雨上がりの昼下がり。
ホロライブ事務所の休憩スペースでは、珍しく静かな時間が流れていた。
シグレ「……平和だな」
おかゆ「それ、フラグっぽいからやめた方がいいよ〜」
ソファに寝転がるおかゆが、だらりと手を振る。
シグレはコーヒーメーカーの前で腕を組みながら、真剣な顔をしていた。
シグレ「この“こーひー”という黒き湯、未だ理解できぬ……苦いだけではないか」
おかゆ「それを飲めるようになると“大人”なんだよ」
シグレ「ならば我は子供でよい」
その時。
バンッ!!と勢いよくドアが開いた。
さくらみこ「大変にぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
シグレ「ぬおっ!?」
おかゆ「あ、みこちだ」
息を切らしたさくらみこが、巫女服の袖をぶんぶん振りながら駆け込んでくる。
みこ「聞いてほしいにぇ! お賽銭箱が! お賽銭箱が消えたにぇ!!」
シグレ「……は?」
おかゆ「どこの神社の話?」
みこ「配信で使う予定だったセット用のお賽銭箱にぇ! 今日“みこ神社復活企画”なのに、スタッフさんがどこにもないって!」
数秒の沈黙。
シグレ「……それは、一大事ではないか」
おかゆ「神様、そこ食いつくんだ」
シグレ「当然だ! 賽銭箱とは信仰の入口! 祈りの器! 神と人を繋ぐ聖なる――」
おかゆ「はいはい、テンション上がってるねぇ」
そこへ、すいせいも顔を出した。
すいせい「なんか騒がしいと思ったら……あー、みこちの企画か」
みこ「すいちゃん助けてにぇ〜! このままじゃ、エリート巫女の威厳が!」
すいせい「元からそんなものあったっけ」
みこ「あるにぇ!!」
シグレは静かに立ち上がる。
シグレ「案ずるな。祈りに関わる問題ならば、我も力を貸そう」
みこ「おぉ……なんか本当に神様っぽい人きたにぇ」
おかゆ「一応、本物らしいよ〜」
みこ「えっ!? 本物!?」
◇
数分後。
ホロライブ倉庫スペース。
段ボールと機材ケースが積み上がる迷宮のような空間で、シグレたちは賽銭箱捜索を始めていた。
みこ「うぅ……絶対ここに置いたはずなんだけどにぇ……」
すいせい「スタッフさんが別企画に回したとか?」
おかゆ「誰か持ってった可能性もあるねぇ」
シグレは静かに目を閉じる。
シグレ「……感じる」
すいせい「え?」
シグレ「微かだが、“祈り”の残滓がある」
おかゆ「出た、神様モード」
シグレは倉庫の奥へ歩いていく。
その途中、脚立に頭をぶつけ、
ゴッ!!
シグレ「ぬあっ!?」
すいせい「全然神秘的じゃないなぁ……」
頭を押さえながらも、彼はさらに進む。
すると、段ボールの山の向こうで何かが見えた。
みこ「あっ!! あったにぇ!!」
そこには、赤い布に包まれた賽銭箱がぽつんと置かれていた。
おかゆ「なんでこんなとこに……?」
すいせい「誰かが機材と一緒に移動させたんじゃない?」
みこ「よ、よかったにぇぇぇ……!」
みこが駆け寄ろうとした、その瞬間。
グラッ――。
積み上がった段ボールが崩れ始めた。
すいせい「危なっ!?」
みこ「にぇっ!?」
倒れてくる機材ケース。
逃げ場はない。
だがその時、シグレが前へ出た。
シグレ「――止まれ」
低い声が響いた瞬間。
崩れかけた段ボールが、空中でぴたりと静止した。
おかゆ「……え?」
すいせい「マジで……?」
ふわり、と。
まるで見えない風に支えられるように、段ボールがゆっくり元の位置へ戻っていく。
シグレ「……ふぅ」
みこ「た、助かったにぇ……」
しかし次の瞬間、シグレがふらりとよろめいた。
すいせい「シグレ!?」
おかゆ「ちょ、顔色悪っ」
彼の額には汗が滲んでいた。
シグレ「……少し、力を使いすぎたようだ」
すいせい「そんな消耗するの?」
シグレ「当然だ。奇跡とは、本来“願い”の対価によって成り立つもの……今の我には、昔ほどの力はない」
みこは少し黙ったあと、賽銭箱をぎゅっと抱えた。
みこ「……でも、助けてくれたにぇ」
シグレ「当然だ。我は元より、人を見守る側の存在だ」
みこ「じゃあ、お礼するにぇ!」
シグレ「む?」
みこは賽銭箱を床に置き、財布から五円玉を取り出した。
カラン。
みこ「“神様が元気になりますように”!」
その瞬間。
シグレの周囲に、ふわりと淡い光が灯った。
シグレ「……これは」
おかゆ「え、光った」
すいせい「マジで“祈り”で回復してる……?」
シグレはゆっくりと目を見開く。
シグレ「……違うな」
すいせい「え?」
シグレ「これは“信仰”ではない。“感謝”だ」
みこはきょとんとしていた。
みこ「違いあるの?」
シグレ「大違いだ。信仰は、時に人を縛る。だが感謝は……ただ、誰かを想って生まれるものだ」
静かな沈黙。
その後、おかゆがぽつりと言った。
おかゆ「……なんか今日の神様、いつもより神様っぽいね」
すいせい「いや普段から神様なんだけどね?」
みこは満面の笑みを浮かべる。
みこ「じゃあ今日の配信、大成功しそうだにぇ!」
シグレ「うむ。エリート巫女の祈り、確かに受け取った」
みこ「えへへ〜♪」
その笑顔を見ながら、シグレは静かに空を見上げた。
かつて失ったと思っていたものは、 案外、もう一度この手に戻ってくるのかもしれない。
信仰ではなく。 もっと温かく、小さな形で。
――To Be Continued
1年ぶりらしいですね。たまーーーーーに書きます