元神様、アイドルに仕えます   作:ただの片栗粉

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雷神の怒り、取り戻した日常

神界の奥深く。

 

大神が座す神殿では、一人の神使が膝をつき、静かに報告を行っていた。

 

神使「大神様。元神アマツカミ=シグレについて、追加の報告がございます」

 

大神「申してみよ」

 

神使「彼の力は、依然として信仰に由来しない特殊な性質を持っております。先日、人間界にて何らかの力の暴走があったようですが、現在は落ち着きを取り戻しつつある模様です」

 

大神「……ほう」

 

大神は顎に手を添え、報告に耳を傾ける。

 

シグレの力が戻りつつあること。それ自体は、すでに把握していた。

 

問題は、その力が何に由来し、今後どこまで成長するのかという点だった。

 

神使「それと、もう一つ。星神アマノ=セイについて、確認すべきことがございます」

 

大神「アマノ?」

 

神使「はい。彼女が、シグレと継続的に接触していることが判明いたしました」

 

その言葉を聞いた瞬間、大神の表情がわずかに変わった。

 

大神「……以前、警告を与えたはずだが」

 

神使「その通りでございます。以前より彼女がシグレと接触していたことは把握しており、一度は警告も行っております。しかし、その後も関係を断つことなく、むしろ深く関わっている様子が確認されました」

 

大神「一度の警告で理解できなかった、ということか」

 

神使「あるいは、理解したうえで従わなかったのかと」

 

神殿に沈黙が落ちた。

 

アマノ=セイ。

 

彼女は上位神の一柱であり、神界においても相応の地位と権限を持つ存在だ。

 

その立場にある者が、神界から危険視されている元神と深く接触している。

 

単なる個人的な交流で済ませるには、問題が大きすぎた。

 

大神「……上位神全員を招集せよ」

 

神使「全員、でございますか?」

 

大神「そうだ。アマノ本人にも出席させる。本人の口から事情を聞く必要がある」

 

神使「承知いたしました」

 

神使が頭を下げ、神殿を去る。

 

その背中を見送った大神は、誰にも聞こえないほど小さな声でつぶやいた。

 

大神「アマツカミ=シグレ……。お前が何をしようとしているのか、そろそろ明らかにしてもらわねばな」

 

その声音には、純粋な興味だけではない、冷たい警戒心が滲んでいた。

 

ーー数時間後

 

大神の呼びかけにより、神殿には次々と上位神たちが集まっていた。

 

炎を司る神。水を司る神。風を司る神。そして、雷を司る神――アカギ。

 

しかし、肝心の人物だけが姿を見せていなかった。

 

アカギ「……おい。アマノの奴はまだ来てねえのか?」

 

大神「まだだ」

 

アカギ「へえ。大神様直々の招集を無視するたぁ、いい度胸してんじゃねえか」

 

他の上位神たちも、互いに顔を見合わせていた。

 

やがて大神は、集まった神々を見渡して口を開く。

 

大神「皆に集まってもらったのは、アマノ=セイについて話すためだ」

 

大神は神使から受けた報告を簡潔に説明した。

 

シグレとの継続的な接触。以前の警告。それにもかかわらず、関係を断っていないこと。

 

話を聞き終えた上位神たちの間に、ざわめきが広がった。

 

炎神「警告を受けたうえで、まだ接触しているのか?」

 

水神「相手は、すでに神界を追放された存在だぞ」

 

風神「何を考えているのか、本人に説明してもらうしかないな」

 

アカギ「……なるほどねえ」

 

アカギは腕を組み、面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 

アカギ「だったら、俺が連れてきてやるよ」

 

大神「できるのか?」

 

アカギ「どこに隠れてようが、引きずり出してやるさ。あいつには、ちょっとばかり聞きたいこともあるんでね」

 

その口調には、単なる職務上の責任とは異なる響きがあった。

 

大神はアカギを見つめたあと、静かに笑った。

 

大神「よかろう。アマノを連れ出してきた者には、望む報酬を与えよう」

 

その一言に、周囲の上位神たちの目つきが変わる。

 

大神「ただし、本人を連れてくることが条件だ。無用な騒ぎは起こすな」

 

アカギ「へいへい。任せときな」

 

アカギは軽い調子で返事をすると、神殿を出ていった。

 

