ホロライブ本社ビル、3Dスタジオ。
いつもより張り詰めた空気が漂う中、スタッフたちが慌ただしく走り回っていた。
おかゆ「うーん、緊張感すご……ま、今日はすいちゃんの3Dライブだしねぇ」
すいせい「ふふん、今日は最高のステージにするからよろしくね!」
おかゆ「こっちは裏方ガチ戦場だよ……で、そっちの神様は何やってんの?」
シグレ「見てわからぬか。天上より降臨した我が、今まさにこの“コード巻き”なる儀式を行っている最中だ」
すいせい「それ、コードをくるくるまとめてるだけだよ。巻きが逆だし」
シグレ「……なっ!?」
すいせい「でもありがと、手伝ってくれて。正直助かってるよ」
おかゆ「うんうん、“神様”がここまで馴染むとはねぇ……って、まだ一週間か」
シグレ「日数は関係ない。人の世界における“信頼”は、奇跡によっても積み重ねられるのだ」
すいせい「じゃあ今日は、ひとつ奇跡でも起こしてくれる?」
シグレ「望むところだ。祈りの波長、受信してみせよう」
スタッフ「テスト配信OKです! 本番15分前、スタンバイ入りまーす!」
◇
舞台袖。
照明が落ち、カウントダウンが表示される。
あと3分でライブが始まる――そのはずだった。
スタッフ「あれ!? メインカメラ、動いてません!!」
すいせい「……は?」
おかゆ「マジで? ステージの真ん中のカメラってこと? すいちゃんの立ち位置そこだよね?」
スタッフ「電源は入ってるはずですけど、角度制御も被写体認識も無反応で……!」
すいせい「ちょっと待って、それ直らなかったら今日の配信全部台無しだよ……!」
おかゆ「代替カメラは?切り替えプラン!」
スタッフ「設定ミスと被る構図で、サブカメラの切り替えもできません!」
シグレ「…………」
数秒の沈黙ののち、シグレがゆっくりと前に出た。
シグレ「下がれ。これは我が“奇跡”の領域だ」
おかゆ「え? いや、マジで?」
スタッフ「何を……?」
シグレ「ただ一つ。祈れ。“映れ”と。“届け”と。“想いを繋げ”と――」
彼はゆっくりと手を合わせる。
シグレ「――記録を司る神よ、見守る瞳に祝福を与えたまえ……」
静寂。
その直後、止まっていたカメラが、カチリと音を立てて起動した。
レンズが動き、ステージ上に立つすいせいのシルエットをしっかり捉える。
スタッフ「うそ……正常起動!? ジャイロも映像も全部復帰してる!!」
おかゆ「マジで奇跡じゃんこれ……てか、電源触ったの誰もいないのに?」
すいせい『(インカム)ありがとう。本番、行ってくる』
シグレ「……うむ。“願われた”力、今、我が元に届いた」
◇
配信が始まった。
モニターには、音楽と共に踊るすいせい。
完璧に同期する照明と音響、綺麗に抜かれるカメラワーク。
その舞台を陰で支えるのは、一人の“祈られぬ神”だった。
おかゆ「ねぇ、神様。ほんとはまだ、ちょっとだけ神様なんじゃないの?」
シグレ「ふ……そうかもしれぬな。“偶然”のような顔をした奇跡。それが我の力だ」
おかゆ「なんかかっこいいこと言ってる風だけど、やってることコード整理なんだよなぁ」
シグレ「尊いだろう、祈りの根元を支えるのは、こういう地味な働きだ」
おかゆ「……うん、まあ、それは……認めるよ」
そして、配信が終わる頃。
スタジオの片隅にいたその神様の胸には、確かな“やり遂げた”という感触があった。
誰かに感謝されるということ。
誰かの役に立つということ。
それは祈りではなく、もっと近く、もっと温かい。
そしてそれは、かつて神であった彼の心を、確かに動かし始めていた。
――To Be Continued