最近、妙だった。
ホロライブ事務所。
倉庫エリア。
シグレは段ボールを運びながら眉をひそめていた。
シグレ「……またか」
積み上がっていた箱が傾く。
普通なら崩れる。
だが。
その瞬間。
見えない何かが支えた。
箱は何事もなかったように元へ戻る。
近くにいたスタッフは気付いていない。
しかしシグレは理解していた。
シグレ「我の力が……増えている」
最近は露骨だった。
掃除をすれば風が起こる。
壊れた機材に触れれば調子が戻る。
疲れた人間を見れば少しだけ元気になる。
そして。
それらは自分が本来持っていなかった力だった。
治癒も風も光も専門外。
なのに使える。
まるで。
他の神々の力の断片が流れ込んできているように。
シグレ「信頼とは、ここまで奇妙なものだったか……」
その時だった。
空気が変わった。
背筋に寒気が走る。
◇
夜。
人気のない公園。
シグレは呼び出されるようにそこへ来ていた。
誰もいない。
街灯だけが静かに光る。
そして。
そこに立っていた。
神使。
黒い装束。
感情の見えない瞳。
大神直属の使者。
シグレ「……来たか」
神使「アマツカミ=シグレ」
淡々とした声。
まるで事務連絡のようだった。
シグレ「今度は何だ」
神使は一歩前へ出る。
神威が空間を圧迫する。
以前より明らかに本気だった。
神使「大神様より伝言だ」
シグレは黙って聞く。
神使「これ以上力を取り戻すな」
シグレ「断ると言ったら?」
神使「それは自由だ」
即答だった。
だが次の言葉は重かった。
神使「だが、その先は保証できない」
シグレの目が細くなる。
神使は続ける。
神使「今のお前は監視対象に留まっている」
神使「しかし神威の回復が一定値を超えれば話は別だ」
静かな声。
だが内容は明確だった。
神使「その時は神界も手を出さざるを得ない」
シグレ「……」
神使「これは脅しではない」
神使「最後の警告だ」
その瞬間。
神使の背後に巨大な神威が見えた気がした。
大神。
姿はない。
だが確かに意志だけは感じる。
シグレは小さく息を吐いた。
シグレ「随分と買われたものだな」
神使「違う」
初めて感情が混じる。
神使は静かに言った。
神使「恐れられているのだ」
◇
その時。
公園の入口から声がした。
「シグレー?」
聞き覚えのある声。
シグレが振り返る。
そこにいたのは。
すいせい。
おかゆ。
そしてラプラスだった。
シグレ「何故いる」
すいせい「いや最近また一人で抱え込んでるじゃん」
おかゆ「尾行した〜」
シグレ「最低だな!?」
ラプラス「吾輩は面白そうだから来た!」
お前もか。
神使は三人を見る。
そして。
ため息を吐いた。
神使「……時間切れか」
次の瞬間。
姿が消える。
風もなく。
音もなく。
完全に。
ラプラス「うわ消えた!」
おかゆ「やっぱり神界関係?」
すいせいは何も言わない。
ただシグレを見ていた。
◇
数分後。
近くのベンチ。
シグレは事情を話していた。
元神であることは全員知っている。
神界から監視されていることも。
だが。
今回の内容は違った。
神界が本格的に動き始めている。
その事実。
すいせい「……つまり」
おかゆ「力が戻りすぎると」
ラプラス「神界が直接来る?」
シグレは頷く。
重い沈黙。
ラプラスですら珍しく真面目だった。
すいせいが口を開く。
すいせい「それで?」
シグレ「何がだ」
すいせい「神様はどうしたいの」
シグレは言葉に詰まる。
考えたことがなかった。
いや。
考えないようにしていた。
神界へ戻るのか。
戦うのか。
逃げるのか。
どれも違う気がした。
おかゆ「正直さ」
おかゆが笑う。
おかゆ「神様最近楽しそうなんだよね」
シグレ「……」
ラプラスも腕を組む。
ラプラス「吾輩から見てもそうだな」
すいせいは少しだけ笑った。
すいせい「だったら答え簡単じゃん」
シグレは空を見上げた。
昔なら。
神界を見ていただろう。
だが今見ているのは。
人の世界の夜空だった。
シグレ「……我は」
言葉を探す。
そして。
ようやく見つけた。
シグレ「今の居場所を失いたくない」
それが本音だった。
神界ではない。
神の座でもない。
信仰でもない。
ホロライブでの日常。
笑い合う仲間。
働いて。
怒られて。
褒められて。
そんな毎日。
シグレ「だから守る」
静かに言う。
シグレ「神界が来ようが何だろうが」
シグレ「我はここにいる」
その言葉に。
三人は顔を見合わせた。
そして。
すいせいが笑った。
おかゆも笑った。
ラプラスも少しだけ笑った。
誰も大げさなことは言わない。
だが。
その笑顔だけで十分だった。
知らず知らずのうちに。
また少しだけ。
シグレの中の神威が強くなっていたことに。
彼自身はまだ気付いていなかった。
――To Be Continued.