元神様、アイドルに仕えます   作:ただの片栗粉

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大神の憂鬱

神界。

 

 

 

人の祈りによって生まれ、人の想いによって形作られた天上の世界。

 

 

 

かつては数え切れないほどの信仰が満ちていた。

 

 

 

だが今は違う。

 

 

 

神々は存在する。

 

 

 

しかし祈りは減り続けている。

 

 

 

人は神よりも科学を信じ。

 

 

 

奇跡よりも現実を選ぶ。

 

 

 

神界は静かに衰退へ向かっていた。

 

 

 

 

 

 

神界中央。

 

 

 

大神殿。

 

 

 

巨大な柱が並ぶ謁見の間。

 

 

 

その最奥。

 

 

 

神々の頂点に座す存在――大神。

 

 

 

その姿は見えない。

 

 

 

だが圧倒的な神威だけが空間を支配している。

 

 

 

その前には数柱の上位神と神使達が跪いていた。

 

 

 

大神「報告を」

 

 

 

神使「はっ」

 

 

 

一人の神使が前へ出る。

 

 

 

彼らは大神直属の使者。

 

 

 

神々とは異なり、命令のみを遂行する存在だ。

 

 

 

神使「アマツカミ=シグレ。現在も人間界に滞在中」

 

 

 

空中に映像が映る。

 

 

 

そこには。

 

 

 

段ボールを運ぶシグレ。

 

 

 

事務所を掃除するシグレ。

 

 

 

ホロメン達に振り回されるシグレ。

 

 

 

そして。

 

 

 

笑っているシグレ。

 

 

 

「……相変わらず神とは思えんな」

 

 

 

ほかの神が苦々しく言う。

 

 

 

「かつて上位神だった者が、何故あそこまで人間に馴染める」

 

 

 

誰にも分からなかった。

 

 

 

神々は人を導く存在だ。

 

 

 

共に笑う存在ではない。

 

 

 

少なくとも今の神界ではそう考えられている。

 

 

 

神使が続ける。

 

 

 

神使「監視対象の神威は微増を継続」

 

 

 

空気が変わる。

 

 

 

上位神達の表情が険しくなった。

 

 

 

「まだ増えているのか」

 

 

 

神使「はい」

 

 

 

映像が切り替わる。

 

 

 

感謝。

 

 

 

信頼。

 

 

 

友情。

 

 

 

そうした人の想いが光となり、シグレへ流れている。

 

 

 

「理解不能だ」

 

 

 

「信仰ではない」

 

 

 

「なのに神威へ変換されている」

 

 

 

神々が最も恐れている現象だった。

 

 

 

 

 

 

大神は黙ってそれを見ていた。

 

 

 

やがて別の神使が前へ出る。

 

 

 

神使「もう一件報告があります」

 

 

 

大神「申せ」

 

 

 

神使「監視対象へ接触した神を確認」

 

 

 

空気が僅かに張り詰めた。

 

 

 

映像が変わる。

 

 

 

夜。

 

 

 

シグレのアパート。

 

 

 

窓から侵入する一人の女神。

 

 

 

星の神。

 

 

 

アマノ=セイ。

 

 

 

「……愚か者め」

 

 

 

「何を考えている」

 

 

 

神使「監視網の隙を突いて接触。数回確認されています」

 

 

 

大神の周囲の空気が重くなる。

 

 

 

大神「アマノ=セイか」

 

 

 

神使「はい」

 

 

 

月神がため息を吐く。

 

 

 

「以前から序列制度に不満を持っていたな」

 

 

「だからといって接触を許す理由にはならぬ」

 

 

 

大神は静かに映像を見つめる。

 

 

 

そこには笑いながら話すシグレとセイの姿。

 

 

 

大神「……余計な真似を」

 

 

 

低い声だった。

 

 

 

決して大きくはない。

 

 

 

だが。

 

 

 

その一言だけで神殿全体が震えた。

 

 

 

神使達が頭を下げる。

 

 

 

誰も口を開かない。

 

 

 

大神は怒っていた。

 

 

 

それはシグレと接触したからではない。

 

 

 

より正確には。

 

 

 

監視対象へ余計な情報を与えたからだ。

 

 

 

シグレは既に神界から警戒されている。

 

 

 

その状況で上位神クラスの存在が接触する。

 

 

 

あまりにも目立つ。

 

 

 

あまりにも危険だった。

 

 

 

大神「セイへの監視を強化しろ」

 

 

 

神使「はっ」

 

 

 

大神「接触理由も調査せよ」

 

 

 

神使「承知しました」

 

 

 

命令が下る。

 

 

 

神使達は即座に動き始める。

 

 

 

 

 

 

やがて会議は終わった。

 

 

 

神々も去る。

 

 

 

神使達も消える。

 

 

 

大神殿には大神だけが残った。

 

 

 

静寂。

 

 

 

遥か下界を見下ろす。

 

 

 

そこにはシグレがいる。

 

 

 

人間達と笑い。

 

 

 

働き。

 

 

 

生きている。

 

 

 

かつて神界にいた頃よりも。

 

 

 

ずっと楽しそうに。

 

 

 

大神「……」

 

 

 

長い沈黙。

 

 

 

そして。

 

 

 

誰にも聞こえない声で呟く。

 

 

 

大神「何故だ」

 

 

 

信仰を失った神。

 

 

 

力を失った神。

 

 

 

地位も失った神。

 

 

 

本来なら消えていてもおかしくない。

 

 

 

なのに。

 

 

 

何故立ち上がれる。

 

 

 

何故笑える。

 

 

 

何故力を取り戻せる。

 

 

 

大神にも答えは分からない。

 

 

 

だからこそ。

 

 

 

監視を続けている。

 

 

 

神々が直接見張っている訳ではない。

 

 

 

見ているのは神使達。

 

 

 

だが。

 

 

 

その報告には必ず目を通している。

 

 

 

一人の元神が。

 

 

 

神界そのものを揺るがし始めているからだ。

 

 

 

そして大神はまだ知らない。

 

 

 

シグレの周囲に集まり始めた"信頼"が。

 

 

 

近い未来。

 

 

 

神界の誰も予想できない形で膨れ上がることを。

 

 

 

――To Be Continued.




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