元神様、アイドルに仕えます   作:ただの片栗粉

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祈りを忘れた神様と、迷子の巫女

雨上がりの昼下がり。

 

ホロライブ事務所の休憩スペースでは、珍しく静かな時間が流れていた。

 

 

 

シグレ「……平和だな」

 

おかゆ「それ、フラグっぽいからやめた方がいいよ〜」

 

 

 

ソファに寝転がるおかゆが、だらりと手を振る。

 

シグレはコーヒーメーカーの前で腕を組みながら、真剣な顔をしていた。

 

 

 

シグレ「この“こーひー”という黒き湯、未だ理解できぬ……苦いだけではないか」

 

おかゆ「それを飲めるようになると“大人”なんだよ」

 

シグレ「ならば我は子供でよい」

 

 

 

その時。

 

バンッ!!と勢いよくドアが開いた。

 

 

 

さくらみこ「大変にぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

シグレ「ぬおっ!?」

 

おかゆ「あ、みこちだ」

 

 

 

息を切らしたさくらみこが、巫女服の袖をぶんぶん振りながら駆け込んでくる。

 

 

 

みこ「聞いてほしいにぇ! お賽銭箱が! お賽銭箱が消えたにぇ!!」

 

シグレ「……は?」

 

おかゆ「どこの神社の話?」

 

みこ「配信で使う予定だったセット用のお賽銭箱にぇ! 今日“みこ神社復活企画”なのに、スタッフさんがどこにもないって!」

 

 

 

数秒の沈黙。

 

 

 

シグレ「……それは、一大事ではないか」

 

おかゆ「神様、そこ食いつくんだ」

 

シグレ「当然だ! 賽銭箱とは信仰の入口! 祈りの器! 神と人を繋ぐ聖なる――」

 

おかゆ「はいはい、テンション上がってるねぇ」

 

 

 

そこへ、すいせいも顔を出した。

 

 

 

すいせい「なんか騒がしいと思ったら……あー、みこちの企画か」

 

みこ「すいちゃん助けてにぇ〜! このままじゃ、エリート巫女の威厳が!」

 

すいせい「元からそんなものあったっけ」

 

みこ「あるにぇ!!」

 

 

 

シグレは静かに立ち上がる。

 

 

 

シグレ「案ずるな。祈りに関わる問題ならば、我も力を貸そう」

 

みこ「おぉ……なんか本当に神様っぽい人きたにぇ」

 

おかゆ「一応、本物らしいよ〜」

 

みこ「えっ!? 本物!?」

 

 

 

 

 

 

数分後。

 

ホロライブ倉庫スペース。

 

段ボールと機材ケースが積み上がる迷宮のような空間で、シグレたちは賽銭箱捜索を始めていた。

 

 

 

みこ「うぅ……絶対ここに置いたはずなんだけどにぇ……」

 

すいせい「スタッフさんが別企画に回したとか?」

 

おかゆ「誰か持ってった可能性もあるねぇ」

 

 

 

シグレは静かに目を閉じる。

 

 

 

シグレ「……感じる」

 

すいせい「え?」

 

シグレ「微かだが、“祈り”の残滓がある」

 

おかゆ「出た、神様モード」

 

 

 

シグレは倉庫の奥へ歩いていく。

 

その途中、脚立に頭をぶつけ、

 

 

 

ゴッ!!

 

 

 

シグレ「ぬあっ!?」

 

すいせい「全然神秘的じゃないなぁ……」

 

 

 

頭を押さえながらも、彼はさらに進む。

 

すると、段ボールの山の向こうで何かが見えた。

 

 

 

みこ「あっ!! あったにぇ!!」

 

 

 

そこには、赤い布に包まれた賽銭箱がぽつんと置かれていた。

 

 

 

おかゆ「なんでこんなとこに……?」

 

すいせい「誰かが機材と一緒に移動させたんじゃない?」

 

みこ「よ、よかったにぇぇぇ……!」

 

 

 

みこが駆け寄ろうとした、その瞬間。

 

 

 

グラッ――。

 

 

 

積み上がった段ボールが崩れ始めた。

 

 

 

すいせい「危なっ!?」

 

みこ「にぇっ!?」

 

 

 

倒れてくる機材ケース。

 

逃げ場はない。

 

だがその時、シグレが前へ出た。

 

 

 

シグレ「――止まれ」

 

 

 

低い声が響いた瞬間。

 

崩れかけた段ボールが、空中でぴたりと静止した。

 

 

 

おかゆ「……え?」

 

すいせい「マジで……?」

 

 

 

ふわり、と。

 

まるで見えない風に支えられるように、段ボールがゆっくり元の位置へ戻っていく。

 

 

 

シグレ「……ふぅ」

 

みこ「た、助かったにぇ……」

 

 

 

しかし次の瞬間、シグレがふらりとよろめいた。

 

 

 

すいせい「シグレ!?」

 

おかゆ「ちょ、顔色悪っ」

 

 

 

彼の額には汗が滲んでいた。

 

 

 

シグレ「……少し、力を使いすぎたようだ」

 

すいせい「そんな消耗するの?」

 

シグレ「当然だ。奇跡とは、本来“願い”の対価によって成り立つもの……今の我には、昔ほどの力はない」

 

 

 

みこは少し黙ったあと、賽銭箱をぎゅっと抱えた。

 

 

 

みこ「……でも、助けてくれたにぇ」

 

シグレ「当然だ。我は元より、人を見守る側の存在だ」

 

みこ「じゃあ、お礼するにぇ!」

 

シグレ「む?」

 

 

 

みこは賽銭箱を床に置き、財布から五円玉を取り出した。

 

 

 

カラン。

 

 

 

みこ「“神様が元気になりますように”!」

 

 

 

その瞬間。

 

シグレの周囲に、ふわりと淡い光が灯った。

 

 

 

シグレ「……これは」

 

おかゆ「え、光った」

 

すいせい「マジで“祈り”で回復してる……?」

 

 

 

シグレはゆっくりと目を見開く。

 

 

 

シグレ「……違うな」

 

すいせい「え?」

 

シグレ「これは“信仰”ではない。“感謝”だ」

 

 

 

みこはきょとんとしていた。

 

 

 

みこ「違いあるの?」

 

シグレ「大違いだ。信仰は、時に人を縛る。だが感謝は……ただ、誰かを想って生まれるものだ」

 

 

 

静かな沈黙。

 

その後、おかゆがぽつりと言った。

 

 

 

おかゆ「……なんか今日の神様、いつもより神様っぽいね」

 

すいせい「いや普段から神様なんだけどね?」

 

 

 

みこは満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

みこ「じゃあ今日の配信、大成功しそうだにぇ!」

 

シグレ「うむ。エリート巫女の祈り、確かに受け取った」

 

みこ「えへへ〜♪」

 

 

 

その笑顔を見ながら、シグレは静かに空を見上げた。

 

かつて失ったと思っていたものは、 案外、もう一度この手に戻ってくるのかもしれない。

 

信仰ではなく。 もっと温かく、小さな形で。

 

 

 

――To Be Continued




1年ぶりらしいですね。たまーーーーーに書きます
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