夜。
シグレのアパート。
時刻は二十三時過ぎ。
シグレ「……」
机に向かいながら資料整理をしていた。
最近は雑用だけでなく、簡単な事務仕事も任されるようになっている。
神だった頃には考えられない変化だった。
シグレ「領収書とは、何故こうも複雑なのだ……」
神界には経費精算など無かった。
祈りは無料だった。
その時だった。
コンコン。
窓が鳴る。
シグレ「む?」
二階の部屋である。
普通ならあり得ない。
嫌な予感しかしない。
シグレはゆっくりとカーテンを開いた。
そこには。
アマノ=セイ「やっほー☆」
星空みたいな銀髪。
派手な装飾。
相変わらずギャルみたいな笑顔。
星の神。
アマノ=セイだった。
シグレ「何故窓」
セイ「正面から来たら監視にバレるし?」
ひらひらと手を振る。
窓の外。
普通に宙に浮いていた。
シグレ「怖い」
セイ「酷くない?」
◇
数分後。
部屋の中。
セイは勝手に座布団へ座っていた。
セイ「うわマジで生活感ないじゃん」
シグレ「放っておけ」
セイは部屋を見回す。
冷蔵庫。
電子レンジ。
スーパーの袋。
神界には無いものばかり。
セイ「なんか普通に人間やってんね」
シグレは少し苦笑する。
シグレ「気付けばな」
しばらく沈黙。
やがてセイが真面目な顔になる。
セイ「監視増えてるよ」
空気が変わった。
シグレも表情を引き締める。
セイ「大神派が本格的に動いてる」
シグレ「……そうか」
予想していた。
最近の神使の数。
圧力。
牽制。
全てが増えている。
セイは机に肘をつく。
セイ「ぶっちゃけ神界かなりピリついてる」
軽い口調。
だが内容は重い。
セイ「アンタの力が予想以上に戻ってるから」
シグレは眉をひそめた。
シグレ「未だ全盛期には程遠い」
セイ「問題はそこじゃないんだって」
セイが指を立てる。
セイ「信仰じゃなくて信頼」
トン。
シグレの胸を指差す。
セイ「そこ」
神界が恐れているもの。
それは力そのものではない。
その在り方。
神が人間と共に生きることで力を得る。
それが証明されてしまえば。
神界の常識が崩れる。
セイ「だから大神はビビってる」
シグレ「……」
セイは苦笑した。
セイ「正直ダサいよね」
神々の中にも不満はある。
セイ自身もその一人だった。
だからこうして危険を冒して会いに来ている。
セイ「でも時間ないんだよなー」
シグレ「監視か」
セイ「そ」
大神の目。
神使達。
いつまでも隠れていられない。
その時だった。
ピンポーン。
二人「?」
インターホン。
深夜である。
シグレ「誰だ」
モニターを見る。
そして固まった。
セイ「誰?」
シグレ「……すいせい」
セイ「は?」
一瞬で空気が凍る。
セイ「なんで!?」
シグレ「我に聞くな!」
再び。
ピンポーン。
すいせい『いるんでしょー?』
いる。
ものすごくいる。
セイ「ヤバくない?」
シグレ「ヤバい」
セイ「隠れる?」
シグレ「どこに」
部屋を見回す。
狭い。
絶望的に狭い。
クローゼット。
いっぱい。
ベッド下。
無理。
逃げ道。
二階。
終わった。
ピンポーン。
ピンポーン。
すいせい『開けないと合鍵使うよー』
シグレ「何故持っている!?」
もう遅い。
ガチャ。
ドアが開く。
そして。
すいせいが入ってきた。
すいせい「おーい神様、明日の――」
止まる。
視線の先。
知らない女性。
セイ。
セイも固まる。
数秒。
沈黙。
誰も動かない。
そして。
すいせい「……誰?」
セイ「……誰?」
完全同時だった。
シグレ「終わった」
◇
数分後。
気まずい。
とにかく気まずい。
すいせいはソファ。
セイは座布団。
シグレはその間。
なぜか面接みたいになっている。
すいせい「へぇー」
ニコニコしている。
怖い。
すいせい「神様の知り合い?」
セイも営業スマイルだった。
セイ「そーそー☆」
怖い。
セイ「昔からの友達みたいな?」
神界基準なら数百年単位だ。
間違ってはいない。
すいせい「へぇー」
怖い。
セイ「あなたは?」
すいせい「星街すいせい」
セイの眉が少し動く。
もちろん知っている。
神界でも今のシグレの情報は共有されている。
その中心人物だ。
セイ「へぇ〜」
今度はセイが観察する。
すいせいも観察する。
なぜか火花が散っている気がした。
シグレ「やめぬか」
二人「黙ってて」
シグレ「はい」
◇
その後。
なぜか三人で一時間ほど雑談した。
セイは上手く正体を隠し。
すいせいも特に深く追及しなかった。
だが。
帰り際。
玄関で。
セイは一瞬だけ振り返る。
セイ「じゃ、またね」
そして。
シグレだけに聞こえる声で囁いた。
セイ「……気を付けな」
その表情は珍しく真剣だった。
次の瞬間。
姿が消える。
すいせい「……」
静寂。
数秒後。
すいせいがぼそりと呟く。
すいせい「神様」
シグレ「なんだ」
すいせいはジト目だった。
すいせい「絶対普通の知り合いじゃないよね?」
シグレ「…………」
図星だった。
すいせい「あとあの人もなんか隠してるでしょ」
鋭い。
鋭すぎる。
シグレは思わず天を仰いだ。
神使にも大神にもバレなかったのに。
どうしてこのアイドルだけこんなに勘が良いのか。
その疑問だけは。
神である彼にも分からなかった。
――To Be Continued.