残された上位神たちは、アマノがどこにいるのか、それぞれ心当たりを探り始める。

 

そして、しばらくして。

 

アカギ「――見つけたぜ」

 

神殿の入り口に、アマノを伴ったアカギが姿を現した。

 

アマノ「ちょっと! 離しなさいってば! あーもう、マジで最悪なんだけど!」

 

アカギ「うるせえな。隠れてたお前が悪いんだろうが」

 

アマノ「隠れてたんじゃなくて、ちょっと用事があっただけだし!」

 

アカギ「へえ? 大神様の招集より大事な用事ってのは、いったい何だったんだ?」

 

アマノ「……っ」

 

アマノは口をつぐんだ。

 

神殿に集まっていた上位神たちの視線が、彼女に集中する。

 

大神「アマノ=セイ。こちらへ来い」

 

アマノ「……はーい」

 

先ほどまでの威勢はどこへやら。

 

アマノは不満げに頬を膨らませながらも、大神の前へと歩み出た。

 

大神「お前がシグレと接触していることは、すでに把握している。以前、警告も受けたはずだな」

 

アマノ「……」

 

大神「なぜ接触を続けている?」

 

アマノ「……」

 

大神「シグレについて、何を知っている?」

 

アマノ「……」

 

大神「彼の力について、何か聞いているのか?」

 

アマノ「……」

 

いくつもの質問が投げかけられた。

 

しかし、アマノは一切答えなかった。

 

口を開けば、シグレに関する情報を漏らしてしまうかもしれない。

 

それだけは避けなければならなかった。

 

大神「……黙秘、か」

 

アカギ「大神様。こいつ、どうやら口で聞いても無駄みたいですぜ」

 

アマノ「……何よ」

 

アカギ「俺の力で、無理やり答えさせりゃいい」

 

その言葉に、周囲の上位神たちがわずかにざわついた。

 

上位神A「おい、アカギ。本気で言っているのか?」

 

上位神B「同じ上位神に対して拷問を行うつもりか?」

 

アカギ「何か問題でも?」

 

アカギは口元を歪め、アマノを見下ろした。

 

アカギ「俺としても、こいつには個人的に聞きたいことがあるんでね。ちょうどいい機会だ」

 

アマノ「……あんた」

 

アカギの目に浮かぶ感情を見て、アマノの表情が険しくなった。

 

彼が単に任務を遂行しようとしているだけではないことは、明らかだった。

 

大神「……ふっ」

 

不意に、大神が笑った。

 

大神「よかろう。やってみろ、アカギ」

 

アカギ「おっ、話が早いねえ」

 

大神「場所を移す。ここでは他の者たちの邪魔になる」

 

大神は立ち上がると、アカギとアマノを伴って神殿の奥へと歩き出した。

 

アマノ「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ! こんなの、いくらなんでも――!」

 

しかし、彼女の抗議に耳を貸す者はいなかった。

 

重厚な扉が開き、三人はその向こうへと消えていく。

 

やがて扉が閉じられた。

 

残された上位神たちは、互いに顔を見合わせる。

 

その中には、大神の判断に疑問を抱く者もいた。

 

だが、誰一人として口を挟もうとはしなかった。

 

神界の秩序を決めるのは、大神なのだから。

 

## 神界――尋問室

 

窓のない部屋に、重苦しい空気が漂っていた。

 

アマノは部屋の中央に立たされ、アカギと向かい合っていた。

 

大神は少し離れた場所から、二人の様子を見守っている。

 

アカギ「さて、と。もう一度聞くぜ」

 

アマノ「……」

 

アカギ「シグレについて、知っていることを全部話せ」

 

アマノ「……断る」

 

アカギ「そうかい」

 

次の瞬間。

 

バチィッ!!

