇ」

 

 

 

しばらく沈黙。

 

 

 

やがて、おかゆがぽつりと口を開いた。

 

 

 

おかゆ「たまにさ」

 

シグレ「うむ」

 

おかゆ「“自分って必要とされてるのかな”って思う時あるんだよね〜」

 

 

 

シグレは静かに聞いていた。

 

 

 

おかゆ「みんな頑張ってるじゃん。歌も、配信も、企画も。すごい人ばっかでさ」

 

 

 

ゆるく笑う。

 

 

 

だがその笑顔は、少しだけ無理をしているようにも見えた。

 

 

 

おかゆ「だからたまーに、“自分ってちゃんと役に立ててるのかな”って」

 

 

 

シグレは少し考える。

 

 

 

神界では、価値は数字だった。

 

信仰。 格。 力。

 

 

 

だが人間は違う。

 

 

 

シグレ「……人は、“凄い”から必要とされるわけではない」

 

おかゆ「ん?」

 

 

 

シグレは静かに続ける。

 

 

 

シグレ「貴様がそこにいるだけで安心する者がいる。声を聞くだけで救われる者がいる」

 

 

 

それは数値化できない。

 

 

 

だが確かに存在するものだ。

 

 

 

シグレ「“居てほしい”と思われる時点で、既に価値はある」

 

 

 

おかゆは少し黙る。

 

 

 

窓から差し込む夕日が、静かに部屋を染めていた。

 

 

 

やがて。

 

 

 

おかゆ「……そっか」

 

 

 

小さく笑う。

 

 

 

おかゆ「神様って、たまにズルいこと言うねぇ」

 

シグレ「元から神だ」

 

 

 

その瞬間。

 

 

 

ぽうっ――。

 

 

 

シグレの胸元が、微かに光る。

 

 

 

おかゆ「……また光った」

 

 

 

暖かな神気。

 

 

 

誰かの悩みに寄り添い、 誰かを救い、 安心させるたび。

 

 

 

少しずつ。

 

確実に。

 

 

 

シグレの力は戻ってきていた。

 

 

 

シグレ「……また、か」

 

 

 

以前よりもはっきり分かる。

 

 

 

これは“崇拝”ではない。

 

 

 

もっと近くて。 もっと温かいもの。

 

 

 

おかゆ「神様って相談乗るとレベルアップするタイプ?」

 

シグレ「なんだそのゲームみたいな扱いは」

 

 

 

その時。

 

 

 

玄関が勢いよく開いた。

 

 

 

ころね「ただいまーーー!!」

 

ラプラス「肉まん買ってきたぞ!」

 

 

 

一気に騒がしくなる部屋。

 

 

 

おかゆ「プリンは?」

 

ころね「あっ」

 

ラプラス「忘れた」

 

おかゆ「最悪〜」

 

 

 

シグレはそのやり取りを見ながら、小さく笑った。

 

 

 

神界には無かった。

 

 

 

こんなくだらなくて、 騒がしくて、 暖かい時間。

 

 

 

だが今は。

 

 

 

こういう日常こそが、自分を“神”として繋ぎ止めているのだと。

 

 

 

少しずつ理解し始めていた。

 

 

 

――To Be Continued.

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