神界。
人の祈りによって生まれ、人の想いによって形作られた天上の世界。
かつては数え切れないほどの信仰が満ちていた。
だが今は違う。
神々は存在する。
しかし祈りは減り続けている。
人は神よりも科学を信じ。
奇跡よりも現実を選ぶ。
神界は静かに衰退へ向かっていた。
◇
神界中央。
大神殿。
巨大な柱が並ぶ謁見の間。
その最奥。
神々の頂点に座す存在――大神。
その姿は見えない。
だが圧倒的な神威だけが空間を支配している。
その前には数柱の上位神と神使達が跪いていた。
大神「報告を」
神使「はっ」
一人の神使が前へ出る。
彼らは大神直属の使者。
神々とは異なり、命令のみを遂行する存在だ。
神使「アマツカミ=シグレ。現在も人間界に滞在中」
空中に映像が映る。
そこには。
段ボールを運ぶシグレ。
事務所を掃除するシグレ。
ホロメン達に振り回されるシグレ。
そして。
笑っているシグレ。
「……相変わらず神とは思えんな」
ほかの神が苦々しく言う。
「かつて上位神だった者が、何故あそこまで人間に馴染める」
誰にも分からなかった。
神々は人を導く存在だ。
共に笑う存在ではない。
少なくとも今の神界ではそう考えられている。
神使が続ける。
神使「監視対象の神威は微増を継続」
空気が変わる。
上位神達の表情が険しくなった。
「まだ増えているのか」
神使「はい」
映像が切り替わる。
感謝。
信頼。
友情。
そうした人の想いが光となり、シグレへ流れている。
「理解不能だ」
「信仰ではない」
「なのに神威へ変換されている」
神々が最も恐れている現象だった。
◇
大神は黙ってそれを見ていた。
やがて別の神使が前へ出る。
神使「もう一件報告があります」
大神「申せ」
神使「監視対象へ接触した神を確認」
空気が僅かに張り詰めた。
映像が変わる。
夜。
シグレのアパート。
窓から侵入する一人の女神。
星の神。
アマノ=セイ。
「……愚か者め」
「何を考えている」
神使「監視網の隙を突いて接触。数回確認されています」
大神の周囲の空気が重くなる。
大神「アマノ=セイか」
神使「はい」
月神がため息を吐く。
「以前から序列制度に不満を持っていたな」
「だからといって接触を許す理由にはならぬ」
大神は静かに映像を見つめる。
そこには笑いながら話すシグレとセイの姿。
大神「……余計な真似を」
低い声だった。
決して大きくはない。
だが。
その一言だけで神殿全体が震えた。
神使達が頭を下げる。
誰も口を開かない。
大神は怒っていた。
それはシグレと接触したからではない。
より正確には。
監視対象へ余計な情報を与えたからだ。
シグレは既に神界から警戒されている。
その状況で上位神クラスの存在が接触する。
あまりにも目立つ。
あまりにも危険だった。
大神「セイへの監視を強化しろ」
神使「はっ」
大神「接触理由も調査せよ」
神使「承知しました」
命令が下る。
神使達は即座に動き始める。
◇
やがて会議は終わった。
神々も去る。
神使達も消える。
大神殿には大神だけが残った。
静寂。
遥か下界を見下ろす。
そこにはシグレがいる。
人間達と笑い。
働き。
生きている。
かつて神界にいた頃よりも。
ずっと楽しそうに。
大神「……」
長い沈黙。
そして。
誰にも聞こえない声で呟く。
大神「何故だ」
信仰を失った神。
力を失った神。
地位も失った神。
本来なら消えていてもおかしくない。
なのに。
何故立ち上がれる。
何故笑える。
何故力を取り戻せる。
大神にも答えは分からない。
だからこそ。
監視を続けている。
神々が直接見張っている訳ではない。
見ているのは神使達。
だが。
その報告には必ず目を通している。
一人の元神が。
神界そのものを揺るがし始めているからだ。
そして大神はまだ知らない。
シグレの周囲に集まり始めた"信頼"が。
近い未来。
神界の誰も予想できない形で膨れ上がることを。
――To Be Continued.
書き溜めが無くなってることに気付かずすみませんでした