 

鋭い雷鳴が室内に響き渡った。

 

アマノ「きゃあああああっ!!」

 

雷がアマノの身体を打ち、彼女はその場に膝をついた。

 

アカギ「どうだ? 少しは話す気になったか?」

 

アマノ「はぁっ……はぁっ……。な、何よ……こんなの……!」

 

アカギ「まだ余裕があるみたいだな」

 

再び雷光が走る。

 

アマノ「いやあああああっ!!」

 

悲痛な叫びが、壁に反響した。

 

アカギは容赦しなかった。

 

雷が降り注ぐたび、アマノの身体が震える。それでも彼女は歯を食いしばり、必死に耐え続けた。

 

アカギ「シグレとは、いつから接触していた?」

 

アマノ「……っ、言わない……!」

 

アカギ「奴は何を企んでいる?」

 

アマノ「知らない……!」

 

アカギ「嘘をつくな。お前があいつを気にかけていることは、こっちも把握してんだよ」

 

アマノ「だったら……勝手に調べればいいでしょ……!」

 

アカギ「へえ。まだ強がるか」

 

再び雷鳴が轟く。

 

アマノ「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 

アマノは床に手をつき、荒い呼吸を繰り返した。

 

それでも、シグレの名前が出るたびに、彼女は口を閉ざした。

 

アマノ「……あんたに……何が分かるっていうのよ……」

 

アカギ「何だと?」

 

アマノ「シグレが……何を背負ってるかも知らないくせに……!」

 

アカギ「……ほう?」

 

アカギの目が細くなる。

 

アマノ「……っ!」

 

しまった、と気づいたときには遅かった。

 

アカギ「今のは聞き捨てならねえな。やっぱり、何か知ってるじゃねえか」

 

アマノ「……!」

 

アカギ「それを話せって言ってんだよ!」

 

再び雷が走った。

 

アマノ「いやあああああっ!!」

 

その叫びを聞きながらも、アカギの表情には一切の同情がなかった。

 

アカギ「……まったく。昔から気に入らねえ女だと思ってたが、ここまで頑固とはな」

 

アマノ「……はぁっ……はぁっ……」

 

アカギ「個人的にも、あんたには少しばかり恨みがあるんでね。こうして好きに話を聞ける機会ができたのは、俺にとっちゃ都合がいい」

 

アマノ「……最低」

 

アカギ「何とでも言え」

 

アカギは一度、雷を放つのをやめた。

 

室内に静寂が戻る。

 

アマノは荒い息を整えながら、目の前の男を睨みつけた。

 

アカギ「最後に聞くぜ。シグレについて、知っていることを話すか?」

 

アマノ「……」

 

アカギ「答えろ」

 

アマノ「……嫌よ」

 

その返事に、アカギは小さく息を吐いた。

 

アカギ「……そうかい」

 

彼は一歩、アマノに近づいた。

 

アカギ「なら、別の方法で分からせるしかねえな」

 

アマノ「……は?」

 

アカギ「言葉が通じねえなら、恐怖で従わせる。そういうやり方もあるだろ?」

 

アマノ「ちょっと……何する気よ」

 

アカギは答えず、アマノの衣服に手を伸ばそうとした。

 

アマノ「やめなさいよ! 触らないで!」

 

彼女は身を引いた。

 

その目に、初めて明確な恐怖が浮かぶ。

 

アカギ「だったら、さっさと話せばいい」

 

アマノ「……っ!」

 

アカギの手が、再び彼女の衣服へと伸びる。

 

 

♢人間界――ホロライブ事務所

 

 

シグレ「……ふむ。今日はこの辺りでよいか」

 

我は手にしていた書類を揃え、机の端へ置いた。

 

事務所の一角。

 

そこでは、普段通りスタッフたちが忙しそうに動き回っている。

 

機材の搬入、資料の整理、収録場所の準備。

 

表舞台に立つアイドルたちが輝くためには、その裏側で数え切れないほどの仕事が必要になる。

 

そして我は今日も、その仕事の一端を担っていた。

 

スタッフ「シグレさん、そっちの箱もお願いできますか?」

 

シグレ「承知した。これはどこへ運べばよい?」

 

スタッフ「奥の倉庫です! 重いので気をつけてくださいね」

 

シグレ「問題ない。我にとって、この程度の荷は造作もないことだ」

 

そう言って、我は箱を持ち上げた。

 

……うむ。

 

確かに、重い。

 

だが、この程度で音を上げるわけにもいくまい。

 

我はそのまま倉庫へ向かい、指定された場所に箱を置いた。

 

スタッフ「ありがとうございます! 助かりました!」

 

シグレ「礼には及ばぬ。まだ運ぶものがあるのなら、遠慮なく申しつけるがよい」

 

スタッフ「いやぁ、本当に頼りになりますね」

 

シグレ「ふっ。そう褒められると悪い気はせぬな」

 

我が胸を張っていると、背後から聞き覚えのある声がした。

 

すいせい「……何やってんの、シグレ?」

 

振り返ると、すいせいが呆れたような顔で立っていた。

 

シグレ「見ての通り、荷運びだ」

 

すいせい「それは見れば分かるよ。なんでそんなに誇らしげなの?」

 

シグレ「働くことは誇るべきことであろう?」

 

すいせい「いや、まあ……そうだけどさ」

 

すいせいは苦笑しながら、我の隣に置かれた箱を見た。

 

すいせい「それ、全部運んだの?」

 

シグレ「うむ。あと数箱ほど残っているようだ」

 

すいせい「……相変わらずだねぇ」

 

シグレ「何がだ?」

 

すいせい「いや、なんでもない」

 

彼女は肩をすくめた。

 

すいせい「そういえば、最近ちょっと元気になった?」

 

シグレ「元気、か?」

 

すいせい「うん。前はなんか、ずっと考え込んでる感じだったし」

 

シグレ「……そう見えたか」

 

すいせい「見えたよ。まあ、何かあったんだろうなって思ってたけど」

 

すいせいはそれ以上、深く追及しなかった。

 

神社で何が起こったのか。

 

我が何を見て、何を得たのか。

 

彼女には話していないことが多い。

 

だが、無理に聞き出そうとしないところは、すいせいらしいと言えるだろう。

 

シグレ「心配をかけたな」

 

すいせい「別に、心配なんて……ちょっとはしたけど」

 

シグレ「そうか。ならば、礼を言わねばな」

 

すいせい「はいはい。どういたしまして」

 

すいせいは照れ隠しのように手を振った。

 

すいせい「で、次は何するの?」

 

シグレ「残りの箱を運び、その後は資料の整理を手伝う予定だ」

 

すいせい「うわ、働くねぇ……」

 

シグレ「当然だ。我はこの事務所のスタッフなのだからな」

 

すいせい「その真面目さ、少しはみんなにも分けてあげてほしいよ」

 

シグレ「む? それはどういう意味だ?」

 

すいせい「そのままの意味!」

 

彼女の声が倉庫に響いた。

 

我は首を傾げたが、すいせいはそれ以上説明するつもりがないらしい。

 

すいせい「ま、ほどほどにね。無理しすぎないこと!」

 

シグレ「心得ている」

 

すいせい「本当かなぁ……」

 

疑わしげな目を向けながら、彼女は倉庫を出ていった。

 

我はその背中を見送ると、再び箱へと向き直る。

 

シグレ「さて、続きを始めるとしよう」

 

木製の腕輪が、袖の下でかすかに揺れた。

 

その感触を確かめるように、我は右手を軽く握る。

 

神社での出来事は、今でも鮮明に覚えている。

 

あの神が残した力。

 

そして、我の暴走を抑えるために託された腕輪。

 

すべてが解決したわけではない。

 

だが、少なくとも今は、自分の力を恐れずに済む。

 

シグレ「……感謝するぞ」

 

誰に向けた言葉なのか、自分でも明確には分からなかった。

 

ただ、そう口にせずにはいられなかったのだ。

 

我は気持ちを切り替え、箱を持ち上げる。

 

今日もまた、いつも通りの仕事が待っている。

 

神界で何が起きているのかなど、知る由もないままに。

 

シグレ「よし。次は資料の整理であったな」

 

我は鼻歌交じりに倉庫を後にした。

 

その袖の下では、木の腕輪が静かに力を宿していた。

 

そして遠く離れた神界では、星神アマノ=セイが、今もなお沈黙を貫いていた。

 

彼女が守ろうとしているものを、シグレはまだ知らない。

 

――神界の雷が、いつか人間界へ届く日が来ることも。

 

シグレ「今日は雷がよく鳴っているな、この雨もいつ止むのだろうか」

 




雷神アカギまたの名を裁きの雷

「強い者が上に立ち、弱い者は強者に従う。それが自然の摂理だ」という考え方を持つ。実力を認めた相手には敬意を払うが、逆らう者には容赦しない。

かつてアカギが起こした行動を、アマノが止めたことがある。その結果、アカギは上位神たちの前で面目を失った。
アカギはそれを今も根に持っているが、アマノにとっては「間違いを止めただけ」の出来事だった。
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